この3年でVRは何が変わった? 5つの観点から振り返る【PANORA3周年】
2014年11月1日に日本初のVR・360度パノラマ専門サイトとしてスタートしたPANORAは、本日2017年11月1日に3周年を迎えます。2014年といえば、まだOculus Riftの第2世代開発キット(DK2)が出た頃で、「VR元年」の夜明け前ともいえるタイミングです。この3年でVRムーブメントの何が変わってきたのか、5つの観点からまとめてみました。
1.VIVEの台頭、Riftの伸び悩み、MSの参入
2014年当時、VRなどの先端技術を使ってデモや作品をつくっていたクリエイターにとって、手軽に使えるVRゴーグルといえばOculus Riftが筆頭で、国内でも開発者に愛用されていました。
しかし、2016年の「VR元年」でふたを開けてみたところ、PC向けは知名度のあったRiftよりHTC VIVEが急激に普及しました。理由は、両手で使うモーションコントローラーが標準で付属していたり(Oculusは当初ゲームコントローラーだった)、商用利用が可能だったり、すでに普及しているPC向けゲーム配信プラットフォーム「Steam」を使っていたりといくつか挙げられます。
その後、Oculusも2017年に入ってサマーセールで大幅値下げを断行して巻き返しを図りました。ただOculusは親会社であるFacebookの色合いが強く出てきており、創業時のハードウェアスタートアップとは目指す方向が変わりました。VRゴーグルでマネタイズする気はなく、おそらく未来のコミュニケーションプラットフォームを取るために開発を続けているという状況です。
2014年といえば、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)の「PlayStation VR」(PS VR)が開発コード名「Project Morpheus」として東京ゲームショウにて初披露された年です。当時は社名もソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)でした。PS VRは2016年にリリースされてから国内で非常に注目を集めたものの、生産が間に合わずに国内で長らく品切れが続いていました。2017年にはマイナーチェンジ版をリリースして、心機一転、販売を強化しています。
この3年でHoloLensやWindows Mixed RealityのMicrosoft、ARkitのApple、CardboardやDaydream、ARCoreのGoogleと、大企業のVR/AR/MRへの参入が相次いでいるのも大きな動きです。ほかにも単体かつケーブルレスで動作する一体型VRゴーグルなど、ハードはいまだに新製品が出続けていて、まだまだ進化の余地があることを匂わせています。
2.キラー体験の不在
この3年で優れた体験を提供してくれるソフトは数多く発売されてきましたが、特に家庭向けでは「あれがやりたい!」という存在がまだ足りない印象です。振り返れば、数年前にテレビなどでも紹介されたVRのジェットコースターが、未体験の人にとって一番引きの強い「あれがやりたい!」だったのかもしれません(アダルトVRは継続的に引きが強いですが……)。
ただ、一方でまだ「VR2年」です。例えばスマートフォンの初期に10年通用するキラーアプリが出ていたかというと、意外とそうではなかったわけです。筆者が2008年にASCII.jpにて執筆したiPhoneの定番アプリ50選を見てみると、9年後の今まで存在感を保っているサードパーティーのアプリはほとんどないことがわかります。
よく比較される3Dテレビとは異なり、VRはコンテンツメーカーの参入がまだ増え続けています。PANORAのスタート当初はTwitterでネタを拾っていたVR/AR/MRのニュースも、今となっては紹介しきれないぐらいに国内外で発信されています。そうした中から、未来のキラー体験が生まれてくるのではと、筆者は楽観視しています。この年末にはSkyrimやFallout4といった著名なAAAタイトルのVRが登場しますし、コミュニケーション系もまだまだ伸びそうです。
まだ日常にVRは溶け込んでませんが、VRゴーグルといっても要するにディスプレーなわけです。現在、テレビやPC、スマートフォンなどのディスプレーが家庭にあって、VRゴーグルを使った方がよりよい体験ができるコンテンツは、どんどん移行されていくはずです。
3.広まった認知度、実体験の乏しさ
意見が分かれるところかもしれませんが、今年に入って展示会に何度か出展した筆者の肌感覚では、VRの存在は知っていても、今だにVR未体験という人はまだまだ多いです。ハードウェアの購入も、キラー体験のアプリを欲しいと思うのも、まずはいいVRコンテンツに出会って「自分ごと」にしてもらう必要があります。特にVR空間で自分の頭や体、手足を動かせるという体験はぜひ知っていただきたいところです。
実はこの3年でイベント以外に、店頭での体験コーナーも増えてきました。VIVEは公式サイトから予約して、全国のPCショップなどで無料で体験できます。PS VRも全国のイオンモールにて土日に体験会を実施しています。マイクロソフトも11月18日から全国の販売店にて、Windows Mixrd Reality対応ゴーグルの体験会を始めます。「百見は一体験に如かず」なので、未体験の方はぜひ遊んで欲しいところです。
4.ロケーションVRの注目
国内の家庭向けVRがまだまだユーザーに普及する余地を残している一方で、「ロケーションベースドVR」(ロケーションVR)は大いに存在感を強めています。例えば、バンダイナムコエンターテインメントの「VR ZONE」は、歌舞伎町の「VR ZONE SHINJUKU」を中心に、「VR ZONE Portal」として国内外に店舗を広げています。渋谷の「VR PARK TOKYO」、お台場とスカイツリーの「VirtuaLink」、埼玉県越谷市にあるイオンレイクタウンの「VR Center」といった具合に、VR専門の店舗もかなり増えました。
長崎のハウステンボスなどアミューズメント施設のアトラクションとして導入されたり、「VIRTUAL GATE」や「VR THEATER」などインターネットカフェに導入されたりと、体験できる場所がどんどん増えています。
特にVRアトラクションは、大声を出したり、一緒に行った人のリアクションを見て笑ったり、終わった後に語り合うことができます。一般の人がVR目的で遊びに行く──というのが、この3年で生まれた新しい消費行動でしょう。
5.B2Bでの定着
現在、国内のVR業界でビジネスが立ち上がっているのが、B2B(もしくはB2B2C)です。3年前はイベントでも展示自体が珍しい状態でしたが、先日のモーターショーでもVRの展示が目立っているなど、今やイベントでVRを使うのは当たり前になってきました。不動産の物件下見や、工場・建築現場の安全確認といった具合に、堰を切ったように導入が増えています。360度映像も展示やプロモーションに使う事例が当たり前になってきました。
もともと、車のCGをゴーグルで見て完成型を体験するなど、ビジネスで活用されてきたVRですが、端末の価格が下がったことで民主化されてより多くの現場で使われるようになった、というのがここ3年の動きです。パソコンやスマートフォン、インターネットといった技術があらゆる業種で働き方を変えてきたように、VRも「それを使った方が手っ取り早い」というシチュエーションでより活用が進むでしょう。
というわけで、この3年でさまざまな業種に浸透してきたVRに合わせて、PANORAもVR/AR/MRに限らず、もう少し広い範囲で開発者やガジェットファンが興味を持ちそうな記事を投入していければと思います。
IDCによれば直近の市場予測では、2017〜2021年には平均56.1%でゴーグルの出荷台数が伸びて行くとのこと。さらなる3年後の2020年にはどんな未来が見えてるのか。引き続きPANORAをよろしくお願いいたします。
(TEXT by Minoru Hirota)