もらってうれしい紙製VRビューワー「Swing」 質感・デザイン・パッケージのこだわりに注目
VRのビジネス活用が増えてきた。その場に居ながら自社サービスや商品を疑似体験してもらえるため、例えば物件や結婚式場を内覧し、車に試乗でき、旅行の下見も出来てしまう。こうした訴求力の高さから、プロモーションにもうってつけ。ただ、VRでプロモーションを展開しようとするとき、ハイエンドなVR機器はコストがかかるし、お客さんは現地に足を運ばなければいけない。
そこで注目されているのが「簡易型ヘッドマウントディスプレー」(HMD)を使ったVRプロモーションだ。
簡易型HMDとは、ゴーグルタイプの装着具とスマートフォンを組み合わせ、VRコンテンツを楽しめるようにしたシステムのこと。一般的に段ボールや樹脂でつくられていることが多く、大量生産と低コストを実現しているのが特徴だ。コンテンツの表示は利用者のスマートフォンを使うため、まだVRのハードを持っていない人が多い現段階でも、簡易型HMDだけ配布して見てもらえるのが特徴だ。
中でも星光社印刷の手がける紙製の「Swing」は、デザイン性がよく、企業カラーも出しやすい。印刷会社の製品だけあって、印刷品質も折り紙付き。国内では2社しかないというGoogleの「WWGC」(Works With Google Cardboard)認証も受けている。そんなSwingの魅力、そしてこだわりを探るべく、星光社印刷でSwingを手がける第三営業部 第一課 松村裕氏を直撃取材してみた。
Swingの公式サイトはこちらから → https://www.swingvr.net/
VR普及のためにデザイン性にこだわった
──Swingの開発に至った経緯を教えていただけますか?
Swing開発の立役者である松村氏。
松村 現在は、企業さんが情報発信するチャンネルがものすごく増えています。紙はもちろん動画やウェブ、SNSなどですね。こうしたなかで、我々印刷会社が新規の顧客を開拓しようにも、今までと同じ物を売りに行っても競合他社が多く価格競争になりがちです。
そこで、すごく尖ったものでかつプロモーションでも使えるものを作りたいという話を社内でずっとしていました。そんな折、ハコスコが登場し、実際に使ってみてこれはスゴいと驚いたんです。ただ同時に、「印刷会社が手がければもっと色々な事ができるんじゃないのかな」とも感じました。その後にGoogle Cardboardが登場して、しかもオープンソースで設計図まで公開されていると。そこでちょっとやってみようかというのが始まりです。
──最初の試作期間はどのくらいでしたか?
松村 本当に最初の頃はまず100円ショップに行って、レンズを買ってきて取り付けて、こういう仕組みになっているのかと、自分たちで手作りしてみた感じです(笑)。ただ、本体を作るときに、別に段ボールじゃなくていいよね、もっとお洒落にブラッシュアップできるよねという意見もありました。
例えばiPhoneでも、初期の頃はPCやネットに精通した人たちが、これは便利だということで使っていました。でも途中から、持っているとかっこいいからとか、ファッション的な理由に変化していきましたよね。より洗練されたデザインのものがでてくれば、VRビューワーも同じ流れになっていくのではないか。もちろん他社さんとの差別化も図りたいというのもありましたので、デザイン性を重視して、もっと広がりを持たせられないかと考えながら作っていました。
──開発する上で難しかったところはどこですか?
松村 組み立て構造をどうするかと、あと部材の調達でしょうか。印刷会社なのでレンズなんて仕入れたことがなかったので。仮にSwing専用にレンズを作るとなると莫大な投資が必要になるので、「ちょっと作ってみようかな」というレベルの話じゃなくなってしまうんですよね。なのでレンズを探すだけで2〜3ヵ月かかってしまって。
海外の安いレンズを仕入れてしまえば、それで済んでしまうことなのですが、企業さんにお使いいただくとなると安全性は気にされますし、我々としても安定的に供給できないと困ってしまいます。ですので、Swingをお使いいただく企業さん、そして我々、双方の要望に合致する国内メーカーのレンズを探すというのはとても大変でした。
モノとしてもらって嬉しいパッケージに
──Swingは組み立てがとても簡単ですよね。こだわりがあるんですか?
