うんうん、それもまたVRだね ファンが語る「アイカツ!LIVE★イリュージョン」を見るべき理由
横浜にあるDMM VR THEATERでは、11日より「アイカツ!LIVE★イリュージョン〜3大チーム!ドリームマッチ♪〜アンコール Party!2017」の上映をスタートした(ニュース記事)。
先にレポートを公開したが、実は筆者(広田)は「アイカツ!」シリーズにそこまで明るくなく、CEDEC 2014の講演きっかけで知った楽曲やPVのスゴさ、ネットで得た「アイドルが斧で木を切ったり、崖を登ったりする」という偏った知識しか持ち合わせていない。バーチャルキャラのライブに関しては、初音ミクの初期から取材してて、LAにも自腹で行ったりして詳しいのだが……。
というわけで、ぜひファン目線でこの公演の価値を知りたいと思い、今回はカヤックVR部のリーダーである原真人氏に同行してもらった。
原氏は「シドニアの騎士」をモチーフにした「継衛発進体験装置」や、Gear VR向けにリリースされた「Little Witch Pie Delivery」など、昨今のVRブーム初期からコンテンツを作り続けているエンジニアだ。一方で、会社の自己紹介ページがほとんどアイカツ!の話というほどコアなアイカツ!ファンでもある。アイカツ!暦は3年、アイカツスターズ!暦はもうすぐ1年。好きなアイドルは藤堂ユリカ様、好きな曲は「永遠の灯」とのこと。
さらに2015年には、映画やライブと連動して楽しめるサイリウムアプリ「アイカツ!みんなでおうえんアプリ」(iOS版/Android版)も手がけるという、公私ともにアイカツ!どっぷりな感じだ。そんなVRにもアイカツ!にも詳しい原氏がどんな感想を持ったのか。インタビュー形式でお届けしよう。
アイカツ!は人の人生そのものだ
──まず最初に、原さんがアイカツ!自体にハマった理由は何でしょうか?
原 おつか〜!色々あるものの、一番はアイカツ!を見ると元気になれるというところですね! 基本的には女の子たちがアイドル学校「スターライト学園」でアイドルとして上を目指して頑張るというお話なのですが、成長していく過程にはやはり色々な困難が立ちはだかります。
普通の子供向けアニメであれば、この困難をわかりやすい悪役に担わせてしまいがちですが、アイカツ!は違っていて、基本的に悪い人や、嫌なことをする人が1人も現れません。誰も他の人の足を引っ張らず、ひたすら自分のため、ときには人のために頑張っています。逆を言えば、何か困難な事が起こったとき、それは誰かのせいでなく、自分のせいだという事に立ち返っていくのです。
しかし、そんな苦しいときにもアイドルたちは辛い顔を見せません。ひたすら前向きに、楽しく困難をクリアしていこうというポジティブな姿勢を見せ、その姿はとてもキラキラしています。勧善懲悪はない、しかし困難は現れ、それを自分の責任として立ち向かわなければいけない。それは、リアルな人の人生そのもの。つまり、アイカツ!を見ていると、日常を送っている自分が応援されているような気持ちになるのです。
このような方向性のアニメーションはとても珍しいと思い、放映当時ドハマリしていたのですが、アイカツ!がこのような内容になったのは、そもそも東日本大震災がきっかけだと聞きます。震災が起きた直後に企画が進行しており、未曾有の天災に日本の人々が暗い気持ちになってしまっているため、そういった人たちを元気づけよう、エールを送ろうということで今の内容が生まれたとのことです。
──素晴らしい。原さんは最初からTVシリーズを見ていた感じですか?
