キャラになっても声優本人の雰囲気は残る サマーレッスン・アニメ制作チームの飽くなき挑戦(中編)

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前編に続き、サマーレッスンのアニメ制作チームのインタビューをお届けする。

 
 

声優は自分の演技を見て声を当てる

 
──VR向けのモーキャプって、具体的にはどんな作業なのでしょうか? サマーレッスンでは、声だけでなく動きもすべて声優さんが担当していると聞きますが。

 
深渡瀬 そうですね。モーキャプ用のスーツを着ていただいて、声優だけでなくモーションアクターとしても演技していただきます。

 
──表情(フェイシャル)も記録してるんですよね?

 
深渡瀬 はい、全部ご本人です。まず最上流にモーキャプがあって、声の前に顔と身体のデータを先に収録するんです。

 
──えっ! 声が後録りということは、自分の動いてる姿を見て声を当てているんですか。

 
深渡瀬 そうなんです。実写の自分の顔の動きに合わせて、声を入れていただくことになります。

 
玉置 声優さんは普通、アニメのキャラの顔に合わせて声をあてているので、実写でしかも自分の顔に合わせるのが恥ずかしくて、非常に苦痛だとおっしゃってました(笑)。

 
──そりゃそうです!

 
玉置 バラエティー番組でジェットコースターに乗ったり、バンジージャンプするときに顔の前につけるリアクションカメラってあるじゃないですか。あの映像を見ながら声を合わせるわけで、1人目の「宮本ひかり」を演じる田毎さんから、2人目である「アリソン・スノウ」の阿部里果さんに引き継ぐときに、田毎さんが「そのうち慣れるよ」「もう慣れてるから、私は」ってすごく達観した目で言われていたのを覚えています(笑)。

 
──ちょ(笑)

 
山下 音も含めた人体の動きの記録って「パフォーマンスキャプチャー」と言いますが、通常、音声もピンマイクで同時録音なんです。でもサマーレッスンでは音質を重視して、あえて同録していません。

 
森本 今回、VRということでサウンドでも立体音響にかなり力を入れていて、音質もかなりこだわっているんです。

 
玉置 1回試してみて、ちょっとノイズ多すぎるということでアフレコにしたという。

 
深渡瀬 リファレンス用の音声は同時に収録してます。サマーレッスンシリーズをきっかけにモーションキャプチャーもいろいろ新しいことに挑戦することができたんです。

 
──ほかにもあるんですか?

 
深渡瀬 結構あります。例えば同期について、今まで声、顔、身体のズレはそこまで細かく求められませんでしたが、VRではちょっとしたズレでも非常に気になるということで、新しいシステムまで導入しました。

 
玉置 当時、「本当に使うんですよね?」と釘をさされました。

 
森本 私の方からもいろいろと要求しています。あまり具体的には言えませんが、サマーレッスンではとにかく生産性の向上がテーマでした。先ほどのズレの話も、時間や予算に余裕があれば手間をかけて合わせられますが、収録時にすべて合っているほうが無駄なことに時間を使わずに済みます。

 
深渡瀬 そうした効率性を要求されたことで、そのノウハウを別プロジェクトに活かすこともできました。あとはリアルタイム性です。モーキャプの現場で役者さんが動いてる状態をUEの画面で見られるようにしています。

 
森本 UEがインストールされたPCをスタジオに持ち込んで、キャプチャーデータを実際にゲームエンジンの中に流し込んでチェックしています。もちろん生データなので、プレイヤーが体験するなものとまったく同じではないのですが、かなり最終形に近い状態のものを見ながら収録を進めました。

 
深渡瀬 スタジオセットの位置を、UEの画面を見ながら合わせられるのが便利なんですよね。

 
──といわれると、セットもVR内と同じサイズのものを同じ位置に組んでやっていたという?

 
深渡瀬 はい。サイズが近い家具とか、物理的なものは用意しました。

 
──そうしてリアルをバーチャルに合わせることで、やっぱり演じる方も部屋に本当にいるような感覚になれるという。

 
森本 そうですね。

 
玉置 面白いのが、置かれた机が編み目状になってるんです。モーキャプスーツの各所には光を反射する素材が付いてて、その反射で位置や方向を認識しています。だから、机の天板などで遮蔽されるとダメなので、全部シースルーになっているんです。

 
深渡瀬 それも作業効率を上げるための一環ですよね。

 
玉置 例えばひかりちゃんが机の上に手を置く動作をする際、ちょっとでもズレて机にめり込むというのを直す手間を防ぐために、最初から同じサイズの机を用意するということです。

 
 

1日で10分ほどしか収録できない

──お話を聞いているとかなり手間がかかっていますが、1日にどれくらい収録できるものなのでしょうか。

 
森本 まずがっつりリハーサルをやって、その後、本番という感じで、1日に録れるのが多くて10分くらいなんです。

 
──ええっ! じゃあ声優さんの拘束も週単位じゃなくて月単位なんですね。

 
玉置 まとめると1ヵ月ぶんぐらいですが、実際の期間としては2ヵ月ほどです。

 
──他のお仕事もありますもんね。

 
玉置 もちろん。われわれもアニメーションデータだけ毎日つくっているわけではないですし、自社のモーキャプ用スタジオが空いているかどうかというスケジュールもあります。

