BOOTHとVRChat公式マーケットはどう共存する? ピクシブ×VRChat協業の舞台裏【TGS2026】

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左から北庄司英雄氏、岩田慎吾(pink)、浅田カズラ氏

9月18日(金)、東京ゲームショウ2026のVRChatブースで、トークセッション「ピクシブ×VRChat 協業の背景」が開催された。

登壇したのは、VRChat Inc. Head of Japan Growthの北庄司英雄氏と、ピクシブ株式会社 3Dビジネス室の岩田慎吾(pink)氏。ファシリテーターはフリーライターの浅田カズラ氏が務めた。

ステージに3人が並ぶと、開口一番「狭いですね」「狭いです」と笑いが起きる。そんな軽妙な空気で始まったが、テーマは9月9日に発表されたピクシブとVRChatの資本業務提携。なぜ、この2社があらためて手を組むことになったのか。約30分のトークを追っていこう。

会場の様子。関心の高さか数十人が集まっていた


なぜピクシブとVRChatは手を組んだのか

浅田 9月9日に資本業務提携が発表されました。プロモーション、イベント、アバター文化への参入障壁を下げること、クリエイターエコシステムの拡大などいろいろありますが、まず「結局、この協業の狙いは何なのか」というところを聞かせてください。

岩田 ピクシブって、イラストや小説投稿のプラットフォームとして有名な会社だと思うんですけど、「VRoid」という、誰でも簡単にアバターを作れるサービスも運営しています。あとはVRChatを遊んでいる方ならなじみが深いと思いますが、「BOOTH」という様々な創作物を扱うC2Cのマーケットプレイスをやっています。その中の3Dモデルカテゴリの年間取扱高が昨年100億円を超えました。BOOTHのアイテムって、かなりVRChatで使っていただいているんです。僕らとしては、より3Dクリエイターの裾野を広げたいし、それで遊ぶユーザーも広げたい。そのためにはVRChatさんともっと包括的にコミュニケーションできるようになるといいんじゃないか、ということで今回の話を進めました。


ここで押さえておきたいのが、日本のVRChatコミュニティの大きさだ。

2025年12月に開催された「VRChat Japan Business Experience 2025」で、北庄司氏はVRChatの市場について「アメリカが中心で、日本は2番目」と説明している。さらにVRChatからは、日本のクリエイター総数が他のすべての国を合わせた数より多いことも明かされた。


北庄司 VRChatはグローバルなサービスで、北米のユーザーが多かったりするんですけど、日本語のサポートはまだ十分ではないと思っています。日本が2番目に大きい市場になっている中で、クリエイターをどう育てていくか、どう活躍してもらうか。日本でどこと一緒にやっていくかを考えたときに、BOOTH、ピクシブさんの存在は大きい。今回、パートナーとして協業することになりました。


とはいえ、両社が手を組んだのは今回が初めてではない。


浅田 もともとパートナーシップのような取り組みはありましたよね。

岩田 そうですね。2022年くらいからです。僕が3Dビジネス室を立ち上げたのもそのタイミングで、BOOTHの名前を冠したVRChatワールドを作ったり、イベントをやったりしています。

北庄司 BOOTHのVRChat関連商品にもVRChatのロゴバッジを入れてもらっていますよね。

岩田 それも2022年当時から、4年間やらせてもらっています(当時の発表)。


アバターやファッションを手軽に作るためのVRoidおよび、売買するためのBOOTHを持つピクシブ。その3Dモデルが実際に使われる大きな場所のひとつがVRChatだ。今回の資本業務提携には、すでにユーザーの活動を通じてつながっていた2社の関係を、さらに広げていく狙いがある。


TGS出展の狙いは「VRChatを知っているけれど、まだ遊んでいない人」

いままでの東京ゲームショウにも、VRChat関連のサービスの展示はあったが、VRChat社としての出展は、今年が初めてとなる。

浅田 プレスリリースを見ると「Supported by pixiv」とあります。今回、ピクシブが出展をサポートした経緯は?