原 そもそもハマったきっかけは、何かのイベントでアイカツ!の楽曲を聞いて、そのクオリティーに「おだやかじゃない!」となったからでした。なので、最初はアニメもゲームもせずにひたすら曲だけ聞いていたんです。
──それがなぜアニメに。
原 詳しいきっかけは忘れたのですが、ネットを見ていて、登場キャラクターの1人である藤堂ユリカというアイドルのエピソードを知り、その独特さに驚かされて、アイカツ!のストーリーが気になってアニメを見始めました。
ちなみに藤堂ユリカがどういうキャラクターかと言うと、自称600歳で吸血鬼の末裔と名乗り、普段から吸血鬼キャラを演じている一見痛いアイドルです。ですが、そうしているのは「吸血鬼にどうしてもなりたい」といった自分本位な願いからではなく、「ファンが喜んでくれたから」「ファンを喜ばせたいから」という一心で演じ続けているんです。
ぱっと見はエキセントリックで身勝手そうなキャラだけど、実はプロ意識が高く、ファンサービス精神にあふれているという、他ではあまり聞かないような内面を持ったキャラ。これを知ったときに、「コレは完全に大人も楽しめるやつだ」と確信しました。
──おおお、深いですね
「アイドルがそこにいる!」感がアップ
──過去にライブの「LIVE★イリュージョン」には行かれたことはありますか?
原 はい。実はライブ連動スマホアプリを開発していたので、仕事の一環としてまさに今回再演された、「アイカツ!LIVE★イリュージョン〜3大チーム!ドリームマッチ♪」に行きました。
アイカツ!みんなでおうえんアプリ。
──おお。ではそこからの再演なんですね。まず投影方法や会場の規模などが違いますが、その辺はどうかんじられました?
原 全体的によくなっていたと思います。具体的には、まず、前回に比べてキャラクターがくっきりはっきりしていました。
──お! その場にいるような感覚が上がっていたという。
原 それもあるのですが、単純に鮮明で見えやすくなっていたんです。これは前回より会場が小さくて距離が近かったせいなのか、投影装置のパワーが上がったのか、理由は定かでないのですが、明らかに変わっています。前回の装置ではスクリーンの枠が見えて「ディスプレイ感」があったものの、今回のDMM VR THEATERですは、枠の存在はほぼ感じないし、キャラクターに当てるスポットライトをはじめとした照明のうまさで、前回よりも実在感が際立っていたと思います。
──キャラと背景が別々に投影されているというのも、今回のDMM VR THEATERからですか?
原 そうですね。今回の前に公演された2014年ものですが、YouTubeに映像があるので、ぜひ見てください。
──過去のような背後や前方からの投影と、今回のような前方下から透明スクリーンへの投影だと、感じ方は違いますよね。VR=ほぼ現実みたいな意味合いですが、現実に彼女たちがいる感覚は今回のシアターで強まったという。
原 はい。「アイドルたちがそこにいる!」感は格段にアップです。
──ちなみに原さん的に今回の講演で一番グッときたパートは?
原 まー、やっぱり藤堂ユリカ様の「硝子ドール」ですね。
──(それは単純に「推し」だからなのでは……)具体的にどんな気持ちでぐっときたのでしょうか?
原 これは「硝子ドール」に限った話ではないですが、とにかくスモーク+照明の効果とアイドルの表示に境目がまったくないので、ステージが「1つの空間」としてちゃんと演出できている。そこが素晴らしかったです。「硝子ドール」に関しては、青を基調とした、少し薄暗い中にいくばくかの光の筋が走っている、という感じの荘厳な雰囲気になっていて、「目の前に硝子ドールの世界観が広がっている……!」とちょっと感動しました。
──おおー。正面だけでなく、左右のスクリーンや照明なども活用していましたが、いかがでしたか?