松村 はい。というのも、現在出回っている段ボールを使った簡易型のVRビューワーって、ちょっと組み立てが大変ですよね。試しに弊社の社員にいきなり渡してみたのですが、「どうやって作るんだ?」となることが多くて。
ここが印刷会社ならではなのですが、例えば店頭に置いてある箱形のPOPなどは、一瞬で組み立てられるようになっているんです。それに、組み立て前はなるべくコンパクトにして流通コストを抑えたりと、色々なことを考えて製作しています。弊社は印刷会社としてこうした製品を取り扱ってきた経験がありますので、その知識を活かしています。組み立て自体はほぼ完成した状態でパッケージングしておりますので、受け取ったお客様は2つに分かれた本体を合体させるだけになっています。
あと、Swingのサイズ感にもこだわりがあります。まず、気軽に手渡しできるサイズであることです。しかし、小さすぎてもモノとしての存在感が薄れてしまうので、あまり嬉しく思って貰えない。企業さんのプロモーションでの利用を考えた場合、お客様が受け取ったときに「ちょっといいもの貰ったぞ」と所有欲を刺激できるようなサイズ感を目指しました。
どんなサイズなら試供品の域を出られるのか考えた末、パッケージサイズは幅220×高さ126×最厚部約7mmに。
──パッケージングも考え抜かれていますよね。
松村 どちらかというと「兼ねている」部分が結構あります。仮に一般的な段ボール製のVRビューワーをノベルティ配布する場合、手提げ袋に本体を入れて、組み立て図を入れて、そこに企業さんの案内資料を入れてと、何かやろうとするごとに内容物がどんどん増加し、それを制作する為の「2次コスト」をさらに負担しなければなりません。
Swingは企業さんのプロモーション用途やノベルティ配布を前提に作りましたので、VRビューワー本体や台紙に訴求したいポイントを印刷することで、袋から取り出さずとも露出できます。台紙の裏面には組立図や注意事項が印刷されています。また、Swingをイベント会場に持ち運ぶときには、台紙部分が下になるよう縦に詰め込むことで、輸送時に本体を保護できるようにという考えもありまして、そのため台紙には厚みをもたせています。
「世間一般で販売されている商品と同じ考え方で作りました」と松村氏。
──モノとして渡したときにどうなのか、を考えているわけですね。
松村 企業がSwingを使う場合、ほとんどがプロモーション用のVRコンテンツをお客様向けに配信していると思うのですが、VRに興味のないお客様でも利用して頂ける確率が高くなるように、視覚的要素はなるべく外観から見せるようにしています。お客様がVRコンテンツにすばやく、簡単にアクセスし、VRを体験していただく導線を確保することがSwingの役割なんです。
また、もっと簡単に組み立てることができる構造、もっと洗練されたパッケージも作ることは可能なのですが、どうしてもコスト高になってしまいます。価格と得られる没入感、パッケージ、組み立て構造のバランスはとても意識しました。
──紙の質感は選べるんですか?
松村 オリジナルデザインでカスタマイズする場合は、スタンダードタイプでは印刷後、マットもしくはグロスのラミネート加工を施しますが、それ以外にもご要望によりオプションとして和紙のような質感など使用される紙の変更や箔押しなどのご希望にも沿えられます。また、弊社は印刷会社ですので一定の条件を満たして頂ければ、価格はそれほど変わらずにカラーバリエーション展開するということも可能です。
条件を満たせば紙の色だけを変えるカラーバリエーションも可能。
──ロット数の調整はできますか?
松村 実際に100部だけというご注文をいただいたこともあります。確かにたくさん作るとそれだけ単価は安くなるのですが、使用される数量は様々だと思いますので、必要な分だけをご提供できるように小ロットでも対応をしています。また、先ほど申し上げたカラーバリエーションを展開するときには、条件を満たせばカラー毎の数量調整も可能です。
Amazonでは基本カラーとなるブラックとホワイトの2種類を販売。
それと、以前から5~10個ほど購入したいというお声をいただいていたので、1個から購入していただけるようにAmazonでの取り扱いも始めました(購入ページ)。カラーは基本となるブラックとホワイトをご用意しています。あまり装飾を施していると、どうしてもご自身で企業カラーを出していただくのが難しくなります。そのため、こちらは少数ロットを手軽に仕入れ、ステッカーを貼っていただくなどで手軽に企業さんの雰囲気を出していただけるようにという考えからブラックとホワイトの2色にしています。
もちろん、個人の方で「VRビューワーが欲しい」、「お友達にプレゼントしたい」といった形でご購入いただいても全然問題ございません!(笑)
──このホワイト、ちゃんと白いんですけど、まさか……。
松村 ちゃんとホワイトのインクで印刷しています(笑)。そのままではチープな感じが出てしまいますし、やはり手にとっていただいたときの印象は大事ですので。
──実際にSwingが企業のプロモーションに活用されたのは、確かANAさんが初めてですよね?
