2人のオススメは「釣り」と「ドラゴンボール」 コヤ所長&タミヤ室長が語るVR ZONEの魅力(後編)
前編に続いて、VR ZONEのコヤ所長とタミヤ室長のインタビューをお届けしよう。後半はVR ZONEのコンテンツを支える技術的な話が多く飛び出し、さらに世界展開などの野望についても語っていただいた。
大人も「取り乱し」て心のリミットが外れる
──お二人のおすすめのアクティビティは何でしょうか?
コヤ所長 僕はやっぱり思い入れたっぷりの「釣りVR GIJIESTA」ですね(レポート記事)。この2年間、釣りにすごくお金を使ったんですよ。
──あっ、リアルの釣りに。
コヤ所長 そうです、そうです。時間とお金をめちゃくちゃ使いました。そして実際の釣りと変わらない、ゲームと区別がつかなくなるようなものを1回作ってみようというコンセプトでつくったんですよ。
──まだ体験していないんですけど、シミュレーターみたいな感じなんですかね。
コヤ所長 あれは完全にシュミレーターですね。だってコントローラーとかの説明もなくて、地面に竿とタモ網があるだけ。僕が釣りの師匠とあおぐプロフェッサー永井という方から、「魚の動きが違う」とか色々アドバイスを頂いてそれを全部反映したので、かなりリアルに近いものになっています。
──じゃあむしろ釣りのプロの方に来ていただいた方がその差異のなさを実感できるかもしれませんね。
コヤ所長 リールの引っ張る感じも好きです。
タミヤ室長 VR的にはリールのところに磁気粘性流体という面白いデバイスを使っています。
コヤ所長 あれですね、鉄粉をナノテクノロジーですごく細かくできるようになったんですよ。で、それに油を混ぜてから、磁場をかけるのですが、ドロドロの黒い液体がとんがったりする動画って見たことがありませんか?
──YouTubeで見たことがあります!
コヤ所長 その技術を使って、重くなったり軽くなったりとかが無段階で出せるんですね。
タミヤ室長 なので、うわー引いてるーっていう感触から、ルアーを引いているところに魚がコツコツと食いつく時の微細な振動までそのデバイスで表現できるんですね。
──VRのクリエイターなら、「そのデバイスを売ってくれ」って言う人結構いそうです(笑)
タミヤ室長 多分あんなに高性能なデバイスはなかなかないので、これからVRの世界でもたくさん使われるんじゃないかと思います。
──御社で開発された製品ですか?
タミヤ室長 いえ、栗本鐵工所さんの技術ですね。
コヤ所長 ドイツの高級自動車のダンパーに使われているようです。
──よく見つけましたね。
タミヤ室長 新技術はバンダイナムコスタジオに売り込みがあったりするんですけど、その中でこれは面白いぞと。
──でもその技術を釣りのリールに持っていくというアイデアが面白いです。
コヤ所長 セガさんの「ゲットバス」は、リールに500円玉大のブレーキを実装して手ごたえの表現をしていて、当時うちでも小さな高性能ブレーキを探していたんです。
タミヤ室長 コヤ所長は昔からアーケードゲームを手がけてきたこともあって、昔から体感装置で表現を実現するためのハードをずっと探しつづけてきているんです。
──昨今のVRムーブメントが始まってから1、2年ではなく、もうずっとという。
タミヤ室長 そうです。なので新しいものが出たときに「アレだったら使える」とすぐにピンとくるんですよね。「ドラゴンボールVR 秘伝かめはめ波」の空気砲なんて狂っていますから(笑)
──壁にいくつも穴が開いているやつですよね(レポート記事)。
タミヤ室長 そうです。あれはすべての穴から空気の圧がポンポン出るようになっているんですよ。
コヤ所長 気弾がチョンチョンチョンときて、ボンボンボンと……(笑)
タミヤ室長 かめはめ波が目の前を通ると、ボボボボと目の前から風が来ますから。
──なかなか狂ってますね(笑)
コヤ所長 それをすぐつくれるのもすごいですよね。
タミヤ室長 自分はあの筐体を見たときに「バカだなー」と思いましたもん(笑)。もちろんほめ言葉ですよ!
──優秀なスタッフが揃っているんですね。
タミヤ室長 VR ZONEに関わる前には「ドラゴンボール ZENKAIバトルロイヤル」など関連アーケードをやっていたこともあって、自分のおすすめはドラゴンボールです。 「かめはめ波が撃ちたい!」という願望がやっと実現したんです。今まではテレビの画面の中でかめはめ波を撃っていたり、バンダイがおもちゃでつくっていたりと、色々出してきましたが、やっと本物のかめはめ波が自分の手で撃てるんです。最初の気溜めのところから地面もゴーっと震えて、小石がフワーっとなって浮かんでくる。
コヤ所長 風もビュンビュンビュンとね。
タミヤ室長 そしてバーっと撃ったら地面がガガガガガッとめくれながらかめはめ波が飛んでいくわけです。
コヤ所長 最大で直径4mですよ。
──4m!! 上手く撃つコツはなんでしょうか?