岩田 ピクシブも一緒になってVRChatをもっと伸ばしていこうとしたときに、「すでにゲームをやっているユーザーをピンポイントで狙いたい」という話を北庄司さんともしたんですね。Steamのアカウントを持っていて、ゲーミングPCを持っている。そういうユーザーさんともっとコミュニケーションしていきたいという話がVRChat社からあって、ピクシブとしても何か手伝えることがないかということで、今回ブースの企画から協力しています。


東京ゲームショウにはAR/VR関連の展示エリアもある。それでもVRChatは、一般のゲームユーザーが行き交う場所にブースを構えた。


北庄司 「AR/VRのエリアじゃないんですね」と言われることもあるんですけど、そこは僕の中では答えがあります。最近、「VRChatって聞いたことはある」「YouTubeのショート動画では見るけど、どうやってやればいいんだろう」という人が増えているんですよ。そういう人たちにここへ来てもらって、「VRChatってこんなのがあるんだ」と知ってもらいたくて、あえてここに出しました。

VRChatブースの中には、来場者がシールを貼って答える「VRChat知名度調査」も設置されていた。

ビジネスデー2日目の9月18日16時ごろに見てみると、「VRChatの名前を聞いたことがある」「VRChatをプレイしたいと思っている」にも、それなりの数のシールが集まっている。これはブースを素通りした方々ではなく、VRChatに興味をもった人々の数だ。

そして目立ったのが「VRChatをプレイしたことがある」の多さだ。結果は通路からでもよく見える。ブースに入らず通り過ぎる人にも、「VRChatって、こんなに遊んでいる人がいるのか」と感じさせるには十分な光景だった。

もちろん、会場で名前を知ってもらえば終わりというわけではない。両社は新たなワールド「アバター×着せ替えチュートリアル」も今秋に共同リリース予定だ。


浅田 日本のVRChatでは、クリエイターが作ったアバターを買って、自分でカスタマイズする文化がかなり強いですよね。このワールドも、そのあたりをチュートリアル的に説明するものですか。

岩田 VRChatって、奥に行けば行くほど面白いと思うんですよ。無限にワールドがあるし、アバターを自分で改変できるようになったら楽しみも広がる。でも逆に、徐々にVRChatを好きになっていくためのチュートリアル的なサポートは、案外少ないんじゃないかと思っています。

北庄司 新しいユーザーのためのチュートリアルワールドって、まだ足りないんですよね。ピクシブさんがこうやって作ってくれたものを、僕らとしてもちゃんとみんなに案内できるようにしたいと考えています。


VRChat公式マーケットとBOOTHは競合するのか

ここで浅田氏から、気になっていたVRchatユーザーも多そうな質問が飛んだ。BOOTHとVRChat公式の「Avatar Marketplace」は、競合するのか、しないのかというトピックだ。


浅田 ピクシブさんにはBOOTHがあります。一方でVRChatの中にも、アバターなどを販売するマーケットがありますよね。率直に言って、バッティングするんじゃないですか?

岩田 その話はSNSでもよく流れますよね。ただ、大きな違いがあります。VRChatのアバターマーケットで買ったものって、買ってすぐ着られる。それが大きな強みです。一方、BOOTHで買ったものは、Unityを習熟して、「改変」をして、アップロードして使わなければいけない。今後増えてくるユーザーを考えると、買ってすぐ使えるマーケットプレイスはかなり広がると思います。


実際、Avatar MarketplaceはVRChat内でアバターを探し、試着し、VRChat Creditsで購入できる仕組みになっている。

ここで岩田氏は、自身の趣味であるキャンプの話を持ち出した。


岩田 僕、キャンプをやっているんですけど、キャンプ場でほかの人のギアを見ると、すぐ欲しくなっちゃうんですよ。たぶんVRChatも、楽しくなってくると「改変っていいな」「Unityを勉強しようかな」みたいな欲求が出てくる。だから僕はVRChatのマーケットプレイスにはめちゃめちゃ伸びてほしい。それによってユーザーさんのアバター表現への欲求っていうのが大きくなるんじゃないかと思っています。

浅田 VRChat側としても、競合ではない?

北庄司 VRChatユーザー全員が最初からUnityを使えるわけじゃないですからね。スマホでVRChatに触れる人もいるし、好きなキャラクターのファンで、アイテムが欲しくて入ってくる人もいる。そういうときに、自分ですぐ変えて遊べるシーンも作らないと、僕らとしてはまずVRChatに定着してもらえない。そこから友達ができて、「今日かわいい時計してるじゃん」「どこで売ってるの?」「BOOTHだよ」「じゃあ買いに行こう」となるかもしれない。全員がそっちへ行くわけではないですけど、いろんな人が楽しめる世界があった方がいい。コンフリクトじゃなくて、カバーし合っているんじゃないかなと思います。

浅田 「カバーし合っている」というのは、いいキーワードですね。



「豪華なワールドを作れば人が来る」ではない

話題は、企業がVRChatへ入ってくるときの「ありがちな失敗」に移った。

浅田 企業のVRChat参入もいろいろ増えていますが、まだ広がる余地があると思います。参入する上での課題はありますか?

