
ネットシーンから生まれた音楽・イラスト・映像が集結するクラブイベント型のミュージックアートフェス「NIGHT HIKE」(ナイトハイク)が、「NIGHT HIKE 2026 in 幕張」として10月31日(土)と11月1日(日)に千葉県・幕張メッセの展示ホール9、11で開催された。
同イベントは、音楽やイラスト、映像などインターネットカルチャーを軸にしたミュージック&アートフェスだ。2023年8月に東京・渋谷WOMBで初開催されると、渋谷の複数か所のライブハウスを使ったサーキットフェスや、国内外でのツアーライブを敢行し、約3年にわたって規模を広げながら開催し続けてきた。今回の「NIGHT HIKE 2026 in 幕張」は、過去最大となる初の1万人規模ということもありシーンから注目を集めていた。
今回PANORAでは、2日目に出演したバーチャルシンガー4組(Kizuna AI、花譜、名取さな、KMNZ)のアクトにスポットを当てるとともに、その他の魅力的なライブアクトについても振り返りたい。
KMNZ「牙を研いだ」3人組が、ライブ序盤の幕張を揺らす
午前11時に開場し、Hike Stageでは水槽、Night Stageでは和田たけあきのステージで、それぞれスタートした2日目公演。
12時45分からNight Stageでスタートしたのは、RK Musicに所属するKMNZだった。

「NIGHT HIKE」への出演は、今年5月の「NIGHT HIKE -scramble- ‘26」以来、約半年ぶり2度目。クラブイベントを自主イベントとして開催しているだけでなく、対外イベントへの出演も豊富で、ここ数年は数々のライブイベントに出演している引っ張りだこの3人組だ。
この日は、今年7月リリースの「Synchronizer」、4月の「POPSTA」といった新曲を皮切りに、ちょうど1年前にリリースした「Ride On」など、3人組になって以降の楽曲をメインに披露。ふだんのしっかりとした衣装とは違い、上はTシャツ、下はショートパンツというラフな格好で、バーチャルDJ台の後ろで盛り上げながら歌っていく。
「こんにちは! KMNZです! よかった~、人多くて~!」と笑いながらMCをスタートさせると、「NIGHT HIKEさん、やっちゃってますね。わたしたちケモノ系な3人組として活動していますけど、今日は11月1日……ワンワンワンってことじゃないですか!」と、自身の楽曲内のワンフレーズやプロフィールに引っ掛けたMCで歓声が起こる。
「半年ぶりくらいの出演になりますが、私たちも牙研いできました。聞いてください」と披露したのは「GROWL」だ。続けて「META FICTION」を披露していく。

「Synchronizer」では3人の姿を見せていたが、「POPSTA」ではミュージックビデオやリリックムービーを織り交ぜたVJで会場を彩っていく。会場を沸かせていたのは、強烈なベースとキック、そして3人のラップだ。
特に「GROWL」「META FICTION」では、鼻息の荒いシマウマ……ではなくケモノ3匹のラップが光る。「ここで韻を踏んでいる」という箇所で明瞭かつ強めに発声し、早口なパートも3人は難なくラップをつなげていく。
それでいて、観客が少しでも盛り上がりに欠けたように見えれば、「ハイ! ハイ! ハイ!」とジャンプやクラップを求める。多くの会場で経験値を積んできた3人は、いまや“現場巧者”と言ってもいい。
「今からここを、屋外ステージにしまーす!」とMCして始まった最終曲「DROP IN」では、再度KMNZの3人がスクリーンに登場。4つ打ち&ドラムン・ベース、そしてドラムロールとともにブチ上がっていくパーティソングに、3人と観客は飛んで跳ねてこの瞬間を楽しむ。
バーチャルDJ台の前へ歩いて「DANCE! BOUNCE! DANCE! BOUNCE!」と会場を煽り、最後は「DROP IN THE WORLD!」の掛け声とともに、解放へと向かって踊るのみ。デッカい会場(幕張)が揺れたのは言うまでもない。

楽曲を終えると、バーチャルDJ台の裏に隠れ、「あとはみんなで謝っといてください!以上!KMNZでした!」と言い残して終演。ライブ序盤にして、Night Stageにはかなりの観客が詰めかけ、前から後ろまで全員を飛び跳ねさせ、笑顔にさせたこの3人を怒る者など、言わずもがな誰一人いなかった。
●セットリスト
1. Synchronizer
2. POPSTA
3. Ride On
4. GROWL
5. META FICTION
6. MiMiMi
7. Banger!!!
8. DROP IN

