VTuberの間でバイノーラル録音が流行の兆し?
ニコニコ動画やYouTubeの動画・ライブ配信で、バイノーラルの音声を聞いたことがある人も多いのでは? 環境音の臨場感だけでなく、話者がいる場合はその本人から直接語りかけられているような感覚があり、特に耳元でささやかれたボイスに思わず身もだえすることもある。
いまバーチャルYouTuber界隈で、そんなバイノーラル録音の動画投稿が増加中。Twitter上では興味を示すツイートも見かけるようになってきた。
バイノーラル録音って何?
「バイノ-ラル録音」とは、人間の頭部の音響効果を再現するダミーヘッドマイクなどを利用することで、「音が人間の鼓膜に届く状況」を再現しつつ音声を収録する方式。通常のマイク収録と比べて、実際にその場で音声を聴いているような臨場感が得られる。
バイノ-ラル録音に使うダミーヘッドマイクの例。写真はノイマンの「KU 100」。
有名なダミーヘッドマイクとしてはノイマンのKU 100があるが、こちらは音響業界向けのハイエンド製品。実売価格は100万円近く、個人で購入するにはハードルが高い。
このように頭部を省略した製品も。こちらは3DioのFree Space。直販価格は6万8000円。
しかし、対応機材が増えてきた今では、もう少し低価格でバイノーラル録音を実現可能だ。
たとえば、バイノーラル録音に対応した製品として、イヤホンタイプのマイクもある。下のローランドCS-10EMは、実売価格で9000円前後。より臨場感を持たせながら自分の声を録音したいならこれを、マイクスタンド役となる協力者に装着してもらって録音するという方法が手っ取り早い。
Rolandの「CS-10EM」。
協力者が居ない場合は、固定するだけなら1000円前後で購入できるマネキンヘッドでもいい。ただ、上で紹介したFree Spaceを見ると分かるように、耳の形がリアルな音を録音するうえでは重要。低価格で実現する場合、こだわりだすと「耳の入手」がやっかいだ。高いなら自分で作れば良いの精神で、安いマネキンヘッドの耳を自分で加工するか、補聴器販売店やスタムイヤホンを販売している店舗で耳の型を取ってもらい、そこからシリコンの耳を自分で作るといった何かしらの工夫が必要になる。
また、ソフトウェア処理で擬似的にバイノーラル風に加工する方法もある。ちなみに、バイノーラル録音は耳で実際に聞いているような音を再現するものなので、ヘッドホンやイヤホンで聴くのがベストだ。
VR業界では没入感を高めるバイノーラル対応が進行中
音の臨場感を高めるということは、VRでは没入感を高めることに直結する。そのため、VRコンテンツ制作の現場ではバイノーラル録音を取り入れるところも多い。去年のニコニコ超会議2017で、民進党が展示したまさかのコンテンツとして話題になった「VR蓮舫」も、バイノーラル録音が行われている(関連記事)。
声優さん達に耳元でささやいてもらっているような感覚が得られるとあって、女性向けのVRコンテンツにも導入されている(関連記事)。
やみつきになる!? VTuberのバイノーラル動画
そんなバイノーラル録音は、数年前からニコニコ動画やYouTubeにも多数投稿されており、ライブ配信を行っている人もいる。その流れがバーチャルYouTuberにも到来しており、キズナアイやYUAもバイノーラル録音した動画を公開中だ。
ちなみにバイノーラル録音動画のタイトルやタグに良くつけられている「ASMR」とは、Autonomous Sensory Meridian Responseのこと。この言葉に対応する日本語が無いので何とも説明しにくいが、直訳すると自立的な感覚の絶頂反応。平たく言えば「聴覚や嗅覚刺激で、頭がぞわぞわして気持ちよくなっちゃう感覚」という意味だ。
もうすぐフォロワー様が2000人ですが、ゴリラのフォロワーが3000人になったらバイノーラル録音でおやすみボイスを録ります(公約)のでみなさん是非フォローと拡散よろしくお願い致します。
— Virtual_Gorilla(バーチャルゴリラ) (@Gorilla_Virtual) February 2, 2018
バーチャルYouTuberとして活動するバーチャルゴリラは、2月2日にフォロワー数が2000人間近となった折、「フォロワーが3000人になったらバイノーラル録音でおやすみボイスを録ります(公約)」とツイート。2月7日現在、フォロワー数が3000人を突破したため、実際に収録を行う運びとなった。
現在のライブ配信環境は、投げ銭などの支援システムも充実し始めた。この支援のおかげで、活動資金を得て、より素敵な体験をファンに届けるべく機材やモデル改良を進めるというのもバーチャルYouTuberの一つの流れになっている部分もある。そのユーザー体験向上の取り組みとして、バイノーラル対応はひとつの選択肢になるかもしれない。
(執筆:高橋佑司/編集:花茂未来)