北庄司 インターネットの世界では昔から、「しっかりしたホームページを作って、リッチなコンテンツを用意すれば、そこに人が集まる」という考え方があると思います。ただ、VRChatでは必ずしもその考え方がそのまま当てはまるわけではないと感じています。むしろ、VRChatならではの体験やコミュニティとの関係性をどう作るかが、より重要なんじゃないかなと思っています。

浅田 なぜですか?

北庄司 VRChatって、その後の体験とか、友達をどう作っていくかみたいな場所なんです。だから場所をどんなにいいものにしても、それだけじゃ足りない。ワールドは究極、めちゃくちゃシンプルでもいいけど、その後のコミュニティを作るイベントとか、ユーザーが来て楽しめる仕組みにお金を使ってもらった方がいいんじゃないかなと思います。


北庄司氏の「ワールドを作るだけでは足りない」という話を受け、岩田氏はBOOTHが展開しているワールドの数字を例に挙げた。


岩田 ピクシブも3つのVRChatワールドをリリースしていて、合計で300万Visitsを超えています。「300万」という数字だけを見ると、マスから見れば、そんなに大きな数字じゃないかもしれない。ただ、その300万Visitsの1つ1つで、ユーザーが数十分ワールドにいると考えると、ものすごい時間、VRChatの中でBOOTHのワールドに滞在してくれている。そのような深い体験を通じて、ユーザーに好きになってもらいたい。VRChatでは、本当に長い時間いてくれるという価値をもっと知ってもらいたいです。


残り時間もわずかとなり、話は「これから何を一緒にやるのか」へ移った。


岩田 個人的には、クリエイターはまだまだ増えてほしいと思うんですよ。今、販売されるアバターのクオリティーが高くなった結果、クリエイターの参入障壁も上がっている。ただ、新しいクリエイターさんが入ってくれば、今までにない表現方法でまた裾野が広がる。今までのアバターとは違う、「自分には刺さるアバター」みたいなものも、もっと大事だと思っています。上がりすぎたハードルを下げながら、アバタークリエイターの出口も一緒にいろいろ作っていく。3D創作をサポートし続けることが、ピクシブのミッションでもあります。

北庄司 個人的な意見です、という前提ですけど、クリエイターさんの出口が広がればいいですよね。

岩田 ピクシブとしては、3Dクリエイターの数が増えて、一人ひとりがクリエイターとして活動を継続できることが一番うれしいと思っています。そのときにBOOTHを使ってくれていたら、もちろんうれしいですけど、BOOTHを利用してもらうことだけが目的ではないんです。とにかく3D創作が最大化されていくることに、もっともっと注力して仕事していきたいなと思っています。

北庄司 個人的には賛成です。会社としてはこれからいろいろ話し合っていければと思います。

浅田 ぜひ今後の両社の展開に期待したいと思います。僕も一ユーザーとして楽しみにしています。ありがとうございました。

PICOやMeta Questといったスタンドアローン型のXRヘッドセット、さらにはiOSとAndroidにも対応し、PCを持たないスマートフォンユーザーにも入口を広げているVRChat。 そこでアバター選びやバーチャルファッションを楽しむなら、まず見に行くべきはAvatar Marketplaceだ。筆者が見る限りはサービス提供直後は海外クリエイターが多かったが、最近は日本のクリエイターも積極的にオリジナル作品を販売している。

そこからさらに「もっと自分らしくしたい」「アバターの表現力を高めていきたい」と思ったなら、ゲーミングPCを用意し、BOOTHで衣装やアイテムを探し、改変の世界へ進んでいくことになる。

今回のセッションを聞いていて印象に残ったのは、その2つは対立するのではなく、VRChatを楽しむ深さの違いをそれぞれ受け持っていることだった。両社が手を組むことで、VRChatのカルチャーはどこまで広がっていくのか。今後に期待したくなる30分だった。

(TEXT by 武者良太)


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