名取さなは、オールタイムベストかつ今の自分を凝縮したステージに
14時40分を過ぎ、Hike Stageの中盤を任されたのは名取さなだ。名取さなは「NIGHT HIKE」初回公演にシークレットゲストとして出演したことがあるが、「出演者:なとりさな」としてクレジットされたうえで出演するのは初めてのことだ。
実は名取さなの初のワンマンライブ「サナトリック・ウェーブ」には、「NIGHT HIKE」の制作スタッフが多数参加して作り上げられており、以前より両者には関係性があった。そんななかで、ついに彼女が「NIGHT HIKE」の舞台を踏むことになったのだ。

とはいえ、名取さなの視点から見るとそのハードルは高かったろう。1曲目に自身最大のヒットソングといえる「モンダイナイトリッパー!」をいきなり幕張メッセに投下し、観客のテンションをグンッと上げる。「名取を知ってる人も知らない人もおっきな声を上げて!」と途中で煽れば、観客のボルテージも上がるというもの。
曲の終わりにノイズ音が走り、「NIGHT HIKE、幕張、接続します」という機械じみたガイドボイスとともに、新曲「秘密鍵」が披露された。10月11日に配信が始まったばかりということで、このステージが初披露となるわけだが、幕張メッセの広々としたステージに響くのは、あの不規則感あるグルーヴではなく、ストリングスとそれに乗るような可憐な名取のボーカルだった。
「いっぱい曲を詰め込んだので、しゃべりすぎないようにしないと」と切り出し、この日のライブには技術協力とともにステージに立っていること、そして集まった観客と「NIGHT HIKE」への感謝を告げる。

そこから披露したのは、ダジャレソングの2連発「だじゃれくりえぃしょん」「だじゃれーぞんでぇとる」。ネットミーム、小ボケ、リスナーとのからかい合い(プロレス)、そしてダジャレまで、インターネット・コミュニケーション強者ともいえる彼女らしさの詰まった2曲であり、ユーモアもポップさもマシマシのアッパーな2連打に、集まった観客は笑顔になっていた。
スペシャルゲストとしてKAMITSUBAKI STUDIOの花譜を召喚。以前から名取さなの企画配信や「名取さなの毒にも薬にもならないラジオ」などで共演してきた2人だが、ライブステージで歌唱するのはこれが初めてだ。「俳句には、いく」とダジャレを言いながらMCする花譜、笑みを見せて嬉しそうだ。
2人が歌うのは「ノーゲスト、イン、ザ、テアトロ。」。先ほどまでのポップでおバカなムードから一転、孤独を憂う心模様を歌う曲だ。2人とも細く芯のある歌声で、切なさに振った歌唱に観客もグッと耳を傾ける。

花譜がステージを去り、1人になると、「本日はなんと! 新曲を持ってきました! オタクたちも知りません!」と新曲があることを発表。それだけで驚きの声が上がったが、作曲はこの日のイベントに出演し、「秘密鍵」でも作曲に参加している原口沙輔と明かされると、観客の期待が高まるのが伝わってきた。
実際に披露された楽曲は、ドラムのリムショットが心地よいリズムを刻みつつ、ストリングス/ホーン隊/ベースがゆるく混ざりあう、ふわふわなポップソング。名取のボーカルが混ざると、名取さな流モンドミュージックといった具合のグッドミュージックだ。
最後の楽曲は「きらめく絆創膏」。メインとなるギター/鍵盤のリフと名取のボーカルとがつながりあうセンチメンタルなロックソングだ。
「NIGHT HIKE」にはさまざまなカルチャーを出自にしたアーティストが出演するが、根幹の部分にはクラブイベント/クラブミュージックのDNAがある。だが名取はそういった一面やクラブサウンドに寄せることはなく、原曲通り&本来あるべき名取ワールドを全力で展開した。
「バーチャルシンガー 名取さなとは?いまの名取さなをまとめました!」と言わんばかりの、彼女のオールタイムベスト&新曲披露のパフォーマンスを、集まった観客も大いに楽しんだことだろう。「ありがとうございました!名取さなでした!」と深々と一礼し、手を振って笑顔でステージを後にした彼女に温かな拍手が送られたのが、その証拠だ。
●セットリスト
1. モンダイナイトリッパー!
2. 秘密鍵
3. だじゃれくりえぃしょん
4. だじゃれーぞんでぇとる
5. ノーゲスト、イン、ザ、テアトロ。(with 花譜)
6. 巡るふり(新曲)
7. きらめく絆創膏

