2025年12月27、28日、愛知県名古屋市のNiterra 日本特殊陶業市民会館 フォレストホールにて、283プロダクション*(ツバサプロダクション。以下、283プロ)所属アイドル、田中摩美々さん、白瀬咲耶さん、三峰結華さん、月岡恋鐘さん、幽谷霧子さんによるユニット「L’Antica」(アンティーカ)によるミュージカル「283 Production MUSICAL Performance 騎士団のヴェール – Veil of Order –」が開催された。
*ゲームやアニメなどで展開される「アイドルマスター シャイニーカラーズ」の舞台となるアイドル事務所
2025年、283プロでは「283 Production LIVE Performance」として、同事務所所属アイドルによる「[liminal;marginal;eternal]」「Uka,」というライブが開催してきたが、今回の公演がミュージカルという形式になったのは、メインを張るアンティーカの楽曲イメージや日頃の活動に合うからだろうか。
本稿では、ライブではなくミュージカルという形式をとったアンティーカの公演についてレポートをする。
本公演は、12月27日の第1公演としてAbnegatio (I)、28日昼の第2公演としてOdium (II)、同日夜の第3公演としてCupiditas (III)と題する公演が行われた。また、現地での上演だけでなく、xRストリーミング配信も行われた。
Abnegatio (I) の冒頭部分はこちらで無料配信されている。
本公演にはアンサンブルとして、283プロのユニット「SHHis」(シーズ)の七草にちかさん、緋田美琴さんと、「CoMETIK」(コメティック)の斑鳩ルカさん、鈴木羽那さん、郁田はるきさんも出演。
また舞台パフォーマーとして春日麻里さん、椎名桃香さん、辻桃果さんも出演している。
Abnegatio (I) – 第1幕
初日に上演されたのは「Abnegatio (I)」と題する公演。「Abnegatio」とはラテン語で「否定」「拒否」を意味する。
幕が開く前に、幕外に鈴木さんと郁田さんが登場。新人騎士団員の叙任式の案内という形で、鑑賞マナーや登場人物の「騎士の誇りを」という号令にあわせて「剣にかけて」と行う掛け声について解説が行われた。
幕が開くと、物語は三峰さん演じるイーリスの、アンティーカ騎士団への叙任式から始まる。
立ち会うのは、白瀬さん演じる騎士団第1席で騎士団長のディスティール、月岡さん演じる第2席のクロシェ、幽谷さん演じる第3席のフィロ、田中さん演じる第4席のリーラといったアンティーカ騎士団の先輩だ。騎士団の5人は、アンサンブルの5人のコーラスと共に、本公演のために作られた楽曲「銀翼のアレジアンス -blade of truth-」を歌い、厳かであると同時に勇ましい空気の中叙任式を執り行った。
各人の自己紹介の後、新人騎士・イーリスへ騎士団と王国の歴史の説明として披露されたのは「とある英雄たちの物語」。「yes, yes, yes my load」と歌うこの楽曲は、王に忠誠を誓う五つの騎士団とその頂点に立つ五人の騎士、その五人の友誼と争い、そして悲劇を経ての傷つけあわない在り方の誓いを描いた、アンティーカの楽曲だ。今回は剣をもっての舞踊で騎士団の矜持を見せてくれる。
騎士団の役割は王と民と国を脅威から守ること。そして最近は吸血鬼が街に入り込み人を襲っていて、その討伐が大きな任務であることが告げられる。団長のディスティールは特に吸血鬼を憎んでいるようだ。
ディスティールの提案により、イーリスの教育係としてリーラが指名される。ディスティールが歌い舞う『千夜アリア』のもと、イーリスの実力を見るためイーリスとの手合わせが行われた。