松村 はい。ただ実は、Swingを世に出す前から、ANAさんのノベルティとしてVRビューワーをつくることは決まっていました。事の経緯は、ANAさんが海外で行うインバウンド施策を考えられていて、そこでいくつか提案させていただいたのですが、Swingはその中のひとつだったのです。ちょうどVRビューワーの試作を始めていた時期でしたから。
なぜVRビューワーを提案したかというと、海外でのイベントなどの場合、どうしても「言語の壁」がつきまとい、現地語で詳しくよさを伝えることが難しい場面が多いのです。一方で、VRは「言語」をあまり意識せずに視覚的に情報を伝えることができる特性があります。
また、ノベルティは渡して終わりという形が多く、訴求したい内容まで導線を作ることはなかなか難しいです。VRビューワーって訴求したいコンテンツを半強制的に見てもらえるノベルティにすることができます。こういったものは今まであまりなかったと思うんです。
こういった訴求内容までの導線確保とVRビューワーという形で、長期的に訴求ポイントがお客様に露出され続けることもご評価いただいて、やってみようかと話がまとまりました。
ANAのプロモーションで配布されたSwing。
──大きな企業さんは品質チェックも厳しくなると思いますが、どのように作り込んでいきましたか。
松村 初めての試みでしたので手探りではありましたが、やはり安全性の部分で試行錯誤がありました。しかし、リスクを気にされるのは当然のことですよね。別案件でのお話になってしまいますが、紙の品名から製造方法、それこそ接着剤の樹脂の種類まで網羅した情報シートを用意したこともあります。
世の中に多く出回る印刷物と同じ工程で製作しているのですが、顔に装着するものとなると、安全性に関して気にされるお客様もいらっしゃいます。どういった材料で作られているのか、情報公開するための資料を用意した次第です。今、VRビューワーを手がけているところで、ここまでの資料をそろえられる会社さんは少ないように思います。
──Swingへの反響はいかがでしたか?
松村 ANAさんの施策に関しては、台湾ではビジネスシートに座りながらOculus Riftで日本各地を見ていただくというイベントをやりつつ、それと同程度のものがVRビューワーでも見られますよということで、Swingをノベルティ配布するというものでした。ですので直接の反響とは異なるのですが、現地テレビ局の取材もあり、反響は大きかったと思います。
GoogleのWWGC認証を取得済み
──「WWGC(Works With Google Cardboard)」認証を取得しているのもポイントですよね。
松村 どこぞの印刷会社が作っている得体の知れないもの、というイメージをなくしたかったんですよね。信頼の証的なものが欲しかったんです(笑)。そこでWWGCを取得するために、試作機をアメリカのGoogle本社に送りまして、改良を重ねて取得できました。WWGC認証の取得は、Googleさん曰く「おそらく日本初」になります。
パッケージと本体にはWWGC認証を受けている証であるバッジがプリントされる。なお、写真のバッジは従来のデザイン。1月末にバッジデザインの変更がGoogleから各社にアナウンスされており、順次対応予定。
──なぜ「おそらく」なんですか(笑)
松村 問い合わせても「おそらく」という回答だったもので(笑)。ちなみに、国内でWWGC認証を取得している製品は、弊社含め2社のみですね。
──WWGC認証の取得は大変でしたか?
松村 VRビューワーそのものよりも、「Viewer Profile」というQRコードを作成するほうが大変でした。SwingにプリントしてあるQRコードには、レンズの歪みなどの値が含まれています。これをスマホで読み取ることで、各VRビューワーに最適なパラメーターに調整するというものでして、WWGC認証は本体とQRコードを含めての審査になるんです。
ただ、焦点距離ひとつとっても、そのままの値を入れてもダメなので1mm単位で調整しながら何回もトライして、ようやくといった形でした。Swingは他のVRビューワーと同じような“箱”に見えるかも知れませんが、WWGC認証を正式に取得し、様々な端末に対応できるという点では、Google Cardboardを真似てつくっている製品とはちょっと違います。
本体にプリントされるViewer ProfileのQRコード。
──WWGC認証を取得したことで案件も増えましたか?
