ありがとう、名伽尾アズマ にじさんじSEEDs発足1周年でファンに聞く、彼女の真価と引退の衝撃
*画像はTwitterプロフィールより引用。
バーチャルライバーグループ「にじさんじ」に所属する名伽尾(なかお)アズマさんは5月31日、5月16日に発表した通り、ライブ配信・動画投稿の活動を終了して引退した。理由は、家族で海外に移住するとのこと。Twitterアカウントは残っているが、過去にYouTubeの自チャンネルで配信してきたアーカイブはすべて消去している。
【大事っぽいお知らせ】
この度あたし名伽尾アズマは、5月いっぱいでにじさんじ引退することになりました!
今まで応援してくれたみんなありがとう!!急なお知らせになってごめんねえ😭最後の配信は5月31日です!
それまでフツーに配信したりツイートしたりすると思うから引退までの間よろしく!
— 名伽尾アズマ☀️世界禁煙デー (@azuma_dazo) 2019年5月15日
配信終わった途端にくしゃみ止まらねえ
みんな今までありがとな!!!!!
ばいばーーーーーーい!!— 名伽尾アズマ☀️世界禁煙デー (@azuma_dazo) 2019年5月31日
アズマさんは「にじさんじ」「にじさんじゲーマーズ」に続く、チャレンジ枠「にじさんじSEEDs」の1期生として2018年6月頭にデビュー(プレスリリースでは6月5日とされている)。同じSEEDsの1期生である社築(やしろ きずく)さん、花畑チャイカさんと一緒に「OTN組」(おとなぐみ)というユニットを結成するなど、積極的にコラボ配信をしてファンを増やしてきた。なお、SEEDsを含めにじさんじの各グループは昨年12月に「にじさんじ」プロジェクトとして統合されている。
旧にじさんじSEEDs1期生、発足当初の13人。
「にじさんじ」箱推しのファンはもちろん、そうでなくとも彼女のパワフルさに元気付けられたり、対話相手の魅力を引き出すトーク回しに親近感を覚えたという方も多いはず。
2017年末にVTuberムーブメントが巻き起こってから早1年半。いや、まだ1年半──。まさに「ドッグイヤー」の速度で状況が目まぐるしく変化するこの業界において、アズマさんが残した功績はなんだったのか。LDさん、Iさん、たたみさんという「にじさんじ」のファン3人に、その価値を聞いた(敬称略。また現在は「にじさんじ」に統合されていますが、文中では歴史をたどりやすくするためにSEEDs1期生、2期生と表記しています)。
コラボや企画で才能を発揮
──アズマさんの引退をファンから見て率直にどう思いましたか?
LD すごく残念でした。しかし、引退配信でいろいろ明かしていたように、事情が事情なら仕方がないとも思います。
I 発表当時は衝撃と悲しみ、失われる巨大なものに震えましたが、今ではしっかりと受け止められています。最後まで彼女らしい、こういってはなんですが、いい引退でした。
たたみ 引退を知った当初は電車の中で涙ぐんでしまいました。しかし、引退配信のあとに「茶番」をやって、31日の0時を過ぎてしまうなど、彼女らしく終われた点はファンとしてもとてもよかったと感じます。
LD ここ数週間で複数人のVTuber引退がありましたが、その中ではすごくアズマさんらしい幕の引き方でしたね。
──おおお……。ハニーストラップの蒼月エリちゃんをはじめ、確かにVTuberの引退が相次ぎましたね。
LD どちらもすごくよかったですが、エリ様とは好対照でしたね。
──といわれると?
LD 絶対そうはならなかったでしょうけど、エリ様が目指していたのはカラっとスパッと、笑って終わるような引退配信だったと思います。それをアズマさんは実現していたと感じました。ハニーストラップがそうはならないことは、ある意味確定的だったのですが、そこも含めて笑って終わらせるムーブをするエリ様に、やっぱりメンバーもリスナーも涙してしまっていたという。
I 確かにVTuber業界自体がまだ始まったばかりで経験と蓄積がなく、蒼月さんや朝ノ姉妹の光ちゃんの引退発表が電撃的になったりする中、アズマさんは本人が2週間ほど前から時期を明らかにしていただけに、ある意味安定した引退になったと思います。
──アズマさんはどんな活動をしていたVTuberでしたか?