気まぐれなところもあるリーラは、イーリスとの稽古もそこそこに立ち去ろうとする。ディスティールはそんなリーラをたしなめつつ、イーリスに騎士道の本質として「寛大さ」を挙げる。それは、「他者を理解し、思いやりをもって接すること」だと説いた。
素っ気なく接しようとするリーラに、「リ・イ・ラさん」と人懐っこく接するイーリス。満更でもないリーラは、楽曲「時限式狂騒ワンダーランド」に合わせ祝賀会のダンスの手ほどきをするのであった。
そのまま場面は祝賀会へ。
リーラは早々と立ち去ってしまい、イーリスは戸惑ってしまう。そこに現れたのはフィロ。
フィロの誰でも分け隔てなく博愛の気持ちを聞き、イーリスはそれをフィロの騎士道だと理解する。そんなフィロには、リーラも弱みを見せているようだ。
イーリスを歓迎する祝賀会の途中で鐘が鳴り響く。街に吸血鬼が現れたということで現場に駆け付ける5人の騎士。ディスティールとクロシェが振るう剣を素手で弾く2人の力を目の当たりにして、吸血鬼だと悟る5人は、「騎士の誇りを」という号令のもと、「剣にかけて」2人と対峙する。
祝賀会でピアノを弾いていた(緋田さん演じる)演奏家も吸血鬼であった。人の中にも紛れ込む吸血鬼に対し、リーラの剣が貫く。
しかしもう1人の(斑鳩さん演じる)吸血鬼を逃がしてしまったディスティールはその無力さに崩れ落ちた。クロシェとフィロは、ディスティールは幼いころ吸血鬼に故郷を滅ぼされていて、逃げ延びた彼女を姉妹のように支えていたことを説明する。
ディスティールに寄り添い、先に進む支えになる様を、クロシェとフィロは「橙より未来」に乗せて歌う。
剣を握ったこともないクロシェは、ディスティールを護るため騎士団に入り、吸血鬼を倒すことが彼女の騎士道であると宣言する。そしてフィロは、イーリスが自分なりの騎士道を見つけることを願うのであった。
場面はフィロとリーラが住まう部屋に。フィロに対し天邪鬼に接しつつも、素直な姿も見せるリーラ。フィロはそんなリーラを親友と呼び、本公演オリジナルの楽曲「メモワール・アンタクト」を歌いながらリーラとの出会いを優しく振り返った。森で倒れていたリーラを助け、騎士団に誘ったのはフィロであった。
いつかは遠くに行ってしまうかもと言うリーラに、「ずっとここがあなたの家」と語りかけるフィロ。「家…重いなあ」といいつつも、微笑みながら床に就くリーラであった。
第1幕を締めるのは、アンティーカ騎士団が歌う本公演オリジナル楽曲「運命前夜」。騎士団員それぞれの騎士道、秘める気持ち、明日への願いを、アンサンブルとともに歌い上げた。
このあと、アンティーカ騎士団にはどのような運命が訪れ、どのように切り開いていくのか。そして第1幕が降りた。
幕間
幕間にパンフレットを読みつつ、緊張を解いて第2幕への英気を養う筆者。会場の後ろの方で何かの声が聞こえたのだが、まさかライブ中じゃあるまいしコールが聞こえるなんて、疲れてるのかな……と思いきや、王国民が何かが書かれた手紙を観客に渡していた。
そして、休憩すべく劇場のロビーに出た人は、展示ブースに何か怪しげな手紙が撒かれていたのを見た。
これは何を伝えたいのか、これから何が始まるのか…というところで、第2幕が始まった。
Abnegatio (I) – 第2幕
「ねぇ、聞いた」という声から始まる第2幕。撒き散らされた紙に書かれた言葉をなぞるように、「騎士団の中に吸血鬼がいる」「騎士団が吸血鬼の共謀者なのか」という噂が飛び交い、街も疑心暗鬼に陥っていく。
そんな夜、街を歩くリーラに1人の吸血鬼が接触を図る。「騎士団には手を出さないほうがいい」とリーラは言うが、その吸血鬼は「騎士団に情でも移ったか」「裏切り者の吸血鬼め」「宣戦布告だよ、偽りの騎士さまへ」と言葉を投げつける。騎士団のリーラは、実は吸血鬼だったのだ。
