日本流ロケーションVRの未来は明るい! 「日本型アーケードVRは世界に通用するのか?」レポート【Japan VR Summit 3】
10月11日~13日にかけて、東京ビックサイトでグリー株式会社と一般社団法人VRコンソーシアムが主催し、日経BP社が共催するVRイベント「Japan VR Summit 3」が開催された。12日には多くの識者を招いた、プレミアムセッションが中心となった。
今回は、アミューズメント施設で展開されるロケーションVRについて、アドアーズ、バンダイナムコグループ、ジョイポリスを運営するCAセガジョイポリスのキーマンが集まったセッション「日本型アーケードVRは世界に通用するのか?」をレポートする。モデレータは一般社団法人ロケーションベースVR協会代表理事/ハシラス代表取締役社長の安藤晃弘氏が担当した。
VR PARK TOKYO
アドアーズはアミューズメント施設運営45年以上の独立系オペレータ。関東4県を中心に「アドアーズ」を出店している。
80年代当時のゲームセンターは技術とアイデアのイノベーションが起こる場であったが、それを復権させたいということでロケーションVR事業を開始。
アドアーズの旗艦店舗の1つである「アドアーズ渋谷」の4階に「VR PARK TOKYO」を展開して営業。現在11機種が稼働中。
7月で5万人、年内には10万人を突破予定。男女比率は3月が56:44に対し、9月には48:52と逆転。渋谷というロケーションから女性が訪れる割合が高くなったようだ。また、日本人の比率のうち30%が関東地方外(特に関西方面)という。
B2B向けのVR機器のレンタル、販売も積極的に行っていく。年内には「おそ松さんVR」を主力機器とした第2の「VR PARK TOKYO」店舗を池袋にオープンする予定だ。
VR ZONE SHINJUKU
バンダイナムコグループのVR施設展開は、コンテンツ制作をバンダイナムコエンターテインメント、店舗運営をナムコが担当。2017年7月に「VR ZONE SHINJUKU」をオープンし、オープンから3か月経過した現在も大盛況。また、小型店舗の「VR ZONE PORTAL」も展開中で年度内に国内外20店舗を予定。
VRアクティビティ全11機種(+1コンテンツ)、ノンVRアクティビティ3機種で運営中。年内には「攻殻機動隊ALIVE STEALTH HOUNDS」「機動戦士ガンダム 戦場の絆VR PROTOTYPE VER.」が稼働予定となっている。
「VR ZONE SHINJUKU」の来場者分布も紹介。4割が女性、8割が社会人。年齢構成は20~30代で5割を占める。なお、10代が少ないのは予約サイトの決済手段がクレジットカード専用だった時期のため。現在はコンビニでの支払いが可能となり、今後は10代後半の来店も増えると思われるとのこと。
満足度・リピート意向もかなり高いため、新アクティビティの投入によりリピート率が上がることも期待されている。
おひとり様率が低く、カップル、グループの比率が非常に高いのも特徴で、カップル率は35%……ぐぬぬ。
ジョイポリス、SEGA VR AREA
屋内テーマパーク「ジョイポリス」の日本2か所(東京・台場、大阪・梅田)と中国での運営を担当。2016年末にセガグループから離脱し、香港・China Animation社の傘下になる。
東京ジョイポリスではフリーローミングVR「Zero Latency」を、梅田ジョイポリスでは「エニグマ・スフィア」(よむネコ)を展開中。「Zero Latency」の稼働率は95%以上ということも発表された。
東京・大阪で展開中の「SEGA VR AREA」のVR機器もCAセガジョイポリスが発売しているものだ。また、社内でのVRタイトル制作も検討がされている。
中国では子供向けロケーション「Wonder Forest」の展開も始めている。
日本のロケーションVRは世界でも通用する!
一般社団法人ロケーションベースVR協会ではロケーションVRの利益最大化を目指して設立された。現在の大きな問題は「13歳問題」で店内での管理が行われている短時間のプレイであれば問題はないのではないか、と考えられている。これにより13歳以下の子供を持つ家族がロケーションベースVR施設に行きづらくなる、という懸念が解消されることに関連企業の期待が高まっている。
なお、「13歳問題」については、海外のVRロケーション施設では子供が普通に遊んでいることが許容されているところもあり、海外では短時間でのVR体験は子供に対しても大丈夫だからという認識がある。日本でも体験の時間的な制限があり、保護者の観察の上であれば問題はないだろう、という方向でガイドラインの制定を進めており、今後その問題はなくなりつつありそうだ。
なお、「日本型のロケーションVR」の定義については、オペレータが常時プレイヤーのそばにいてHMDなどの脱着やゲームプレイのお手伝いをしてくれるタイプのVR施設を指す。小山氏によると台湾でも似たようなロケーションがあったのだが、その施設もお台場時代の「VR ZONE」でのホスピタリティがお手本となっているとのことだった。
しかし、それにはコスト、その多くは人件費と家賃が必要、ということになる。「VR PARK TOKYO」では12人のスタッフが常駐している。これはアドアーズ渋谷の1階・2階・3階のスタッフを合わせた人数(各フロア3人)よりも多い。
ちなみに「VR ZONE SHINJUKU」が230人で、面接は3000人以上に及んだという。東京ジョイポリスはアトラクション中心で200人というので、この人員コストが問題となる。ただし、「Zero Latency」は通常2人で運営しているそうで、これには装着は体験者にすべてをやってもらうなど、オペレータ側の人員削減の努力が実を結んでいる結果となっている。
