VRの世界は「出力」が欠けている──Cerevo岩佐氏に聞く「Taclim」開発の狙い

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ソニーやパナソニック、ニコン、キヤノンなどの大手を除くと、CESの会場ではあまり日本企業のブースが目立っていなかった。その中でひときわ注目を集めていたのが、VR向けのシューズ&グローブ「Taclim」(タクリム)を発表したCerevo(セレボ)だった(ニュース記事レポート記事)。

 
Cerevoは日本では珍しいハードウェアスタートアップで、PCレスでライブ配信できる「LiveShell」シリーズや、最近ではアニメ「攻殻機動隊 S.A.C.」シリーズに出てくるロボットを再現したスマートトイ「TACHIKOMA」などを手がけてきたことで知られる。

 
そのCEOである岩佐琢磨氏は、パナソニックを経てCerevoを2008年に立ち上げた人物だ。ネットでは「和蓮和尚」として、「キャズムを超えろ!」のブロガーとしても有名で、つい最近も「大手メディアが書かない、CES2017の実態」という記事をバスらせていた。

 
Cerevo自体は今まで、VRに関係した製品は出してこなかったが、なぜ突然の参入なのか。CES会場にて岩佐氏を直撃インタビューすると、スピード感あふれる開発現場が見えてきた。

 
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Taclim。

 
 

「僕らは雑食で、どのジャンルにでも食いつく」

 
──Cerevoさんというと今までVRのイメージがなかったのですが、なぜいきなり参入されたのでしょうか?

 
岩佐 別に……ぶっちゃけますと、僕らそこまでVRに興味はなくてですね。

 
──ちょ(笑)

 
岩佐 いや「興味ない」というのは語弊があって、基本僕らは雑食なので、どのジャンルにでも食いついていくんです。来年はヘルスケアデバイスを出すかもしれないし、もしかしたらマットレスかもしれない。とにかくなんでもやるので、僕らが絶対に行かないエリアはないと思ってください。

 
過去には突然おもちゃをつくり始めましたし、自転車もやりました。今はシンプルにVRが流行っていて、確実に大きなマーケットになっているのが見えたという理由で、じゃあ何かやったら面白そうだなと。

 
──2016年は「VR元年」でしたしね。

 
岩佐 そのVRのマーケットで何がミッシングピースで、僕らが埋められるものは何かを調べていたときに、明らかにハードウェアメーカーは入力デバイスの方ばかりを向いていることがわかったんです。実際に手を動かすと、バーチャル世界でも手が動くとかですね。

 
──確かに。

 
岩佐 その入力デバイスとゴーグルに徹底的にフォーカスしている。HTC VIVEの位置トラッキングシステムである「Lighthouse」も入力じゃないですか。「じゃあ出力もいるんじゃね?」みたいな。僕、昔「洋ゲー」(欧米発のゲーム)のライターをやってて、入出力デバイスがすごく好きだったんです。

 
──えっ、洋ゲーのライター!?

 
岩佐 ええ。「PlayOnline」って月刊誌でずっと書いててました。そのときも入出力デバイスの評価がすごく好きで、実はマイクロソフトのレースゲーム用コントローラー「SideWinder Precision Racing Wheel」を日本で最初にレビューしたのも僕だったりします。

 
──すごい(笑)

 
岩佐 あとは現実世界での頭の動きを3Dゲームの世界に反映してくれる「Track IR」とかをレビューしてまして、やっぱり入出力がすごく好きなんです。可能性がどんどんあるなと思う。

 
VRって人間をバーチャル空間に没入させるものですよね。だから、入出力デバイスがもっと進化して多様化していくと、VRももっと究極の物になるはずだと。どこまでいったら「ソードアート・オンライン」みたいな世界になるんだという話で。究極は多分、首に何かを差し込むようになるんでしょうけど、そこに行くまで結構段階があるんじゃないかと。よく話題に上がるのが全身スーツですが、それはコストが高いということになって、たどり着いたのが誰もやってない靴だったという。

 
手って結構みんなやってるんですよね。人間が何かと接触する機会が多いのは、手が1番で、足が2番目。スノーボードがわかりやすいですよね。スキーは手と足ですが、スノボは実質足しか接触してない。人間の生活って、手と足の触感フィードバックで生きてるんで、だったらそことりにいこうと。

 
で、見回したら実は誰も足をやっていなかった。「Virtuix Omni」などのバーチャル空間を歩く装置もありますが、あれも入力だけだったので、じゃあVRから出力受けようぜと。

 
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Omni。

 
たまたまアニメ「PSYCHO-PASS」の拳銃「ドミネーター」で一緒にやっていた日本電産さんから、ハプティック(触覚)モーターを見せてもらう機会があって、これは面白いと。これで出力が受けられるぞ、というので作り始めたのが背景です。

 
 

狙いはモバイルVRと合わせた安価なソリューション

 
──制作過程で一番難しかったことは何でしょうか?

 
岩佐 まだ全然、試作第一号機みたいな状態なので難しいのはこれからですね。

 
──企画がスタートしたのは?

 
岩佐 3、4ヵ月前ほどです。

 
──かなりスピード感ありますね。大企業と比べると、かなり短くないですか?