Kizuna AI 10周年を目前に見せた“澄み切ったダンスワールド”
名取さなが熱演を終え、DJ WILDPARTYのDJアクトが終わったあと、VTuberの始祖たるKizuna AIが登場した。
Kizuna AIといえば、活動休止以前の楽曲から、インターネットシーンで注目を浴びていたトラックメイカーを起用していた。まだデビューしたばかりともいえるNor、Yunomi、Avec Avecといったトラックメイカーに、当時名を上げていたTeddyLoid、そしてCAPSULEやPerfumeを手がけた中田ヤスタカ。
ネットレーベルから頭角を現していた気鋭のトラックメイカーから、ハウスのグルーヴをポップスへとつなげる作曲家まで、当時も同じように凄みを感じていたが、いま思えばなんと豪華な顔ぶれが彼女の楽曲を手がけていたのだろうと気付かされる。
パッと華やぐシンセサウンドとベース&キックドラムのアタック感に、白を基調としたあのビジュアルのKizuna AIの明るくハイトーンな歌声がハマると、心地よさとクリアさが混ざり合い、Kizuna AIにしか生み出せない澄み切ったダンスポップが生まれる。

この日もその威力は絶大。1曲目の「Hello, Morning(Pa’s Lam System Remix)」では、左肩が大きく開いたクロップドトップスに黒いハイウエストのショートパンツを合わせたストリートファッションで歌っていく。「melty world」では、重厚なシンセサウンドとドラムロールのビルドアップからドロップへ。“あの頃のEDM/Kizuna AI”だ!と感じて大盛り上がりとなった観客は多かっただろう。
10度目となるバースデイを祝ったバースデイソング「My Love」は、「Hello, Morning」と同じNor。しかも、ところどころで似たフレーズが差し込まれている1曲で、初めて聞いたであろう観客もノリノリで踊っていった。
「NIGHT HIKEの皆さん!こんにちは!Kizuna AIといいます。私のこと知ってる人どれくらいいますか?」と聞かれると観客の大部分が手を上げ、「今度10周年を迎えます」と言うと歓声が湧き上がった。
ここから彼女は、ここ1年でリリースした「モンスターファクトリー」「KAMACHO」を披露していく。「モンスターファクトリー」はケンモチヒデフミが作詞作曲を手がけた、Kizuna AI初のハロウィンソング。「KAMACHO」は山本隼人が作詞・作曲・編曲を手がけた、2026年初のシングルだ。
大型スクリーンには同楽曲のオフィシャルムービーが流れ、トゥーン調でちょっとだけ丸みを帯びたKizuna AIのキュートさが幕張にはじけていく。「モンスターファクトリー」ではハロウィンらしく白黒のガーリーな衣装に、「KAMACHO」では白とピンクを基調にしつつより私服っぽい衣装にと、実は1曲ずつ衣装チェンジしながら歌い踊っていく。

「幕張ー! 盛り上がってる!? 声出していくよ!」と観客を煽り、披露したのは「new world」と「AIAIAI」だ。Hike Stageではステージ中央・左右に大型スクリーンが置かれていただけでなく、会場内の両端(左右)に縦型LEDスクリーンが3枚ずつ吊るされており、そのスクリーンからもカメラ映像やムービー映像が流れていた。

つまりKizuna AIの満面の笑顔をカメラが捉えると、合計9枚の巨大スクリーンに彼女の笑顔がバンッと表示される仕組みとなっている。跳ねるようにポップなEDM~エレクトロサウンド、クリアなハイトーンボイスに、彼女の満面の笑みが映し出されると、否応なくあの“澄み切ったダンスワールド”が強力な磁場となって展開される。アガらないわけがない。
「皆さんの声、しっかり聞こえてました! NIGHT HIKEありがとうございました!」と感謝を告げ、手を振ってステージを去ったKizuna AI。この日久しぶりに彼女を見たという観客、むしろ始めてみたという観客はきっと多かったはずだが、彼女のパワーに圧倒された方もいるだろう。今年12月に10周年を迎えるKizuna AI、彼女はついに普遍の魅力をまとい始めつつあるようだ。
●セットリスト
1. Hello, Morning(Pa’s Lam System Remix)
2. melty world
3. My Love
4. モンスターファクトリー
5. KAMACHO
6. new world
7. AIAIAI