また、人件費の中で大きなものとして「VRゴーグルの脱着」があるのだが、これはユーザー側の「慣れ」で自分で行えるようになると時間が短縮できるようになるという。これはリピーターが増えれば増えるほどに多くなっていく現象であるが、小山氏によると「VR ZONE SHINJUKU」の来場者の多くが一見さんであり、「PlayStation VR」の存在を知らない人が9割もいるという実情も語っていた。
また、海外からの旅行者対策として外国語を話せるスタッフがどれだけいるか、という質問に対しては、「VR ZONE SHINJUKU」では英語と中国語に対応できるスタッフが各フロアに3名ずついるという。また、では機器面積に対する収益効率も悩みの種になっていて、たとえば「UFOキャッチャー」などのプライズマシンは畳2畳分のスペース。人気のあるプライズの入った台なら1日の収益は10万を超えるものもあるという。一方、ルームスケールを使ったコンテンツやある程度のスペースを取る体感マシンを使ったものでは設置面積に対する収入は低くなる。
現状は新しもの好きのユーザーが多いことで回っているVR施設だが、将来を考えるとリピート性のあるコンテンツを導入することが必要ともいう。「Zero Latency」のタイトルではスコアランキングを用意するなどコンテンツ側でリピート性を高めるものとなっている。
「VR PARK TOKYO」では一回の来店で体験できるコンテンツが4~5種類となっていて、別のタイトルを遊ぶために再来店を促すようになっている。「VR ZONE SHINJIKU」では1つのカラーチケットで遊べるVRアクティビティは3種類となっており、チケットの追加購入はできるものの基本的にはリピーター狙いとなっている。
リピート率の向上が必要とされる理由としては、ロケーションエンターテインメントの宿命として、同じことを続けるとと飽きられるから、という問題がある。ちなみに小山氏いわく、アーケードゲーム開発費用の7~8割がリピーター対策のコンテンツ開発に使われるというから驚きだ。
酔いの対策にも触れられた。「Zero Latency」では酔ったお客さんはいないと速水氏。一方、「エヴァンゲリオン THE 魂の座」においてはヨーイングを極力使わない形で酔いを押さえていると語ったのは小山氏。実際のアクティビティでは射撃武器で使徒を迎撃するのだが、封印されたアクションとしてジャンプやキックがあることも明かした。
一方で、FPSが出た当初は3D酔いが問題視されたが、海外のゲームクリエイターは酔いを分析してそれを排除した動作に落とし込む、ということはやらずに、ゲームの面白さをひたすら追求し、ユーザーに3Dゲームを慣れさせる、という形で3D酔いを排除した、という話も飛び出した。
もっとも、これは酔いに関して非寛容なロケーションVRやPlayStation VRタイトルでは、コンサルティングサービスがありそこで弾かれるとデモ出展すらできないため出てこない発想であり、これと同様の現象が実現するとすれば海外のPC向けVRから出てくる可能性があるだろう。
20~30代の客層が使用しているSNSへの展開も大事とも。「VR ZONE SHINJUKU」ではセンターツリーの色彩変化やグランバーズの料理、リゾートアクティビティなどがフォトジェニックな作りで、来場者から好評を得ている。
また価格設定もいろいろな葛藤があったという。お台場の「VR ZONE」ではバナパスポートカード(バンダイナムコエンターテインメントのゲーム機器で使用される非接触型カード)にバナコインをチャージするという形で展開をしていたのだが、小山氏は従来1プレイ100円を何倍にするか、ということで社内・社外での調整に苦労したという。「VR PARK TOKYO」については「VR ZONE」や海外のVR体験費用などをベースにしながらも、「ゲームセンターの活性化を図るプロジェクト」であるということや、下階の機器との価格設定の違いから時間決めの入場料制にして「違う世界」であるということを強調している。
これらの諸問題にどう対処していくか、については三者三様の意見が飛び出した。速水氏は「e-Sportsに向けた取り組みを行っていくと同時に、体験のできる場所を増やしていきたい」と語った。小山氏は11月10日に導入する「機動戦士ガンダム 戦場の絆VR PROTOTYPE VER.」をアピール。これはアーケード版と同様に4対4の対戦ができ、VRならではの体験ができるようになっているとのことだ。将来的には「VR ZONE」を飛び出し一般店舗での設置も視野に入れている様子なので今後の展開にも注目したい。石井氏は「小型で制御しやすい機種を投入して坪単価を上げる。将来的には無線化も……」という話になり、無線化でVRヘッドセットを被りっぱなしになればインストラクションがVR上でできるうえ、装飾もVR空間でできるのでフロアリニューアルも実機を動かすだけで済むという話題にも繋がった。
最後に安藤氏が「日本ならではのきめ細やかなホスピタリティを持った先進的なロケーションVRは世界でも通用する!」という力強いまとめでセッションは終了した。もちろん、そこには人件費など解決しなければいけない問題もあるが、それは機器の発達などで解決するだろう、という目論見があってのまとめとなっている。
セッションの中ではアミューズメント施設・機器にまつわる生々しい話が数多く飛び出し、笑いも絶えなかったこのセッション。アドアーズ、バンダイナムコグループ、CAセガジョイポリス以外にもアミューズメント施設でVR体験を展開する会社も増えてきている。今後はそれら企業が切磋琢磨してロケーションVRのさらなる活性化に期待したい。
(TEXT by Shogo Iwai)
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