図面でわかりにくい建築物を直感的に把握! HoloLensの建築活用「Holostruction」を体験
小柳(おやなぎ)建設と日本マイクロソフトは20日、建築業界において業務の透明性/安全性/生産性を高めることを目的に、MRゴーグル「HoloLens」(ホロレンズ)を活用したプロジェクト「Holostruction」(ホロストラクション)を推進していくと発表した。建築というとVRでも導入が進んでいるジャンルだが、Hololensではどういった活用方法になるのか。実際にHolostructionのデモを体験したのでレポートしていこう。
HoloLensは、ざっくりいうとWindows 10を搭載した一体型PCだ。CPUやGPU、バッテリー、マイク、スピーカーなどを内蔵しており、単体&ケーブルレスで利用可能。ゴーグルの前部分にはディスプレーが入っており、現実空間にCGを重ねて表示したうえで、声やハンドジェスチャーで操作できる。
一番の特徴は、出現させたCGの位置と方向を固定できるという点。普通にゴーグル内にディスプレーを置いただけでは、ユーザーがどんなに部屋の中を歩き回っても、同じ映像が同じ角度からしか表示されない。一方で、HoloLensなら、リアルタイムで周囲をスキャンして環境マップを生成することで、部屋のどの位置に、どの方向でCGを置いたかというのを記憶してくれる。
事前にセンサーやマーカーを用意することなく、いきなりリアル世界と同じように回り込んだり近づいたりしてCGを見られるのが新しい。さらにそのCGをネットワークを介して、複数人で見られるという点でも革新的だ。
日本マイクロソフトの代表取締役、平野拓也氏は、「現在、HoloLensでは、150を超えるアプリがダウンロードできる状態。今年の1月に開発者・法人向けに提供を開始して以来、数十名の開発者が集まって勉強会を開催したり、法人のお客様がビジネス活用に取り組んだりと、想像を超えるような盛り上がりをみせている」とコメント。
実際にものが触れるアナログな現実世界と、人工的につくったものを視覚などに訴えられるデジタルなVRの世界。
マイクロソフトでは、両者を複合して、それぞれの持ってる長所を組み合わせるのをMR(Mixed Reality、複合現実)と定義。例えば、机の見た目を変えるなど、現実にあるものをCGとミックスして新しい価値を生み出す。
マイクロソフトでは、様々な企業のデジタルトランスフォーメーションを支援している。小柳建設なら、近未来コミュニケーションの実践、建設現場社員の働き方改革、業務の透明性の確保、建設関連の業務デジタル化。ちなみに小柳建設は、Microsoft Azureの導入など、以前からマイクロソフトとつながりがあったとのこと。
マイクロソフトの米国本社も含めて、今回のプロジェクトに取り組んでいる。
そんなHoloLensを建築業界に活用しよう、というのが今回の発表だ。日本ではJALがパイロット/整備士のトレーニングに、N高等学校が入学式にそれぞれ活用する事例があったものの、建築業界において業務生産性とトレーサビリティー向上を目指して利用するのは国内で初めてだという。
小柳建設の代表取締役社長、小柳卓蔵氏。同社は新潟県三条市に本社を置き、70年を超える業歴がある。
小柳氏によれば、現在、国土交通省は「i-Construction」という建設業界へのICT導入を推進するプロジェクトを進めているが、業界自体もなかなかどうしていいかわからず動いていない部分があるとのこと。そんな状況に一石を投じられれば、誰かがやらねばと思っていたところ、HoloLensと出会って直感的に「行けるな」と感じて、Holostructionのコンセプトモデル開発に着手したそうだ。
コンセプトモデルでは、「透明性を高める」「安全性を高める」「生産性を高める」の3つに取り組んでいる。具体的には、
1.業務トレーサビリティー向上を推進
建設業者としての透明性を確保するために、すべての業務のトレーサビリティーを確保。例えば、工程表の時間軸を動かして、橋が完成していく様子を直感的に見たりするように、計画、工事、検査、アフターメンテナンスのすべてで情報を提供する。
2.BIM/CIMデータの活用
建築業界では、年長者が卒業していくのに、下からは人が入ってこないという人材不足の問題が出ている。その中で検査員の不足や負担を軽減する取り組みで、コンセプトモデルでは設計図を3Dで表示し、検査に必要なデータも一緒に格納することで、必要なときにすぐに表示できるようにした。
3.新しいコミュニケーションアイデアの試行
建設業務には様々な人が関わっているが、現場は物理的に行き来が難しかったり危険だったりすることもままある。HoloLensの視界共有機能を使って現地を見たり、映し出される図面を共有したり、みんなで同じ現場のCGを見て作業員や重機の配置を決めたりといったコミュニケーションの促進をはかるようにした。
発表会では、複数人で橋梁の建築現場を見るというデモを体験できた。一人がナビゲーターとなって操作して、他の3人はただ見ているだけなので、慣れてない人でも体験できるという非常に実用的なつくりだ。
元の設計図。これは建築の知識がない人が渡されても「なるほどわからん」としか思えない代物だ。
画面は実際に見ていたものではないが、発表会のビデオより拝借。まず工程表が目の前に浮かんでおり……。
この設定をいじることで、スケールを1/100から1/10、1/1と変更することが可能だ。また、工程を前後に進めることで完成度合いも変化できる。
自由に歩き回ってさまざまな方向から見られる。近づくことも可能だ。
1/1にすれば上を歩き回ったり、電灯や手すりのスケール感も実感できる。
といっても現実には何もないので、周囲からは謎ですが……。
橋梁の構造を表示させて、その中にあるシートパイルという狭いところに移動。コンクリートの中に頭を突っ込んで、工事が進むと見られない内部構造をチェックすることも可能だ。
(TEXT by Minoru Hirota)
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