I 主にコラボと企画で力を発揮する方でしたね。
たたみ SEEDsでいえば緑仙とアズマさんが企画人な印象で、いい意味での茶番劇の中心人物として抜群の演技力を見せていました。
LD 自分はどう評価するのかすごく難しいと感じています。しかし、SEEDsの色々な企画を回すメンバーの中でなくてはならない人物でした。リオンの親フラ配信(ド葛本社オルタ)を観てほしいのですが、この母親役をアズマさんがやっていて、本当に震える程面白かった。彼女のことは多分、SEEDs1期生の成り立ちから話さないと伝わらないと思う。
I もともとアズマさんはにじさんじSEEDs1期生メンバーで、一度に13人がデビューするという「闇鍋」状態から出てきた人なんですよ。その背景だけではないですが、SEEDs1期生は横のつながりが非常に強く、お互いを効果的に使う企画力が高い集団に成長していったのです。コラボでいうと、この動画はぜひ見て欲しいです。
たたみ 伝説のリアリティ配信!これも最高でしたね。
I 一期生の3D化がREALITYにて続々と発表される中、マイクラ内で勝手に3D化したと言い張って遊ぶメンバーという(笑)。他にも小さな企画から大きな企画まで「いつものメンバー」で精力的に活動していくわけです。
https://youtu.be/xSdQOMdCg3I
*配信時間が長時間でインライン表示できないため、リンクを張っています(以下同)。
たたみ 基本OTN組+緑仙で企画会議している感じがあります。「SEEDsマフィア」も確かそうだったはず。
──本人が投稿を消してもこれだけ動画が出てくるというのは、まさにコラボの賜物ですね。
LD アズマさん単独の世界を知りたいなら「夢女子講習会~夢小説ってなあに?」を観るのもいいと思います。あれはアズマさんの原点が見える気がしています。もうアーカイブが残っていませんが、機会があれば何かの動画で知ってほしいです。
SEEDs1期生は、チャレンジ枠という位置付けで始まったせいか、「にじさんじ」の1、2期生とのコラボも用意されていなかったのです。いちごちゃん(宇志海いちごちゃん)がSEEDsメンバーに声掛けして七夕の短冊書いたりしていたことはあって、1、2期生から声をかけるのはアリだったようですが。
さらに言うと、SEEDsのメンバーは言ってはなんですがイロモノみたいな面もあった。今でこそみなさん確固たるファンを獲得していますが、同じOTN組の社さんにしても、チャイカさんにしても、当初は「本当に単独の配信者としてファンが伸びるのかな?」とかなり挑戦的なイメージでした。そんな中、SEEDsの1期生はコラボし合うなどして、非常に結束の強いグループに成長していきます。これが大前提です。
ただ、それでもSEEDsで最初に頭角を現したのは、単独配信が強かったシスター・クレアさんと海夜叉(海夜叉神、うみやしゃのかみ、2019年4月引退)様だったはず。今でもそうかもしれませんが、単独配信が強くないとなかなか外とコラボするのも難しいですよね。当時はなおのことその風潮が強かったと思います。
たたみ そうそう。クレアさんの毎日配信と、海夜叉様のゲーム配信ががんばっている中、なぜか何となくドーラ様がリーダーのように思われていた状態ですね。
LD ちなみに僕がアズマさんを知ったきっかけは、緑仙の「天使と悪魔」配信でした。
LD 単独のチャンネルを持っているライバーさんに言うのはよくないのかもしれませんが、アズマさんはやっぱりバイプレイヤーとしてすごく力のある人で、この「天使と悪魔」配信でも見事にサイコパスな悪魔を演じて、当時、ちらほらと出ていたサイコパス疑惑を確定させています。もちろん冗談ですが。
たたみ 確かにBBQが好きで陽キャなので、陰キャを無邪気に「焼き」に行くサイコパスムーブもするのですが、どちからというとそれは演じていて、演技派というイメージがあります。
I 構造的に内部で回すしかない状態の中、SEEDsは集団で独自の進化を遂げ、その中でアズマさんは企画やサポートという面で現在のSEEDsを作り上げたという、非常に貢献した人物なんです。
LD SEEDs1期生には、緑仙という顔はいいわ、歌は上手いわ、トークは上手いわ、声はきれいでかつ声真似も上手く、なにより企画が面白いという何でもできるライバーがいまして……。今でもそうですが、緑仙がなにか茶番のシナリオを書いて、アズマさん、社さん、チャイカさんに「これやって」って頼むと三人とも脳死で引き受けてそれをやる。これがすごく面白い(笑)
