VTuber界の重要人物4人が登壇! 受講者多数で座席が埋め尽くされたビジネス向けセミナーをレポート【コンテンツ東京2019】
4月5日、コンテンツ東京2019にて「バーチャルYouTuberが切り開く、コンテンツビジネスの新たな可能性」と題したビジネス向けのセミナーが開催された。司会は360Channel 代表取締役社長 中島健登氏。
パネラーとして登壇したのは、VTuberの世界を牽引する3人。Activ8 代表取締役 大坂武史氏とグリー 取締役上級執行役員/Wright Flyer Live Entertainment 代表取締役社長 荒木英士氏、サントリーコミュニケーションズ 宣伝部 デジタルグループ 燦鳥ノムプロジェクトリーダー 前田真太郎氏だ。
▲セミナー受講者席がほぼ満員となり、注目度の高さがうかがえた
講義の内容は、それぞれの登壇者がいままでに行ってきた活動を解説しつつ、今後の取り組みや課題を紹介。今回のセミナーはビジネス向けのため、収益化について言及するシーンもあった。定刻どおりセミナーが始まると、まずは司会の中島健登氏による「360Channel」の簡単な説明からセミナーが始まった。
VR動画配信サービス「360Channel」は、配信だけでなく累計1500本以上のVR動画を制作している。そして蓄積したVR技術を活用し、システムやアプリ、VTuberの開発・制作も行ってきた。また、企業がゼロからVTuberのキャラクターを制作するには時間とコストがかかるため、VTuberの人材派遣を行っている。その他のユニークな取り組みとして、デビュー以降24時間生配信をずっとし続けているバーチャルタレントの事例を紹介した。まだ実験段階のようで、中島氏は「これからどうやってビジネスにつなげるかは模索中」と語った。
■キズナアイが所属するActiv8
パネラーのトップバッターとしてマイクを持ったのは、何人もの人気バーチャルタレントのマネジメントを行っている「upd8」を運営する「Activ8」の大坂武史氏。講義の内容は、Activ8が目指す世界と、キズナアイの成功例について。誰もが知るVTiberのボス「キズナアイ」について大坂氏が解説を始めると、場内の受講者は真剣に耳を傾けていた。
大坂氏は、バーチャルタレントがもてはやされている理由について、「見せたい自分を見せられる」、「ファンが見たい姿を表現できる」と語る。また、バーチャルタレントは病気や不祥事を起こしにくいため、「企業がコントロールしやすい」ことにも触れた。
大坂氏のスピーチで興味深かったのは、キズナアイのファン層の推移。デビュー直後に海外で話題になり、一時期のYouTubeコメント欄は外国語ばかりだったそうだ。「日本でのVTuberは漫画やアニメに続くコンテンツとして見られているが、海外では「タレント」として認識されている」と大坂氏は語る。現在でも日本のファンは全体の30%程度で、それ以外のファンは海外とのこと。
YouTubeで活動を続けているキズナアイだが、2018年からは官公庁のPRキャラクターや音楽アーティストなど、タレント活動も本格化させている。また、Activ8はキズナアイに続くタレントとして、バーチャルシンガーの「YuNi」他、何人ものタレントを展開中だ。
大坂氏は「かつて映画は実写だった。しかしいまはアニメやCGでも区別されない」と言う。これと同じように、いまは「VTuber」と呼ばれているバーチャルタレントも、「そのうち人間と垣根がなくなるのではないか?(大坂)」とコメントした。
■VRプラットフォーム「REALITY」を運営するWright Flyer Live Entertainment
2番目はWright Flyer Live Entertainmentの荒木氏。「VTuberはタレントと取られがちだが、もっと先が広がっている。今後大きな変化が待っていると思う」と語る。荒木氏のスピーチは、楽しそうな未来を想像させる講義だった。
荒木氏は「SNSで名前とアイコンの両方を本人にしている人は、ほとんどいない」と言う。確かにそうだ。名前をニックネームにしたり、アイコンを好きなキャラクターや写真にしているユーザーが大多数だろう。これと同じように、将来的にはネットを扱うすべての人間が「バーチャルの身体を持つ時代が来る」と荒木氏は予測する。
そんな未来のために同社が開発したのが、デジタルの身体を持ったユーザーが活動を行うプラットフォーム「REALITY」だ。この世界では、配信者とファンが言葉や文字でコミュニケーションをとるだけでなく、プレゼントを贈ることもできる。プレゼントはすぐに画面に反映し、贈ったユーザーだけでなく、受け取った配信者や他の視聴者も、視覚的にすぐにわかるのが特徴だ。
同社はこのプラットフォームを活かすため、世界初のバーチャル生配信スタジオ「WFS」を開設している。そして現在、オリジナルの音楽番組を制作し、シンガー系バーチャルタレントの活動の場として提供中。この番組は、従来のテレビの音楽番組と違ったさまざまなユニークな仕掛けが盛り込まれている。一例を挙げると、前述したファンからのプレゼントだ。好きなアーティストが出演したら、ファンは自分の名前つきでフラワースタンドを贈呈できる。スタジオのバーチャルタレントの背後に、自分の名前つきのフラワースタンドを置けるのは、ファンとすればこれ以上ない喜びだろう。
以上のような活動をしているWright Flyer Live Entertainmentだが、荒木氏によると「VTuberに興味がある企業からの問い合わせが増えている」と語る。同社はプラットフォームと自社コンテンツの開発だけでなく、バーチャルタレントの受注も行っている。
司会者から、いま話題のジャニーズ初のVTuberについて感想を求められた荒木氏は、「とてもいいことだ」と好意的だった。荒木氏の分析によると、ついているファンは従来のバーチャルタレントのファンではなく、まったく違う層のファンばかりだそうだ。「裾野を広げてくれている(荒木)」と、VTuber界に吹く新たな風を歓迎した。
また、各企業がバーチャルタレントを持つ時代が来るか聞かれた荒木氏は、企業のホームページを例に語る。インターネット黎明期のころ、ホームページを持つ企業は少なかった。しかしいまは、ほとんどの企業が公式サイトを運用している。荒木氏の予測が的中すれば、近い将来すべての企業がバーチャルタレントを持つ時代がやってくるだろう。
■事例紹介としてサントリーの「燦鳥ノム」をピックアップ
企業系VTuberの例として登壇したのは、サントリーコミュニケーションズ 宣伝部 デジタルグループ 燦鳥ノムプロジェクトリーダー 前田真太郎氏。2018年8月にデビューした「燦鳥ノム」は、毎週動画を配信し続け、現在約8万人のチャンネル登録者数を獲得している。企業系VTuberとしてはかなり早いタイミングでデビューしたため、テレビのニュース番組でも取り上げられたことがある。前田氏は、燦鳥ノムがいまの知名度を獲得するまでに至った経緯を紹介した。
前田氏は「テレビに取り上げられても、ほとんどファンは増えなかった」と過去を振り返る。テレビで取り上げられるよりも、他のバーチャルタレントとコラボレーションを行った方がファンが増えたそうだ。
燦鳥ノムをデビューさせた前田氏は、「(バーチャルタレントを持つことで)企業が“YouTube”という大きなプラットフォームでチャンネルを活用できるようになる」と話す。サントリーは燦鳥ノムが配信している動画を、CMではなくコンテンツとして捉えている。ひとつひとつの動画で商品をアピールするのではなく、番組中にさりげなく商品を登場させることにより、結果的に宣伝につなげているそうだ。