VRで会ったモモに「か、かわええ……!」 ペットワークス八谷氏に聞く「PostPetVR」に込めた思い
既報の通り、ペットワークスはソニー・ネットワークコミュニケーションズからライセンスを受けて「PostPetVR」の制作を開始し、クラウドファンディングにて資金を募っていることを明らかにした。
Oculus RiftやHTC VIVE向けとしてリリースし、さらにスマホ版もつくって同じペットをVRでもスマホでも見られるようにするという構想だ。そのペットワークスの八谷和彦氏は、どんな思いでこのVR対応を決めたのだろうか。直接インタビューする機会を得たので、記者発表会でのコメントと合わせてお届けしよう。
発表会の様子。
「うちにVRがあるから来ない?」
まず記者発表会では、クラウドファンディングの利用に至った経緯が語られた。
八谷氏 PostPetVRという、PostPetの新タイトルをクラウドファンディングでつくることになりました。一番最初のPostPet(1997年発売)は、ユーザーのみなさんにβテストをおねがいして、いろいろな人に協力してもらってつくった。それを思い出して、クラウドファンディングでやりたいなと思った。
(2002年発売の)PostPet V3では、3Dになってパソコンの中でモモとかほかのペットを飼えるようになっている。まだ試作の段階ですが、VRが去年ぐらいから流行り始めていて、こんな感じでV3の世界で入れるというのを今つくっています。実際に部屋の中に入って、触れる。
PostPetでは、古いバージョンにいないペットがやって来たときに表示される、紙袋をかぶった「アンノウン」という謎のキャラクターがいるのですが、そのアンノウンに自分がなって、モモたちと遊べる。それから今までペットにメールを運んでもらっていたんですが、これからは自分が逆にメールを運ぶことにしようかなと。
HTC VIVEというVRゴーグルをかぶってこの世界に入るんですが、ペットになでられたり、ペットを抱っこしたり、逆に自分がペットに抱っこされたり。そんなことを実現したいと思っています。今まで、ここにいる(着ぐるみの)「モモの花」と「モモ妹」とかが唯一触れる存在だったんですが、これからはVRで触れるようになるといいなと。
左がモモの花、右がモモ妹。中央が八谷氏。
この発言を受けて、PostPetの20周年記念ビジュアルを手がけた増田セバスチャン氏はこう語っていた。
増田氏 PostPetって、キャラクターだけじゃなくて、こうやって進化してメディアやツールの先陣を切っている。メディアを通じて知った若いみなさんの中には、キャラクターだと思っている方もいるかもしれないが、最初にPostPetが出てきたときは、インターネットでメールがやっと送れるようになった時代。そのMacがまだ高価だった時期に、付属ソフトの中にキャラとしてモモちゃんがいた。
新しいテクノロジーの草創期に、こうしたもので柔らかくして普及していったという経緯があるので、VRでも最新の技術を使いつつ、懐には広く入りやすくするという役割をPostPetがになってるのでは。
さらに面白かったのが、八谷氏が披露したエピソードだ。
八谷氏 この間VR系の方と話をしていて、過去に同じバイト仲間の女の子から「PostPetをやりたいから、パソコンのことを教えて」と誘われたというエピソードを聞きました。その方は「こんな時代になったか」と驚いたそうですが、VRでも、そういった動きを起こせればと思っています。
例えば、スマホから送った自分のペットにVRの中で会えるというのが技術的にはできるので、「うちにVRがあるから見に来ない?」といった風になれば面白いなと思っています。
スマホとVR空間が連動したら、さらに面白くなる
続けて、インタビュー記事をお届けしよう。
PostPetの画面。懐かしいと感じる人も多いはず。
──そもそもPostPetをなぜVRに対応させようと思ったのでしょうか?
八谷氏 僕もVRコンソーシアムの理事だったり、360度撮影をやっていたこともあって、VRはやりたかったし面白いと思っていました。PostPetVRでいえば、HTC VIVEの「The Lab」というアプリ(関連記事)で、犬がよってきてかまえるコンテンツにぐっときて、これをPostPetでやったら楽しそうだと直感しました。
自分が過去に飼っていたペットにVRの世界で再会できたりとか、人のうちに自分が行って遊んだりとか、人のペットがやってきて遊んだりとか。VRはゲームとしても面白いと思うんですが、例えば、シューティングやロボ系の興奮するコンテンツとは別の軸もあると思うんです。今、GOROmanさんが「Mikulus」(関連記事)を作っていますが、VR空間の中でのんびり楽しむ系のコンテンツとして、PostPetVRはありなんじゃないかと。でも「これはいける!」と思ったのは、(発表会の)一昨日にビデオを撮影したときだったんですけどね。
──えええっ(笑)
八谷氏 むっちゃ楽しかったんです。僕が個人的に感じる一番可愛い子供って3〜4歳ぐらいの身長でヨチヨチしてる感じなんです。それにモモの身長を設定して触っていたら「か、かわええ……!」みたいな。まだ対応していないんですが、自分が小さくなってモモに抱っこされることを想像していたら、「これは超いけるわ」という気持ちが出て来た。もちろんその前にVR版の開発を決めて、So-netさんと話はしてたんですけどね。
やっぱり昔PostPetを使っていたお客さんにも、もう一度面白いと思ってもらえるようなソフトを目指しています。今はVRに興味があるからVR版を先に開発していますが、ずっと前からやりたかったスマホ版もつくりたいと思っています。
こんなかんじでコントローラーを使ってキャラにちょっかいを出せる。
これはたまらない!
