360度写真の布教は買ってもらうための布石——SCE吉田修平氏が語るPlayStation VR【GDC2016】
第1回、第2回に続き、PlayStation VR(PS VR)について、ソニー・コンピュータエンタテインメント ワールドワイドスタジオ(SCE WWS)のプレジデント、吉田修平氏にインタビューした内容をお届けしよう。
——シネマティックモードを標準機能として盛り込んできたのは、かなり一般向けを意識したつくりだなと率直に感じました。
吉田 ええ、今までそれは言いたくてしょうがなかったんですけど、言えなかったんですよね(笑)。発売までのPRのロードマップにおいて、まずはPS4を持っている人に「すごいゲームができるんだ」「新しいゲームができるんだ」と理解してもらうところから始めて、価格を発表するときに「実はゲーム以外にもいろいろなことができるんだ」という見え方にしたかった。
——といわれると?
吉田 「いろいろなことができる」というのは、買う段階で非常に大事なんです。つまり、ゲーム好きな人なら、VRのゲームが遊べるだけでほしいと思ってくれますが、いざ買うときになったら家族から「なぜそんなものにお金出すの」となりがちじゃないですか。
スポーツが観戦できたり、音楽のコンサートが見られたり、360度写真を再生できたり、普通の映画も大画面で楽しめたり。最後にお財布の紐を握っている方に「いんじゃない」といってもらうためには、ゲーマーじゃないご家族の方達も使える機器だというのをわかっていただくのが大事です。だから、価格を発表するタイミングで全部見せようという計画をしていました。
——「大蔵省」の説得は大事ですね(笑)
吉田 発表会では、メディアプレイヤーのVRモードもデモしていました。USBメモリーやHDDに保存した写真、動画をテレビで再生して楽しむPS4の標準機能ですが、それを拡張しました。今回のデモでは、私が小島監督(ゲームデザイナーの小島秀夫氏)と一緒に撮った360度写真も提供しています。プロが撮ったものだけじゃなくて、誰でも撮って楽しめるということがわかるサンプルがほしいといわれたので、自分のデータを提供したんです。
A lunch 😀 pic.twitter.com/F6g0daa53p
— Shuhei Yoshida (@yosp) 2016年1月7日
吉田氏がTwitterで投稿した小島監督との360度写真。
——家族の記念日や友人との旅行を360度で撮影して、ソーシャルスクリーンつきでPS VRで再度体験できるというのは、かなり魅力的だと思います。
吉田 それをぜひみなさんにやっていただきたくて、私もカメラを持ち歩いて、Twitterして広めていたりします(笑)。撮影しだすと、見る機器もほしくなるので、将来的に「PS VRを買わなきゃ」となってもらうためにやっています。
——そういえば、360度写真を見ましたが、PS VRはパネルの解像度が1920×1080ドットにもかかわらず、かなりシャープな印象を受けました。
吉田 うちのパネルは、解像度だけでいうと1920×1080ドットですが、サブピクセル(1ドットを構成する単色の要素)でRGB全部を用意しています。これは有機ELでは非常に特殊で、サブピクセルの画素数でいえば1920×1080×3で約622万になります。
ほかの有機ELパネルが2160×1200ドットでも、ドット内にレッドとグリーン、ブルーとグリーンという2つのサブピクセルしか含まない場合(ペンタイル配列)は、2160×1200×2で約518万と、サブピクセル数では実はPS VRのほうが多いんです。
色についても、PS VRはPS4がレンダリングした1920×1080ドットの映像を、各ドットにあるRGBで表示しているので、落ち着いた色になります。PS4のパワーもあって、われわれはOSからなにから自社でつくっていますから、チューニングすることで1920×1080ドットのパネルでも意外にきれいな映像が出せるんです。
——意外にというか、Blu-rayでの映像も精細さを実感できるほど非常にきれいでした。
吉田 実はまだお見せしていない部分もあるんです。世の中にいろいろな360度配信サービスがあって、面白いコンテンツがアプリとして配られていますよね。私はビデオ系のコンテンツが好きで、Gear VRでもよく見て楽しんでいます。
お金をかけてクオリティーの高い360度動画を制作しているサービスもありますよね。普段会えない人が目の前にいて、有名なバンドがが演奏していたり、シリアの難民キャンプに入れたりとか、そういうのもVRのよさだと思うんです。だから「PS VRでも出してほしいと」いろいろな企業と話をして、開発キットを提供していたりします。準備ができた段階で、360度のコンテンツも楽しめますよと、別途お伝えしようと思っています。
——海外では映画制作会社が本格的にVRに取り組んでいますが、やっぱり作品を配信する場所はほしいですよね。
吉田 ええ。いろいろなコンテンツが作られるので、それを発表するとほぼ同時にPS VRにも持ってきて楽しんでほしいです。PS4にもIGNやYouTube、Twitchなどがあってよく使われています。ゲームを目的にPS4を買われる方でも、実際にはYouTubeやNetflixも長く見ている場合が多いんです。やっぱり世の中でいろいろなコンテンツが作られていく中で、それを楽しめないといけないよね、というのがわれわれの考えです。ぜひ発売を期待していてください。
(TEXT by Minoru Hirota)
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