VRが実現する「エモい」接客のECサイト──リアルとバーチャルが融合する店舗「JAM HOME MADE」の試み

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VRといえば、2016年の「元年」以来、建築や医療など多くの分野でビジネス活用が進んでいる技術だ。ファッションもそのひとつで、3月10日にはユニセックスジュエリー・アクセサリーを手がける「JAM HOME MADE」(ジャムホームメイド)が、リアルとバーチャルが融合した実店舗を東京・千駄ヶ谷にオープンする。どんな仕掛けで、どんな想いが込められているのか、現地を訪れて取材した。

 
 

オンラインショップのお客がアバターで来店

JAM HOME MADEでは、東京と大阪の実店舗のほか、オンラインストアを用意している。この東京店をブランド設立20周年というタイミングで移転し、同社のブライダルリング「名もなき指輪」シリーズが24時間購入できるという自販機を用意するほか、オンラインストアに来たお客さんをプロジェクターを使って店舗の壁に映すという試みを始めた。

 

 
システムとしては、プレイドが企画し、カヤックが制作して昨年11月末に発表したウェブ接客プラットフォーム「K∀RT3 GARDEN」(カルテガーデン)を利用している(過去のニュース)。店舗設計はSMALLCLONEが手がけた。

 

通常のアパレルショップとは異なり、ショーケースのないがらんとした店内の壁に厳選されたアイテムが置かれ、その上からプロジェクターでオンラインストアの様子が投影されている。

 

オンラインストアにユーザーがアクセスすると、リアルタイムで店舗奥からアバターが入ってくる。実店舗の入り口とは真逆に位置しており……。

 

店内でバーチャルとリアルのお客が混ざる形だ。

 

ユーザーのランクは全部で6段階あって、例えば会員登録していないビジターは白、ゴールドは緑といったように、オンラインショップのユーザー属性が直感的にわかる。

 

商品ページを開くと、そのアイテムを手に取るというアクションも。

 

 
お客が動いてるところがわかる動画。

 

オンラインストアから退出すると、アバターもバーチャル側の出口から帰っていく。

 

会場では、今回の内覧会のために特別にVRゴーグル(HTC VIVE)を用意し、バーチャル店舗の中を見られた。

 

お客さんに目線を合わせてコントローラーのトリガーを引くと、端末や滞在時間、過去の訪問や購入金額などがわかる。

 
 

お客の気持ちをわかって個別に対応するのが「接客」

取材して気になったのは、なぜこうしたソリューションを開発しようと思ったのかという点だが、K∀RT3 GARDENを企画したプレイドの秋山氏に話を聞くと、オンラインショップでは抜け落ちてしまいがちな「接客」というキーワードが浮かび上がって来た。

ECサイトやオンラインマーケティングに関わったことがある人なら、「Google Analytics」などのツールを使って、日常的にサイトに来ている顧客のデータを分析しているはず。しかし秋山氏は、その現状に対して数字だけを追い過ぎていないかと問題提起する。

「人が何かを買うのは、ウェブでも実店舗でも本質的には同じはずなんです。でも今のウェブマーケティングではユーザーを数字で管理していて、1人のお客さんを『1』という数字でしか捉えていないし、費用対効果を考え過ぎて、人と人というエモーショナルな部分が欠落している。そこをお客さんをVR内のアバターとして表現することで、数字の1ではなく、1人の人間として見られるようになる」(秋山氏)

 
そうした思想のもとに作られたK∀RT3を昨年11月末に発表したところ、JAM HOME MEDEが共感してコンタクトを取ってきて、新店舗で使いたいとの申し出があったそうだ。

「実店舗とウェブのマーケターは、同じ商品を売っているスタッフなのに、必要な情報やスキルセットが全然別物だし、両者の意思疎通もあまり図れていない。実店舗で働いている人に『CPA』(Cost Per Acquisition、1件あたりのアクションにかかった広告費)や『CVR』(Conversion Rate、購入などの最終アクションに至った割合)の話をしてもピンとこない。

VRのアバターを見て、どういう行動をしていて、どういう購入傾向があるのかというユーザーの詳細がわかれば、人としての存在がより感じられて、接客の仕方も変えられます。例えば、『今見ているアクセサリーは以前買われたものと一緒につけてもお似合いになると思いますよー』とか、お得意さんがカートに何か入れているなら、『こっそり10%オフにしますよ』とか」(秋山氏)

 
オンラインショップは、結局、価格や在庫の有無、配送の速さなどで勝敗が決まりがちだが、実店舗ではただ物を売るだけでなく、店員とお客でエモーショナルなやりとりがあったはず。

「『誰から買ってもいい』じゃなくて、『あの店員さんから買いたい』という人もいます。僕はどちらかといえば店員さんに声をかけて欲しくないタイプなんですが、自分が聞きたいことがあるときだけそばにいてほしい。そうしたお客の気持ちをわかって、個別に最適化していくのが本当の接客なのに、オンラインショップでは全部同じものを見せている。

人間の感覚は本来もっと暖かくて、接客時にひらめきが出てくるはずなんですが、二次元の画面で見てしまうと気づけなくなってしまう。データや数字ではなく、VRで立体化されたアバターを見て人感や雰囲気を感じると、『何かしてあげて、満足して帰ってほしい』という想像力が働くようになる」(秋山氏)

 
JAM HOME MADE側で本企画を担当した、古屋氏も同じ思いだったという。

「以前よりオンラインショップを担当していましたが、実店舗に立っているときの感覚とのズレをすごく感じていました。数字やパーセンテージに変わってしまうお客さんを、どうやったらリアルに感じられるのか。そうした想いが昨年に知ったK∀RT3 GARDENとリンクして、すぐにコンタクトをとりました」(古屋氏)

 
実際に店舗に導入して、プロジェクターでアバターが投影された際には鳥肌が立ったという。

「『これこれ!』という感覚です。アバターが動いて商品を選んでいるところを見て、オンラインショップでもやっぱり1人のお客さんなんだよなって。ウェブは『これぐらい広告費をかければお客さんが多く来て、何%ぐらい買ってくれるだろう』という考え方だったのが、この今来た人をどうやって大事にしていこうかというパーソナルな方向に切り替えられる。これは僕ら働く側にすごくいい効果があるんじゃないか」(古屋氏)

 
 
現時点では、ボイスチャットでオンラインショップの話しかけるなどの機能は備えておらず、コンセプトを打ち出したという段階だが、それでも今後の発展が気になるソリューションだ。そう遠くない未来には実現しそうな「バーチャルショップで接客」の前に、データの見える化でVRを活用していく余地も多い。ファッション業会に限らず、実店舗/ECサイトをもつ小売店はぜひJAM HOME MADE 東京店をチェックしてみよう。

 
 
(TEXT by Minoru Hirota

 
●JAM HOME MADE 東京店
所在地:東京都渋谷区千駄ヶ谷2-38-2
電話番号:03-3478-7113
営業時間:12時~19時30分
定休日:不定休

 
 
●関連リンク
プレスリリース
JAM HOME MADE
プレイド
カヤック

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