リーラと吸血鬼のやり取りを1人の騎士団が目撃してしまっていた。それは、瀕死のリーロを救い、騎士団に勧誘し、今では親友であるフィロである。
フィロが立ち去った後、「お前の居場所は最初からどこにも無いんだよ」と言い消えた吸血鬼に、「そんなこと、分かってる」と泣きすするリーラ。新曲「月影のアンシェネ」の歌声が、彼女の、いつかは吸血鬼であることが知られてしまう運命と、それでも騎士団で過ごす日々が1日でも続いてほしいという望み、そして大切な仲間のために騎士団を去るという決意を乗せて、満月の夜に悲しく響く。
リーラが部屋に戻ると、先ほどの話を聞いていたフィロが待っていた。フィロがその真意を聞こうとしたところ、リーラは本心を隠し「吸血鬼なんだ、私」と道化のように告げ、そして騙すように襲おうとする。それに対し、フィロは吸血鬼であってもリーラを信じると語り掛けるが、その優しさにリーラは「私は……かいぶつだ」と告げ、部屋を出ていってしまう。
それでもリーラを信じると、フィロは「浮動性イノセンス」を一人で強く歌う。
そして、ドアの向こうにいるリーラに「いつでも帰ってきてね」と語りかける。
リーラはひとり城壁に立ち「愚者の独白」を歌唱し、フィロの幸せを祈るのであった。
舞台は再び街へ。七草さん演じる王国民の娘が「吸血鬼がまた出たんだってね、騎士団の中」と街に噂を流す。
そして、仮面で目元を隠すと、「私たち、何か悪いことしたかな?人間だって動物を殺して肉を食べるのに。私たちは血しか体が受けつけない」と続け、吸血鬼が人を襲う事の正当性を語り始めた。そう、彼女も街に潜む吸血鬼であった。
「同胞たちよ」という彼女の合図に従い、吸血鬼たちは街の民に襲い掛かる。
そんな状況に騎士団のディスティール、クロシェ、フィロ、イーリスの4人も出動。リーラの姿は見えないが、フィロは「見守りに行ってた、はず」と他の面々に彼女のことを隠すように説明する。
そこに2人の吸血鬼が現れ、騎士団は交戦する。イーリスは「話し合うとか、できないのですか?」と訴えるが、ディスティールは「かいぶつ相手に、そんなことできないだろ」と一蹴する。
楽曲「THE LAST PRIDE」を口ずさみ己を奮い立たせるアンティーカ騎士団。
ディスティールが1人を倒すが、もう1人がフィロに襲い掛からんとする…というところで、リーラが駆けつけ、身を挺して彼女を護ったのだ。
リーラは逡巡するも、他の騎士団員が力を合わせ、ディスティールの剣がもう1人の吸血鬼の心臓も貫いた。
フィロが「【この国を脅かしていた】吸血鬼はこれで全員討伐したはず」と告げたところで、ディスティールとクロシェは任務から解放され騎士団の宿舎に戻る。
しかし、先ほど戦場に駆けつけたリーラは、宿舎とは別の方向に行こうとする。
フィロの「どこに行くの」という問いに、優しくも寂しい顔をして「ありがとう。さようなら」と告げ、立ち去ってしまった。
その様子を見てなのか、イーリスはフィロを同じ方向へ向かい、「その手は届かない。届けたくても受け取る用意はない。思いは空を切り、やがて地に落ちた。」と、今回の顛末をまとめたのであった。
本公演のフィナーレは、アンティーカ騎士団の5人が歌いアンサンブルの5人がコーラスで支える「銀翼のアヴニール -become the brave-」。第1幕冒頭の叙勲式の時に歌われた、勇ましい「銀翼のアレジアンス -blade of truth-」とメロディーは共通する部分が多いが、ゆったりとしたテンポで歌われるこの楽曲はもの悲しさも感じさせる。悲劇を生み出す憎しみと拒絶を溶かして、光り輝く空を迎えることを願う歌。
しかし本公演では、吸血鬼の脅威は消え平和は訪れたが、孤独は残ったままであった。
