アウトドアをより安全に身近に 博報堂、IoT端末で山での位置を確認する「TREK TRACK」発表
博報堂アイ・スタジオは8日、記者発表会を開催し、アウトドア向けインフラ「TREK TRACK」(トレック・トラック)のサービスを9月1日より開始することを明らかにした。予約は8月18日より受け付け、20日には第一弾として導入される山梨県北杜市の瑞牆山(みずがきやま)にて一般登山者に向けた無料体験イベントを実施する。
TREK TRACKは、GPSを取得してその位置情報を発信するIoT端末と、長距離無線技術の「LPWA」(Low Power Wide Area Network)を組み合わせることで、山岳地帯における人の位置を可視化・集中管理し、山岳事故の減少を目指すというインフラになる。
仕組みとしては、まず対象エリアに10km圏内の通信が可能なゲートウェイデバイスを設置。ユーザーはIoT端末を持って入山すると、数分に1回、位置情報を発信してくれて、スマートフォンなどを使って、実際の地形データを元にした立体地図で位置をチェックできる。さらに同じデータを家族や山岳管理者が確認したり、ユーザーが「HELP」ボタンを押して救助を求めるといった機能も用意する。
IoT端末は単四形乾電池2本で動作し、バッテリーは3〜4日持続する。重量は、電池を除いて100g。現状は販売しておらずレンタルのみで、専用サイトより申し込んで郵送で受け取って、利用後に郵送で返却するという流れになる。価格は1日990円からだが、10月31日までのキャンペーン期間は送料を含めて無料で利用可能だ。
クリエイティブの責任者である笹垣洋介氏(写真左)と、全体事業統括と技術統括を務めた川崎順平氏。
日本でもアウトドア人口が800万人を超えると言われている現在、遭難事故も昨年2495件と非常に増えている。山は自己責任で入って行くことになるが、それでは初心者にとってハードルが高くなってしまう。「アウトドアをテクノロジーの力でサポートすることで、誰もが安心して楽しめるようにしたい」と川崎氏。
2014年の年末より実証実験をスタート。当初は無線方式にZigBeeを利用していたが、1kmぐらいの範囲しか届かないため実現コストで難があった。2015年にはiBeaconを使ったが、稜線などの特別保護区には人工的なものが設置できない=ゲートウェイを置けないという問題があった。そこでLPWAに注目。
コア技術となるLPWAは、低消費電力、長距離通信、低通信コストというメリットがある反面、100bps〜数十kbpsというデータ通信の遅さがデメリットだが、その問題はGPSデータのみに絞ることでクリアーしている。
2016年10月の八ヶ岳での実証実験では、電波強度やデバイスの電池消費、携帯圏外での動作などを確認した。
さらに今年1月には、神楽峰にて冬季実験を実施。雪の下に穴を掘って3m下にIoT端末を埋めたテストでも電波の送受信ができたとのことで、雪崩に巻き込まれたときの捜索にも活用できそうだ。
実際にマップ上に位置情報を表示したところ。
ウェブブラウザーで見るので、ほかにもタブレットや……。
スマホでの閲覧も可能だ。ユーザーアカウントが残っている限りデータは閲覧可能とのことで、あとで自分の登山ルートを振り返る用途にも使える。
現状、山での位置情報というと、スマートフォンを使うケースもあるが、意外と圏外になるところも多く、また電波が弱い場所だと基地局を探して余計消費するなどバッテリーの持ちもよろしくない。そこでLPWAを使ったIoT端末で、この問題を解決しようというわけだ。
20日の瑞牆山でのイベントは、現地のTREK TRACKブースにて事前予約不要でIoTデバイスを受け取って利用可能とのことなので、ぜひ関東近県のガジェット&アウトドアのファンは訪れてみよう。また今のところ瑞牆山しか置かれていないが、ゲートウェイの設置・保守コストは今のところTREK TRACK側が負担するとのこと。遭難対策などに活用できるので、興味のある自治体もコンタクトを取ってみてはいかがだろう。
ゲートウェイは、ソーラー発電でも動作できる。ちなみに瑞牆山では、瑞牆山荘と富士見平小屋の2個所に置いた2台のゲートウェイで運用しているとのこと。
(TEXT by Minoru Hirota)
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