「美少女で集まって執筆がしたい」 ノゲノラ作者・榎宮氏が語る「VRChat」の魅力

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昨年10月から始まったメタバース・ブームにより、これまで以上に注目が集まっているソーシャルVR/VRSNS。中でも、最大同時接続者数8万人以上と最大級のプレイヤー人口を誇る「VRChat」は特に注目のプラットフォームだ。

そこに、昨年12月よりあるライトノベル作家がドハマりしているとTwitter上で話題になっている。劇場アニメ化も果たした大人気ライトノベル「ノーゲーム・ノーライフ」の作者・榎宮祐(かみや ゆう)氏だ。30万人以上ものフォロワーを抱えるヘビーなTwitterユーザーとしても榎宮氏のツイートは、ここ最近はほぼVRChat一色と言えるほど。

いったい、どこに惹かれてそこまでドハマりすることになったのか。早速、同業者を中心に7人をVRChatの「沼」に落としたというプレゼン内容や、初心者目線だからこそ伝わる熱い魅力トークなど、初心者・未経験者にこそ伝えたい等身大のVRChatの魅力をたっぷりとインタビューしてきた。

始めたのは昨年12月 友人に勧められるがままVRChatへ

──本日はよろしくお願いします。前々から「ノーゲーム・ノーライフ」を拝読しており、Twitter等も拝見しておりました。そこで榎宮さんがVRChatを始められたと聞きました。Twitterでもかなりツイートされてて、すでにかなりハマっている感じが伝わってきます。

榎宮 そうですね。最近はほぼVRChatのツイートです。

──何がキッカケで始めたんですか?

榎宮 Meta Quest 2(以下、Quest2)を友人に譲ってもらったんです。それで、その友人に導かれるままにやっていたら、最初に美少女アバターに着替えてホームワールドの鏡を見た時点で「これだ!」となりました(笑)。自分の姿が女の子になってるという。

あと、僕の場合は小説家なので、VR空間内で執筆活動ができる点もハマった要因です。これが一番大きい。色々なワールドに行って、さまざまな景色のもとで、空中にウィンドウを複数表示させて執筆できるというのが理想でした。

筆者による「XSOverlay」にてウィンドウを複数表示している様子

──なるほど。Quest2を譲っていただいたというお話がありましたが、環境はQuest2単体ですか?それともPC VRでしょうか?

榎宮 そうですね。Quest 2単体でも使えるというのは知っていたのですが、最初からPC VRしか考えていませんでした。単体の場合、「VRChat」にもワールドやアバターに制限が出てしまいますし、「執筆」という観点からもPCと接続しなければならないので。僕は、小説のほかにイラストレーターもやっているのでPCスペックは問題にならなかったんです。

──イラストレーターさんはPCスペックも高い傾向にあるんでしょうか?

榎宮 大抵ハイスペックです。今の僕のPCで、グラフィックボードは「Geforce RTX 3080」を搭載してます。イラストレーターは、もともとある程度のグラフィックボード性能を必要とするソフトを扱うので、VRChatなどVRゲームを遊ぶうえでも問題ない性能のPCを持っている方は多いと思います。

他には漫画家とかもその傾向にありますね。イラストレーターや漫画家は、普段からスペック高めのPCを使っているという点では、引きずり込みやすいターゲットかもしれないです。

──確かに。PC接続でVRゲームを遊ぶ場合、やはりPCスペックはハードルになりやすいですが、そこを初めからクリアしているのは良いですね。しかも、イラストレーターや漫画家であれば、VRで「創作の世界に自分ごと入っていける」というのは刺さるものもありそうです。

榎宮 正直、私も含めですがイラストレーターの大多数は変身願望みたいなものはあると思います(笑)。自分がかわいいアバターになって、かわいいアバターと話せるというだけでかなり大きな魅力です。

インタビュー時もこうしてお互い美少女アバターを身に着けて行った(左:筆者、右:榎宮氏)

──それまでは特にVR機器などとの接点はなかったんでしょうか?

榎宮 前々から「寝っ転がったまま作業したい」という欲からVR機器自体には関心があって、実は4年前くらいに一度、HTC VIVEの製品には触れたことがあるんです。ただ、その当時は導入や設定のハードルの高さ、そして解像度の問題で文字を読むにはまだ足りないという結論になったんです。

──その時はVRChatをはじめとする、いまメタバースと呼ばれているようなソーシャルVRサービスなどにも触れてみたんでしょうか?

