8月26日、ゲーム開発者向け会議CEDEC2021にて、ディー・エヌ・エーの香城卓氏より「【コロナ禍】オンラインでのコミュニティマネジメント実践例」と題した講演が行われた。
本講演で紹介されたのは、香城氏がプロデューサーを務めるスマホゲーム「逆転オセロニア」のコミュニティーマネジメント事例だ。リアルイベントができない状況下でのイベントの実施や、ファンコミュニティーとの関わり方において示唆に富む内容だったので紹介したい。
コロナ前は「全国各地でひたすらファン同士をつなげる日々」だった
「逆転オセロニア」はリリースから6年目。最初の11ヵ月間はなかなか伸びない悩みがあったという。
そこで、日本全国でファン同士をつなげるイベントをたくさん実施。大都市で人を集めるのではなく、全国津々浦々のネットカフェのイベントスペースを借りて、時にはほんの数人しか集まらないような規模でたくさん実施していったとのこと。
目的は、「自分以外にもこのゲームのファンっていたんだ!」と参加者にしっかりと実感してもらうこと。運営側から見ると何万人といるユーザーも、ユーザー個人から見れば自分以外は遊んでいないのではないかと感じることもある。そのギャップを埋める活動と言えるだろう。
こうしたコミュニティー施策が功を奏し、11ヵ月目からダウンロード数がぐんぐんと伸び始めた。今や3000万ダウンロードを超える人気タイトルになっている。以来、「逆転オセロニア」では一貫してコミュニティーマネジメントに力を入れてきていた。
- 全国ツアー形式で行うファン同士をつなぐファンミーティングをはじめとした、年間30本近くのリアルイベント
- 各地での予選を経た全国大会
これらの活発なコミュニティー活動を通じて成長してきただけに、このコロナ禍は大きな影響を与えたという。
リアルイベント時代の本質は「安心と安全」!?
コロナ禍でリアルイベントが開催できない状態がもたらした弊害として、地域コミュニティーが停滞してしまったことがある。それでもなんとかファン同士がつながる機会を作ろうと、オフラインイベントのオンライン化に取り組んだ。
イベントのオンライン化にあたって考えたのは、「オセロニアらしさ」を考えること。そこで香城氏は、「安心と安全」というまるで公共の標語のような言葉に行き着いたという。
コロナ禍以前のリアルイベントでは、同じコンテンツのファンしかいないクローズドな空間を作ることに気を使ってきたという。例えば、大型商業施設の一角を借りてイベントをすると、往来にはファンでない人も多く、どこか見世物のような状況になってしまう。クローズドな空間とすることで、ドアを開ければそこには同じコンテンツのファンしかいないことになり、思う存分語り合える安心感がある。
また、来場者がオーディエンスにならないことにも気を使ってきたという。何千人も集めてショーをして、見終わったら解散という形式では、参加者というよりただのオーディエンス(観客)になってしまう。「逆転オセロニア」がこだわってきたのは「この街にもこのゲームのファンがいる」ことを知ってコミュニティーができることだった。
そして、そのために自然とコミュニケーションが生まれる空気になること。Twitterで交流しているファン同士を見ていくと、もともとはリアルイベントで知り合って交流が始まったパターンが多いという。
コロナ禍で実施したイベントの例
こうした「安心と安全」をオンラインに持ち込む企画として実施したものの一つが、2on2対戦だ。ツールとしては学生の授業や会社員の仕事で多く使われているZoomをあえて選択。仲間とコンビを組んで勝負に挑む形式とした。コンビ相手は当然ながらこのゲームのファンなので、大いに盛り上がりながら大会に参加できる。オンラインでもファンしかいないクローズドな場を作ったわけだ。スタッフも頻繁に話しかけ、安心して参加できる雰囲気を作ったという。
ファンミーティングもオンライン化した。「会場」としてはスマートフォン向けゲーム配信プラットフォームMirrativを使い、各プレイヤーは自分のアカウントで自由に配信。スタッフがそのプレイヤーの配信に遊びに行く形式とした。視聴者が散らばるので母艦となるYouTube配信の同接数は伸びなくなるが、それよりも各プレイヤーの配信という小さなコミュニティーが盛り上がることを重視した結果という。普通のプレイヤーは大きな番組に急に参加してもなかなか話せないが、自分の配信に公式番組のスタッフが来てくれるのなら話しやすいという安心感を作り出した。
今後のコミュニティートレンドの予測
講演の締めくくりとして、香城氏からコンテンツのコミュニティーマネジメントについて5つの予測が発表された。
- コミュニティーの「クローズド化」が進む
- 大コンテキスト時代が到来する
- スタープレイヤーではなくコミュニティーリーダーが求められる
- ゲームデザインからコミュニティーデザインの時代へ
- コミュニティーマネジメントは「ナラティブ」の時代へ
無理矢理一言でまとめるのなら、コンテンツはその完成度だけでなく、
- どんな人がどんな想いで作っているのか
- どんなコミュニティーが築かれているのか
- 制作者とファンがどんな関係性にあるのか
といった要素が重要になるという予測だ。制作者とファンが共有している物語性、それが「ナラティブ」という言葉で表現されている。
こうした視点は、ゲームに限らず、VRコンテンツ制作者やVTuber関係者にとっても参考になりそうだ。
(Text: Yuichi Matsushita)
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