──今回、対応するVRゴーグルが、Oculus RiftとHTC VIVEですが、PlayStation VRはどうなんでしょう?
八谷氏 そうですね。やる気はあって、お話をいただけたらもちろんウェルカムです。スマホ版が出たら、PS VRには絶対対応したいですね。
──So-netといえばソニーグループですし……。
八谷氏 僕は逆にSo-netさんに「PS VRがありますけど、OculusやVIVEがダメってことはないですか?」と聞いたんですが、大丈夫だと。
──(笑)
八谷氏 発表会でも言いましたが、「モテる」キラーアプリにしたいですね。「VRあるからうちこない?」とか「君のスマホの中のペットをVRで触れるよ」みたいな。
──確かに今のVRゴーグルは面白い体験ができますが、まだまだ価格が高いので、誘いやすいですよね。
八谷氏 ただ、そういうやましい話だけでなく、体験としても、相当面白いと思っています。
──私もThe Labで犬と戯れたことがありますが、あれがそのままモモになるんだったら相当楽しいと想像できます。
八谷氏 例えばですけど、手元のスマホの中にユーザーがアンノウンの形で現れて、なでたり、叩かれたり、持ち上げられたりというのが、VR空間と共通化できたら相当面白いんじゃないかと。だからスマホにつなげるために、まずVRをやるという。
──ロードマップの先に、スマホ対応があるという。
八谷氏 そうですね。もちろんVRだけでも面白く作るつもりですが、それができてスマホと連動できたら画期的になるんじゃないか。このスマホがコントローラーになって、VRのキャラにちょっかいを出せるというのは、かなり面白そう。
構想図。
──面白いといえば、過去のV3のデータが読み込めるというのも特徴的ですね。
八谷氏 それはやりたいと思っていて、やっぱり過去の自分のペットデータを持って来られれば、可愛がりたいですよね。ちなみに僕はメインマシンがMacなんですが、今のメインマシンではV3が動かなくて、今日のデモで見せたのはPowerBook G4を使っていました。
──なんと(笑)。しかし私もかつてPostPetがメインのメーラーで、メッセージを持って来たペットをボコボコにして返してましたからね。
八谷氏 今度はアンノウンになって、そのボコボコにされるという。「やめろー! やめろー!」って。アンノウン側は、部屋でうんちして仕返しするとかね。
──(笑)。となると、ソーシャルVRのほうに広げるという可能性はあるんですか?
八谷氏 いや、PostPetはマンツーマンで、そこは考えてないです。もともとPostPetはホットライン的なアプリだったので、スマホ版をつくってもそういう方向性になります。今回はメーラーではなく、メッセンジャー。スマホ版は、昔のPostPetライクなクオータービューな感じになるんですが、そこで殴られたり、なでられたり。ただ、「ちょっと痛いやめろ」とか「洗うな!」とか言うと思うので、ボイスチャットは連動させたい。
試作品のスマホ版。
──全員がVRを持ってない時代だからこその、スマホ版なんですね。面白い。
八谷氏 だからスマホのほうが神みたいで、VRのプレイヤーはその神に遊ばれるみたいな感じになります(笑)。それが出来上がったら相当面白いんじゃないかな。予算的にはVRはそこまでコストをかけずにできそうなんですが、スマホ版をやるとしたら別から大口の予算を持って来ないといけない。ただ、クラウドファンディングでソフトウェアを作るというのは、一度僕らもやって見たかった。
最初にPostPetをつくった当時、多くの人がもっとメールを使うといいのにと思っていたのですが、VRはまさに今、同じ状態だと思う。個人的にすごく面白いし、これは世界を変えると僕も思っているんですが、やってる人たちは男性がほとんどで。
──HMDのデザインも男性向けで、アプリもFPSばかりみたいな。
八谷氏 それはそれでよくて、そこでPS VRもすごく普及してくれればいいなと思っていますが、一方で、VRは単体ではなくスマホとの組み合わせが突破口になるんじゃないかと思っています。The Labの犬や「Job Simulator」などを体験して、「あっ、VRだとポリゴンはそんなに問題じゃないんだ」と。むしろプレゼンス、そこに本当にいるという感じさえ出さればいい。
──確かに。
八谷氏 このPVを撮影したときに、ようやくHTC VIVEでモモが動くようになったんです。動きのパターンも限られていたんですが、やっぱりプレゼンスがあって「おれが可愛がっていたアイツがここにいる」という感覚が出ていた。
──逆に人間じゃないから、ちょっとぎこちない動きでも「そういうものだ」と許容できるかもしれませんね。
八谷氏 あとは当たり前ですけど、このモデルはV3のデータから持って来ているので、本当にいたヤツなんですよね。
──10年以上ぶりに自分のデータに「会う」って体験はなかなかないですよね(しかし、俺のV3データはSCSIのHDDに眠っているので、そもそも取り出す手段が……)。
八谷氏 だから支援していただいた方のデータを読み込んで、声で呼ぶと出てくるとか、人のうちのペットも呼べる感じにしたい。現時点でPostPetVRは、5〜10%ぐらいしかできてませんが、きちんとできたらスゴく面白いものになると思っています。
それは僕らが最初のPostPetをやり始めた時と似ていて、メールを運ぶとどんどん汚れいくとか、それでも放置するとうんちをしちゃうとかいう仕様だけ決めていった結果、別の人の部屋でペットがうんちしたからコミュニケーションが発生するという状況が生まれた。だからVRでも面白いことが起きるといいなと思います。ぜひクラウドファンディングでご支援ください。
(Text by Minoru Hirota)
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