原 左右のスクリーンは、全体像としてステージを見たときに美しく見える、引き立て役として設計されているように感じました。なので、「硝子ドール」も曲終わりの数秒のポーズのとき、左右のスクリーンも含めて全体で見て美しいな、と感動しました。会場を照らす照明は、ステージと観客をシームレスに感じさせる装置になっている。つまり、ステージの演出から溢れ出したようなイメージで会場を照らしているなあと。
「動く」いちごちゃんたちに会えるのはここだけ
──一方で、これは筆者の意見ですが、今回は試写会ということもあって客席が静かで、全体で盛り上がるというライブ感が薄い感じもしました(編集註:サイリウムを使った応援は可能。通常は着席だが2月19日の20時30分の「スタンディング公演」のみ立って参加できる)。
原 そうですね……。一般の方もいたはずなのですが、試写会ということで遠慮していたのかと思われます。というか「ライブの試写会」って基本的にあまりやらない気がしますし、ガンガン盛り上がっていいのか判断できない、ということがあるのかも。
──確かに(笑)。しかし、試写会は直前告知で平日開催なのに、集まったという精鋭の方々もすごかった。
原 結構いっぱいいらっしゃいましたよね。1年前のアイカツ!をリアルタイムに楽しんでいたころの感覚が甦る、というだけでも非常に多幸感あふれる出来事なので、大勢集まるのもわかる気がします。
──無印(アイカツ!)のファンは絶対にきたほうがいいという。
原 本当それです。今はデータカードダス筐体もなくなってるので、動くいちごちゃんたちに会えるのは今はここだけなんです。つまり無印ファンは行くしかないでしょうと思います。
──そこからのアイカツスターズのサプライズ公演にも驚きました。
原 あれは衝撃でしたね。
──パッと見でわかるぐらいに、キャラクターのCGの質感が違っていて、個人的には曲が始まった瞬間に乗り出してしまうぐらいでした。
原 そうですね。実はデータカードダス筐体がアイカツ!からアイカツスターズ!にリニューアルされたときに、まさに同じような衝撃を味わっていたのです。
──といわれると!?
原 アイカツ!のデータカードダスは結局3年半くらい継続したのですが、その間モデルのデザインはリニューアルされなかったんです。そもそも着せ替えの服がめちゃめちゃあるので、一度作るとなかなかリニューアルできないのですが、やはり3年半も同じモデルが続くと、CGの技術はどうしても陳腐化していってしまうんです。
──確かに。
原 なので、3年半の時を経て新しく作られたアイカツスターズ!は、まずキャラクターモデルが5倍くらいかわいくなっていてそれが衝撃でした。しかも、それは単純にシェイプ(形状)がよくなったというだけではなく、トゥーンシェーダー(3DCGをアニメ調に見せる技術)の美しさや、髪の毛やスカートの繊細な物理制御など、技術面も含めてすべてが現代の水準のCGゲームキャラクター表現にパワーアップされたのです。
──おおお! それが舞台に?
原 そうです。そして多分、今回のDMM VR THEATERでのアイカツスターズ!のライブは、照明に連動したライティング・影の表現、エフェクトなど、無印のライブと比較してすべてが劇的に進化したライブになりそうです。
──わかります。特に髪の毛などにあたるライティングが自然に再現されていたのが、明確によかったですよね。
原 ですよね。シアター全面協力のもとで作り込んでいるといっていたので、そこが全然違うのだろうと思います。こんなイベントやってくれる2次元アイドルグループってほかにないんですよね。もうアイカツ!、アイカツスターズ!運営さん、本当にグラシアス! つまりありがとう!
無印とスターズでCG表現の世代も変わっている
──そのアイカツスターズ!のライブも4月から始まりますが、今回のも含めて、ファンのみならずVR/AR関係者は見ておいたほうがいいですかね?
