HTC直伝「虎の巻 2018」! VIVE トラッカー&ベースステーション2.0のトラブル回避術【CEDEC】
8月22〜24日にパシフィコ横浜にて開催されているゲーム開発者向けイベント「CEDEC(セデック) 2018」。VRやVTuber関連でも講演やブース展示などでさまざまな企業が参加している。今回は、22日にHTCが実施した「VIVE関連製品の中~上級者向け利用方法(2018年版)」と題したセッションの前半をまとめていこう。
HTC VIVEといえば、業務向けだけでなく、「VRChat」や「バーチャルキャスト」といった一般向けでも活用されているPC向けのVRシステムだ。ここ8、9ヵ月で盛り上がって来たバーチャルYouTuber(VTuber)の業界でも手や腰、足などの要所につけて、CGキャラの全身を動かせる「VIVE トラッカー」が大いに注目を集めており、店頭に入荷するとすぐに売り切れるという勢いだ。
そんな状況もあって、このセッションの前半では、VIVEトラッカーとベースステーション2.0の仕組みや運用のコツについて最新知識が披露されていた。基本的な内容は昨年の講演を踏まえてのアップデートとなるので、まだチェックしていない人はPANORAのまとめ記事や下記のYouTubeをチェックしておこう。
講演者は、HTC NipponのVIVE事業日本責任者、西川美優さん。バーチャルキャストのニコニコ生放送を観ている人にとっては「にしかわいい」でおなじみの人物だ。ゲームは主にシミュレーションが好きで、最近では100時間ぐらいかけて「戦場のヴァルキュリア」をコンプリートしたとか。
トラッカーが不安定なときに試したい解決策
トップバッターは、特に問い合わせが多いというVIVEトラッカー。現在売ってるのは2世代目の2018で、真ん中にあるロゴが青い(初代は黒い)。
まずは日本のトラッカーの使われ方が、だいぶ特殊だという話から。1年ほど前に初代のトラッカーをリリースした際には、画像左のように業務用のロケーションVRやハンドルに1つだけつけて体感ゲームを楽しむといった利用方法を想定していたが、フタを開けてみると右にある一般向けなのにトラッカーを7つ使ってフルボディートラッキングのやり方を紹介しているサービスが出てくる状況だった。
バーチャルキャストの配信では、キャラ3人が同じ空間にいるというのは割とあるケースだが、それぞれが7個のトラッカーを身につけていると、同じ空間に21個が存在することになる。西川さんによれば、そんな話をHTCの台湾本社に報告すると、トラッカーの開発者ですら先の写真左のような利用方法しか想定していないので「なんで21個も!?」と驚くそうだ。
「VR ZONE SHINJUKUの『ドラゴンボールVR』を始めた頃からおかし……。いや、この流れができ始めまして、昨今のVTuberの流れがあって、だんだんお家でトラッカーを使う動きも出てきた」と西川さん。一方で、普及してきたからこそ、腰が飛んだり手が安定しないといった悩みを聞くことも増えたという。
そもそもトラッカーは何台使えるのか。その公式回答は、現状のSteamVRはパソコン1台につき16個デバイスまで認識可能とのこと。
例えば、ベースステーション2つ、HMD1つ、コントローラー2つだとすでに5つ埋まっているので、トラッカーは11個までしか使えない。ここでコントローラーを使わずに「俺はトラッカーで行く」となると、トラッカーを13個まで増やせる。要するに画像右下にあるSteamVRのアイコンが16個まで理論上はいけるとのこと。
トラッカーの位置検出が不安定になったときは、まずソフトをすべてアップデートしよう。SteamVRは、最新版を試してダメだったら開発者向けのβ版を試してみるべし。VIVEの各デバイスのファームウェアは即座に更新。見逃しがちなのはGPUで、SteamVR 2.0では古いドライバーで動かないこともある。
基本は、ベースステーションとデバイスの間は遮らないこと。特にお腹にトラッカーをつけると、しゃがんだり体育座りしたときにベースステーションの影になってしまいがちなので、できれば背中側につけたほうが安全。
干渉要因を排除するのも重要。ベースステーションからは赤外線レーザーが発射されているので、例えば、無線マイク、防犯カメラ、同じく赤外線でトラッキングするVICON、ヒーター、展示会の会場でありがちなクリップ型ライトといった他の赤外線を発するデバイスは干渉する。
大きな鏡やガラス、光沢のある床も、赤外線を反射して動作が不安定になりがちだ。赤外線を含む直射日光も、薄く光が入ってくるぐらいなら動くこともあるが、万全を期すなら遮光カーテンを引くのがおすすめ。ベースステーション1.0の場合、3つ目のベースステーションが検知されないようにするのも重要だ。
