赤ちゃんの成長をVRで記録できたら超エモいのでは──実際に3Dスキャンしてみた【特別寄稿】
*初出:「赤ちゃん3Dデータ化の儀 102台のKissを君に」(アスキー)
「VRChat」といえば、自分の好きなアバターを使ってバーチャル空間で交流できるソーシャルVRアプリのこと。先日、PANORAで掲載したリアルアバターをVRChatに持ち込んで「VRオフ会」するという記事も大いに反響があったが、その際、記事に登場するメディアアーティストの坪倉輝明(@kohack_v)さんが気になる発言をしていた。
小さい頃から3Dスキャンを毎年してたら、VRChatの中でどの年齢の自分にも戻ることが出来て超エモいのではないか。
— 坪倉輝明@メディアアーティスト (@kohack_v) January 25, 2018
おっ。そういえば、筆者の知り合いで、アスキーにて「男子育休に入る」を連載してる編集記者の盛田諒(@moritakujira)くんが、赤ん坊を3Dスキャンしていたな……。ということで、実際に子供を3Dスキャンした経験を語っていただきました。
欲しかったのはモノではなく記憶
紅茶にひたしたマドレーヌの香りに幼いころの記憶がよみがえる。プルースト『失われた時を求めて』の冒頭にちなみ、嗅覚や味覚などから過去の記憶がよみがえることを「プルースト現象」(Proust phenomenon)と呼ぶそうです。もし記憶をVRデータとして保存しておけたら、プルースト現象の確度はより高まるのではないでしょうか?
メディアアーティストの坪倉輝明さんが「小さい頃から3Dスキャンを毎年してたら、VRChatの中でどの年齢の自分にも戻ることが出来て超エモいのではないか」と言っているのを目にしたとき、ふとそんなことを思いました。わたしも自分の赤ちゃんを簡易的に3Dスキャンして3Dフィギュアにしたことがありますが、できあがったフィギュアを手にしたとき、欲しかったのはモノではなく記憶だったのだと感じたことを思い出しました。
PANORAをご覧のみなさんはじめまして。アスキーの盛田 諒(34)と申します。今年で1歳になる赤ちゃんの父親をやっています。育児をはじめてから脳は忘却との戦いです。赤ちゃんの体重が7000gを超えたいま、3000gだったわずか1年前の感覚はもうおぼろげにしか思い出せません。大切な記憶をあとからでも呼び出せるようにと、写真や日記などのツールを使っていくつも記憶の復元ポイントをつくっています。
赤ちゃんの3Dフィギュアも復元ポイントの1つでした。
つくったのは昨年4月、赤ちゃんが生後2ヵ月のとき。東京・渋谷ロフトの「ロフトラボ3Dフィギュアスタジオ」で全長8.5cmサイズの石膏製フィギュアをつくってもらいました。3Dスキャナーを使わないカブク社の3Dスキャンソリューションを使い、約100台のデジタル一眼レフカメラ(Canon EOS Kiss X7i)で360度から撮影した写真を合成して3Dデータをつくります。撮影は一瞬で終わるため、写真館で家族写真を撮るくらいの感覚でした。約100台のEOSが取り囲み、「ピピピピ……」と一斉にフォーカシングする光景はなかなかSF的でしたが。
3Dデータになった赤ちゃんはそれまで見たこともないような変顔をしていて、これもいい思い出だと好ましく感じました。一方、やや残念だったことも3つあります。
(1)解像度が高いとはいえない
(2)データで保存しておきたい
(3)抱っこして温度を感じたい
まず、データは20年前の携帯電話で撮った写真のようにディテールがぼやけていてやや不気味でした。次に、データはフィギュアのプレビューとして閲覧できても保存ができない仕様でした。そして、立体的なデータになった赤ちゃんはかわいいのですが触れることはできません。ディスプレイごしに小さな剥製のようにながめるだけです。毎年データとフィギュアをつくりつづければ成長記録になるだろうと思ったのですが、記憶の復元ポイントにするにはもうすこし体験の強度がほしくなりました。
ですがこれも数年で解決する話かもしれません。レイ・カーツワイルはあらゆる情報テクノロジー技術が指数関数的に成長するとする「収穫加速の法則」を提唱しました。VR技術の普及とともに扱える情報量が爆発的に伸びていけば、VRディスプレイが人間の目で識別できる情報を超えるほど細かい画素を扱えるようになるのも遠い未来ではなさそうです。
コントローラーを使い、目の前の現実と変わらないほど高解像度の立体映像にさわれるようになればどうでしょうか。VR空間で抱っこした赤ちゃんはタイムラプスで撮影した映像のようにどんどんと大きくなっていくことでしょう。みるみる増えていく赤ちゃんの重みとともに、わたしは自分の人生がいかに様々な記憶や主題で満ちていたかを再発見する、VR時代の「プルースト現象」を感じることになるのかもしれません。
超エモいですね!
書いた人──盛田 諒(Ryo Morita)
1983年生まれ、家事が趣味。0歳児の父をやっています。赤ちゃんが生まれてから2ヵ月の育児休業をとった経験をもとに、アスキーで「男子育休に入る」を連載。
●関連リンク
・ロフトラボ3Dフィギュアスタジオ