 
──しかし、1日10分しか録れないんですね……。

 
玉置 それだけ中身が濃いということです。

 
──じゃあ「今日は部屋の中で勉強してるシーンを行きます」みたいな。

 
深渡瀬 完全にそうです。1日ひたすら同じシーンみたいな感じです。

 
玉置 イベントでいうと3つぶんくらいで、午前に2つ、午後に1つとか、そういう感じです。

 
森本 僕ら素人からすると声優さんが本当にすごいなと思うのは、10分ぶんのセリフに加えて、体や顔の動きまで全部頭に入れてきてくれるんです。逆にもっと時間があったとしても、今度はそのインプットが追いつかないと思います。

 
玉置 アニメやゲームでは普通、台本は手に持ってアフレコしていますが、サマーレッスンでは台本を持つ手がモーキャプされると困るので、セリフを全部覚えてもらわないといけないんです。

 
深渡瀬 しかも顔も体も撮っているので、どこも力を抜けないという。

 
玉置 でも声優さんのミスによるリテイクは、ほとんどなかったです。

 
深渡瀬 なかったですね。

 
玉置 ほとんどこちらのワガママ……っていうとこの場の全員を巻き込んだように聞こえますが、まぁ私のワガママです(笑)。今、「オメェだろ」っていう声が今聞こえたんで。

 
全員 まったく言ってない(笑)。でも、思ってはいたけど。

 
 

実は3人とも声優さんとキャラの性格が全然違う

 
──声優さんの演技の話をもう少し聞きたいです。体も顔も動きを取っていて、それがキャラの個性につながっているわけですよね。一方でイメージしているキャラの振る舞いもあるわけで、どれくらい元の声優さんの個性は残っているのでしょうか。

 
玉置 声優さんの個性を消すつもりはないです。消すんだったら声優さんにお願いしない方がいい。声優さんの演技も、もちろん声もその人の癖が出てて、そういう痕跡がいっぱい残っています。

冷静に思い返して頂きたいのですが、この考え方は「サマーレッスン」に限った特別な話ではありません。通常のアフレコでも声優さんの言い回しの癖を生かすことがあるように、キャラの一部を声優さんがつくっているというのは当たり前の話しですから。ですので、声優さんにも「あなた自身がキャラの一部であることを恐れずに、私がこのキャラだと思ってしまっていいので、リラックスして演技してください」とお伝えしています。

やっぱり、自分の顔まで含めてすべて記録されるというのはかなり緊張することで、しかも、それをすごく美化したキャラにのせるわけで、そのプレッシャーは大きいはずです。われわれは「あなた自身でいいんですよ」と応援するぐらいしか出来ることがないのですが。

 
──壮絶な仕事ですね……。

 
山下 でもみなさんハマり役でしたね。

 
深渡瀬 そうですね。本当にそれは思いました。

 
玉置 面白いのが、3人そろって、声優さんとキャラの性格が全然違うんですよ。

 
──えー!

 
玉置 休憩時間には声優さんもスタッフも混じっておしゃべりなどをしてリラックスしているのですが、そこでの会話を聞いていると、ひかりちゃんの田毎さんと、アリソンちゃんの阿部さんはキャラとご本人の性格が実は真逆なのではないか、とかって思うことがありました(笑)。阿部さんのほうが、ひかりちゃんみたいな、のほほんとしつつも明るくよく喋られる感じで、田毎さんのほうがアリソンちゃんのように、真剣に取り組まれる物静かな感じに印象を受けました。もちろん、役に入ると全く普段のご本人を感じさせない別人ぶりで、完全なハマり役で演技をしていただけたわけですから、やはり声優さんはすごいですね。

 
──ちなみに声優さんのそれぞれの癖で「ここが可愛かった」って印象に残ったものはありますか?

 
深渡瀬 私の工程では実写の顔を見てデータ処理していましたが、そこで見えた癖がキャラにフィックスした際にも「あっ、あの人だ!」ってわかるんです。具体的にこの動きってわけじゃないのですが、表情のつくり方とか、後の工程で山下さんがディフォルメしているにも関わらず、「やっぱりこの表情は彼女だ」みたいなのが3キャラともありました。

 
玉置 素材の味を活かした、という。

 
深渡瀬 そう。活かしたままディフォルメしてるっていうのがすごくわかりました。

 
玉置 わかるよねー、やっぱり。

 
深渡瀬 細かくキャプチャーしていると、空気感が残っているんです。

 
玉置 確かに阿部さんのマネージャーさんにアリソン製品版の実物をお見せしたときも映像に出ているアリソンちゃんの動きを見て、「あっ、阿部さんだ!」っておっしゃってました(笑)。見た目は金髪のアリソンちゃんでまったく違うんだけど、わかるっていう。やっぱりそういう雰囲気ってあるんでしょうね。

 
深渡瀬 瞬きの仕方ひとつでも、人によって全然違いますし。

 
──それはある意味、実質的に声優さんに会っているというVRなのかもしれませんね(笑)。

 
玉置 それぞれの声優さんの熱烈なファンの方は見抜けると思います。

 
森本 その上で演技指導にも力を入れています。今回、声優さんはモーションアクターとしてはもちろん初体験なので、女優をやりつつ、モーションアクターとしても活躍されている芝井美香さんにアドバイザーをお願いしました。サマーレッスンのプロジェクト初期からお願いしていて、収録にも毎回付き合っていただいています。

 
玉置 「こういうことがしたいんだけど」という目的に対してアドバイスをいただけるのがありがたいです。

 
──例えばモーキャプするなら、こんな風に動いた方が見栄えがいいとか?