ちなみにニンテンドー3DSのカメラは、赤外線の乱反射がチェックできるとのことで、現地では情報源であるGREEさんがそのうち技術ブログを書いてくれるはずという話も出ていた。
ほかのベースステーションに検出させないために、光を通さないダンボールのカバーをつけて照射範囲を限定するテクニックもある。ベースステーションを複数設置するハッカソンなどの会場では有効な手段だ。この照射範囲を調節できるダンボールカバーの型紙がHTCにあるので、欲しい方は問い合わせてくださいとのこと。
トラッカーとPCから伸びたドングルは2.4GHz帯で通信しているので、他の無線機器を止めるのも重要。特にBluetoothのキーボードやマウスと相性が悪いそうで、安定しないときは有線に切り替えるのも有効だ。
2.4GHz帯の干渉は、トラッカーがプルプル震えていたり、勝手に移動したり、SteamVRのアイコンが点滅してオンにならないという点で見極められる。
先の7個のように1台のPCに複数のトラッカーのドングルをつなぐ場合、USBハブを使ってしまいがちだが、これではドングルがお互いに干渉してしまう。写真右のようにダンボール差すなどして10〜15cmぐらい離して運用するといい。
どうしても安定しない時は、トラッカーを使わずにUSBケーブルでトラッカーとPCを有線接続してみよう。その際、USBケーブルはスペックをきちんと見て「USB-IF」認定されたものを選ぶべし。ケーブル長は5mまでが推奨で、それ以上は安定しなくなりがちだが、どうしてもそれ以上伸ばしたいときはアクティブタイプのリピーターケーブルを使う。また、USBハブを使う時はAC電源が必須だ。
トラッカー運用のコツとして、スリープさせない方法も紹介していた。初期設定では、5分以上動かさないと自動的に電源が切れるが、HMD内の装着センサーをカバーしたり、SteamVRの設定値を変更することでスリープさせないようにできる。
コンテンツ内でトラッカーを特定したいときは、デバイスのインデックス番号は変わってしまうので、SteamVRのDeviceSerialNumberを取得すればいい。
サンプルコードはこちら。あとでスライドを公開するので参考にしてくださいとのこと。
参考のPDFドキュメントはこちら(英語)。
実はHTC製ではないベースステーション2.0
お次はVIVE Proのフルセット版で同梱されるようになったベースステーション2.0について。
よく言われるのが「2.0になって精度は上がったの?」という話。西川さんは「噂の出所はまったくわからないのですが……」と前置きした上で「精度は上がっていません」と断言。変わったのはトラッキングできる範囲が広くなったことだ。
そもそもベースステーション2.0は、HTCではなくValveがつくっており、背面をみると製造国が台湾からアメリカに変わっている。西川さんも「つくっていないのでHTCに聞かないでー」というのが本音なものの、VIVE Proにベースステーション2.0を同梱しているので説明義務はやっぱりあるのできちんと調べている。ちなみに2.0では穴はあるけど有線の同期ケーブルは使えず、前面がかまぼこ型に変わって照射角も変わっている。
なぜ2.0でベースステーションをHTCがつくらなくなったのか。そもそもVIVEは、Valveが開発したSteamVRというプラットフォームで動いているハードだ。
先日のSIGGRAPHでもAcerとStarbreezeが「StarVR One」を発表したが、こちらもSteamVR対応のVRヘッドマウントディスプレーだ(そういえば以前、LGも発表していたが……)。以前のHTC1社が製造する体制と座組みが変わったため、ベースステーションは各社共通で使えるようにValveがつくるようになったというわけだ。
なので、西川さん的には、SteamVRのアップデート内容などをHTCに投げられても、結局、Valveに問い合わせてその回答を投げることになるのでなかなか即答できないとか。
話を先ほどのカバー範囲が広がったというところに戻すと、1.0は2台を使って対角5m、だいたい2×3mぐらいの範囲をカバーしていた。一方、2.0では2台で6×6m、4台でだいたい10×10mをカバーできる──というのが公式見解になる。なお、4台置きでは、部屋の角ではなく辺の中央におくのが正しい。
対応機器のおさらい。VIVE Pro/Proコントローラー/トラッカー(2018)は、中のチップが新型で1.0だけでなく2.0にも対応できるが、通常のVIVEやビジネスエディション(BE)とそのコントローラー、初代トラッカーは2.0でつかない。なおValveの「Knuckles」(ナックルズ)は多分チップが古いので、1.0しか動かないとか。
