
XRゴーグルを、ゲームやメタバースではなく、推しのトークを見るためにかぶる。そんな使い方は広がるのでしょうか。
EOS VR SYSTEMを用いた、VR180によるLIVE配信「キミと虹コン【245mm】」がスタート!
— 虹のコンキスタドール (@2zicon) June 24, 2026
本日20:00〜プレ配信を実施!
MCは的場華鈴・伊藤舞依💛💙
表情や仕草、声の間まで楽しめる30分間の3DVRトーク番組📺
これまでの配信にはない新しい視聴体験をお届けします🌈… https://t.co/aC7JmHJUzm pic.twitter.com/8eY1QNAL6y
日本の女性アイドルグループ「虹のコンキスタドール」による3D VRトーク番組「キミと虹コン【245mm】 」は、その可能性を測るための実証実験です。CG/映像クリエイティブ企業であるILCAのスタジオから虹のコンキスタドールのメンバー2人が出演。キヤノンのEOS VR SYSTEMで撮影したVR180映像を、DeoVRとYouTubeで全15回ライブ配信することにチャレンジしています。
今回の配信で使われたのはフルサイズミラーレスカメラ「EOS R5 C」と、視野角190度のVR撮影専用レンズ 「RF5.2mm F2.8 L DUAL FISHEYE」、そしてXR・メタバース総合展のキヤノンブースで展示されていたEOS VR SYSTEM向けのリアルタイム変換アプリです。これによりVR180の立体視映像を、ライブ番組として届けられるようにした点が注目されます。
EOS VR SYSTEMをライブ番組の制作フローへ

EOS VR SYSTEMは、1台のミラーレスカメラに装着した2眼レンズで撮影した映像をVR用に変換し、Meta Quest 3/3Sや、PICO 4 UltraなどのXRゴーグルで自然な奥行きを持つコンテンツとして見せるシステムです。従来は撮影後にPCで変換処理を行い、編集、書き出し、アップロードを経て公開する流れが中心でした。

今回の取り組みは、HDMI経由でEOS VR SYSTEMで撮影した映像を配信用PCに入力。リアルタイム変換アプリ(ドライバー)とOBSなどの配信環境を通じて、YouTubeやDeoVRで配信します。このシステムにより、リアルタイムで流れる3D VR番組として楽しめます。
このシステムの最大の利点は、8K映像を編集するためのPCを必要としないところ。また、難解な編集アプリの操作を覚えなくても大丈夫です。HDMI-USBキャプチャーユニットなどで受け取った4K 30pの映像をそのまま配信できるから、EOS VR SYSTEMと、一昔前のミドルクラスゲーミングノートPCのスペックがあればVR180による配信ができます。
なぜ2人のトーク番組なのか

VR180を使ったアイドルコンテンツでは、出演者をXRゴーグルをかぶった視聴者(カメラ)から近い距離で見せる表現そのものは珍しくありません。しかし基本的にはセンターポジションを中心に捉える視点が中心。メンバーが多いグループの場合、センターサイドや裏センターであっても、近い距離から視聴できる、という感覚が得られにくいところがありました。
今回配信がスタートした「キミと虹コン in 180」は、虹のコンキスタドールのメンバー2人が出演するVR180トーク番組です。筆者が取材したプレ配信時は、的場華鈴さんと伊藤舞依さんが登場。VR180の距離感を歌やダンスの迫力ではなく、人物同士の関係性を見せるために使っている点がポイントでした。
トーク番組では、視線、相づち、笑い方、相手の言葉を受けた反応など、細かなやり取りが魅力になります。カメラを出演者の近い位置に置くことで、平面の画面越しでは拾いにくい空気を、奥行きのある空間として届けられます。
ステージ上の姿だけでなく、メンバー同士の雰囲気や、組み合わせごとに生まれる反応も重要な推し活コンテンツになる現在、VR180でその魅力を高められることができれば、EOS VR SYSTEMの魅力にもつながるでしょう。
制作現場では視点設計が品質を左右する
VR180ライブ配信は、通常の2D配信と同じ感覚では作れません。立体視を前提にする以上、カメラの高さや出演者との距離が、視聴時の印象に直接影響します。
カメラが高ければ出演者を見下ろす視点になり、低ければ見上げる印象になります。出演者の座高、テーブルの高さ、レンズと被写体の距離を合わせることで、番組として違和感の少ない視点を作る必要があります。

今回は、成人男性が椅子に座ったときの高さに合わせてセッティングしたそうです。狙いは、虹のコンキスタドールのメンバー2人と同じテーブルについて、彼女たちの話を間近で聴いているという感覚を味わってもらうとのこと。
なお定点カメラでの撮影となるため、6DoFのXRゴーグルを使っても目線の高さや演者との距離を変えることはできません。そのためカメラのセッティング位置はユーザーからの要望の強さに応じて変更する可能性もあります。このあたりも実証実験の意味合いが含まれていると考えていいでしょう。

