iPhone/iPad・ARKitが広げるアート鑑賞の可能性 壁に絵画を飾れる「Boulevard AR」に注目
Oculusの「Go」やLenovoの「Mirage Solo」など、一体型VRゴーグルの発売がスタートして、にわかに盛り上がっているVR業界。
一方でARの進化も勢いづいていて、今年1月から開発者向けβ版、3月末から正式版の配布が始まったアップルのARプラットフォーム「ARKit 1.5」を活用したアプリも出始めている。いくつか体験した中から印象的だった、絵画を鑑賞できる「Boulevard AR」(App Storeで見る)を紹介しよう。
これは新時代の「元素図鑑」だ!
現実にCGを足して拡張するARにしろ、完全にバーチャル世界に入るVRにしろ、便利なのがほぼ現実に近い体験を提供してくれることだ。
例えば、ソーシャルVRの「VRChat」では、実際に人がいないにも関わらず、目の前のアバターを人と捉えて、会って話すように親密な気分でコミュニケーションできるのが新しい。PANORAでも紹介したHoloLensの「MRミュージアム in 京都」も、空間に動画で3Dスキャンした僧侶が登場し、「風神雷神図屏風」を解説してくれるという体験だった。
そうした「ほぼ現実に近い体験」を、アートのジャンルにおいてiPhone/iPad向けに提供してくれるのがBoulevard ARだ。アプリを起動し、現実空間の壁面を認識させると……。
そこに16世紀のイギリスの外交官であったヘンリー・アントン卿の自画像が出現して鑑賞できるという代物になる(実物はこちらの絵)。絵画は8Kの解像度なので、iPhone/iPadを前に動かせば、現実の絵画に近づいて見るように細部のタッチを確認できる。なんなら美術館や作品によっては、保護のために近くによれないように囲みをつけているところもあるわけで、アプリならリアル以上に心置きなく楽しめるわけだ。
さらに絵の裏側に回り込んで、そこに書かれたサインや取引履歴などを見られたり、絵の一部を拡大して音声ガイドを聞けたするのも現実以上の体験だろう。写真では分かりにくいが、左側が実際の壁面、右側が先ほどの絵画の裏側になる。
技術面でいえば、iPhone/iPadだけですぐに観賞できる点でとてもハードルが低い。QRコードのようなマーカーなどを事前に何も用意せずに、端末だけですぐに始められるのだ。それを実現しているのがARKitで、当初、床や机などの水平面を認識してCGを出現させていたが、1.5で壁面も対象になったのでBoulevard ARのようなアプリが出てきたわけだ。
そしてiOSという普及したプラットフォームで、この新しい観賞方法が手軽に実現できるようになったことが非常に大きい。
例えば、劣化を防ぐために表に出していない作品も、自宅で現実のように目の前にして体験できるわけだ。もちろん絵画だけでなく、彫刻、工芸品、書画、建築などのジャンルにも広げられるだろう。美術展に遊びに行き、その帰りにパンフレットがわりに展示品がまとまったアプリを買って、自宅でさらに気になったところをチェックするという未来もありそうだ。
元がデジタルで描かれたイラストであっても、リアル側に持ってきて眺められるメリットもあるだろう。大金を投じて入手したソーシャルゲームのレアカードを壁に飾って……ということもできるようになるかもしれない。
VRゴーグルとは異なり、14歳以上のような年齢制限がないので、子供でも楽しめる点も見逃せない。かつてiPadの出始めの頃に「元素図鑑」(App Storeで見る)が元素や周期表を楽しく学べると評判になったように、単純に教科書の写真で眺めるよりも、ARで世界中にある美術品の「ほぼ本物」に触れられる方がインスピレーションが得られるはずだ。
子供といえば、幼稚園・保育園などで子供がつくって捨てるに捨てられない作品が押し入れに残っているというご家庭も多いはず。この流れで、正面と背面を撮影し、1枚の絵にして、いつでも壁に飾れるパーソナルなデジタル保存&鑑賞を実現してくれるアプリも出てきそうだ(もうあったらゴメンナサイ)。
ほかにも例えば、最近では以下のようなiPhone/iPadのARアプリが印象的だ。
●Yahoo! Map(App Storeで見る)
定番のマップアプリがアップデートして……。
目的地までのナビの際、現実世界にルートを重ねて表示してくれるようになった。地図を読めない人が活用するのに超便利。
●QHOME(App Storeで見る)
COLLADA形式の3Dモデルを取り込んで、建築前に実寸大のCGでつくられた住宅の中をARで歩き回れるという無料アプリ。
ARなので、現実空間と重ねて窓の外の見え方もチェック可能。例えば工務店の肩が、自分の顧客に図面で説明して分かりにくいのでiPadを持ってもらって実際に歩いてもらう……といった使い方が可能だ。
●Graffity(App Storeで見る)
端末のカメラで目の前の光景を撮影し、落書きをしながらコミュニケーションできるというソーシャルアプリ。落書きした様子はInstagramやTwitterなどにシェア可能。
●ARrrrrgh(App Storeで見る)
宝物を部屋の床に隠して、それを見つけてもらう宝探しARアプリ。実際の床にシャベルが差し込まれて掘り起こされていく様子をARで表現してくれるのが芸が細かい。
この先に控えているのが、アップルが2020年にリリースするとうわさされているARグラスだろう。VRゴーグルもよく「メガネぐらいになったら手軽でいいよね」と言われるが、今手元の端末でやっている絵の鑑賞や道案内、建築データのチェックが、数年後には目元の端末でできるようになっているかもしれない。
部屋の壁にテレビとしてYouTubeの動画ウィンドウを置いたり、Google カレンダーをカレンダーとして表示したり、バーチャル書棚から電子書籍を取り出して読んだり、デジタルペットやバーチャルキャラと日常的に戯れたり──。そうした少し前ならSFの世界のものだった体験が、今でもHoloLensで実現きるようにどんどん身近になってきている。
そこへの布石として、着々と開発プラットフォームやアプリの土台固めをしているのがアップルの現在なのだろう。直近では、米国時間の6月4〜8日に開催するアップルの年次開発者イベント「WWDC18」にて大きな動きがありそうなので、ぜひチェックしておこう。
(TEXT by Minoru Hirota)
●関連リンク
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