気付いたらあちらの世界に没入していた——アニメ監督・神山健治氏が語るOculus体験
3月5日、PANORAではトークイベント「お父さんのための最新VR講座」を開催しました。PANORA代表の広田が初心者向けのVR情報をまとめたり、Drone Gamesの黒田潤一氏がドローンを実際に飛ばしたりと、刺激的な2時間でした。
60名ほどの来場者で熱気にあふれていた現地。
スマートフォンでドローン(写真右)を操縦する黒田氏。
イベントの目玉は、アニメーション監督・神山健治氏と、デジタルハリウッド大学教授の福岡俊弘氏によるトークセッションでした。神山監督といえば、「攻殻機動隊 S.A.C.」や「東のエデン」、「009 RE:CYBORG」などを手がけてきた人物。テクノロジーをからめて、もしかしたらあり得る世界を描いてきた監督が、ハンドコントローラー「Oculus Touch」を使った「Oculus Rift」のコンテンツを体験したことで何を感じ取ったのか。
例えば、バーチャル空間に2人で入って、コミュニケーションしながらおもちゃで遊べる「Toybox」では、あちらの世界に入り込んでしまう「実在感」の高さについて語られていました。
今回、初めてOculus Rift+Touchを体験した神山監督は、「最初は自分だけ目隠しされて、みんなに見られている感覚があるんだけど、だんだん他の人の声が聞こえなくなって、気付いたらものすごく没入していた」とコメント。
その後、福岡教授が「最初はみんないろいろしゃべってるんですが、1分ぐらい経つとだまってしまう。その静寂が一瞬あって、なんとも言えない独り言を言いだすんですよね。この瞬間があちら側にいった瞬間」と補足すると、神山監督も「最初は照れ隠しな言い訳を口にしている。でもだんだんと無言になって、独り言に変わっていく。みなさんほぼそんな感じでした」と賛同していました。
さらに物理フィードバックについても言及していました。VRでは、「あちらの世界」を本当と感じるために触覚の有無も重要な要素になってきます。神山監督は以前、ある研究所を訪れた際、国宝の3D映像に手を添えるとその触感が再現されるというシステムを体験したことがあったそうです。
「銅鏡がどんな質感でどれくらいデコボコしているのか。叩いたらどんな音がするのか。3Dの映像を触ると硬さや重さがわかるんです。おそらくOculus Touchのようなコントローラーも、『今回は重さもわかります』『反発もシミュレートできます』という感じで、どんどん進化していくんじゃないかな」(神山監督)
一方で、現実を完全に再現しないという選択肢もありなのでは、という鋭い指摘も飛び出します。
先ほどの話に続けて、「最初は重さを感じないのが違和感だったのですが、もしかしたらそれがいいのかもしれません。『バーチャファイター』でポリゴン数が上がったらある意味、違和感が出てきてしまったように、なんでも全部再現できればいいわけじゃない。もしかして、物体に重力がない世界をずっと維持したほうがいいのかもしれない」とコメント。
「何かすごくストレスフルな予感がしたんだよね。『Medium』(Oculus Touchを使う彫刻アプリ)で3Dモデルを作っていたときも、重さゼロのものを手にしてましたが、あれに重さがあったらすぐに飽きてしまうはず。技術が進化することで、もしかしたら創世記にあったよさが消えていってしまうかもしれない」と、未来を予見していました。
「VRは3D映画よりも可能性を感じた」と神山監督。
PANORAでは、今後もVR業界を刺激するトークイベントを開催していきますので、ぜひご参加下さい。
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