VRは想定通り順調に成長してる──gumi・國光社長が語る未来予測
東京ゲームショウ2017に合わせて、gumiとAPPLOVIN、adjustは21日、六本木にてアフターパーティー「CASINO ROYALE WITH VR EXPERIENCE」を開催した。gumiといえば、Tokyo VR StartupsなどVRへの注力で知られる企業だが、その社長である國光宏尚氏は現在のVR業界をどう見ているのか。パーティー会場にてインタビューを敢行した。
「2〜2年半先の299ドルを切る端末が本命」
──最近のVR業界についてはどんな雑感をお持ちですか?
國光氏 先日、VR業界のとあるキーマンとの会食で出た話ですが、まず今年の年末から来年の頭に出てくるスタンドアロン端末(一体型VRゴーグル)は中途半端という意見が同じでした。値段が500ドルぐらいで、例えば、googleの「Daydream」はコントローラーが片手だったりとか、ASUSの製品(Winodws Mixed Reality)はノートPCが必要だとか、中途半端なやつが出てくる。
この時点のハードではなく、その次世代。2〜2年半ぐらい先、来年、再来年ぐらいの今頃から後半にかけて出てくるものに注目だよねと。その頃には今のハイエンド、両手のコントローラーがあって単独でポジショントラッキングができる製品の値段が必ず299ドルを切ってくる。もしかしたら199ドルの可能性もある。
──昨年の「元年」に比べて、今年はVRの勢いが失速しているという意見もあります。
國光氏 それは元からVRに携わっている人間からすると認識が違うよね。シンプルな話、まずゲーム機としてのVRが跳ねる必要があって、そのためにはスタンドアロンで500ドルを切るハードが必要。要するにPlayStation 4がリリースされた当初と同程度(399ドル)という適正価格で、パワフルなハードが出てくるのが重要。
それからキラーコンテンツも必要。Nintendo Switchは299.99ドルだったけど、あれはみんなゼルダ(「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」)がやりたかったから買ったわけじゃん。そのSwitchより、VR業界は参入しているコンテンツ開発会社が多い。
だから今の状況は、単純にハードが高すぎるのと、キラーコンテンツの不在の2つだけだと思う。ハードが199ドルで今のVIVEと同じ体験が本当にできるんだったら、それってニンテンドーDSよりも安価なわけじゃん。そこにゼルダのようなキラーコンテンツが出てくればいいわけで、そこはもう環境が整ってきていると思うな。
でもNintendo Switchの初年度の出荷が500万台と言われていて、今年後半に出てくる中途半端なスタンドアロンでも全部合わせればそれくらい行くと思うんだよね。500万台規模になれば、今の装着率でいうと100万本売れるゲームが出てくる土台があって、全然食っていけるゲ—ム開発会社も現れる。
──あわせて500万台の市場規模になるという。PS4は今年6月で累計販売台数が6040万台という発表がありました。
國光氏 そう。だから今のPS4と同じレベルのプラットホームになるには、199ドルから299ドルのスタンダードハイエンドが出る2〜2年半後。だけど、今のNintendo Switchと同じ程度でだったら、今年後半のスタンドアロンでもいくと思う。
──話が変わって、最近ではWindows Mixed Realityの開発キットが出荷されたり、iOSの「ARKit」、Androidの「ARCore」といった既存のスマホを使えるAR技術が出てきたりと、AR/VR/MR業界におけるプレイヤーが増えている印象です。
國光氏 俺的に言うと極めて予想通りで、そもそもARとVRは違うものだと思っています。なぜならVRの普及を牽引するのはゲームが好きなゲーマーだから、必要なのは500ドルを切る適正なハードとキラーコンテンツ。といっても、ハードとゲームが初めて世に出てからまだ1年だからね。「VR酔いする」って言ってた状態から、1年でずいぶん改善されてきているから。それってモバイルアプリの1年目を思い出してみればわかるでしょ。
──ああ……。ひどい状況でしたよね。
國光氏 「Angry Birds」が出たのが2009年12月。でもVRは今の時点でも「Robo Recall」や「Lone Echo」とかあって、少なくともモバイルやNintendo Wiiの初期と比べると十二分にゲームって揃っている。しかも今年の年末にも、より体験の質が向上したり、有名IP(知財)を抑えた新タイトルがいくつもリリースされる。まとめると今年後半から来年の頭ではNintendo Switchくらい、2〜2年半というところでPS4に迫る市場になるということ。
──スマホARはどうですか?