花譜 ”デラックスセトリ”で臨んだHike Stage
KMNZ、名取さな、Kizuna AI、花譜と続いたバーチャルシンガーの流れも、彼女でラスト。
17時半を過ぎたHike Stage。終盤に向けてここからというタイミングで出演したのが、花譜であった。
サイン波のような音がリズミカルに鳴り、抑制の効いたシンセサウンドが周囲に立ち込めていくように広がっていく。そこからグッとハードなテクノサウンドへと切り替わり、ピンク色の瞬きとともに登場した花譜。
「こんにちは! 花譜です! NIGHT HIKE! 始めます!」
普段通りの挨拶を終えると、ハードなテクノサウンドは徐々にポップめいたサウンドに。そして「学園戦線」のイントロへとつながっていった。
あの印象的なオーケストラヒットやギター&シンセリフの重なり、そして花譜のボーカルに合わせて幕張メッセの観客が大いに揺れる。Hike Stageの客席エリアはパンパン、サビのコーラスを観客が合唱する声が聞こえてくる。
続く楽曲へ移る数秒のあいだに、花譜は両足を開き、腕を左右にピンと伸ばす。その動きを見た観客から瞬時に上がる大歓声。次に歌う曲が「過去を喰らう」だと、観客全員が理解しているのだ。
左右にステップを踏んでイントロから歌唱へ入る。生バンドではない伴奏音源が流されているわけだが、普段のライブよりもギターサウンドはいささか抑えめ、ベースとドラムスの音が若干強調されているだろうか。普段よりも心地よい疾走感、そのなかに花譜の歌声が混ざり合い、風になって幕張を舞うようだ。

「改めまして、皆さんこんばんは、花譜です」
「今日初めて見る人は?(歓声と挙手)おおぉー多いね。何度も見ている人は?(大歓声と挙手)」
「いやーNIGHT HIKE。魅力的な方ばかり、見たいステージが多すぎて、瞬間移動したり、体が3つあればなー、なんて思いますよね」
彼女らしいふわっとしたMCで観客を笑顔にし、「次は水槽さんに作ってもらった曲です」と「スイマー」へ。ベースサウンドの太く低い鳴り、シンセやアコースティックの物悲しい質感、そして花譜の儚さある歌声が幕張に滲んでいく。
水中に水泡が揺れるように動き、光が差して網目のようにきらめいて見え、途中からクラゲが現れてぷかぷかと浮いていく。そんなイメージムービーのなかで花譜が歌っていると、まるで海の中で歌っているかのようだ。

「ニヒル(椎乃味醂 Remix)」「エラーソング」とビート感ある2曲を続け、会場のボルテージをグッと上げていく花譜。「NIGHT HIKE デラックスセトリだー!!」とこの日のセトリについて観客にアピールすると、続けて「次の曲はライブで初めて披露します」と告げ、ネクライトーキーとのコラボ曲「ユーフォーを見にいこう」を披露したのだ。
ネクライトーキーの中心人物であるギターの朝日は、ボカロP・石風呂として「ゆるふわ樹海ガール」「君はいなせなガール」などの楽曲をリリースしてきた。「NIGHT HIKE」にはボカロPが多く起用されていることもあり、ボカロ出身のバンドマン・朝日が率いるネクライトーキーとのコラボ曲をチョイスした、というわけだ。
とはいえ、「ユーフォーを見にいこう」がライブで初披露になるとは。筆者はもちろん、ファンも気づかなかったのではないだろうか。観客からは、驚きに次ぐ驚きの反応が生まれていた。ネクライトーキーらしいカッティングのギターリフから始まる8ビートのロックソングに、花譜もノリノリで歌っていく。

最後に披露したのは「ゲシュタルト」。近年の花譜を代表するダンス・ポップであり、EDMやエレクトロを意識したダンスフロア向きな1曲だ。心地よいビート感に乗って、花譜も体を揺らしながらステージを動き回って歌っていく。
ハンドクラップを要求するとすぐさま観客もハンドクラップ。とんでもなく大きなクラップが幕張に響く。気が滅入ることを忘れるために、ダンスミュージックへと身を投げ出す、不都合で、不気味で、ふしだらな集合体。「NIGHT HIKE」に集まったそんな人たちをブチ上げるダンスチューンとして、きっちりと締めたのだった。
●セットリスト
1. 学園戦線
2. 過去を喰らう
3. スイマー
4. ニヒル(椎乃味醂 Remix)
5. エラーソング
6. ユーフォーを見にいこう
7. ゲシュタルト