 
玉置 「この仕草を強調したいなら、前段階でこういうポーズをとっておけば準備のアクションみたいに見えて映えますよ」という感じで、3キャラに渡ってアイデアの引き出しとしてお願いしています。

 
──そう考えると、サマーレッスンのキャラは声優さんが中心ですが、色々な人の遺伝子が要所に入っているんですね。

 
玉置 そうですね。感情やキャラの演技指導は芝井さんですが、例えば、アリソンちゃんのチアリーディングとか、特殊なイベントでも個別のプロフェッショナルにお願いしています。

 
森本 アリソンちゃんのは、玉置がどうしてもチアダンスがやりたいというわけですよ。僕もチアダンス自体は知ってますが、ダンスの振り付けはもちろんできないわけで、そもそも誰に頼ればいいのかというところから始めました。

 
深渡瀬 ダンスのモーキャプ案件も多いので、そのツテでチアできる方いませんか?みたいな感じでしたよね。

 
森本 そうしてツテをたどってチアの振り付け、かつ演技指導ができるかたを探したところ、なんとチアリーダーとしてNFLで踊っていたという凄い経歴をお持ちの堀池薫子さんにお願いすることができたという。

 
──めちゃめちゃガチな方じゃないですか!

 
森本 たまたまお願いできて、阿部さんにトレーニングをしていただいた次第です。

 
玉置 ゲーム中は非常に近くでアリソンちゃんがチアを披露してくれるんですが、「普通、こんな近くではやらないですよ」「そうですよね」という申し訳ないやりとりもあったりしながら、すごく本格的な指導をしていただけました。ほかにも最新のちさとちゃんでは、歌って踊るシーンがあって、それもアイマスシリーズでお世話になっているソリッド・キューブさんに振り付けをお願いしているので必見ですよ。

 

 
 

目線や口の動きの修正が大変

 
──そんな万全の体制で収録しつつも、山下さんがいらしゃるということは、後工程での修正が入っているわけですよね?

 
山下 現場できちんと見てほしい方向に視点を合わせていても、その後、体の細部を直していくうちに最終的に目線が少しずつズレてしまうのです。腰、背骨、肩、首……とそれぞれがほんのちょっとの誤差でも、積み重なることで結構な違いになってしまう。

 
──体を修正していくうちに、プレイヤーが一番見入る顔がズレてしまうという。

 
山下 それは仕方ないことなので、最終的には手動で合わせています。

 
玉置 修正では口も多かったです。カメラの映像を自動解析してリップシンクしているのですが、プレイヤー目線でみたときに、どうしてもあっていないように感じられる瞬間があるんです。

面白いのが、人間って別にセリフの通りに口を動かしてるわけじゃなくて、普段はあまり唇を動かさずに喋ってるわけです。でもプレイヤーの頭の中には、ドラマなどで人間がすごくハキハキと口が動いてしゃべるイメージがある。その両者が合致していないと、「この人、あまり口を動かしてないな」ではなく、「バグなのでは?」とゲームの不具合に感じられてしまうんです。

 
──なんと!

 
玉置 元映像で声優さんの顔をチェックしても、データとしては正しいはずなんです。でも「い」って言ってる台詞で、口が「う」に見えてしまう。そんなときに「仕方ないよね」と手で直してもらったり……というのが不条理に思われたかもしれません。その口の癖は制作を続けるうちに人によって違うっていうことがわかってきたので、それからは声優さんのオーディションに山下さんにも来てもらって、顔の表情作りや、口の動かし方もチェックしてもらっています。

 
山下 ちなみにこの口を動かすというのは、声優さんにとってとてもつらいことらしいです。なぜならアフレコのときには、なるべく口の形を変えないでしゃべるトレーニングを受けているそうで。

 
──えっ、そうなんですか?

 
山下 あまり口を動かすと、マイクに口の動きの音がノイズとして入り込んでしまうからです。サマーレッスンでは、その真逆をやってくれという要求なので……。

 
玉置 演劇とかとは逆で、舞台役者は目で見て何てしゃべっているかわかるように口を大きく動かすじゃないですか。

 
──面白い。じゃあVRで人を演じるなら、舞台出身の人が有利だったという?

 
玉置 モーションアクターさんは、舞台出身の人が多いです。

 
山下 ただサマーレッスンでは声のほうが大事なので、声優さんにお願いしています。

 
玉置 そうですね。キャラクターの声が重要なので。修正では、その口がかなり難しかったところです。

 
*後編はこちら

 
 
(TEXT by Minoru Hirota

 
 
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