キズナアイ「Hello、World」と、平成最後の歌姫と

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「普通に楽しかったね」--ライブが終わったあと、一緒に観ていた知り合いは誰もがそう口にした。確かに、本当に何の前置きもなく、ただただ楽しかった。ザッツオール。じゃあ、そういうことで……というわけにもいかないので、少しだけ思うところを書こうと思う。

昨年の暮れ、Zeppダイバーシティで見たキズナアイとあの2時間のことを。それは、「普通に楽しかった」と言ったときの「普通の」の部分に関わることであり、物語の有り様についてだ。

 

 

平成のラスト10年間で変わった“存在と非存在”の意識

 
そのスジの界隈には東京ビッグサイトで行なわれるアレの初日であり、世間的には平成最後の年末が押し迫った12月29日、お台場のZeppダイバーシティに足を運んだ。

VTuber、キズナアイの初の単独ライブを観るためだが、あっさりと日が沈んだあとの夜の闇に高さ19.7メートルのユニコーンガンダムが浮かび上がるこの場所は(ついでにそこでは外国語しか聞こえてこない)、何かに強迫されたかのように近未来へひた走る東京と、2018年に急速にブレイクしたVTuberをつなぐ世界線としては、これ以上相応しい場所はないように思えた。

ところでどうでもいいけど、あのガンダム像の説明に「実物大」って書いてあったのだけど、その表記って凄くない? 「設定上の大きさ」じゃなくて「実物大」。“虚実皮膜”都市なんだよ、ここは。

ライブは15分遅れで始まった。一曲目、“Hello. Morning”。オールスタンディング、約2400人収容の会場は隙間なく埋まっていた(2階は椅子席だけどね)。ピンク色のキンブレの海が揺れる。この光景は否応なしに9年前の春のナニを思い出させる。会場の名前が少し違うのと、キンブレ(当時はサイリウムだったかな)の色が別のやつだったけど。

 

▲キズナアイのカラーであるピンクで染まる会場

登場したキズナアイはくっきりと明るく、その存在感は際立っていた。これも、儚いほどの淡さで舞台にせり上がってきた(ように見えた)9年前のソレとは対象的だった。

そこに「存在」しないが故に「存在」を極限まで追い込んだ初音ミク(あ、言っちゃった)に対して、もはや「存在」しようがしまいがそんなことはどうでもいいというか、そんなことを尋ねる意味もなくなった現在、という構図が見て取れる。平成のラスト10年間で“存在と非存在”をめぐる僕たちの意識は、きっとそんなふうに変わったのだと思う。

 

▲ステージに立つキズナアイ。この日、zepp単独2Daysライブのキービジュアルで着ていたものを含め、2種のライブ衣装を披露。曲に応じて髪の毛の色なども変わった。

 

奇跡ではなく、未来の必然。それが「普通に」の正体

話を元に戻そう。最初、想像していた以上にアイドルっぽいステージの入り方に少し戸惑った。が、それも最初の3曲が終わったあと、DJパートとしてsasakure. UKが登場するまでだった。

いま流れているのは収録された声なのか、リアルタイムの声なのか、サンプリングした声なのか、虚実が渾然一体となって進むステージに軽く目眩を覚えながらも、時間とともに身体が勝手に動き出す。おいおい、本気でEDMじゃん。いよいよ小難しい記事を書くのが野暮になってきたよ。

 

▲ステージに登場したsasakure. UK。DJパートに続き、自作曲「Kizuna AI to AI」をなんとリアルタイムでDJプレイ。以降各DJ陣が、DJパートから自作曲をリアルタイムでプレイするという贅沢なステージが繰り広げられた。

 

▲「Kizuna AI to AI」。本楽曲は動画タイトルのとおりキズナアイの声をサンプリングして作られているが、実際のライブステージで生DJプレイと併せて聞くと……。
 

sasakure. UKに続いて登場したプロデューサーのひとり、Norは、DJとして「星間飛行」と「Tell Your World」を2曲続けてのRemixで会場を盛り上げた。

テルユアのときはキンブレの色がなんと緑一色に! それにしてもこの流れには参った。超時空シンデレラにあなたの歌姫。そこからキズナアイへと続けていく。平成に生まれた2人の仮想の歌姫。そして平成最後の歌姫。3大歌姫をつなげて見せた・・・いや、さすがにこれは深読みしすぎなのかも。

※(編注:最初期からの人気楽曲だが、ここでは初音ミクの意)

 

▲DJ Nor。テルユアが流れると会場は緑色に染まった。

 

▲「Tell Your World」
 

2010年、Zepp東京で初音ミクのステージを観たあと、自分の雑誌だったかブログだったかに「奇跡の瞬間を見た」と書いた覚えがある。存在しない歌い手が存在するとされる場所に向かって実在する者たちがサイリウムを振る。それは「奇跡」と呼ぶしかないだろう、と。が、キズナアイのステージは奇跡ではなく、必然であると感じた。2019年、2020年へと続く、その先の必然を見せてくれたように思う。きっとそれが「普通に」の正体だ。

初音ミクは、物語の語り手として最高の「存在」だと今も思っている。初音ミクが語る物語は自身の物語ではなく、楽曲の作り手であったり、そこに自身を重ねるリスナーの物語だからだ。言ってみれば、初音ミクにはパーソナルな物語の集合がひしめき合っている。一方、キズナアイのステージで感じたのは、レイヤーの異なる物語、それは陳腐な言い方になってしまうけど、未来を待ち続ける人々のぼんやりとした希望と絶望の物語のように思える。

「シンギュラリティ」と「シンクロニシティ」。この先の時代に、未来を象徴するキーワードとなるであろうこの2つの言葉が歌詞に登場する「future base」を、アンコール前のラスト曲に配置したのは、まさに必然だったのではないか。

それも含めてキズナアイのライブは、楽しかった~。現場からは以上です。

 

▲「future base」

 
(文 F岡/編集 花茂未来
 
●関連リンク
キズナアイ 公式HP
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キズナアイ Twitter

(c)Kizuna AI

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