松村 はい。WWGC認証を取得したことで「いつかGoogleさんの案件でも採用してもらえたらうれしいね」という話を社内でしていたのですが、実際に採用して頂いて目標のひとつは達成できたのかなと思います。
また、驚いたのはインベスターズクラウドさんとのお仕事でしょうか。お問い合わせがあったので後日、Swingの実物をお見せしたところ、その場で「やりましょう」と採用が決まりました。こちらが拍子抜けするくらいあっさり採用して頂いたのですが、決め手となった要素はSwingのデザイン性でした。
デザイン性が高いと活用の幅も広がる
──先方はデザイン性を重視されていたのですね。
松村 インベスターズクラウドさんは、インターネットを活用した不動産経営などのサービスを手がけていらっしゃいます。今回の案件は「スマリノ」というマンションのリノベーション関連だったものですから、VRビューワーもお洒落な雰囲気を出せる弊社製品を気に入っていただけたとのことです。弊社はVRビューワーにデザイン性を持たせることで、幅広い用途に活用していただけるのではという考えのもとSwingを作りましたので、すごく嬉しかったです。
──ほかにもデザイン性の高さが理由で決まった案件はありますか?
松村 他の案件でも、ほぼ同じ理由が多いです。中にはVRビューワーを使用している姿を撮影して、SNSなどにアップしてもらいたいという狙いもあったりします。この点はVRの本質とは少し違う方向だとは思っていますが、やはり手にとってもらわないと始まらないと思いますので。
──しかしみんなが手にとって楽しんでくれたら、VRの普及にも繋がるのですごく大事な事だと思います。
松村 現在、VRは一般の方にはまだ認知不足だと思っていて、手にとってもらうために、導入口としてVRビューワーの見た目をどうするかというのは結構重要なポイントだと考えています。可愛いデザインになって、原宿を歩いている女の子がみんな持っているくらいになると、VRって観点ではないですけど広がりは出てきますよね。
──日本だとVRはハイエンド機が注目されがちですが、最近は簡易型HMDを使った大規模なプロモーション事例も増えてきましたね。
松村 実はもっと早い時期にそうなると思っていたのですが、ようやく事例が増えてきました。WWGC認証を取得すると、3ヵ月に1回、品質保証のために、Googleに製品を送って検査する必要があるのですが、そのやり取りの中で、Googleさんからも日本の状況を色々聞かれてはいました。アメリカではニューヨークタイムズがGoogle Cardboardを100万個配布するなど大規模なプロモーションをしていた時期でしたので。
ただ、日本でもVRビューワーを使った規模の大きいプロモーション事例が出てきていますし、土壌ができてきたという温度感は感じています。
──プロモーションに使う理由も、「新しいから」ではなく「便利だから」という方向にシフトしてきた感じはありますね。
松村 一昨年や去年はOculus Riftなどを使って、アトラクション的にイベントを実施する施策は多かったと思います。プロモーションは目新しさも求められるので、それはそれで大切なことだと思います。一方で機器と時間の制約から体験できる人数は限られてしまいます。
これからはVRデバイスに合わせて、コンテンツがもっとジャンル分けされていく方向に進んでいくのではないかなと考えています。企業プロモーションなどは、「VRコンテンツの配信+VRビューワーの配布」といった施策の方が、適正があると思いますので、今後も増加していくのではないでしょうか。
──これからSwingをどう作っていきたいですか?
松村 まだまだ認知度が不足しているVRをSwingという「モノ」から、VRの普及に貢献できるようなデザインの提案や製品づくりをしていきたいと考えています。オリジナルのデザインにするだけで、VRコンテンツへの導線はグッと近くなると思います。
個人的には、VRは男性がメインで女性の方が手を伸ばしにくい感じがあります。女性でも楽しめるようなコンテンツとVRビューワーがあり、隣に居る子に「ちょっとこれ面白い!見てみてよ!」というような「VR体験の共有」をして楽しんでくれるような未来になって欲しいと考えています。
(提供/星光社印刷)
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