想像を超える2年半だった SIE吉田氏が語る、PS4 ProとPlayStation VR発売までの道のり【TGS】
来月13日、PlayStation 4向けのVRシステム「PlayStation VR」が発売を迎える。2014年3月のお披露目より約2年半。開発のキーマンであるソニー・インタラクティブエンタテインメント ワールドワイドスタジオのプレジデントである吉田修平氏はどんな思いを抱えているのだろうか。つい先週発表された上位版の「PlayStation 4 Pro」も交えて、東京ゲームショウの期間中に吉田氏にインタビューした。
同じVRでもより高品位に表示できる可能性
PS4 Pro。
──今回まずお聞きしたいのは、PS4 ProのPS VRにおけるメリットです。どれくらい差がありますか?
吉田 PS4 ProはPS4ファミリーのひとつという位置付けで、同じPS4向けゲームはどちらでも遊べて、体験は基本的に同じです。ただ、PS4 ProのほうがGPUの性能が高いので、例えば4Kテレビに高画質で出せる、あるいはフレームレートを上げて安定させるなど、よりハイエンドな映像が出せますよ、というコンセプトです。
PS VRはPS4と一緒に開発してきたので、PS4に最適化して、PS4で素晴らしい体験ができるというシステムに仕上げています。PS VRタイトルもすべてPS4に最適化してもらい、そうじゃないものは「これは発売できません」と伝えていますが、その上で、PS4 Proもあるとなったときに、GPUの処理能力が全然余っているじゃないかと。
まさにPS VRのローンチタイトルのチームとかは開発を終えて、PS4 Proで何ができるか試しているところですね。先日のニューヨークのイベントで体験できたPS VRのFPS「FarPoint」のチームは、PS4向けよりも高い解像度でレンダリングしてから圧縮することで、よりきれいで高精細な映像を見せるようにしています。例えば、遠くの敵が見やすくなるといった効果がありました。
しかし、それはゲームによって違って、PS4向けにつくっているPS VRのゲームの中には、元々高い解像度でレンダリングして圧縮しているソフトもある。その場合、それ以上高い解像度でレンダリングしても意味がないため、例えば、リアルタイムでシャドーやライトを追加しようとか、PS4 Proで余ったGPUパワーを違ったところに使うことを試しています。
そのためタイトルにより効果は異なりますし、PS4 Pro向けに映像を変えるというのは、全タイトルの必須要項ではなく、デベロッパーの余力や興味があればというオプションです。
今後出てくるタイトルで、PS4 Pro版で遊ぶと、より文字が高精細で遊びやすい、ライティングが綺麗になって立体感が出るなど、比較してはじめてわかるような変化はあるでしょう。といっても、われわれデベロッパーやメディアは比較できる環境にあるのでその差がわかりますが、一般の方はどちらを買っていただいても、PS VRで素晴らしい体験ができます。
もともとPS4を持っていた方で、大人の趣味にお金をいっぱい使えるような方は、PS VR買った後にPS4 Proを買っていただくと、同じゲームであってもPS VRの可能性をより高められるでしょう。
──開発の背景としては、PS VRというよりは、4Kテレビ前提といった感じでしょうか。
吉田 4Kテレビがあるのももちろんですが、PS4のアーキテクチャーがPC(AMDのAPUを採用)と同等になったときに、ひとつのプラットフォームの期間内で向上した技術を取り入れることができる機会ができたというのが一番ですね。
コンソールのよさは同じハードがずっと続いていくことですが、その良さは変えずに、どこかの段階で上がった技術を取り入れるということです。例えば、4Kテレビなら4K出力ができたり、普通のテレビでもフレームレートが安定したり、PS VRでも映像がより綺麗になったりと、パフォーマンスが上がった部分をデベロッパーが選べます。
VRは金鉱でどこを掘っても金が見つかる
PS VR。
────SIEさんは、2014年3月のゲーム開発者向けイベント「GDC」にてPS VRのプロトタイプを発表して、2年半にわたってPS VRを展示してきたわけです。そうした過去を振り返って、今どういった思いでPS VRの発売を迎えていますか?
