今がVRビジネスの始めどき──「VRビジネスの衝撃」著者・新清士氏と語る、業界の今とこれから

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VRビジネスの衝撃
5月10日にNHK出版より発売された新書「VRビジネスの衝撃」。VR業界でも、今までの経緯がまとまっていて非常にわかりやすいと話題だが、著者である新清士氏(写真右)はどんな経緯でVRに出会い、この本を執筆したのか。ご本人をお迎えして、本サイト編集長・広田(左)と対談し、VR業界の今とこれからをざっくばらんに語った。

 
新清士(しん・きよし)
1970年生まれ。ジャーナリスト。Tokyo VR Startups取締役。よむネコ代表。デジタルハリウッド大学大学院准教授、立命館大学映像学部非常勤講師を務める。慶應義塾大学卒業後、ゲーム会社を経てジャーナリストに転身。現在はVRを中心に取材活動を続けている。

 

 

2016年、急速に盛り上がるVR・ARビジネス

 
「VRビジネスの衝撃」は読んでいただけましたか?

 
広田 面白く読ませていただきました。今このタイミングだからこそ、読んでおいたほうがいい本ですね。現時点でのVRビジネスを取り巻く状況がすべて入っている本だと思います。とはいえ、半年後にはどうなっているか、まったく予想できないのが今の業界ですが。

 
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 グーグルのVRプラットフォーム「Daydream」(デイドリーム)が発表されたのも本の発売直後ですし、つい先日もマイクロソフトがAR端末「HoloLens」(ホロレンズ)について半導体大手やパソコン大手など10社以上と提携するというニュースが出ましたね。

 
広田 そうですね。最近になり、VRビジネスの盛り上がりを肌で実感するようになってきました。PANORAでも、昨年は一週間にニュースが一本しかないという時期もありましたが、徐々に何らかのVR・ARに関するニュース記事が毎日出せるようになり、その勢いはここ数ヵ月で加速しています。私が事業展開している360度撮影の問い合わせも増えてきていて、2016年に入りってVR・ARは流行の段階に入ったと実感しております。

 
 私も同じ感じを持っています。そうしたVR・ARに関するニュース記事がなぜ増えているのか、なぜグローバルIT企業がVR・ARに巨額投資をするのかを明らかにしたのが「VRビジネスの衝撃」という本です。今VR・ARビジネスがなぜ盛り上がるのか、そのコンテクスト(文脈)を理解していると目まぐるしく変わるVR・ARのニュースが理解しやすくなるのではないかと思っています。いきなり宣伝になってしまいましたが(笑)。

 
広田 (笑)。でも、この本を読むと、実際にVRビジネスについてのいろんなインスピレーションが得られると思います。

 
 本の内容で印象に残ったところはありましたか?

 
広田 いちばん好きなのは、第二章のOculus VR(オキュラス)の創業ストーリーですね。これからヘッドマウントディスプレーを使って何かをやろうと思ってVRビジネス業界に入ってきたときに、この章に書いてあるようなOculusのルーツや思想を理解していると役に立つと思います。単にHMDというハードウェアが突然に出てきたのではなくて、創業者のパルマーと伝説のプログラマーであるジョン・カーマックが出会って、才能あるいろいろな人が集まったところでOculusが登場したという背景を知ることは重要だと思います。

 
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パルマー・ラッキー氏

 
 そうやって読んでいただけると、うれしいですね。

 
 

新氏は「反VR派」の人間だった!?

 
広田 本の内容についてではありませんが、いちばん驚いたのは、かつて「反VR」派だったあの新清士さんが、いつの間にか「VRの宣教師」になっていたことですね。私の記憶が間違っていなければ「OculusのDK1(初代試作機)はクソだ」と記事に書いていたし、どちらかと言うと日本のVRビジネス業界にブレーキをかける存在だったはずですよね。

 
DK1
Oculus RiftのDK1。300ドルという低価格で発売され、日本では円高で割安ということもあって、多くの開発者が興味を持って購入した。

 
(爆笑)。

 
広田 まあ、初めて体験されたコンテンツが悪かったせいかもしれませんが。

 
 思い出しました。その記事を書いたのは、3年ほど前にシンガポールで開催された「カジュアル・コネクト・アジア」というイベントを取材で訪れて、初めてOculus RiftのDK1を体験した後のことですね。たしか「メタルギアシリーズ」のように敵を倒していくゲームだったと記憶していますが、むちゃくちゃひどいVR酔いに遭いました。ホテルのロビーのソファーで30分ぐらいぐったりとした記憶があります。そのあと取材しなければならなかったセッションにも出られず、「こんなものが流行るか!」と。

 
広田 でもDK1に初めてVR可能性を感じた人も多かった時期です。あの頃を思い出してみると、草の根で始まったVR作品を持ちよるイベント「OcuFes」(現「Japan VR Fest」)に参加していた人たちの間では、「新さんはアチラ側(反VR)の人間だ」とまことしやかに言われていたり……。

 
 そんなこと言われていたのですか(笑)

 
広田 そんな新さんが、わずか3年後に「VRビジネスの衝撃」なんて本を書くなんて、とても信じられない!