榎宮 そうですね。VRChatに関しては一瞬だけやってみました。ただ、やはりハード面での導入が面倒だったり、交友関係の狭さだったりで、ハマるには至らなかった。初心者ワールドの存在も知らずに、UIもすべて英語だったので、とりあえずPublicのワールドに行ってはみたものの外国語が飛び交っていて……何をすればいいかわからない状態でしたね。

──「何をすればいいかわからない」というのは、最初の感想としてよく聞きます。そこから最初のコミュニティーに入る段階までに挫折してしまうユーザーも多いようです。その点、今回は友人からの勧めだったこともあり、突破できたという感じでしょうか。

榎宮 そうですね。結局、VRChatはSNSの一種なんだと思います。友人ゼロ人で始めてしまうと何をすればいいかわからない。これはTwitterなど他のSNSでも同じですね。今回は、ある程度その部分は意識していて、フレンドのフレンドをたどるみたいにして少しずつ交友関係を広げていってます。根はコミュ障なので、知らない人が2人以上いる空間に行くと脈拍が上がってしんどいんですが。

──Twitterを拝見したところ、たしか最初にVRChat内でフレンドになったのは、週1ワールドクリエイターのケセドさんだったそうですね。そこはどんな経緯だったんでしょうか?

榎宮 あれは確か、ワールド巡りをしていく中で、よく目にして「すごいワールドを作る人だな」と気軽にフレンド申請を送った感じでした。そこから、ガンガンJOINしてきてくれてという流れです。あまり自分からは行けないタイプなので、絡んできてくれると助かります(笑)。

小説執筆もVRゴーグルを被ったまま 榎宮流メタバース作業環境

──先ほど、VRChatにハマった一番の要因は「VR空間内で執筆ができる」ことだとおっしゃっていましたね。VR空間内での執筆環境について詳しくお聞きしたいと思います。

榎宮 SteamVR向けのオーバーレイアプリ「XSOverlay」Steam販売リンクを使用しています。それで、自分の視界につないでいるPCの画面にあるテキストエディターを表示して、キーボードは完全にタッチタイピングで入力しています。

──私の作業環境もほぼ一緒です。ちなみに、課題感はありますか?

榎宮 Quest 2はかなりよくやっていて普通に作業ができるレベルまで解像度は上がっているのですが、もう少し解像度が欲しいなという思いもあります。とはいえ、これも「XSOverlay」側で表示するウィンドウ画面を拡大するなどで対策が可能です。

また、キーボードに関してもタッチタイピング自体は問題ないのですが、一度手の位置が行方不明になると、パススルー機能などで探さないといけない。この際にアバターが待機モーションになってしまうのは、ロールプレイを重視している身としては少し残念です。

──確かにVR空間の作業は、実際のPCに向き合うのと同等に快適だとはまだ言い難い部分がありますね。それでもなお、VR空間上で作業したいと思うのは、どういった点に魅力やメリットを感じているんでしょうか?

榎宮 単純に執筆なり作業をするだけであれば、1人で部屋の中でモニターに向かって打ってる方が集中できると思います。ただ、私がやっているのは同業者を何人か同じワールドに呼んで、お互いのキーボードの打鍵音だけが聞こえてくるような状況で「一緒に作業する」という体験です。

デスクトップやDiscordの作業通話でいいじゃんという意見もあるかもしれません。ただ、VRでやると、より「会ってる」「一緒にいる」感が味わえる。小説家もそうですが、最近コロナ禍でリモートワークしている人も、絶対寂しいと思います。そこに、アバターだけでも「誰かがいる」という感じがでるのはかなり需要があると思います。お互いの打鍵音が聞こえてくると「あいつもやってるし僕もやろう」となって、作業にも集中しやすいですし。

──「VRChat」を作業部屋やコワーキングスペースのように使って、お互いにモチベーションを高めてるんですね。その環境はうらやましいです。

榎宮 まさに、「美少女が集まってる部屋でコワーキングスペースみたいな空間が作れたら最強じゃん」というノリで、その環境を作ろうとしてる段階です。今は、3、4人くらいの仲間と一緒にやっているんですが、ここから試行錯誤していきたいですね。

「VRChat」上のイベントだと、「Silent Cafe」というものがあって、それに近いイメージです。会話はしたくないけど人がいる空気が欲しい、それをVR限定でやりたいなというのが理想です。

榎宮氏オススメのワールドと、ファンからのプレゼント

榎宮氏が「特にお気に入り」と語るワールド「久遠-タソガレクイキ- ISOLATED AREA -TWILIGHT-」

──VRのコワーキングスペース。確かに、私も最近1人だと作業が進まないという経験があるので、あったらうれしいなと思います。ちなみに、普段のVRChatの過ごし方としては、やはり執筆が多いんでしょうか?

榎宮 昼間はそうですね。夜は散歩、ワールド巡りが多いです。きれいなワールドを探したり、ゲームワールドに遊びに行ってみたりと。

──いいですね。最近巡ったワールドの中で、特にお気に入りのものなどはありますか?