なお、カーテンコールの後には出演者によるトークが繰り広げられた。演技の話あり、レッスンの裏話ありと、各人各ユニットの活動が垣間見え、本編とは異なり和やかな空気が会場を満たしていた。
Odium (II)
公演2日目の昼に上演されたのは「Odium (II)」。「Odium」とはラテン語で「憎悪」という意味だ。
本公演も、物語はイーリスのアンティーカ騎士団叙任式から始まる。イーリスの指導係にリーラが就き、祝賀会の最中に街が吸血鬼に襲われ、追い払った後、今回はディスティールとクロシェの居室で2人の会話が始まった。
吸血鬼を討伐しきれなかったショックも休息をとり落ち着いたディスティール。先ほどの戦で逃がしてしまった(斑鳩さん演じる)黒髪の吸血鬼に心当たりがあるという。それは、ディスティールの故郷を襲った吸血鬼ではないかということ。そして彼女が他の吸血鬼を統べる存在であると推測すると、ディスティールは黒髪の吸血鬼への復讐を誓い、「abyss of conflict」を激情を込めて歌い、舞う。
ディスティールは深淵の先にヒカリを見つけることはできるのだろうか。
そしてクロシェもまた、ディスティールのためならばなんでもすると口にするのであった。
幕間後の第2幕。この物語の運命の日を迎えた。リーラに黒髪の吸血鬼が接触するところを騎士団の1人が目撃してしまった。それは、騎士団長・ディスティールの妹のように大切にし、守り抜くと誓うクロシェ。
フィロが立ち去った後、黒髪の吸血鬼に「お前の居場所は最初からどこにも無いんだよ」と言われたリーラは、「そろそろ潮時か」と諦めの言葉を口にするのであった。
一方そのころ、吸血鬼への復讐を誓うディスティールは魅入られるがごとく憎悪に取り込まれようとしていた。それはあたかも楽曲「Black Reverie」で歌われる世界のように。

そこにクロシェが駆け込んできて、リーラが黒髪の吸血鬼に「吸血鬼だ」と言われたとディスティールに告げた。それを聞いたディスティールは今まで可愛がっていたリーラに裏切られたと思い、「吸血鬼を殲滅する」と宣言をしてしまう。クロシェの静止によりいったんは落ち着くも、リーラへの怒りは消えなかった。
そんなディスティールを見て「うちが守るからね!」と改めて誓うクロシェ。しかしそこで歌われる楽曲「秋の終わり、僕の記憶」は、ディスティールのリーラへの憎しみが取り返しのつかないところまできてしまったことの、悲しい叫びに聞こえるのであった。
(七草さん演じる、ここでは区別するために緑髪の、と呼称する)吸血鬼の号令のもと、他の吸血鬼も街への襲撃を始める。
討伐に集まった、ディスティール、クロシェ、フィロ、イーリス。そして遅れて到着するリーラ。そんな騎士団に対し、黒髪の吸血鬼と共に現れ、「吸血鬼がお仲間と噂の騎士団さん」と煽り立てる緑髪の吸血鬼。
「私の故郷を襲ったのは貴様か!」とディスティールが問うと、「いちいち滅ぼした場所なんか覚えてねーよ」と流す黒髪の吸血鬼。その返答に逆上したディスティールは、「剣の誇りを」という号令で、騎士団員に吸血鬼の殲滅命令を出す。様々な思いで「剣にかけて」と応える団員たち。
楽曲「Killer×Mission」を歌う中、騎士団の銀剣と吸血鬼の剛腕が交わりあう。
緑髪の吸血鬼を一刺ししても怒りが収まらない騎士団長に、イーリスに「いったん落ち着きましょう」と止めてもその手を払いのけ、黒髪の吸血鬼への攻撃を止めない。
そこで黒髪の吸血鬼は「吸血鬼は皆殺しねぇ」と言いながら、リーラの背中を抑え、「こいつは吸血鬼だ」と言い放つ。
挑発に乗ってしまったディスティールは、「信じた私がバカだった」とリーラに襲い掛かる。