このメンバーにドーラ様がくわわって企画を決め、それが大規模ならSEEDs1期生の全メンバーに声掛けするという流れができあがり、昨年8月の「SEEDs全員集合!!!24時間生配信」までつながって行きます。
たたみ エンディングの「Connecting」は引退する方が出るたびに聴くと切なくなる……。
LD この配信でSEEDsの1期生は、一気に多くの人の目に留まることになったと思います。
たたみ 私自身、VTuberを8月から見始めて、月ノ美兎ちゃん・樋口楓ちゃん→SEEDs24時間リアタイ→OTN組という感じで沼にハマっていきました。
LD アズマさんの話をし始めると、自然とSEEDs1期生の歴史の話になる。そういう人だったんです。ちなみにSEEDs1期生にはもう一人、緑仙と並んで異才をはなつ卯月コウくんがいて、緑仙とコラボした後は、神楽めあと付き合うことになり、うかれて、振られて、それで霞(SEEDs1期生の出雲霞ちゃん)に謝るという一連のロールプレイが最高に面白くて、「こいつはスゲえな!」と。
そのコウくんと、霞ちゃんと、鈴木勝くんで作ったのがOD組(おなえどし組)です。緑仙とは違う「茶番」を見せてくれる集団というか、とにかくコウの提唱する「エモい」配信をしていたんですよ。そのOD組みたいにグループを作ろうぜということで、アズマさん発祥で8月にOTN組が結成されたと記憶しています。SEEDsのコラボでは、このOTN組とOD組の2グループが「何かやってくれる」感があった。
個人的な観測の話で、正確にどこからと言うのは難しいですが、VTuberの長回し配信って、多分、委員長(月ノ美兎ちゃん)の配信が転機になっていると思います。それまでVTuberは基本、親分(キズナアイちゃん)やシロちゃんのメソッドに従って、短い動画を間隔短く上げるのが覇権=上を目指せるやり方だったのですが、委員長のヨーロッパ企画の配信や寝落ち配信、楓ちゃんの雑談、凛先輩のゲーム実況などで、長回しもアリだなという流れができてきて確立されていったのだと思います。それは言ってしまうと美少女やアイドルだからアリみたいな需要にも見えたんです。
──編集して一定の尺に収めるテレビ的というより、大枠だけ決まってるラジオ的ですよね。ネットで言えば、niconicoの生主とかは24時間配信とか長回しをよくやっている印象です。
LD それがOTN組は、特段美少女をうたうわけではない、社さん、チャイカさん、アズマさん(スミマセン)の3人がだらだら雑談しているだけだったのに、正直、僕にはべらぼうに面白くて「なにこれ」って驚いたんです。その面白さは、昔、仲の良かった友人たちと何でもない日に朝まで飲み明かしてくだらない話をしていた楽しさ、それそのままのものがそこにあったということでした。これは衝撃でした。
たたみ 社さんもチャイカさんもアズマさんも普段サラリーマンしている人たちが、楽しそうにダラダラと喋っているっていうので異常に親近感が湧くんですよね。みんなオタクに造詣が深いですし。
I だからこそ今回の引退では、飲み屋でいつも話してた常連が海外転勤で居なくなる感覚になりました。
──ああ……。
LD 配信開始直後、タイミングがぶれぶれの合唱をするのが鉄板で、リスナーみんなで「これはオフラインだな」ってつっこまれるところまで定型で、あれも配信のちゃらんぽらんさをすごく象徴していて安心感がありました。
たたみ 最終回ひとつ前の、終わらないゲキテイもぶれぶれでしたよね。
たたみ アズマさん引退後の6月2日にも似たような雰囲気のコラボを元SEEDsメンバーと19年3月デビューの御伽原江良さんで配信しています
LD まぁともかくOTN組というグループが確立され、これに緑仙が加わっていて、元々「みんながんばろう」的な結束が強かったSEEDs1期生の中で大きめの企画をぶん回せる中心グループが、何か面白い事をやろうと日々だべっている、時々その雑談も配信するって形態に落ち着いたと。何か大きなコラボをやろうとすると、ドーラ様、緑仙、OTN組が動くという感じがあった。これに今は舞元(SEEDs2期生の舞元啓介さん)や「でびリオン」(SEEDs2期生の鷹宮リオンちゃんとでびでび・でびるちゃん)、それと夢追(SEEDs2期生夢追翔くん)が加わっているイメージ。
昨年12月のにじさんじ統合あたりから、様々なグループができて、色々なライバー同士のコラボが入り混じっているので、「SEEDs1期生の結束」みたいなものは今もありますが、思い出でもある状況になっていると思います。
2週間前の発表で心の準備ができた
──最後にアズマさんから見るVTuberの引退というお話を聞いてもよろしいでしょうか?