吉田 この過去2年半でVR界隈に起こったことは、まったく想像を超えていました。最初は、お互いみんな顔を知っているインディーのような小さいコミュニティーで、情熱で集まってきたような方々だけでしたが、今年になったらありとあらゆる人がVR、VRといっているような状況に変わっている。そしてグリーさんが5月に開催された「Japan VR Summit」なども、高い入場料にもかかわらず満員になる(関連記事)。そんな状況は想像していませんでした。
──製品も増えていますよね。TGSも去年はまだ追いかけられていた感じでしたが、今年はVRだけで110の出展と急増しました。
吉田 少し前まではみんな知ってるという感じだったのが、新しい商品が毎週のように発表されて「えっ、こんなのもあったんだ」という感じに変わってきていますよね。私も110ブースという数字が出ていたのでTwitterに投稿したら、海外の方から「Oh my God!」という反応が返ってきた。
PS VR向けのタイトルに関しても、ちゃんと気にしていないと追いかけきれないぐらいに毎日のようにニュースが出ています。われわれも真っ先にVRに取組んでいる企業として置いて行かれないように、特にこれからはコンテンツの部分で頑張っていかなければと思っています。
一方で、VRを世の中の多くの人が楽しめる状況にしたい、その一翼を担いたいとやってきましたが、実際、「元年」を迎えて今後普及し始めると、わりとBusiness as usual(平常運転)な感じになってしまって、当初の「VRがやりたい!」というコミュニティーから「仕事だからやっています」「ツールだからつかっています」「儲かるからやります」という方も増えてきますよね。それは少しさみしいという気持ちになるかもしれない。
──そうですよね。でもそれこそがVRが一般化した証かもしれないです。
吉田 そうですね。そうなることを目標にしていますが、そうなったらなったで、新しい目標を立てましょうかね。
──(笑)
吉田 VRは金鉱だと思っています。新しい体験や新しいゲーム性を見つけ出せる、どこを掘っても金が見つけられるような状態です。これから2、3年は楽しみで仕方ないですね。
なんでもない日に「PS VR体験した」の声が届く
──SIEでは、VRならではの体験の発明にずっとこだわられてきていますが、ここ最近で「これはスゴい」と感じたコンテンツはありましたか?
吉田 最近で言うと、エレクトロニック・アーツさんの「Star Wars バトルフロント」のVRデモですね。あれはスゴく愛がある。もともと高解像度でつくられているアセットをうまく使っていて、さらにスケール感やサウンド、レンダリングクオリティーなどにこだわっているのが素晴らしいです。Star Warsマニアではない私がスゴいと感じたぐらいなので、ファンだったら本当に嬉しいのではないでしょうか。
もうひとつ周囲からの評判がすこぶる高いのが、バンダイナムコエンターテインメントさんの「アイドルマスター シンデレラガールズ ビューイングレボリューション」です。コンサート会場の中にいて、その臨場感やキャラクターたちのアニメーション、アクションとか、雰囲気がすごく出ているというのが伝わってきます。でも本当に好きな人は一緒に踊ってしまうぐらいのクオリティーみたいですね。
──スゴく盛り上がってますよね。PS VRでは体験会をかなり増やしましたが、そこで状況が変わった実感はありますか?
吉田 そうですね。体験できましたという声を、世界のユーザーが私にツイートしてくれますね。今日初めてやった、予約したぜ、というのが毎日届くのが嬉しい。
──毎日というのはスゴいですね。今までは大規模なイベントがあったときに反響が、という感じだったのかもしれません。
吉田 ええ、なんでもない日にツイートがぽんっと来ます。体験というと、発売後はこれまでとは比較にならない数のPS VRが世界中に届くので、購入された方だけでなく、そのまわりの家族や友人に「PS VRがあるよ、やりにこない?」というサイクルが生まれると思います。そうなると今までの何倍、何十倍の速度で、PS VRを体験する人が増える。それが本当に楽しみですね。
PS VRは家庭用ゲーム機向けのVRシステムなので、技術にあまり詳しくない方が扱えるようにと、ユーザーテストを繰り返しています。例えば、箱そのものについても、あるいは箱を開けた時にユーザーさんが手に取るパーツについても、迷わないようにいろいろ工夫をしています。もう少ししたらそれがお披露目できますのでお待ち下さい。
──先ほども言われたように、PS VR発売以降、さらにVRが広まっていくと思います。どういった思いですか?
吉田 VR関係のいろいろな企業の方の取り組み、ハードもソフトもサービスもそうですが、追いかけられないぐらい色々なものが出てきています。この勢いは来年以降も続くと思いますし、本当に楽しみで仕方がない。それを業界人として楽しんでいけたらと思っています。
●関連リンク
・PlayStation VR
・東京ゲームショウ2016