タミヤ室長 気をしっかり溜めるとか、とにかくきちんとした手順で撃つことですね。
──最初に教えてもらって、その通りにやらないといけないという。
タミヤ室長 そうです。しっかり腰溜めしているかとか、まっすぐ手を出せているかとか。
コヤ所長 そして目で見ている方ではなく、ビリヤードのキューを突くみたいに手を伸ばした方向に飛んでいくんですよね。
タミヤ室長 だから友達に意外と当たらないんですよ、それがまた面白くて、自分のすぐ横をカメハメ波がかすめていって、「お前、何すんだよ! あぶねーよ!」とかいってかめはめ波で打ち返してじゃれあうのがすごく面白いんです。
──まるでライトノベルの異能者バトルみたいですね(笑)
コヤ所長 あとスタッフたちが、おじさんやスーツの人達を前にして、「今からかめはめ波の練習をしますよー」ってシチュエーションを見るののも楽しいですよ。
──確かにやってたのを見ました! 意外とちゃんと大声でやってくれるのもはたから見ていて面白かったです。
コヤ所長 そうです、そうです。
──大人も童心に戻れるじゃないですけど、そうした心のリミットが外れるのはすごくいいなと思いますね。
コヤ所長 そうそう、「取り乱す」ですよ。
──普通の遊園地だと冷静になっちゃう部分はあるのかもしれないですが、VRの世界なら周りが見えないこともあって絶叫しながらやっちゃいますよね。そしてそのあとに笑顔になれる。
コヤ所長 ストレートにVRを楽しんでほしいですね。
タミヤ室長 昨日も報道系のきっちり、かっちりした女性のアナウンサーの方がいらして、「こう撮りたいです」って提案されていたんですが、あまりに固かったので、順番を度外視して「まず、マリオカートをやってほしい」とお願いして体験してもらったんです。そうしたら「ギャー」と言い始めて、最後にナイアガラドロップで滑り台から落ちて「私、報道だけどこんなのでいいのかしら……」って言われていました。
コヤ所長 バラエティ番組じゃないのに、って。
──やっぱり固い人も柔らかくしてくれるパワーがVRアトラクションにはありますね。
コヤ所長 そうですね、本当に喜んでいました。
ドラゴンボールでVIVEトラッカー80台を同時運用
──開発で一番苦労したものは何ですか?
コヤ所長 ドラゴンボールは苦労しましたね。
タミヤ室長 そうですね。ドラゴンボール、それから絶望ジャングル、あと攻殻機動隊も今まさに苦労しています。
──ドラゴンボールではどの部分が一番大変でしたか?
タミヤ室長 VIVEトラッカーを多く使っているところです。まだトラッカーが発売されていない時期からHTCさんに「200〜300個ほど頼むと思います」と相談して、初期ロットでかなりの数を買いました。
──もしかするとトラッカーの発売初日に5時間ほどで売り切れたのはVR ZONEさんが……。
タミヤ室長 もしかすると関係しているかもしれないですね。そしてHTCさんもこれだけの数のトラッカーを同時に動かした実績がないので、どうなるのか分からないと言う状態でした。それでHTCの技術者の方もいらっしゃってました。
コヤ所長 ずーっと見られてましたね、しかもいろんなことがいっぺんに起きるんですよ。
タミヤ室長 そうなんですよ。例えば、PCとの通信に使うBluetoothがやっぱり干渉してしまって、実は壁の中にアルミのシートを入れて電磁シールドを張っていたりとか。
この壁に電磁シールドが……!!
──細かい!
タミヤ室長 先の8、9日も週末まで対応に追われていました。最初は原因がわからず、暗幕を張ったりとか。
──ポジションが勝手にズレていっちゃう症状ですよね。
コヤ所長 そうです。今、ドラゴンボールではトラッカーを5つ使ってますね。
タミヤ室長 充電中のものを含めると1ブースに10個動作している状態で、それが8ブースあるので、ドラゴンボールだけで80個あるんです。さらにマリオカートでも1席2個ずつトラッカーを使ってるので、あの辺りはBluetoothが大変なことになっているんですよ。
コヤ所長 電波が見えたらとんでもないことになっていますよね。
──スゴイことになってる(笑)
タミヤ室長 めちゃくちゃですよね(笑)。単品では開発していましたけど、数が揃うまでわからないことも多いです。マリオカートとか色々全部横に並んで、ここで初めて同時に動かして「ヤバい」みたいな状態になって、本当に週末までバタバタしていました。
タミヤ室長 色々コツがあるんです。まずPCに挿すドングルをPCから45cm以上離さないといけない。
──えっ、なんですかソレ!?