國光氏 ARはゲーマーのためのものじゃないよね。
──どちらかというと「便利」という文脈ですよね。
國光氏 それプラス、スマホの実力という感じだから。「VRよりもARが盛り上がってきた」ということではなく、VRは想定通り順調にきている。一方でARは、ARKitやARCoreによってゴーグルをつけなくてもスマホでいいじゃんという選択肢が出てきて、その市場の立ち上がりが一気に3〜4年早まったということだと思う。
──國光さんのお話聞いてると、VRではすごくゲームにこだわる印象です。別にBtoBに活用してもいいと思いますが……。
國光氏 いや、それは認識が違っていて、今うちはVRスタートアップに20社ぐらい出資してるけど、ゲームはOwlchemy Labsを含めた4社ぐらいだよ。俺の今印象でいくとBtoBのVRはすでに立ち上がったと思うのね。
──その通りだと思います。
國光氏 だから医療や建築、車とかのBtoBはもう立ち上がってて見えている。でもBtoBでいくら使われても、「VRが流行った」という感じにはならないでしょ。一般の人が持ってるとして、そのキラーコンテンツがVRゲームになるっていう話。
──確かに! その通りです。その観点で言うと、日本よりゲーミングPCが普及している米国の最近のVRゲーム事情とかも知りたいところです。例えば売り上げが加速しているとかってありますか?
國光氏 何を持って加速しているとするのかは難しい。ちょっと過大評価かなとも思うけど、元々は1億円売れたら「結構売れてるよね」というところが、2億円になったったら「スゴい!」というのは、まぁ1年で倍だからスゴといえばスゴい。でも2億円がモバイルゲームの市場と比べたら……。
──その規模にすらまだ達してないという。
國光氏 でも確実に成長はしている。
──しかし、小さなゲーム会社が食ってくぶんには割と状況は整ってきてるけど、gumiさんぐらいの規模だともう少し市場が育たないと困りますよね。
國光氏 それは困る。でもコンテンツの市場規模はハードの販売台数に依存している。そしてハードの販売台数は、適切な価格とキラーコンテンツに依存する。ハードはうちらの分野じゃないし、それにスタンドアロン端末すらもまだ出てない。
「iPhoneも当初はガッカリ論が出まくっていた」
國光氏 もうひとつ注目しておきたいのは、アジアで店舗で体験する「ロケーションベースVR」が育ってきていること。そこで未就学児はダメだけど、小学校以上はOKの方向にしようと、年齢制限を緩くしようと言う風潮が出ている。これってアメリカだと全然認識が違うんだよね。
──子供も全然関係なくVRを遊んでますよね。
國光氏 もちろん2、3歳がつけたら危ないのはあるけどね。ただアメリカのほうでなぜVRの対象年齢が13歳以上になっているかというと、青少年保護の条例があって、Facebookも13歳以上しか使えないのよね。未成年からデータをとることを法律で禁止しているから、オンラインにつながったVRゴーグルも未成年はできない。そのFacebookの流れでOculus Riftもダメってなっている。
──その点でいうとロケーションはネットに個人情報を出さなくて済むので、別に関係ないですよね。
國光氏 データとらないし、そもそもアメリカの条例はアジアは関係ないし。ロケーションは韓国や日本でも色々やっているけど、やっぱり小中高生の存在は大きい。
──いやー、自分が小学生だったら絶対VRで遊びたいですよ。
國光氏 親だったら700円くらい払うじゃない。
──払いますよね。そういったお話を聞いていると、VR業界の急激な成長ももう少し先にありそうです。
國光氏 でも考えてみてよ。Tokyo VR Startupsが始まったのって、去年の1月で、まだ1年半だよ。今、モバイル動画が流行っていて、「Kurashiru」とかの早回し料理動画とかが伸びているけど、あれだって3年だよ?
──結構かかりますよね。
國光氏 かかるよー。だってgumiがソーシャルアプリプラットホームをオープン化してから、mixiがソ—シャルゲームで跳ねるまでも3年だよ。だから1年半でそんなすさまじく成長しない。
──確かに。よっぽどの成長カーブを描かないと無理ですね。
國光氏 そう。iPhoneが出たのが2007年で、Angry Birdが流行ったのが2010〜11年。パズドラやクラッシュ・オブ・クランも2012年。iPhoneだって、出た当初はガッカリ論が出まくっていたでしょ。
──いやー。OSレベルで文章のコピペができなかったりとかひどかったですよね。そうしたもう少し先のハードが出てきてのブレイクに向けて、着実にキラーコンテンツを作り続けたり投資しているという。
國光氏 VRは想定通り順調に成長してる。ARはARKitやARCoreで想定よりも遥かに早く立ち上がった。だからこの2つが同時に来ているのが、結構エキサイトなこと。
──では「VRが失速」というのは、全然事実を語ってないという?
國光氏 少なくとも俺がイメージしていたより早くも遅くもなく、極めて順調。しかもパルマー・ラッキーがうちのメンターになってくれたし! ぜひ今後もTokyo VR Startupsの展開を期待していてください。
(TEXT by Minoru Hirota)
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