「VRは自分と鑑賞者を親密につなぐツール」 ビョークデジタル展・360度ライブの興奮をレポート
© Santiago Felipe
6月29日より東京・日本科学未来館でVRの展示会「Björk Digital-音楽のVR・18日間の実験」が開催中だ。ここではアイスランド出身の世界的なアーティストであるビョークが、映像クリエイターたちとつくりあげた360度VR作品を中心とした展示がおこなわれている。VRの可能性をアートやエンタテインメントの観点で、正面から捉えた記念すべき展示である。
展示会が開催される前夜の28日には、「Making of Björk Digital」として、Dentsu Lab Tokyoとのコラボレーションによるリアルタイム360度VRストリーミング配信と公開収録、そして日本初のビョークによるメイキング・ストーリー・トークショーがプレイベントとして緊急開催された。
急な告知だったにも関わらず、会場の3階ジオ・ステージにはメディア関係者を含め500人ほどの観客が集まり、5階の立ち見のスペースまでびっしりと埋め尽くされた。
© Santiago Felipe
午後8時をまわったところで 白い衣装にヘッドピース(マスク)を被ったビョークがあらわれると、会場は一気に緊張感と熱気に包まれた。
このユニークなヘッドピースは「マテリアル・エコロジー」(生態学を人工物の世界へ融合させる試み)を掲げるMITメディアラボのネリ・オックスマン教授とMEDIATED MATTER GROUPによってデザインされ、Stratasys社が3Dプリンタで60時間かけて制作した「Rottlace」マスクだ。
ストロボが明滅するライティングの中、アルバム「ヴァルニキュラ」から「クイックサンド」を歌い始めるビョーク。全世界へ向けて画期的な360度ライブストリーミング配信がはじまったが、会場の観客はスマートフォンの使用が制限されているため、この時点ではライブ配信の映像を見ることはできない。
約4分間に渡る圧倒的な迫力の熱唱が終わると、ビョークは一旦退場し、ステージの立ち位置前に配置されたライブ配信用のVRカメラセット(カスタマイズされた小型のバック・トゥー・バックのもの)から、やはり特別にカスタマイズされた高解像度ハイエンド・VRカメラセットに交換。入念な機材チェックの後、準備が終わり、ビョークが再登場。もう一度パフォーマンスが再開されP.I.C.S.制作協力によるアーカイブ収録がおこなわれた。
© Santiago Felipe
すべてのライブ・パフォーマンスが終わると観客は一旦、ロビーに全員が退出。ここで観客は午後9時までYouTube上に限定公開された360度映像を、はじめて見ることができた。スマホなどはYouTubeアプリから、PCであればGoogle Cromeなどのブラウザから視聴可能だ。
360度映像は肉眼で見た光景とは異なり、ビョークの激しい身振りにあわせて、無数の光の粒子やワイヤーが画面を飛び交うライゾマティクスリサーチのVR/AR演出がリアルタイムでミックスされたものだった。
楽曲のクライマックスでは、ビョークのヘッドピースと日本科学未来館の象徴であるジオ・コスモス(1000万画素超の高解像度の有機ELパネルに、リアルタイムでイメージを出力できる地球儀型ディスプレイ)とが融合して、一体化するハイライト場面も見られた。
映像はもちろん360度インタラクティブに視聴でき、ライブを見守る観客の姿もステージの対の暗がりの中に映り込んでいる。YouTubeの同アカウントには世界中から「Cool」、「awesome」、「amazing」というコメントがよせられた。
一方、今回アーカイブ収録された映像は、ロンドン他世界各都市での巡回展示「Björk Digital Exhibition」に360度VR映像作品として追加される予定だ。
ビョークはVRについて「ライブでもCDでも実現できなかった自分と鑑賞者を親密につなぐツールであり、新しい音楽体験をもたらすシアターだ」と考えている。
それは音楽体験の拡張であり、新たな境地といえよう。音楽とVRの可能性を模索する実験、挑戦でもあった今回のイベントで、ビョークはテクノロジーと、エモーションの融合に見事に成功した。「Björk Digital-音楽のVR・18日間の実験」は、7月18日まで、日本科学未来館で開催中だ。
●開催概要
・タイトル:Björk Digital ―音楽のVR・18日間の実験
・開催日時:6月29日(水)〜7月18日(月・祝)午前10時〜午後5時
*ただし金土日祝(7月1〜3日、8〜10日、15〜18日)は午後10時まで開催
・休館日:7月5日(火)、12日(火)
・会場:日本科学未来館 7階 イノベーションホールほか(東京都江東区青海2-3-6)
・料金:2500円(税込)
*入場日時指定制、整理番号付(VRコンテンツ以外は当日に限り終日鑑賞可)
*入場券はチケットぴあにて。販売
当日は空きがある場合に限り、日本科学未来館にて販売
*展示の中心となるVRコンテンツは13歳以上が対象。未就学児の入場は不可で、小学生以上は入場券が必要
●アルバム情報
「ヴァルニキュラ:ライヴ」
2016年07月13日(水)日本先行発売。今回のイベント開催に伴うビョークの来日を記念し、リリースされるライヴ・アルバム。ソニー・ミュージックジャパンインターナショナルよりの日本先行発売。
「ヴァルニキュラ」
2015年4月1日発売作品。今回のVRの展示に使用された楽曲を含むアルバム。ソニー・ミュージックジャパンインターナショナルより発売 。
(文/染瀬直人)
染瀬直人 写真家、映像作家、360°VRコンテンツ・クリエイター。日本大学芸術学部写真学科卒。2014年ソニーイメージングギャラリー銀座にて、作品展「TOKYO VIRTUAL REALITY」を開催。360度作品や、シネマグラフ、タイムラプス、ギガピクセルイメージ作品を発表。VR未来塾主宰。360°動画の制作ワークショップなどを開催。Kolor GoPro社認定エキスパート、Autopano Video Pro公認トレーナー。
●関連リンク
・Björk Digital-音楽のVR・18日間の実験
・日本科学未来館