I VTuberの引退は、その人個人がいなくなるということだけではなく、その人が所属していた環境、空気感の喪失でもあります。中でも名伽尾アズマさんという人は環境に与えてていた影響、貢献度が高かった。そのおおきな「場」が失われることがなにより悼みました。ベンチャーや長期ゲームシリーズの初期コアメンバーがいなくなる感覚であり、飲み屋の常連がいなくなる感覚であり、つまりは友達がいなくなる感覚です……。
たたみ 特にアズマさんはほんとSEEDsという企画集団の中心人物の一人で、アズマさんがやろうと言い出して緑仙が形にしてという印象があったので、SEEDsの企画が好きな自分としては寂しいです
LD この1年、SEEDs1期生の13人は強い結束力でSEEDsを盛り上げてきて、SEEDs1期生を箱推しするファンもその物語に感動してきたのだと思います。
I 引退発表からの日々は非常に満足してます。まず2週間という長めの期間をとってくれたこと、その間もいつも通り精力的に活動してくれたこと、引退理由に納得がいったこと、なによりアズマさんらしかったこと。これらのおかげで、今では「あいつ最近会わないけど、まあ元気でやってるんだろうな」くらいの感覚におちつきました。
たたみ OTN組コラボが4回、11時間かけての「ドリクラーズ」の完結、2本の「茶番」、クレアさんとの配信……と盛りだくさんでしたからね。
LD しかし、SEEDs2期生との融和、さらににじさんじへの統合と状況が変化する中、海夜叉、ゆず(八朔ゆずちゃん、2019年5月引退)、アズマさんとSEEDs1期生のメンバーが立て続けに減っていくのはさびしいのですが、それも含めて、今はもうないSEEDs1期生というグループの物語なのかなぁと。そしてアズマさんはSEEDs1期生の歴史を体現しているような人で、この人が去るというのは本当に深い意味が生まれてしまっています。振り返ってみればアズマさんは駆け抜けた感があります。
VTuber自体の引退については、今は多くの場合、急な事情でやめることが多く、アズマさんもこの範に漏れないと思われるのですが、それでも非常に理想的な納得できる終わり方をしてもらえたと思います。でも、2ヵ月後に復活していただいても一向にかまいませんが!
たたみ 笹木ィ!!
──でもふらっと戻ってきて欲しいですねぇ。
I もう1年ですし、まだ1年ですからね。これからも様々な引退があり、否応なしに歴史が積み上がって、あたらしい環境に代わっていくのでしょうね。まぁともかく今はまだ「引退」にも物語性がありますが、さらに1、2年経ったらまったく違う方向に変化しているかもしれません。「男女コラボありえない!」という雰囲気から当たり前になったり、動画勢から長回しの配信勢が生まれたように。
たたみ この間の「紅ズワイガニぐんかん」のコラボなんかは最初期じゃ考えられなかったんでしょうね。
LD 郡道先生と神田(SEEDs2期生の神田笑一くん)、それこそ舞元とスバル(ホロライブの大空スバルちゃん)の配信は、以前なら相当、センシティブなものだったはずですけど雪解けましたね。
I 引退じゃなくて「隠居」とかもありそうです。
LD 「2代目」も出てくるかもしれません。
I 引退、隠居、2代目……。いろいろな形がこれからでてくるでしょう。
──そんな変化が激しい時期だからこそ、アズマさんが成し遂げたことは記憶に残しておきたいですよね。本日はありがとうございました。
(TEXT by Minoru Hirota)
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