「リーラ、どうして」と叫ぶフィロにリーラは必死に「違う」とだましていた訳ではないと弁明をする。しかし、激高したディスティールにその声は届かない。
「もうたくさんだ、かいぶつめ!」と言い放つと、黒髪の吸血鬼の心臓を剣で貫いた後、リーラの体も同じように貫いた。
「私たちは勝ったんだ、吸血鬼に!」と宣言するディスティール。イーリスが「団長、あなたは」と話しかけるも、「騎士団の行いに間違いはない!」とクロシェに同意を求め、クロシェもそれに応じる。
「こんなの、違う」と走り去るイーリス。そして、「ごめん」とだけ呟いて絶命したリーラに、フィロはただ泣き尽くすしかなかった。
そしてイーリスはこう語った。「心がそこになければ、気づくことは無いだろう。正しさは人それぞれなのだから」
Cupiditas (III)
千秋楽のサブタイトルは「Cupiditas (III)」。「Cupiditas」とはラテン語で「欲望」「貪欲」という意味を持つ。
イーリスのアンティーカ騎士団叙任式から始まる物語。祝賀会の最中に街が吸血鬼に襲われ、追い払った後、今回はイーリスがひとりでこれまでを振り返るシーンになった。
各団員への印象を語った後、「人と暮らすのは、大変なところもあるけれど、一日一日重ねてお互いを知っていく。これこそが共生、なんじゃないかな」と他の人への興味を示す。その先に何かが見つかるのではということを期待しながら。
幕間後の第2幕では、今回もリーラに黒髪の吸血鬼が接触。そしてそれを騎士団の1人が目撃してしまった。今回目撃したのはイーリス。
お前の居場所は最初からどこにも無いんだよ」と言い消えた吸血鬼に、「そんなこと、分かってる」と泣きすするリーラ。
吸血鬼であることを騎士団員に告白すべく、その様子をイメージするリーラ。しかし想像の中の団員たちは吸血鬼である彼女を否定する。
そんな中現れたイーリスは、お腹が空いていないかと声をかけリーラの気を遣うが、触れられたくない所を探られたのか、リーラからイーリスを拒絶し、その場から立ち去る。
ひとりになったイーリスは、本公演オリジナル楽曲「Once Upon a Secret」にて、彼女自身の秘密を歌にのせ語る。彼女は人間と吸血鬼をそれぞれ親に持つのであった。しかし両親はそれを、呪いではなく未来への贈り物だと彼女に伝えた。よりよい未来を、平和を、愛を欲しがることを恥じるなという教えを胸に抱き騎士団に入ったイーリスは、その認識を再確認し、再びリーラと向きあう。
翌日、イーリスがリーラに差し出したのは、グラスに入った血。グラスを持つ手に身に着けた腕輪は血に染まっていた。
人間と吸血鬼の共生を願うイーリスは、吸血鬼と告げることで今ある生活を失うことを怖がるリーラを、楽曲「ブレイク・アウト・セレンディピティ」にて叱咤激励する。
リーラも共に歌うことで、螺旋を抜け出し空を目指すことを選ぶ。
「私は吸血鬼。だけど、かいぶつじゃない!」と、本当の自分で騎士団員に接することを、騎士の誇りを剣にかけて誓った。
リーラも含めた騎士団5人で吸血鬼の襲撃に備えようとしたところに現れる黒髪の吸血鬼を含む2人。「吸血鬼とお仲間の騎士団さん」という煽りも、リーラには通じない。
「騎士の誇りを」「剣にかけて」との号令で討伐戦が始まった。
「私の道は私で決める」と宣言するリーラは、背後からの攻撃で大きな傷を負うも、吸血鬼の持つ再生能力ですぐに回復をした。
その様子を見てうろたえる騎士団員に対し「私は吸血鬼だ」と述べるリーラに、騎士団長のディスティールは騎士団員である真意を問う。「私がかいぶつだとしても」ディスティールの教えてくれた騎士道を信じ、そして身を挺して守ってくれたリーラの姿を見て、ディスティールも改めて自分の騎士道が唱える「寛大さ」を再認識。
