「Vanguard V」のZeroTransformが教えるVRにおける音楽の大切さ【OC2講演解説】
現在、米Oculus VRが2015年の9月23〜25日に開催した「Oculus Connect 2」の各講演がYouTubeのOculusチャンネルにて公開されている。しかし、個々の講演は30分から1時間ほどあり、忙しいVR開発者にとってはなかなか聴く機会がないと思う。そこで、開発者の皆様に役立ちそうな講演をピックアップし、その概要をお届けするのが、本連載の「OC2講演解説」だ。
第1回目は初日の講演「Making Great VR: Lessons Learned from I Expect You To Die」、第2回目は、同じく初日の講演「New Techniques for Streaming VR Video」をぞれぞれまとめてきた。
第3回目となる本稿では、「Hearing with your eyes Interactive Music for VR」の概要をお届けする。講演者は「Vanguard V」や「Proton Pulse」といったVRゲームを手がけるZeroTransformのCEO、ジャスティン・モラヴェッツ(Justin Moravetz)氏と、同社の音楽エキスパート、ジェイク・カウフマン(Jake Kaufman氏)だ。
VRゲームを盛り上げるためにいかに音が重要であることを強調して、自社の4種類の作品を例として、音楽の使い方を紹介するという内容だ。
【1】Syncing your visuals to audio techniques
最初は、同社の製作した「Proton Pulse」を元に、見た目と音楽が同期する例を紹介している。
立体的なブロック崩しであり、円筒を覗き込むような視点でゲームが進む。プレーヤーは透明な板(画像にて白い四角で囲った箇所)を動かし、弾(画像にて白い丸で囲った箇所)を円筒の奥に送り続ける。
開発ツールは、Unity 5を利用。見た目と音楽の同期を実現させる方法としては、「Visualizer Studio」というUnityのアセットを使った。
Visualizer Studioは、音楽の波形データを解析し、スクロール(ある間隔のリズム)かパルス(ベース音のような短いリズム)に分解するアセットである。さらに、分解した音源の速度に合わせてオブジェクトの移動、拡大縮小の制御が可能である。
Proton Pulseの場合、曲のパルスに合わせて弾が筒や板に当たるように調整し、スクロールを使って筒内部の光を制御している。詳しくは動画の4分付近をご覧いただきたい。講演者がパルスに合わせてリズムを取っている声が入っているので、わかりやすいだろう。
なお、Visualizer Studioの定価は35ドル。音楽に合わせて背景を変化させるようなことが簡単にできるようになるので、興味ある方は試してみよう。
【2】How music drives the game
続いて「Vanguard V」を元に、音楽によってゲームがどう盛り上がるかを解説している。
音楽はゲームや映画の雰囲気を決めるものである。VRの場合、雰囲気をよくするだけでなく、より深い没入感を得るために必要である。動画の6分40秒付近より「BGMなし、効果音あり」、8分5秒付近より「BGMあり、効果音なし」、10分40秒付近より「BGMあり、効果音あり」で、プレイ動画が視聴できるので、ぜひ見比べてほしい。
【3】Music controls everything
さらに「Pulsar Arena」を元に、音楽のリズムに合わせて背景やキャラクターを制御する例を紹介している。紹介ムービーは14分20秒よりチェック。
このゲームは2015年春に開催されたGear VR向けの「Oculus’ Mobile Game Jam」にて6週間かけて開発したものだ。ジャンルはシューティングで、音楽によって背景のアニメーションや光が変化する。キャラクターは、その音楽に合わせて動く敵を撃って倒すのが目的だ。
技術的な工夫は、WAV音源を使用し、制御をXMLで定義していることである。講演者の主張では、XMLならばOS非依存(platform agnostic)であり、様々な制御の定義が可能であることを利点として挙げていた。読み込みに若干の遅延は発生するが、その遅延は制御の工夫により担保できるようだ。ただし、XML連携はそれほど簡単ではないという問題もある。Pulsar Arenaでは、UnityでXMLファイルを読み込むことで、パーティクル、アニメーション、イベントの定義などを付けている。
【4】Bringing Blueprints and Music together
最後は、Unreal Engineを使って製作したミュージックビデオ「NUREN」を紹介していた。紹介ムービーは17分40秒から開始しているので参照いただきたい。
NURENは、360度視聴が可能なVR向けのミュージックビデオであり、VRでの体験が前提となっている。Unreal Engineで開発されているが、ブループリントをどのように使ったのかは言及してなかった。
なお、NURENは2015年3月にKickStarterで出資を受け付けている。7万ドルの目標額に対して、7万6949ドルの出資を集めることに成功したとのこと。
最後は、本講演で紹介したゲーム、開発方法のサンプルを公開するというアナウンスの後、講演が終了した。
注:2016年1月時点ではスライドに表記されているURLにはアクセスできなかった。調べたところ、同社のこのページからOC2の講演ビデオ視聴、サンプルコードなどがアクセス可能である。
今回の講演はプレイ動画のシーンが多く、音楽を使ったゲームの雰囲気が伝わりやすかった。音の制御を行うUnityのアセット、サンプルコードやサンプル曲データなど、実際に試せる環境の提供もあり、開発者にとってとても有益である。
一方、本講演では「音楽はVRにおいて重要!」という趣旨が冒頭に述べられていたが、どうして重要なのかなど、論理的な説明や実験などがあると、さらに面白い講演になったと思う。
(文/Takayuki Fujiwara)
●関連記事
・Making Great VR:「I Expect You To Die」制作から学んだこと【OC2講演解説】
・VR映像をストリーミングする新しいテクニックについて【OC2講演解説】
●関連リンク
・Hearing with your eyes Interactive Music for VR
・Oculus Connect 2