タミヤ室長 実は取扱説明書にいろいろ書いてありましてコントローラーとトラッカーを同時に使う場合はPCから離せって書いてあるんです。最初は説明書を読んでいなかったので原因がわからなかったのですが、何かの拍子にエンジニアの人が「なんかこんなこと書いてありますけど……」と試しにやってみたところ、そこでやっと安定しだしたという。そんな感じで手探りで色々やっています。
──そんな運用方法が……! ドングルが刺さってるハブだと、デスクトップPCの上に置きがちですよね。
コヤ所長 あれはやっぱりダメですね。
タミヤ室長 ハブも付属品のほうが安定します。最初はサードパーティのを使っていましたがなかなかうまくいかず、純正品を使ってみると安定しだしたこともありました。
──なるほど。ちなみにVIVEってVR ZONE全体で何台くらいあるんですか?
タミヤ室長 予備のものも含めて100個ぐらいありますかね。
コヤ所長 しかも全部ちゃんとオーディオストラップも付けているんですよ。
タミヤ室長 機材関係のことなどではHTCさんに大変にお世話になりました。
──カフェやプロジェクションマッピングなどもそうですが、色々な方々の協力があってできあがったということなんですね。
コヤ所長 ホントそうなんです。
中身もどんどんパワーアップしていく!
タミヤ室長 外のプロジェクションマッピングといえば、夕方から夜見て頂くとこの施設の正面がスゴいことになっていますよ(オープニングセレモニー時のレポート)。
コヤ所長 ここが新宿の名所になってくれるといいな〜。
──外観もそうですが、カフェもインスタ栄えしそうですよね。
コヤ所長 そうそう。
コヤ所長 そうですね。そしてまだVRをそんなに知らない普通の人達にも、VRのすごさや面白さというものを感じ取ってもらえればいいなと思います。
──われわれのような「VRおじさん」(VRのファンや技術者の男性)とは違った、「リア充」な方々が来れるようなポテンシャルを持っていると思います。
コヤ所長 14日からテレビCMもやってますし、メジャーになっていきますよ!
──最後に今後のロードマップをお聞きしてもいいですか。
コヤ所長 んー、野望としては、世界ですね。アミューズメントパークってやっぱり海外から輸入しているものが目立っているじゃないですか。なのでわれわれ日本のIPの力や技術の力を活かしてつくったエンターテインメントで、アジアやヨーロッパへ進出できればいいなと思っていて、実際そういったような活動もしていこうと考えています。
──過去にバンダイナムコとして海外でのアミューズメント施設を手掛けたことはことありましたか?
コヤ所長 例えば米国のシカゴ郊外にパックマンをテーマにした「レベル257」という施設をつくったりとか、インドで実験したり、ロンドンにも関連施設を建てたり、ナムコは海外でいろいろなことをやっています。そういうところは可能性があるかもしれません。
──なるほど。そうしたらネットでつながって海外の人とマリカーが一緒に対戦できる日が来るかもしれないですね。
コヤ所長 しかもバーチャル空間のポータルでつながって、VRで行き来するということもできるでしょうね。
タミヤ室長 新宿に来ちゃったみたいな。
タミヤ室長 「僕はイギリスから」「僕は新宿から」とかできると楽しそうですね。
コヤ所長 あとはテレイグジスタンス的にペッパー君のようなロボットを使って「コンニチハ」とかね。
──コヤ所長とタミヤ室長がロボを使って遠隔出社して、常にいるみたいなことも……。
コヤ所長 できますよー。そして色んなところにスイッチすればいいんです。
──うーん、やっっぱり技術とエンターテインメントが合わさった最先端がここにあるなぁ!!
コヤ所長 これから中身もどんどん増やしていきます。お台場でも途中からボトムズやマックスボルテージ、ガンダムが入ったりしたように。
──まぁでもこれからコンテンツがどんどん増えたりアップデートが待ち受けたりしているんですね。
コヤ所長 はい、待ち受けております
コヤ所長 なので一度と言わず、二度、三度と遊びに来て下さい。
──ちなみにお2人は現地にいらっしゃいますか?
タミヤ室長 多分、しばらくはいると思います。
コヤ所長 そうですね。可能なら夏休みの終わりぐらいまで、できるだけ長くここに居ようと思います。
──ではもしかしたらお会いできるかもしれないという? Twitterでもお二人のファンが結構増えてきたと思うので。
タミヤ室長 大丈夫だと思いますよ。
──最後にあの決め台詞をいただいてもいいですか? せーの……
コヤ所長・タミヤ室長 さぁ、取り乱せ!
(TEXT by Minoru Hirota)
*VR ZONE SHINJUKU 12日内覧、14日グランドオープンの記事まとめはこちら
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