イーリスは黒髪の吸血鬼へ「本当は話し合いで解決したいのだけど」とさらなる願望を告げるも、「これが私の騎士道」と襲い掛かる吸血鬼を抑え込み、最後はディスティールの回転切りからの一突きで、吸血鬼を討伐することができた。
出自など関係ない、その心が騎士団だと、あらためてリーリスを受け入れる団員たち。ディスティールが「騎士の誇りを」と号令をかけると、クロシェ・フィロ・イーリスに続き、リーラも「剣にかけて」と応えるのであった。
イーリスが望む人間と吸血鬼の共生の道、騎士団の皆が見出した違うものを憎しむのではなく受け入れるという道は、欲張りな夢なのかもしれない。しかし、そんな道も楽曲「Migratory Echoes」で「一緒に歌おう」と歌うアンティーカ騎士団ならば、叶えられるのかもしれない。それは、この物語を見ていた観客や配信視聴者も「一緒に歌おう」と歌っていたことからも証明できよう。
フィナーレの「銀翼のアヴニール -become the brave-」も、Abnegatio (I)の時は叶わぬ夢に聞こえた詞が、今では彼女たちの道しるべの歌のように思える。第1幕の「とある英雄たちの物語」で歌われた争いだって、過去の歴史になったのだから。
なお、千秋楽であるCupiditas (III)では、カーテンコールの後、キャスト&スタッフロールが流れた。アンティーカやアンサンブルメンバー、本公演の原案を務める御子柴 宏さんや雨竜静香さんなどの名前が上がると、歓声や拍手があがり、最後まで盛り上がった。
……と思いきや、最後の283プロダクションのロゴの後に「アンティーカ」のユニットロゴが表示され、楽曲「バベルシティ・グレイス」のイントロが流れると、観劇中は節度ある行動をしていた観客から大きな声が。
舞台衣装ではなく、いつものユニット衣装を着てパフォーマンスをするアンティーカ。定番の大サビの「アンティーカ」コールは、アンティーカ騎士団の号令「剣にかけて」と同じように会場中に響いたのであった。
舞台の上の役者を信じるために、様々な「存在」の境界線をぼやかす演出
アンティーカは、ゲームをはじめと様々な分野で展開される「アイドルマスター シャイニーカラーズ」に登場するアイドルユニットだ。
そんなアイドルたちを、「スクリーンに映し出されたシャイニーカラーズの登場人物」から、「自分と同じレイヤーで存在し、活躍するアイドル」とより強く感じる・信じるために私たちはこのようなxRパフォーマンスを会場で、あるいは配信で見ている。
今回の公演は、「ライブ」ではなく「ミュージカル」という形式をとっている。つまり、ステージにいるのは、「騎士団のヴェール – Veil of Order –」という劇中の人物である。この時点で、「劇中の人物かどうか」という問いは無くなり、純粋にリーラを演じる田中摩美々さんを、ディスティールの演じる白瀬 咲耶さんを感じることに集中できた。これはなかなか面白い仕組みであった。
本公演ではさらに、様々な「存在」の境界線を無くす工夫が見られた。
まずベースにあるのは、スクリーンの中で描かれる背景が、極力「舞台セット」であるということ。叙任式が行われた騎士の間も、騎士団員が語らう居室も、リーラの秘密が明かされる場面の城壁と月夜の書き割りも、吸血鬼との戦闘が行われた街の風景も、CGで瞬間的にでてくるのではなく、きちんとセットとして舞台袖や天井から動いて、そして背景が作られていった。この丁寧な描写が、暗転時に舞台袖にはけるアイドルとあわせて、アイドルたちを地に足のついた存在にしてくれた。
一方で、幕間や第二幕では、舞台パフォーマー(春日さん、椎名さん、辻さん)が客席の間を歩き手紙を配り、あるいは吸血鬼に襲われるというシーンが見られた。役者がは舞台上のスクリーンだけでなく、客席で気配を感じる距離にもいるという実感が、これまた「存在」の境界線を惑わせてくれた。
