【連載】神足裕司 車椅子からのVRコラム 国際福祉機器展アゲイン! 編
今年も国際福祉機器展に行ってきた。東京ビッグサイトの東展示場を埋め尽くす巨大な展示会だ。毎年、福祉機器に関係するメーカーはこの展示会をめがけて新商品を開発しているといっても過言ではない。
ここ数年は、介護ロボットやAI関係の展示が盛んであった。もちろん施設従事者や医療の現場ではボクたちもお世話になるのだけれど、「自宅で気軽に」とまでは技術も価格もまだ先のはなしのような状態だった。
VRも一昨年の福祉用具機器展で初めて遭遇したが、まだまだ実用する感じではなかった。昨年は、VRカメラで撮影した映像を見ながら目的の場所まで足漕ぎの車椅子(固定されているルームバイクのような)で行くリハビリを体験した。今おもえばこれはアナログ的なものとVRをうまくミックスさせていて、高齢者には受け入れやすいキットだと思う。今年は出ていなかったようだけど、あれのバージョンアップはぜひ見てみたい。
今年、VRものは3つあった。3ブースもあるのは、ほんの少しずつだけどVRも一般に浸透してきているんだと感じた。
一つめは、浴槽メーカーがその使い方を介護従事者に教えるためにゴーグルをつけるとその浴槽を使って介護者(マネキン)風呂に入れている映像が流れる。日焼けサロンのようなベッドに寝かせカプセルの上の部分から前身にシャワーがでてくる。隣にいるVRのなかの職員さんが「ここのボタンをおすのよ」みたいな感じでそつなく肯定を進めていく。隣に立っている介護職員のアシスタント設定のボクは、その一部始終を見学しているという感じ。介護従事者の目線でその機器の使い方の説明を体験する。VRとしてはなんてことない映像ではあったが、この原稿を書いていて思ったのは、VRの使い方として「取り扱い説明書」という新しい分野が生まれるかも知れないなあとおもった。そんなに高性能なVRでなくても「VR取扱説明書」っていうのはけっこういける。そう思った。ハコスコなどの安価なHMDを添付してQRコードをつければ360度映像の取扱説明書がみれる。これはけっこういけるんじゃないか? そう発見できたブースであった。
二つめは、VR(HTC VIVE)を用いたニューロリハビリテーション。国立情報研究所 稲邑研究室のクラウド型を用いた「ニューロリハビリテーションプラットフォーム」。片腕をなくした幻肢痛があるような患者さんのために開発されたときいた。症状にあわせて患者さん固有の脳内身体像をVRで提示して自分が見ている情報と脳内の身体表現の差を低減させる。すると痛みも軽減する仕組みだと聞いた。ゲームのコントローラーのようなものを両手に持ってVRのなかのキューブなどをつまむリハビリをする。ボクは左が麻痺しているのでミラーリング効果でこのシステムでリハビリも可能だろう、と思った。このシステムはきっと自宅のパソコンでイヤフォンなどをつけて遠隔で同じ画像を見てリハビリもできるはず。それはきっとすぐそこだ。
最後は、「シンクロアスリート」。スポーツ選手になったような体験ができる体感型スポーツ観戦システム。卵型の稼動式の身体をつつみこむような椅子に座って観戦する。360度カメラを選手に装着して撮影。HMDで視聴することによって自分が選手になったような体験ができるもの。映像、音声、椅子の振動や動きで臨場感ある観戦ができる宵う物。オリンピックの競技をこれでみれたら? 一流の選手に装着したカメラから見える視線は? リハビリ同様一流選手の動きをVRで体験できるシュミレーションレッスンにいいかもしれない。
ちょっと一般の生活でのVRの未来のヒントが見える福祉用具機器展であった。
●著者紹介
撮影:石川正勝
神足裕司(こうたりゆうじ)
1957年、広島県出身。黒縁メガネ・蝶ネクタイがトレードマークのコラムニスト。「金魂巻(キンコンカン)」をはじめ、西原理恵子との共著「恨ミシュラン」などベストセラー多数。2011年にクモ膜下出血発症。1年の入院生活を送る。半身マヒと高次脳機能障害が残り、要介護5となったが退院後、執筆活動を再開。朝日新聞をはじめ連載も多数。最新刊は「一度、死んでみましたが」「父と息子の大闘病記」などがある。
●関連リンク
・国際福祉機器展
・朝日新聞デジタル 連載 コータリンは要介護5
・神足裕司Twitter