粗品、JAMBORIDE、原口沙輔、多くの見せ場を作った出演者たち
バーチャルシンガー4組以外にも、印象的なライブを見せてくれた出演者が多くいた。
まず、霜降り明星の粗品だ。実は粗品は2020年5月にボカロ曲「ビームが撃てたらいいのに」をリリースして以降、本格的な音楽活動をスタート。これまで数枚のアルバムをリリースし、3ピースバンドとして活動している。
彼のニュー・アルバム「怪獣と鬼」は、配信サイトなどでは聴くことができない。ライブに足を運んだ人だけがゲットできる、ツアー会場限定販売のグッズとして販売される。全曲の作詞・作曲・プロデュースを自ら手がけたアルバムを、大切に、それでいて自身の集大成的作品として作り上げたようだ。
革のライダースジャケットをまとい、ギターボーカルを務め、普段のざらついた声をさらにざらつかせたダミ声で熱唱していく。
「あのとき、オレを救ってくれたインターネットに感謝を込めて、今日はやっていきます」
無駄なMCや笑いを取ることはせず、誠心誠意、ソリッドなロックソングをどんどん披露していき、すべての曲を終えると「あざした~」と颯爽と帰っていく。その後ろ姿を見送ると、YouTubeやテレビとは違う“別の”粗品を見たといっても差し支えない、印象的なライブであった。
トラックメイカー&DJとして活躍するBANVOXとSEKITOVAのDJユニット・JAMBORIDEは、さすがのパワーを見せてくれた。
2人は2023年以来、3年ぶりにJAMBORIDEとして限定的に活動を再開しており、この日はその久々のステージでもあった。マルチネレコードからそれぞれ音源をリリースし、その後トラックメイカー&DJとして活動を始めていったのも、2010年や11年のころからだろうか。
ダブステップ、EDM(プログレッシブハウス)など、その時勢で流行するエレクトロなサウンドを積極的に取り入れ、さまざまなトラックを世に提供してきた2人。BANVOXは昨年、音楽事務所・BMSGのレーベル・Bullmoose Recordsに所属することを発表し、SEKITOVAも日本中を駆け巡るようにDJイベントに出演してきた。そんな2人がDJユニット・JAMBORIDEとして降臨したのだ。

BANVOXとSEKITOVAの2人にはボカロやアニソンの楽曲制作・楽曲提供というイメージはほとんどないが、「NIGHT HIKE」の基盤/ベースとなるクラブミュージックをしっかりと表現できる2人だ。実際この日の2人が見せた選曲は、普段あまりテクノやハウス、EDMといった音楽には触れていない観客にも目を向けた、ド王道&ド名曲をリミックスした楽曲が並んでいた。
Daft Punk、Justice、Ninajirachi、Marshmelloの楽曲から、Skrillex, Fred again.. & Flowdanの「Rumble」に、The Prodigy「Voodoo People(Pendulum mix)」やUnderworld「Born Slippy .NUXX」、とどめはThe Chemical Brothers「Star Guitar」とPorter Robinson & Madeon「Shelter」といった楽曲を、ふんだんに使ったものだ。
BANVOXが日本のラッパー・Tohjiに提供した名曲「Super Ocean Man」まで流れるなど、出し惜しみなくブチ上げ続ける約30分。ハウス、テクノ、EDM、エレクトロ、ブレイクビーツ、ドラムンベース。ぶっといベースサウンド、細やかで硬質なビート、シンセサウンドは明滅するように変幻し、縦横無尽に暴れ回る。
Hike Stageの序盤から中盤にかけてのこの時間に、いささか強大すぎるボスが現れたかのような圧倒的な存在感を放っていった。

「こういう大きなステージに、今日初めて音楽を聞きにきてくれた人(パラパラと手があがる)いいね。そういうのが初めての1ページになる」
「四畳半の部屋から、この幕張のドデカイステージに来れる。俺等がそうだったように、みんなにもできると思っている。スカしたりせずに聞いてくれ! オレはマジでそう思っている!」
自室で制作していた音楽がマルチネレコードからリリースされ、一気に楽曲制作やDJをするようになったSEKITOVAとBANVOX。SEKITOVAは1995年生まれ、2010年当時はまだ15歳、中学3年生から高校1年生のころだ。自身と同じような境遇にいるトラックメイカーやDJなどほとんどおらず、周りを見渡しても“ボカロP”という言葉すら生まれたばかり、いまほど定着していなかった時代だ。