そんな、幕間に配られた手紙。劇中のアイテムを手にすることができるというのも舞台と客席との境界線を壊してくれた。と同時に、Abnegatio (I)後に手紙がロビーにばらまかれていたというSNSでの投稿で知った観客が、Odium (II)では幕間になった直後に我先へとロビーに集い、混雑をみせた。さらに、Cupiditas (III)では配られた手紙を観客同士でシェアしたり、あるいは実際に声を上げて読み上げたりする様子も見られた。まさに噂を拡散させていく様を己の身をもって実現させていたのである。
冒頭にある幕外での鈴木さんと郁田さんのやり取りについて。「公式物販」「ネタバレ」など劇外の用語も使い、はたまた「モーニングを食べてきた人」というアンケートをしつつも、「騎士さま」や「叙任式」という劇中の言葉を織り込んでいくなど、観客の意識を段階的に劇中に入り込むような役割を果たしていた。

騎士団員の「騎士団の誇りを」という号令の声にあわせて、観客もフラッグ付きのライトなどを振りながら「剣にかけて」と掛け声を上げる流れ。子供向け映画で光るライトが配られ、登場人物がピンチの時に振るというものに近い行為ではあるが、筆者はやっているうちに次第と馴染んてきた。Cupiditas (III)の最終決戦で5人が揃った時の号令には、5人を応援する気持ちで声を上げたし、リーラを迎えた時の最後の号令は、リーラを祝福する気持ちで「剣にかけた」と口にした。この、演者にあわせて声をあげライトを掲げるという行為も、舞台の上にいる彼女たちとの間にある壁を壊す行為であろう。
最後に、先に挙げた本作の原案者である御子柴 宏さんと雨竜静香さんについて。本作において、283プロダクション側からライターを指名し、原案だけでなく脚本や演出面でも参加してもらったとのことで、田中さんと白瀬さんは役作りの上でも協力を受けたという。
御子柴さんと雨竜さんはゲーム「アイドルマスター シャイニーカラーズ」のイベントコミュ(=ストーリー)「かいぶつのうた」に登場する人物である。詳細は実際に当該コミュを読んでいただくとして、このコミュを読んだ「プロデューサー」と呼ばれるゲームのプレイヤーならば、この2人がアンティーカと一緒に今回の「騎士団のヴェール – Veil of Order –」を作り上げることができるだろうと納得できるだろう。
いや、正確に言うと、「アンティーカ」や「アンティーカのプロデューサー」はその納得における背景をそれぞれ部分的にしか知り得なく、「プロデューサー」と呼ばれるゲームのプレイヤーだからこそその納得に辿り着くのかもしれない(人の心のすべてを知ることが正解とは限らないが)。
このように、本公演では様々なレイヤーの存在と様々な視点が混じり合い、それぞれの境界線をあやふやにさせることで、「スクリーンの中に描かれた存在」から、「自分と同じレイヤーの存在」として、彼女たちのパフォーマンスに対峙できるようにしたのではないだろうか。
それは(決して敵対関係ではないけれど)、人間と吸血鬼との共生にも近いのかもしれない。
本公演のセットリストは下記の通り。
本公演のxRストリーミングのアーカイブは、定点カメラによる映像も含め、2026年2月1日まで有料配信されている。 また、本公演のオリジナル楽曲を収録したCDは2026年3月11日に発売される。
THE IDOLM@STER™& ©Bandai Namco Entertainment Inc.
(TEXT by tabata hideki)
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