開発陣のこだわりが炸裂! 胸の揺れは手動調整 「Fate/Grand Order VR feat.マシュ・キリエライト制作秘話」【CEDEC 2017】

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8月30日より9月1日までパシフィコ横浜で開催されているコンピュータエンタテインメントの技術者会議「CEDEC 2017」。本日2日目は話題のVRタイトル「Fate/Grand Order feat. マシュ・キリエライト」の講演が行われた。ここでは技術面に踏み込んだ「『Fate/Grand Order VR feat.マシュ・キリエライト』制作秘話 ~プログラム・デザイン・サウンドについて、すべて明かします~」のレポートをお送りしたい。

同タイトルの開発内容を明かした開発者向けセッションは「Unite 2017 Tokyo」でも行われたが、今回はよりアートに踏み込んだ内容となった。

 

今回の登壇者は、Uniteでも登壇した「Fate/Grand Order」「Fate/Grand Order VR feat.マシュ・キリエライト」の開発元ディライトワークス・VRセクション テクニカルディレクターの荻野洋氏(右)とディライトワークス・デザイン部 3Dセクションマネージャー、島野伸一郎氏(左)。

島野氏はセガで「バーチャファイター3」「シェンムー」など、KONAMI・小島プロダクションでは「ANUBIS ZONE OF ENDERS」「METAL GEAR ACID」などの3DCGを担当する。

なお、体験会は何度か行われているが(現在は秋葉原・アドアーズで体験会が予約制で開催されている)、抽選倍率や開催場所などのハードルが高かったので、セッション聴講者の中でも体験者は少なかったようだ。

 

高品質なグラフィックとマシュの目線にこだわりあり! 胸の揺れは手動

 

 

「マシュ・キリエライト」は「Fate/Grand Order」のキーキャラクターであり、時にはマスター(プレイヤー)のパートナーとして、ある時はツッコミ役として共に過ごすキャラクターだ。当然ながらオリジナルのイメージは残しつつVRならではの3D表現が必要なこと。また質感、重量感、密度感などが感じられることも大事としており、2Dセルアニメベースでありながら存在感・そこにいる感のある絵作りが必要とされた。

とはいえ、見せたいビジュアルのイメージがあって、それを見せるためにトゥーンシェーダーを使う、そのシェーダーをカスタマイズするということが大前提でトゥーンシェーダーなどの技術面だけに引きずられない、ということにも配慮。

 

VRでのセルルック表現を模索しており、現在体験できるバージョン(「Anime Japan 2017」出展版)ではユニティちゃんシェーダー1.0を採用。セルアニメ特有のアウトライン表現も実現している、のだが、現実世界にはくっきりとしたアウトラインのある人間はいない、ということで違和感を感じさせないようにさらに踏み込んだ試行錯誤を検討。

現在はユニティちゃんシェーダー2.0へ移行し、ラインの色や細さを試行錯誤しているということだ。なお、写真は1.0ベースのもの。

 

島野氏いわく「あごのラインの力強さ」に注目とのこと。

 

タイトルロゴにも触れており、オリジナルのデザインのままVR世界ならではの立体感を取り入れて、タイトルロゴがパート分割されていてそれが合体するような演出や、動的なリフレクションを取り入れ、動きのあるものになった。タイトル画面はプレイヤーが初めて見るものであり、ゲームの世界観を確立する大事な要素と力説。

 

ゲーム本編ではプレイヤーの住居となっている「マイルーム」もVRで再現されている。これは「FGO」の世界の広がりを感じてくれて、「FGO」をもう一度遊ぶときにその広がりを持ち続けてくれれば、というコンセプトとなっている。そこで必要とされたのが密度感と臨場感。割と殺風景だったゲーム本編の画像に対し、VR版では映り込みや質感の追加に加え、日常生活を感じさせるための構成要素を追加している。

しかも、現在のバージョンでは振り返ることがほとんどない後ろには本棚やバスルームなどが追加。クローゼットからは戦闘服や聖晶石(英霊召喚(ガチャ)につかうアイテム)といったものも見える、といった凝りよう。また、テレビアニメ版でも開閉シーンがなかった「マイルームのドアの開き方」は本作が初出、となるらしい。

 

トレーニングの舞台になるのは体育館。もともとは「カルデア」という施設内の話ということで左のSFっぽいデザインだったが、原作のTYPE-MOONからのアドバイスで誰もがなじみのある青春の象徴・学校の体育館をベースにしたものに。

体育館ということでフローリングの質感には特に力を入れており、リフレクション・プローブなどといった表現を採用している。

 

コマンドカードは「FGO」原作の物を忠実に再現しているが、実は立体的に再構築。奥行きのあるものとなっている。カードそのものの製作は通常のゲーム素材とさほど変わらなかったが、プレイヤーの行動を導いてやりたいことを楽しく実現させる、というユーザーエクスペリエンスデザインの部分は苦労したという。

その大前提として、「FGO」のコマンドバトルを踏襲したインターフェースをVRでどう表現するか、を検討したところ、PlayStation Moveのモーションコントローラーを使ったポイント選択式になった。

 

キャラクターの仕様ボーンはHumanoidが最初に使われていたが、キャラクターを何体も出して同時に動かすわけでもない、ということでGenericに変更。

Humanoidは手足のひねり表現がやりやすく、リターゲットで多数のキャラを同時に動かせるが、背骨が2本固定になったり、アバターの設定が難しい、と一長一短がある。なお、本作のボーンは背骨が3本。

