ジェムドロップ初のVRゲーム「ヘディング工場」、ゲームのお約束を捨てた制作方法を解説【CEDEC 2017】
パシフィコ横浜にて8月30日から3日間行われたCEDEC 2017。今回はジェムドロップが制作したVRゲーム「ヘディング工場」を題材にVRゲーム制作のコツを教えるセッション「過去のお約束を捨てることがVRの始まり ~ PlayStationVR ヘディング工場のゲームデザインと演出」のレポートをお届けしたい。
講演を行ったのはジェムドロップ代表取締役の北尾雄一郎氏(写真左)とアートディレクターの増田幸紀氏(写真右)。ジェムドロップはVRやスマートフォン、アーケードなどのゲーム開発を行っている企業。
ヘディング工場解説動画
ヘディング工場(体験レポート)は基本的にコントローラーは使わずに頭の動きだけで体験できるPlayStation VRのゲーム。流れとしては空の上に浮かんだ都市の中を進んで行き、途中行く手を阻むギミックを「砲台くん」が打ち出すボールを頭で跳ね返して解いていくというもの。
このゲームの開発コンセプトとしては、PS VRがまだ発売前で世に広まっていなかったため、VRを初めて体験する人でも内容がわかりやすいものを作ること。また、今までのゲーム制作において普通であればやっていることを全て捨てるというものであった。
その他VRゲーム制作が初めてであったため、無理をしないようにあらかじめ短い期間で制作することを決めていたことや、PC向けに制作すると体験する人によってPCスペックの違いがあるので、全員同じ環境で体験できるPS4に向けに制作することは初期の段階から考えていたという。
それらのコンセプトから導き出された方針は、視線誘導を重視してコントローラー使用しないことや文字、文章、説明、UIを使わないこと。また、VRでしか体験できないゲーム性や非現実的な世界を描くこと、1人もVR酔いをさせないということなどを目標に制作がスタートした。
何故ゲーム制作において普通であればやるようなこと、所謂お約束というものを捨てるという結果に至ったかというとVRならではの問題があったからだ。
例えばUIや演出、VR酔いの問題。また、目の前にあるものを触ることができないなどの違和感などを解消するためにこのような決断に至ったとか。
ここからはそういった点を踏まえて実際に行った具体的な話。アート側が注意したことは、世界のレイアウトや体験者が酔わないようなカメラ、ゲームハードへの負荷、オブジェクトの立体感の4点。
世界レイアウトは非現実感を演出するためにステージを上空であるという設定にした。これは通常のゲームであれば地面となる場所よりも下にキャラクターや建物などを配置して、ユーザーに色々な場所を見てもらい、VRの特徴を活かした全方位見渡すことのできる世界を楽しんでもらうという考えもあった為だ。
そのような360度レイアウトにすることによって、地面をなくした分のアセットが削減できたことや非現実感を高める高所感がでたこと、風景の異質感を出すことができた。
次に誰もがこのゲームを楽しめるように考えた酔わない工夫をしたカメラの話。このゲームは一本道となっており、自分が動くことやそのような操作をしなくても、レールの上の乗り物に乗って自動で進んでいくようになっている。
そこで気をつけた点としては、まず乗り物が速く動くと酔いやすくなってしまうため速度をかなり抑えたこと。このゲームのメインプログラマーはVR酔いをしやすい人であったためその人を基準に速度を調整したとか。
一本道のレールも左や右へのカーブ、また上下に移動する坂の角度を急にしてしまうと酔いやすくなってしまう為、それらの角度は10度~20度へ制限した。
また坂道であれば普段はその坂道の角度に合わせて視点を強制的に移動させていたものの、強制的な視点の移動はVR酔いに繋がってしまうためこれも排除し、どこを見るかは常に体験者の自由にした。
勿論演出の際のイベントのために強制的に視点を移動していまうと先ほどの理由で酔ってしまうため、この強制的に視点を向けることはやめ、視点誘導に力を入れることにしている。
次にゲームハードへの負荷の話。PS VRは60fps未満にすると酔いやすくなってしまうためこれを最低条件としたが、それを維持するために解像度を低くすると映像が粗くなってしまいこれもVR酔いに繋がってしまった。またジャギーを処理するためにMSAAというアンチエイリアシング技術も使ったが動作が重くなってしまうなどの問題を抱えていた。
それらを解消するために、GPUやCPUが安定するまでポリゴンの数を半分まで減らすことやオブジェクトを削減し、カリング処理を行うことで対応した。ちなみにカリング処理とは建て物の裏側や何かに遮られ見えない部分のポリゴンを描画しないなどのグラフィックにおける処理負荷軽減をするための技術。
VRでは物を立体視するので、今まで板状に作っていたオブジェクトも立体的にモデリングした。
次にゲーム全体の構成を考えるゲームデザインをする側の話。ヘディング工場のゲームデザインで意識していたことは前述の通り、ビデオゲームのお約束を捨てるということ。またVRという体験を最大限に使うことも意識していた。
ゲームにおけるお約束を捨てるというこで具体的に行ったことは、ゲームを自動セーブや自動ロードにしてセーブやロードの概念をなくすことや、タイトルやオプションなどのメニュー画面を排除したこと。また、体験者がコントローラーを使わずにゲームを進行できるようにしたことや、文字や音声も使わなかった。
これにより不思議なビジュアルと言葉や文字の無い世界がマッチしてミステリアスな雰囲気を出せたことや、ストーリーについても一切言葉では明かされないため、エンディングや演出について人それぞれの解釈が生まれるなどの結果が得られた。
また上の画像のキャラクター(砲台くん)をプレイヤーのバディとして設計し、前述のお約束を捨てることに役立てている。
例えばプレイヤーがコントローラーを使わなくてすむように彼が攻撃手段となるボールを飛ばしてくれたり、次に何をすればよいのか自身の体をもってナビゲーションをしてくれたり、ストーリー上の演出ではプレーヤーの感情を揺さぶる役割も持っている。
次に「VRという体験を最大限に使うこと」についての話。VRという体験を最大限に使うには、体験者が仮想世界という現実の世界にいることを作り手側が意識する必要があり、体験者に体験して欲しいことと体験して欲しくないことをしっかり分けることが大事であるという。
体験して欲しくないものの例としては、ポーズや演出、メニューを出す時などの時間経過を中断するもの。また空中にメッセージが出ることや、強制的に視点を奪われること、様々な物に対してアクションができないなど、いかにもゲームらしい現実ではありえないものだ。
逆に今回プレイヤーに体験させたっかたことの例としては、簡単な操作で爽快感のあるアクションをすることや不思議な世界を旅すること、体験者が乗り物に固定されているという特殊な状況を活かした演出を体験することなどだ。
以上のようなアイデアが出たのは予算と人員とスケジュールを大幅に制限したことが大きな要因だと語り、そのおかげで問題に直面したときには時間をかけて技術で補うのではなく、アイデアを出し合うという方法で解決するプロセスが生まれ、結果的に大幅な作業のカットを果たしたという。
しかし、PS VRのローンチを逃してしまったことで知名度の広がり方に影響がでてしまったのは大きかったといい、また今後はプロモーションが課題であると語った。
現在ヘディング工場はSteam版も制作中ということなので、PC用のVRHMDしか持っていない人も体験できるようになるだろう。もし記事を読んでこのゲームに興味が沸いたのであれば、購入を検討してみてはいかがだろうか。
*CEDEC 2017記事まとめはこちら
(TEXT by まぶかはっと)
●関連リンク
・ジェムドロップ ウェブサイト
・ヘディング工場 特設サイト