 
 もはや内容と関係ないじゃないですか(爆笑)

 
広田 でも、そんな新さんの来歴がよく出ている本だと思いますよ。第三章で詳しく書いていらっしゃるように、VRクリエイターのGOROmanさんが制作した、触覚を使って初音ミクと握手するコンテンツ「Miku Miku Akushu」でVRのスゴさを体験し、「これからはVRだ!」と180度見方を変えたわけですよね。その過程があったからこそ新さんが「VRは体験しないとわからない」と言うことに説得力があるわけですから。

 

 
 うまくまとめますね(笑)。反対にお聞きしますけど、広田さんがVRにハマるきっかけは何だったのですか?

 
広田 私も実はGOROmanさんなのですよ。当時、ネットで話題なった物事を取材する連載を「週刊アスキー」で担当しておりまして、そのときにGOROmanさんを取材しました。HMDをかぶると初音ミクが目の前にいることを実感できるとniconicoで話題になっていたんですね。当時はまだ「VR」という言葉を使っていなかったぐらいで、同様に衝撃を受けたのがきっかけです。

 

 
 そうでしたか! GOROmanさんの影響は大きいですね。

 
広田 はい。今ではOculusの「中の人」になってしまいましたし。それから2014年のGDCで、Oculus VRの共同創業者であるパルマー・ラッキー氏にインタビューに行ったのも大きな転機でした。野生の男さんが調整してくれて、GOROmanさん、needleさん、私という4人でうかがいました。パルマーはこちらの取材の申し出にも真摯に対応してくれて、VRにかける熱い思いを話してくれました。ちょうどDK2が発表されたタイミングだったのですが「これは大きなムーブメントになる」と。

 
 なるほど。たしかに私もパルマーに取材したことがありますが、彼の持つ人間的な魅力はOculusの武器ですよね。

 
 

体験しないと理解しづらいVRの価値

 
 ちなみに、広田さんはVRビジネスに注力する前は何をされていたのですか?

 
広田 私はアップルやniconico、初音ミクなどの分野を取材して寄稿していました。niconicoでは2014年から「ニコニコ町会議」という地方ツアーを毎年やっていまして、そこの公式カメラマンをやりつつ、ユーザーとして出展してOculus Riftなどを持って回って地道にVRを広める活動もしていました。

 
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ニコニコ町会議で地道に全国にVRを広めていました。

 
 まさにVRのエバンジェリスト(伝道師)ですね。

 
広田 HMDはやはり体験しないとわからない部分が大きいですからね。最初から体験させることが重要だと思っておりました。逆に言えば、体験したことがある母数が増えないとなかなかVRは広まらないだろうと思います。

 
 本当にそう思います。「まずはHMDをかぶって、VRコンテンツを体験してみてください」と声を大にして言いたいですね。しかしniconicoとVRというつながりが不思議に思えるのですが、なぜVRだったのでしょうか。

 
広田 VRが面白いクリエイターを呼びこむものだと感じたからです。niconicoでも、例えば「初音ミク」などの合成音声ソフトがUGC(ユーザー生成コンテンツ)ムーブメントによって盛り上がっていく様子を見てきました。VRも同じように、クリエイターがつくりたくなる魅力があると思います。

 
 クリエイターがたくさん登場することが重要だということですね。

 
広田 面白いコンテンツがなければ、そもそもHMDは普及しません。今までIT分野を取材してきた経験から、やはりキラーコンテンツがないとハードウェアは普及しないものだと思っています。

 
 たしかに、ハードとソフトは両輪ですね。3Dコンテンツも立体視する技術としては面白いものだったのかもしれませんが、何しろコンテンツとして面白いものがなかなか出て来ずになかなか普及しなかったという部分がありました。

 
広田 コンテンツをつくるという意味では、ゲームエンジンというコンテンツ制作ツールの存在は大きいです。「Unity」や「Unreal Engine 4」などのゲームエンジンはツール自体が使いやすく、また無料から始められるので、新たなコンテンツを生みだすクリエイターが入ってきやすい状況になっています。新さんも本の第1章で書かれていましたが、ハードウェアだけではなくソフトウェアにも革命があったことが、HMDやVRが普及するには欠かせない要素なのだと思います。

 
 まさにVRコンテンツを量産しやすい環境が整いつつあるわけですよね。

 
広田 もっと言えば、「量」に加えて「質」の変化も劇的です。3Dテレビ用のコンテンツは量も少なかったですが、質も今までの四角いディスプレイの延長でしかなく、無理やりに飛び出している感じがする映像を見ているに過ぎなかったとも言えます。VRは見方を変えれば表現のパラダイムシフトです。今までは四角いディスプレーに収めなくてはいけなかったものが、360度で表現できます。四角いディスプレーの制約がなくなり、VRの新しい文法を試せる。それは新しい表現に挑戦したいクリエイターにとって大きい。