 

目線の設定はLookAtIKで行っている。これに一定のパラメータを入れると視線を常時カメラ目線にできるのだが、それはプレイヤーを常時ガン見する、という状態になりそれはちょっと……ということでNG。

視線に関してはプログラム処理に加え、アニメーションにより時には目線を外させたり、時にはプレイヤーを見たりと臨機応変な制御を行っている。

 

Uniteでも「胸の揺れ」については「優雅たれ」という「Fate」ならではのネタで説明がされたが、今回の講演ではさらに胸揺れに関しての話が島野氏から説明された。あまり誇張した動きは好ましくなく、重力や空気抵抗など実際の物理法則に沿った動きを観察し、観察者の目を通して、最終的にどんな美的感覚を加味した上で表現するのが重要なのではないか、と語っていた。

なお、「FGOVR」の胸揺れは手付けによるもので、自動でつけると理想の揺れ(かわいい揺れ、とのこと)が制御できない、という。

 

シェーダーによるテクスチャ切り替えによる頬の表現が入れられている。頬の赤みは小さな追加ではあるがキャラクターの感情の細かい変化を示すもので、キャラクターの魅力が高まる、とも。

 

ビジュアルの最終的な効果を高めるためにポストエフェクトの使い方も検討され、セルルックなのでブルーム処理は欠かせない。ただ、エフェクトを大量に使うと当然処理負荷もかかるので、コストと効果から削ったものも。

 

VRコンテンツに仕上げるための多様なアプローチ

 

プログラムの全体構造はUnite時とほぼ変わらず(Unity自体が5.6になった程度)。

 

全体構造や分岐条件なども設定してある。

 

Unityはデザイナー(アーティスト)でもゲーム内のアセットをいじって処理を作れる、というとも特徴になるのだが、デザイナーとプログラマーが同じシーンをいじってしまって巻き戻し、といった事故なども発生しやすくなってしまう。

そこで「プログラマーはシーン、デザイナーはプレハブ、と作業する場所を切り分ける」「Animetorはどちらがベースを作るかを決めておく」「同時にいじる可能性のあるものはスプレッドシートで管理する」などで対策。

 

「Fate/Grand Order VR」における開発フロー。口パクアニメ(リップシンク)をプログラマーが作るのは珍しいかも。

 

PlayStation VR専用ソフトとはいえ、Oculus RiftとTouchで動くようにすると実機確認の前にデバッグができて楽になる、という話。ただし、Dualshock 4でのトラッキング操作の確認はやっぱり実機でとなる。

 

サウンドの話も軽く触れられた。Unity標準のリバーブが使えなかったとのことで「Spatial Blend(音の方向性)」が0のリバーブ音を方向性のある通常の音と同時に鳴らしている。また発音位置のチェックのため、デバッグモードでは音が鳴った場所がマーカーで表示される。

 

VRコンサルテーションで引っかかった場所はUniteでも語られたが、レイシフト風演出シーンではビデオを見せて説明。初期バージョンではゲーム中のレイシフトシーンを模した高速で回転しながら動く、というものだったが、これが実際に動いているかのような錯覚を呼び起こしてNG。現在は回転処理も動きもかなーりゆっくり目のものとなっている。

 

最後に島野氏からいくつかのまとめが。開発時はVRヘッドセットを被って確認することが大事。人によって見え方も違うので(!)キャラクターの大きさは多くの人々が実際に体験して1%単位で微調整を行ったそうだ。違和感の存在は別の言葉にすれば「プレゼンスが壊れる」というお馴染みのフレーズになる。

 

感覚的に作ったもので構成された世界は感覚的、別の形でいうと曖昧な世界にしかならない、島野氏は力説。実際にあるもののスケールは現実に即したスケールで作らないと「○○の形をした置物(オブジェ)」にしか見えなくなるという。実際にメジャーなどで測るのも重要とも。オフィスカタログなどの三面図なども参考になりそう?

 

多分これも初出しとなると思われる、マイルームの構成要素(廊下まで!)。360度自由に見渡せるVRだから背景にも手を抜かない、ということだがここまで作りこんでるなら別の視点をベースとしたシーンもありそう? 視点を動かすことで見つかる新たな発見、を入れるのも大事とも。

 

ムービーパートでも丁寧に作りこむことでプレイヤーが主導的な立場でストーリーを体感できる。大事なのはしっかりとした視線誘導と丁寧なインタラクション。

 

最高のVRは技術だけでなく丁寧なモノづくりが必要。グラフィックだけでなく、プログラムやサウンドを含めた総合的な完成度を上げていくことが大事となる。

といったところで今回の講演は終了した。「Anime Japan」からさらに実在感の増したマシュに出会える日が今から楽しみだ。「Fate/Grand Order VR feat. マシュ・キリエライト」は2017年冬にPlayStation VR専用ソフトとして配信される。

 
*CEDEC 2017記事まとめはこちら

 
●関連記事
Unityだから追求できた「マシュがいる感」 「Fate/Grand Order VR feat.マシュ・キリエライト」開発秘話【Unite】

 
●関連リンク
「Fate/Grand Order」公式サイト
「Fate/Grand Order VR feat.マシュ・キリエライト」
ディライトワークス

 
(C) TYPE-MOON / FGO PROJECT

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