照明も通常の配信以上に気を使う要素です。XRゴーグル内では、暗部のノイズや背景の粗さが没入感を薄れさせる原因となります。被写体を明るく見せるだけでなく、視界に入る空間全体の明るさをどう整えるかが重要です。

そこでキヤノンのイメージング事業本部 畠山泰裕氏は、APS-Cサイズセンサーのミラーレスカメラ EOS R50 V+視野角144度のRF-S 3.9mm F3.5 STM DUAL FISHEYEの組み合わせもオススメできると話します。
RF5.2mm F2.8 L DUAL FISHEYEを用いることでVR180の全域を撮影・配信できます。空間の広がりを伝えやすい一方で、スタジオの照明機材や見せたくない部分まで入り込みやすくなります。そこでRF-S 3.9mm F3.5 STM DUAL FISHEYEを用いることで、明るさを揃えるエリアを狭めることができること、そして比較的低価格(ボディとレンズ合わせて30万円以下)で取り組むことができるメリットがあるそうです。
フルサイズ構成による高画質と、よりコンパクトな構成による運用しやすさをどう使い分けるかは、今後のVR180ライブ配信機材を考えるときに重要となりそうです。
DeoVRとYouTubeを併用する意味
今回の配信ではDeoVRとYouTubeが使われています。配信コンテンツをXRゴーグルで3D VRとして見る場合はDeoVRアプリを使い、スマートフォンやPCからはYouTubeでも視聴できます。
この構成は、XRゴーグルを持っているファンだけに入口を限定しないためのものです。とはいえ、企画の中核となる体験はDeoVR+XRゴーグルによる視聴です。
プレ配信時に筆者が体験したときの感覚は、近すぎる。思わず「近っ!」と言葉がもれてしまったほどでした。「成人男性が椅子に座ったときの高さに合わせてセッティング」というのも、眼前にアイドルがいるという実像感を際立たせている演出として極めて有効でしたし、HDMI経由による4K映像では解像感が足りないのでは? という懸念も、Meta Quest 3を使っているぶんであれば十分なパフォーマンスが出ていると実感しましたね。
ライブ配信で残る課題
リアルタイム変換によってVR180をライブ配信できるようになっても、課題は残ります。
ひとつは遅延です。プレ配信時はだいたい30秒程度の遅れがありました。画質・安定重視のセッティングであればよくある遅れですが、視聴者からのコメントを受け取りレスポンスしていくトーク番組にする場合は注意が必要です。
そして、そのコメントの入力・確認がDeoVR+XRヘッドセットだと難しいという現状もあります。現在のところは鼻部分の隙間から手元のスマートフォンの画面を見て入力する、というアクロバティックな手段しかありません。
この課題に対しては、音声によるコメント入力や別デバイスとの連携、コメント参加を前提にしない番組設計など、複数の方向性が考えられます。特にトーク番組では、コメントをどこまで拾うかによって番組の性格が変わりますから、このあたりも実証実験中にテストされていくのかもしれません。
EOS VR SYSTEMは推し活配信の制作手段になるか

キヤノンのEOS VR SYSTEMは、これまで高品質なVR180映像制作のためのシステムとして使われてきました。リアルタイム変換アプリが加わったことで、その用途は収録コンテンツからライブ番組へ広がる可能性が見えてきました。
アイドル番組に限らず、ファン向け限定配信、企業の発表会、教育や研修、インタビュー番組など、人物の表情や空間の距離が意味を持つコンテンツは多くあります。リアルタイム変換と配信ワークフローが安定すれば、VR180は撮ってから見せる映像だけでなく、「その時間に参加する番組」の制作手段になり得ます。
EOS VR SYSTEMが次に問われるのは、映像の品質だけではありません。ライブ番組の制作手段として、どれだけ扱いやすく、どれだけ継続的に使えるか。そして、ファンがXRゴーグルをかぶってまで見たいと思う番組をどう作っていくか。
前述したように、「キミと虹コン【245mm】 」は全15回の3D VRトーク番組です。VR180に合うトークの形を探りながら、企画内容を変えながら改善を繰り返していくと考えられます。VR180の良さは、写真や通常の動画だけでは伝わりにくいからこそ、番組を重ねる中で、どのような企画がHMD視聴と相性がよいのか、どのような導線ならファンが参加しやすいと感じるのか、その実験の現場を目撃できるという楽しさもあります。
(TEXT by 武者良太)
●関連リンク
・EOS VR SYSTEM
・キヤノン
・虹のコンキスタドール(公式サイト)