原 はい! アイカツスターズ!のパートは本当に素晴らしいものなので見に行くべきです。一方で、アイカツ!のパートは、ファンでないVR/AR関係者の方は少し辛口になってしまうかもしれません。何かというと、キャラクターの質感表現です。今回のライブでは、登場エフェクトなどのとき以外は影の表現を一切つけていないように見えました。それは「Unlit」という、テクスチャを塗った色そのままを表現するというやり方になるのですが、これだとかなり平面的に見えてしまうのです。
アイカツスターズ!のパートは写真撮影&SNSシェアが可能だ。
──なるほど。
原 なぜその表現を採用したのかはよくわからないのですが、過去のLIVE★イリュージョンの場合、周囲のディスプレイによるプロジェクションマッピングの演出でカバーする、という方法でバランスを取っていたのではないかと思われます。また、キャパが大きかったこともあり、遠くの席からでもわかりやすいようにする工夫だったのかもしれません。
──そこは作業時間などで調整が難しかったのかもしれませんね。
原 そうですね。ファンとしては、再現していただいただけで何度お礼を言っても足らないくらいです。でも技術者目線で見た場合、VR慣れしていてかつアイカツ!を知らない方だと先にその違和感を感じてしまうかも……と思いました。
──なるほど。でもそれを踏まえて最後のアイカツスターズ!を見ると、この劇場に向けて作り起こした作品への期待がより高まりますよね。
原 そうですね。無印アイカツ!の方は再演であるがゆえ、DMM VR THEATERに最適化しきれなかった……、ということに尽きるのだと思います。4月に始まるアイカツスターズ!ではゼロからこの劇場に向けてつくるので、このポイントは解決されるということですもんね。
──ってことは時代の変化を知るために、無印のパートも見ておいたほうがいいですね(笑)
原 なるほど。アイカツ!は常に成長と進化を続けています。ファンでない方にも、アイカツ!からアイカツスターズ!にバトンが渡り、後輩のスターズ!がめざましい進化を遂げているさまを目に焼き付けてほしいですね。
──厳しい意見になってしまいましたが、無印のパートも見るべきところは多いと思います。モデルのつくりこみとか、モーションの精緻さとか、本当にクリエイターの愛と執念を感じる。ただ、それがDMM VR THEATERに落とし込めてるかどうかの問題かと。
原 そうですね。もちろん、楽曲の素晴らしさ、キャラクターの多彩さ、ダンスの美しさや楽しさなど、アイカツ!が本来持っている魅力には充分以上に触れることができます。また、かなり厳しい目で見て気になる点を挙げたものの、今回のアイカツ!のライブがかなりハイレベルなホログラフィックライブであることは間違いありません。なので、気になるところはあるかもしれないけど、VR/AR関係者は今回のアイカツ!ライブも見に行くべきだと思います。
──ちなみに原さん的に、自分ならこうつくるみたいな想像は膨らみましたか? 自分はこれだけ近いのだから、舞台での足音が雑音として入っていたり、振動があったら、よりキャラクターの「重さ」を感じるかなと思いました。
原 それは面白い視点ですね。さっきちょっと書いたのですが、DMM VR THEATERでは、舞台演出と投影されたキャラクターがシームレスに、1つの空間として演出されるということに一番強みがあると感じました。
アイカツ!では、アイドルオーラといって、アイドルがライブ中に発生させる光の粒子のようなオーラがあるのですが、いつもアニメのライブシーンを見ていて、あのアイドルオーラに包まれたいというか、オーラが観客席にも広がってるような状態で見るライブはすごいだろうなと想像しています。ドローンなのか特殊な照明なのか、具体的にはまだ思い浮かびませんが、キャラクターが発したオーラをフィジカルな装置で表現する、ということがこの会場では演出として成立させられそうだな、と思いました。
──すごいこと考えますね!! もっと言えば、劇場でみんなで見るのもいいですが、ファンならアニメのライブシーンにVRゴーグルを使って入りたいという欲望もあるのかも。
原 それは、多くのファンが常に願ってやまないことだと思います。
──PlayStation VRの「アイドルマスター シンデレラガールズ ビューイングレボリューション」のように、家庭用で出るのを待っているという?
原 そうです。実を言いますと、ユリカ様に会うために自分用のVRアプリをつくったこともあります。
──ちょ(笑)。むしろ「ご用命があればカヤックの原さんまで」みたいな。
原 それはもう! やれるならやりたいに決まってます!
──愛が深すぎる(笑)
原 ハイエンドのVRゴーグルも全種類対応可能ですし、お話があればつくりますよ! まあそんな僕の露骨な営業はさておいて、今回取材させていただいた「アイカツ!LIVE★イリュージョン〜3大チーム!ドリームマッチ〜アンコールPARTY!2017」と、4月からの「アイカツスターズ!イリュージョンShowTime」はお伝えしました通り、大変素晴らしいものです! ファンの方も、そうでない方もぜひ観に行ってください!
©︎ BNP / BANDAI, DENTSU, TV TOKYO
(TEXT by Minoru Hirota)
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