この2.0では、ベースステーション用に無線のチャンネルを16個用意していることもあり、西川さんのところには、「ベースステーションを16個使って、迷路のようなところにおきたい」という問い合わせも来るそうだが、公式回答では「4台で10×10m」が最大スケールになる。
つまり、同じ空間に10×10mのエリアを複数つくって、別々のチャンネルを割り振ったとしてもその間を動いてトラッキングはできない。最大で4台1組のベースステーションからの光を受けて位置を計算するのが基本だ。
1.0では、ベースステーション上に「a」「b」「c」とチャンネルが表示されていたが、2.0ではなくなった。ではどうやってチャンネルを確認して設定するのかというと、普通にSteamVR上から変えられる。ネットでは本体裏側にある左上の穴にピンを入れて押すとチャンネルが変わるという裏技を発見した人もいたが、そんなことをしなくても画面でOKなわけだ。
VIVE Proに同梱してあるベースステーション2.0は、チャンネル1と2に設定されている。ということで2セット買って4台のベースステーション2.0で使おうとすると、最初にチャンネル番号の重複で警告が出るはずだ。解消するには、まずSteamVRの設定から「Bluetooth」タブを選択して、一番上の「Bluetoothコミュニケーションを有効化」をオンにする。
さらに「Configure Base Station Channels」ボタンを押すと探しに行って……。
10秒ぐらいたつと部屋にあるベースステーションとチャンネルを表示してくれる。
ここでチャンネルをクリックして、手動で16番まで割り当ててもいいし……。
「Automatic Configuration」ボタンを押せば、適当にチャンネル番号を割り振ってくれる。
手順のおさらい。展示会などでベースステーション2.0が複数置かれており、ほかのブースのベースステーションが見えてしまう場合、オートで設定すると自動で空いてるチャンネルを割り振って干渉しないようにしてくれるとのこと。便利!
StramVRのアップデート内容はこちらのページから。HTCに問い合わせるよりも、まずは公式のところを見た方が早いとのこと。
後半は、VIVE Proや、未発売で今回展示している一体型「VIVE Focus」について解説していた。特にフロントカメラを使ったデモが面白かったので、そこだけ登壇者である西川さんの許可を得て動画で記事に埋め込んだ。
CEDEC、HTCさんが講演にてVIVE Proの前面カメラを使ったARデモを披露してくれました。目の前にCG空間を出し、ボールを投げると跳ねながら飛んでいくデモがスゴイ!
※登壇者・西川様の許可を得ての投稿です(以下同) pic.twitter.com/gX5AyqW32b
— PANORA (@panoravr) 2018年8月22日
前面カメラで空間にあるものを認識してメッシュを生成し、投げたボールが現実にあるものに当たると跳ね返るような使い方も可能です pic.twitter.com/nZF9DNFTz2
— PANORA (@panoravr) 2018年8月22日
メッシュはテクスチャも同時に取得してるので、CG世界側にリアルのテクスチャを被せる使い方もできるとのこと。このフロントカメラを使った実例がまだあまりないので、欲しいとのことです pic.twitter.com/eScjo5RI2G
— PANORA (@panoravr) 2018年8月22日
未発売で今回初展示の一体型、VIVE FOCUSでは、ミラキャストを使ってみている映像を外部モニターに出力する様子を披露。これは便利 pic.twitter.com/WRqor7OjsG
— PANORA (@panoravr) 2018年8月22日
さらにVIVE FOCUSの電源ダブルクリックで実行するフロントカメラ機能をデモ。MR機能ではありませんが、モノクロで外界を確認できます。まるでFPSの視点のよう。明日からも会場のツクモブースで触れるので要チェック https://t.co/E2UI856QbS pic.twitter.com/Qx1OaAItZO
— PANORA (@panoravr) 2018年8月22日
ぜひこのページをブックマークしておいて、将来的なトラッカーやベースステーションのトラブルが起こったらHTCに問い合わせる前に参考にしてほしい。
(TEXT by Minoru Hirota)
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