榎宮 あっとさんが制作したワールドが特に好きです。全部良いんですけど、中でも「オモイデに沈む前に -Before It Sinks in Memories-」「オモイデクイキ」シリーズなどが好きですね。

個人的な推しポイントとして、あそこは座り判定の高さが調節できるんです。僕みたいに、小さめなアバターを着ていると、座り判定を使った際にアバターが椅子にめり込んでしまうことがあります。きちんと高さ調節ができるとロールプレイも捗りますし、カメラやミラー越しに自分が執筆している姿を見て「あ、かわいい子が執筆してるな」という気分になれるんです。

こうしてお気に入りのスポットで椅子に座って本を膝上に置いて執筆を進めるという

──あっとさんのワールドは私も大好きです。VRChatのワールドにも色々あると思いますが、景色が綺麗なワールドが好みですか?

榎宮 そうですね。インスピレーションももらえますし。それ以外だと、有名どころですが「The room of the rain」「Cozy Cottage」など。雨音が響いてるワールドは集中できるし落ち着きます。

──確かに、作業にはピッタリですね。ちなみに、最初の頃にTwitterで紹介していた「ノーゲーム・ノーライフ」のファンワールド「Library of Elchea」はどうやって見つけたんでしょうか?

榎宮 あれは、実は作者の方から直接紹介されたんです。

ワールドのほかにファンメイドのアバターも送ってくれて。これは「白」(しろ)のアバターです。

「ノーゲーム・ノーライフ」の主人公「」(くうはく)の1人である「白」のファンメイドアバター(榎宮氏)

──すごい。表情や衣装もかなり作り込まれてますね。

榎宮 そうなんですよ! 衣装も今着ているシャツのほかにTシャツとか、いづなの和服とかもあって、髪型もパラメーターでかなり細かく設定ができます。

ファンメイドの制作物に関しては、いろんな立場があると思いますが、僕は全然かまわない派です。むしろ自分の作品の二次創作とかは見せてくれるとうれしいですし、ここまで作り込んでくれてありがたい。強いて言えば、等身が小さすぎて常用には向かないのが惜しいですが、そのくらいです。

──フルスクラッチでこのクオリティーはかなり手間がかかってそうですね。ちなみに、今使われているアバターはおそらく「あまとうさぎ」の「カリン」ちゃんだと思いますが、ご自身で改変されたんですか?

榎宮氏のアバター。「あまとうさぎ」より販売の「カリン」をベースに自身で改変をしている

榎宮 そうですね。改変と言っても服を着せ変えてメガネをつけたくらいですが。これは、正直かなり自制してます。本気でやり始めると仕事そっちのけになってしまうので(笑)。

実は、同業者を1人、VRChatに誘ったのですが、その人がVRChatに全然ログインせずに、ひたすら「Blender」や「Unity」ばかりやるようになってしまったんです。改変は本当に沼ですよね。こだわりはじめると終わらない。

私も本当は、例えば髪を自分の塗りに変えたり、「I LOVE 人類」の缶バッジを付けたりもしたいんですが、まだそこに手を出す段階ではないなと思ってます。

──確かに。改変は本当に際限がないですからね。改変にハマって、むしろVRChatよりUnityやBlenderのほうがやってる時間が長いというのも度々聞くあるある話です(笑)

すでに7人を沼に沈めた?榎宮流VRChatの勧め方

──先ほど、同業者をVRChatに誘ったというお話がありましたが、Twitter拝見しているとこの短い期間でかなり色々な方を沼に落としてきたようです。これまで、何人くらいにVRChatを布教してきましたか?

榎宮 知り合いを中心に直接勧めたのは、Quest 2を買ってもらうところまで含めて7人ですね。

──始めて数ヵ月で7人も(笑)。そこで、お聞きしたいのが「榎宮流 VRChatの勧め方」です。具体的にはどうやって、沼に落としてきたんでしょうか?

榎宮 まず、相手の好みに合うアバターを分析して見繕います。最初に「Avatar Museum」などのアバターワールドに連れて行って、サンプルでいいので好きなのを着てもらうんです。それで、自分を見下ろしてもらって自撮りを撮ってもらう。そうしたら勝手にハマっていきます。

──やはり、最初にアバターを着た時の衝撃は大きいですからね。榎宮さんのカリンちゃんアバターもとてもかわいらしいです。

榎宮 その衝撃は本当に大きくて、こうやってカメラを構えて自撮りしたときにかわいい子が映ってるんですよ! ヤバいじゃないですか! ずっとこんな感じで自撮りしちゃいます(笑)。

お気に入りのスポットで自撮りを楽しむ榎宮氏

VRChatに来て自撮りの機会は圧倒的に増えた。というかほぼそれしかしてないですね。ワールドを巡って、良いスポットを見つけて、自撮りをする。これが日課です。

──あるあるですね(笑)。また、VRゴーグルは実際に被ってみないと魅力が伝わりにくい側面がかなりあると思います。特に一番の魅力であるプレゼンス・存在感の部分はいくら言葉で説明しても体験してみないと伝わらない。そこに関してはどうやって乗り越えましたか?