そんな時期を過ごした2人だからこそ、「四畳半の部屋からデカイステージに来れる」という言葉は、決して大言壮語ではない。この日集まった観客の中にいるまだ見ぬトラックメイカーに対する、鼓舞や励ましの言葉であり、彼ら2人の体験そのもの。なによりこれはSEKITOVAやBANVOXだけではない、この日集まったボカロPやトラックメイカーの多くが経験したステップアップの形でもあるのだ。
ライブ前に「すべてを破壊しよう」なんて言葉をSNSに投稿していたが、DJを終える直前、SEKITOVAは「おまえ(BANVOX)と一緒にやれてよかった」と肩を抱きながら声をかけていたのがとても印象的。ハウスやテクノを愛する2人による、自身らより後輩世代に捧げる継承のステージ。ハウスやテクノのフェスを、この日のような大きなステージで体験してみたいものだ。

多くの人の注目を集めていたといえば、原口沙輔のBand Setステージであろう。冒頭に機材トラブルがあったようで、スタートは10分ほど遅れた。
予期せぬトラブルで気が動転してもおかしくない状況だが、原口とドラムスのつくもやは、努めて冷静にライブに集中していた。テクノ・ポップ~ディスコ感のあるシンセサウンド&グルーヴ感を、2人編成でグイグイ編み出していく。
ボカロ曲「ラグトレイン」では、ギターを弾いて歌う原口というレアな姿も見られる。DJやトラックメイカーのイメージを持っていた人からすれば、ギターを弾く原口の姿はとりわけ新鮮だったのではないだろうか。

笑みをこぼしながら恍惚とした表情でギターやシンセを弾いていく原口、クセのあるドラムフレーズでファンキーなグルーヴ感を保っていくドラムスのつくもや。つくもやにアーメンブレイクを叩かせているあいだに、原口がフィンガードラムでビートを噛み合わせてみたり、シンセサウンドが多彩な色合いを広げた先で、カウントにあわせて深く沈むようなシンセベースとともにドロップしていくなど、摩訶不思議な原口ワールドが展開されていった。
そんな原口ワールドのなかにあって、ファンキー&グルーヴィなライブで踊る観客もいれば、行く先の見えないスリリングなアンサンブルに、踊ることを忘れて2人のパフォーマンスを見守る観客もいた。

この日のライブアクトには、彼がこれまで受けてきたさまざまな影響が見えるが、このタイミングで原口が「バンド編成」でのアクトを選んだ背景には、同世代・同時代・同じシーンにいる面々がバンド編成での活動に注力している状況があるのだろう。
出演日当日につくもやとの連名で突如リリースしたEP「フィジカル1」とあわせて、2026年秋の原口沙輔がいまどんなモードにあるのかを目に見える形で示し、集まった観客にショックを与えるアクトだった。

他にも、体調不良で喉の調子が悪かったkzによる名曲連打のDJアクト、故・椎名もたをトリビュートした鬱Pによるバンドアクト「鬱P meet siinamota」、大沢伸一と石野卓球によるレイヴ感増しましのDJアクト、そして中野雅之×小林祐介によって近年活動が活発化しているTHE SPELLBOUND × BOOM BOOM SATELLITESのトリのアクトと、刺激的なライブがこの2日目では催されていた。






NIGHT HIKEとは、直訳すれば「夜の山歩き」という意味になる。インターネットを通して誰かの曲、誰かの絵、誰かの映像に盛り上がった人たちが、決して小さくない昂りに導かれて明かりのない夜のような暗中を歩き、この日幕張メッセに集まっていた。
「四畳半の部屋から、この幕張のドデカイステージに来れる」。JAMBORIDEとして出演したSEKITOVAのこの言葉は、2日目のラインナップ全体はおろか、そういったイベントの本質を言い表していたように思う。

10年前から道を照らしてきたKizuna AI、歌を育ててきた花譜と名取さな、現場力を磨いてきたKMNZ、そして自室から音を届けてきたボカロPやトラックメイカーたち。画面の向こうで出会った音と映像が、幕張のステージでむすびつき、観客の肌を叩いたのだ。
渋谷から幕張へ。足を踏み入れた場所が大きくなっても、熱狂の根源は変わらない。さてこの熱狂は、どこへ続いていくだろうか。

(TEXT by 草野虹)
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