Oculusを超える「空間を歩ける」感覚がヤバい 日本未公開の「HTC Vive」とは?【CES 2016】
Oculus RiftやPlayStation VR(PS VR)といった日本で有名なVRゴーグルのライバルとして、海外では「HTC Vive」(バイヴ・ヴィーヴ)が知られている。PC向けのゲーム配信サービス「Steam」を手がけるValve(バルブ)が、スマートフォンで知られる台湾のHTCと組んで開発しているアイテムだ。
HTCがワールドワイドツアーを組んだこともあって海外ではレポートが多く上がっているが、国内ではごく限られたケースをのぞいて体験会がほとんど実施されておらず、その実態はあまり知られてこなかった。今回のCESの会場で体験できたので、ほかのVRゴーグルとの違いにフォーカスしてお伝えしていこう。
HTC Viveは、ラスベガスコンベンションセンターの南西にある駐車場に特設スペースを展開していた。
荷台に体験ルームが3つあるツアー用トラックを展開。
これ以外に5つのテントを用意して体験者を迎えていたが、非常に混雑しており体験までに数時間待ちとなっていた。
CES 2016では、写真の「HTC Vive Pre」という第2世代の開発機(というよりプレ製品版)を発表した。2月にプレオーダーを受け付ける。
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「超えちゃいけないライン」を表示してくれる
HTC Viveのスゴさを端的に表すと、バーチャル空間を歩ける感覚に集約される。
もちろんOculus RiftやPS VRにおいても、外部カメラを使ってユーザーの位置を特定し、バーチャル空間に反映するということは可能だ。ユーザーが空間を動いて、両手に握ったモーションコントローラーを使って何かを探したり、体を動かして敵の弾を避けたりといったアクションができるようになっている。
一方で、HTC Viveは、さらに動くことを前提にしたつくりになっている。第一に、動ける範囲が範囲が最大で対角5m(4×3m程度)と非常に広いこと。上から全体をスキャンできるような角度で2つのベースステーションをそれぞれ部屋の角に置き、レーザーを発してユーザーの位置を特定する「Lighthouse」という仕組みでこの広さを実現している。ちなみにこの動ける範囲を指して「ルームスケール」と呼ばれている。
「超えちゃいけないライン」を表示してくれるということもポイントだ。例えば、バーチャル空間で無限に広がる宇宙や広大な荒野を再現した場合、無限に進めてしまいそうに錯覚してしまうが、現実には部屋の壁があってぶつかってしまう。
そのギャップを埋めるために、Lighthouseの範囲を超えそうになると、目の前に緑色の網が現れて警告してくれる(コンテンツによっては網は最初から表示されている)。よくOculus Riftでは体験者が歩き回ると危険にさらされるので座って体験してもらうのが望ましいと言われるが、範囲を示す仕組みで事故を防いでくれるわけだ。
さらにHTC Viveは動くことを考慮して、今回お披露目した第2世代開発機のHTC Vive Preよりフロントカメラを活用した「Chaperone」(シャペロン)を投入した。表示モードを切り替えると、目の前にあるものがVR空間に輪郭として現れて、家具を認識して避けたり、飲み物をつかんで飲むといったことが、HMDをつけっぱなしでも実現できる。
VRコンテンツを遊ぼうとするスペースは、必ずしもプレーンな状態ではなく、何かが置かれていることの方が多い。今までのViveでは、ルームスケールのメリットはわかっていても、「Vive専用の部屋が必要そうだね」と障害物を取り除くのが面倒なイメージもあった。そのため家庭用より展示会向きという話もあったが、このChaperoneで一気にイメージが変わったわけだ。
HTC Vive Preの上面。
右側面。
「足」をパーソナルVRに持ち込んだ
それでは、ルームスケールの実力はどうなのかというと、これが素晴らしい体験を実感できた。
VRでは、360度全周が見られるという視覚が中心となって、目の前に見える別世界が本物のものだと思い込ませる「実在感」(プレゼンス)を提供している。ここに3Dオーディオが加わって、映像と音の出所が一致するとプレゼンスが高まる。
さらにモーションコントローラーを使えば「手」の再現が可能だ。手は人間の生活で多くのアクションを起こすトリガーとなっているので、これがバーチャル空間で使えるようになると、格段に「あちら」にいる感覚が強まる。
HTC Viveのモーションコントローラー。
上面。
親指部分のタッチセンサーは、「スリスリ」して操作が可能。
背面にはトリガーを用意。これでつまむなどのアクションをとれる。
HTC Viveでは、ここに「足」が加わった印象だ。Oculus RiftやPS VRの立ってる位置から少し動けるだけというのではなく、明確に歩き回れるのが圧倒的な違いになる。
例えば、海底からの美しい世界を眺めるデモ「Blue」では、難破船の上を歩いて縁から海底を覗き込んだり、泳いでくるクジラに近寄ってじっくりと眺めることを可能にしてくれる。
お絵かきソフトの「Tilt Brush」も、動けることが楽しい。バーチャル空間の隅から隅まで歩きながらぐるぐるとコントローラーを回すことでバネのようなイラストができあがり、その中心の空間を自分が通れるといった遊びが可能だ。さらに2つのセンサーを使って広い範囲の位置トラッキングを実現しているので、自分の描いたものを寝転がって下から見ることだってできる。
極め付けは、「Aperture Science 」と呼ばれているロボットを修理するデモだ。部屋を歩き回って引き出しを開けたり、ノブを引いてトビラを開けたり、メカを修理するためにボタンを押して上下左右から覗き込んだりと、手と足をフル活用したコンテンツになっている。
歩き回ることについてはケーブルのからまりが不安になるものの、この辺はユーザーが回転しすぎないようにするなど、遊び方の工夫が必要になるかもしれない。ちなみにChaperoneについては、筆者が体験したデモでは利用されていなかったので、反映速度や実際の見え方は不明だ。無念……。
昨今のムーブメントに煽られて、VRゴーグルは新製品がさまざまな会社からリリースされている。そうした戦国時代において、HTC Viveが、Oculus RiftやPS VRと並んで「3強」と見られているのは、手と足を使う体験のユニークさと、Valveが提供するSteamの配信プラットフォームの強みなどに起因している。
HTC Viveの日本での知名度は低いものの、機器のポテンシャルは非常に高い。例えば、展示会でVRを活用した目を引くデモをつくろうと企画した際には、有力候補となっていくだろう。日本での発売がどうなるのか、固唾を飲んで見守りたい。
(文/広田稔)