榎宮 私も最初はそこまで期待してなかったんです。それこそ、4年前くらいに体験した時は、ドットが粗いのもあって、体感として近づくことの現実感とかもそこまでピンときていなかった。しかし、Quest 2を改めて被って、そこで初めて「距離感の力」みたいなものを感じました。ちょっと失礼しますが、こうやってグイっと近づいたときに、本当にそこにいる感じがする。これは革命的です。

顔を近づける筆者と榎宮氏。VRでの視界は「ガチ恋距離」そのもの
こうして写真で見るだけでは伝わり切らない臨場感がある

そのうえで僕がプレゼンするときは、まずデスクトップモードでもいいからVRChatに引きずり込みます。それで、色々なワールドとかを巡ったりします。実は、これだけでもアバターコミュニケーションの魅力は少しは伝わります。Discordだと誰がしゃべってるかわからなくなる時がありますが、VRChatなら動きがあり顔があり口がある。デスクトップモードでも「対面で話してる感じ」は少しはあるので、VRを買うとこれがさらに「会ってる感じ」になるよと伝えます。

SNSの一形態であるメタバースを楽しく続けるには「目標」が必要?

──さまざまなお話をありがとうございます。榎宮さんの初心者目線だからこそ語れる熱量のあるプレゼン非常に興味深かったです。最後にまとめとして、榎宮さんから見たVRChatの一番の魅力、ここが勧められるんだという推しポイントのようなものがあればお聞きしたいです。

榎宮 VRChatは、かなり交友関係に左右されるサービスです。今までのSNSと違い、文字で会話するとかリプ飛ばし合うとかではなくリアルタイムの会話なので、正直かなり頭も使うし、人間関係も関わってくるめんどくさい部分もあります。

MMORPGで僕が一番嫌いなのが、ギルドとかに入ったときの人間関係なんです。そういうのが嫌いで、身内でしか固まってやらないタイプで。そんな僕が、いまこうしてハマってるのは「VRChatで何するの?」という目標・目的みたいなものが見つかったからです。僕の場合は、「VRChatでみんなで集まって執筆する」というものです。

この目標・目的を提示してあげるのは導線として必要だと思います。例えば、ゲームワールドで遊ぶとか、朝のラジオ体操部や限界スクワット部に通うとか、そういう目的をひとつ見つけるだけで、それが指針になる。「VRChatをやる」ってそれ自体は目的にはならなくて、イメージ的にはTwitterと同じです。

例えば、フォロワーも何もいない状態でいきなりTwitterを始めても、ただRTもいいねもつかない日記にしかならない。今となっては、みんなやってるから「お前まだやってないの? 早くやれよ」となるんですが、初期の頃はどうだったのかというと、それも「身近な人がやってるから」だったんです。友人が始めたからそいつのつぶやきを見に行こうみたいな。VRChatも僕がやってるみたいに、友人を誘ってコミュニティーを作って、その中でやりたいことを見つけていくというのが普及する道なんじゃないかなと思います。

──初期のTwitterとの比較は面白いですね。確かに、「身近な人がやってるから」は大きな動機です。そういった点でも、身内に勧めていくというのがある種一番の近道なのかもしれないですね。

榎宮 現段階では、やはりまだVRゲームのキラーコンテンツみたいなものは出ていないと思います。それこそ、ドラクエとかポケモンの新作をVRでやりますよとなったら、VR人口は一気に増えると思います。それを機に、SNSの一種として定着していくんじゃないかなとも思います。

そのためには、まずハードの部分はまだ改善の余地があるのかなと。価格は、Quest 2がひとつのアンサーだと思いますが、付け心地はもっと改善されてほしい。最近だと、「VIVE Flow」製品ページとか「MeganeX」関連記事とか、メガネ型のVRゴーグルも徐々に出てきたので、時間の問題だとは思いますが。

──私も「MeganeX」にはかなり期待しています。ハードの部分も含め、日進月歩の分野なので、今後も楽しみです。本日はお時間いただきありがとうございました。最後に、もし告知や宣伝などあればどうぞ。

榎宮 ちょっと古いのですが、昨年11月末に3年半ぶりのシリーズ新刊「ノーゲーム・ノーライフ」11巻が発売されました。こちらもぜひよろしくお願いします。

(TEXT by アシュトン

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榎宮祐(Twitter)
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