 
 まさに。HMDのVRは体験の質を変えますよね。これは本当に体験してみないとわからない部分があり、言葉でいくら言っても仕方ないのですが、テレビを見ているのとHMDを見ているのでは、体験の質はまったく違うものです。ガラケーからスマートフォンに変わるぐらい、と言ったらいいでしょうか。まったく別物ですね。

 
 

VRビジネスは今が始めどき

 
広田 HMDは、登場してばかりのインターネット、スマートフォンと同じです。VRの使い方をみんなで考えよう、というものなのだと思います。インターネットやスマートフォンが登場したときに、今のような使い方が見えていたかといえば、そうではないでしょう。VRも同じです。今、つくられているVRデモは、とりあえず映像を360度にしてみました、という類が多いと思いますが、これからどんどん変わっていくはずです。

 
 ただ日本のVRビジネス業界の残念なところは、米国のフェイスブック、グーグル、マイクロソフトのようなビッグプレイヤーがいないところですよね。徐々に日本の投資家の意識も変わってきていますが、彼らほどVR・AR分野に対して何十億、何百億円もの巨額を投資してくれるプレイヤーは日本にはいないでしょう。

 
広田 その意味でソニー・インタラクティブエンターテイメント(SIE)が2016年秋に発売を予定している「PlayStation VR」(PS VR)にかけられる日本人の期待は大きいですよね。

 
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PlayStation VR

 
 たしかにそうですね。世界で4000万台を販売している「PlayStation 4」を基盤に、一気に普及する可能性を秘めています。ゲーム機の延長で考えられがちですが、いかにゲーム以外の分野を取り込めるかが勝負だと思います。

 
広田 Oculus RiftやHTC Viveが発売されたことをきっかけに起こっているVR・ARの大きなムーブメントは、今のところ北米が中心です。日本人の多くがHMDやVRの可能性に気づいていないように見えますが、実際に日本で盛り上がるのは2016年秋、PS VRが登場する以降なのかもしれませんね。

 
 ちなみに、日本でVRビジネスを始めるにはいつのタイミングがいいと考えていらっしゃいますか?

 
広田 まさに今、始めないとダメなんじゃないでしょうか。本業の仕事をやりながらでもいいと思いますので、少しでも早く初めて、早いうちに経験値をためたほうがいいと思います。

 
 なぜ、そう思うのでしょうか?

 
広田 インターネットの普及で自分のウェブサイトを持つようになり、さらにスマートフォンではアプリをリリースするのが当たり前になったように、企業や個人がVRコンテンツをつくる時代がやってくると思うからです。たとえば、自分の店舗に来てもらいたいと考えている飲食店や、観光に訪れて欲しいと考えている自治体が360度映像を提供するのは当たり前になるでしょう。パーソナル用途ならば、自分の過去の思い出を360度で残すのも同じです。子どもが生まれたからホームビデオカメラで撮影したくなるのと同じように、360度カメラで撮影するというのはそれほど特別なことではなくなるのだと思いますね。

 
 VR・ARは、米国の一部の投資家たちの間で「サードウェーブ」という言われ方もしているようですね。ファーストがPC、セカンドがスマートフォンで、その次にあたるものという意味です。つまり、VR・ARは「人間とコンピュータの関係性を変える」という位置づけにあると考えられています。

 
広田 VR・ARはいろいろな見方ができますよね。フラットなディスプレイからの解放とも言えますし、コンピューティングの新しい形でもあります。

 
 VRビジネスを始めたい人は、何から始めたらいいでしょうか?

 
広田 繰り返しになってしまいますが、まずはHMDをかぶって体験してほしいです。会社に所属している人は、社長にHMDをかぶせると早いかもしれませんね。「我が社でもVRで何かできるかもしれない」とすぐに気づいてもらえるかもしれませんので。IT業界に限らず、いろんな業界の人にHMDやVRの使い道を考えてもらい、可能性を広げてほしいです!

 
 対談と言いつつも、ジャーナリストのクセでつい質問攻めにしてしまい失礼しました。最後に言い残したことなどあれば。

 
広田そうだ、HMDを体験するにしても、ぜひ、いいVRコンテンツを体験して欲しいですね。VR業界の一部では「生牡蠣に当たる」ことに例えられますが、悪いVRコンテンツだと、酔いがひどくて、かつての新さんのように「反VR派」なってしまうかもしれませんから(笑)。

 
 たしかに(笑)。ぜひ、今後もPANORAでいいVRコンテンツを紹介してください。

 
 
●関連リンク
「VRビジネスの衝撃」(NHK出版)
新清士氏(Twitter)
PANORA広田

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