 
岩佐 いや大企業さんの試作機は、もっとちゃんとしたものを出すので。僕らはもう本当のもうラフの、ラフの、ラフみたいな状態で持ってきています。それで反応が悪ければ仕様を変える。

 
大企業ってやっぱお金もあるんで、100通りつくって試すとか、お金払ってコンサルティング会社に調査させるとか、実際にユーザー100人にテストしてもうらうとかできる。僕らそういうのやるよりは、ゴリゴリここで体験してもらった方が、明らかなフィードバックが得られる。「うちが世界で一番最初に見せたんだぞ」ということは言えますし、それはWin-Winだろうということでやってます。

 
──つくってみて「これはすごい」というアピールポイントはありますか?

 
岩佐 実は足の触感は裏だけじゃなくて、甲もあるんです。

 
──えっ、甲側にもあったんですか?

 
岩佐 はい。なので何か柔らかいもんにキックをかますと、足の甲に「モフッ」とフィードバックがくるとか、硬いものなら「カンッ」って反応させるとかですね。CESで一番話題になったのは、もうシンプルにVRの入出力ができるシューズを作ったやつがいるぞというところですね。

 
──いや本当、「CES Unveiled Las Vegas」に出展されていたときも国内外のメディアにずっと囲まれてて、声かけるのが無理なぐらいでした。

 
岩佐 もみくちゃになってました。北米のメディアさんも主要系はほぼ網羅するぐらいに取材していただけてよかったです。

 
──そうしたいろいろな方々体験した中で、どんなフィードバックがありましたか?

 
岩佐 いい意味でも悪い意味でも、みんなビックリしてあんまりコメントをくれないっていう。「すごいね」ぐらいの話になってしまうんです。

 
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インタビュー中もデモ体験者でブースが埋まっていた。

 
──私も体験しましたが、CESの展示ではスマホ向けVRゴーグルを使っているのがもったいないなと思いました。例えば、フレームレートがあまり出ていなかったりとか。

 
岩佐 その辺の時間との関係できちんと最適化できてなかった部分です。ただ、狙っているのは、モバイルVRと併用した安価なソリューションなんです。例えば、鳥取空港に着いたらGear VRとTaclimが置いてあって鳥取砂丘を体験しようみたいな、今後爆発的に数として伸びるであろう分野にフォーカスする。

 
いわゆる観光地の顔出しパネルや、100円をチャリンと入れて見る双眼鏡って、すごい数があるじゃないですか。ああしたPRと、それに関連すするVR入出力デバイスが伸びるんじゃないかと考えていて、あえて絞っています。

 
とはいえ、PC向けVRに対応させることはできるし、SIEの方がやりたいという話ならPlayStation VR向けのアレンジもできます。あと、CESでデモしているやつは、2.4GHz帯で通信してないんですよ。

 
──2.4GHzのBluetooth Low Energy(Bluetooth 4.1)と、1GHz以下の「サブGHz」(日本は920MHz、米国は915MHz、欧州は868MHz)に対応しているんですよね。多分、この会場だと2.4GHzは死ぬ程混雑してるから……。

 
岩佐 そうです。だからサブGHzのものを持ってきました。無線の部分はいくらでも交換できるようにつくっているので、無線LANでつないでもいい。

 
 

音を元に振動をつくり出せる

 
──話を戻しまして、フィードバックってどれくらいの種類が作り出せるものでしょうか?

 
岩佐 無限に作れます。すごくわかりやすく言うと、これは音なんです。

 
──そうか!! WAVの音声ファイルを使うという話でしたよね。

 
岩佐 はい。触覚ってすごく音に近くて、スピーカーコーンの動きをイメージしてもうらとわかりやすいんですけど、あれがある種触覚なんですよ。なので、高く短い音というのは、凄く高い周波数の衝撃というか、振動がガンっとくる。スピーカーコーンを超高周波音でもの凄い大音量でキンって鳴らすと、多分手に対してスピーカーコーンが凄く鋭くビュッとあたるみたいな。

 
──ということは、ゲームのBGMやSEにそうした振動の元になる音が入ってて、それが振動に変わるという感じでしょうか。

 
岩佐 今の仕様では、ゲームのスタート時に、利用する振動をセットにしてTaclim側に転送しています。

 
──Taclim側にもメモリーが入ってるんですか?

 
岩佐 メモリーが入ってて、ある程度ダウンロードしちゃいます。例えば、体重の重い男性キャラで鉄の床を踏んだ時は「ズンッ」、軽い女性キャラで同じ床を踏んだらちょっと「ザスッ」といった感じでパターンを鳴り分けできるようにはしています。

 
──開発者はどうやって振動をつくればいいですか?

 
岩佐 一番簡単な方法は、音を録って、その音をそのまんまWAVで入れる。

 
──そうなんですね!! じゃあ砂利とか歩いてるみたいなのも……。

 
岩佐 それなりの物が再現できます。今回のデモでも、鉄板をハンマーみたいのでガンと叩いて収録した波形を元に、アレンジして使っています。

 
──面白い!

 
岩佐 お手軽な割には、結構それっぽいですよね。

 
──この振動シートだけ販売してもニーズがありそうですよね。

 
岩佐 できますが、そうした靴に敷くVRのシートとしてリリースしても多分話題にならないし、何かよくわかってもらえない。あと実は結構、モーターが大きくて、ソールの中に埋めなきゃいけないし、バッテリーもありますので、現段階ではシートは厳しいかなと。バッテリーも、丸1日もつぐらいなので相当大きいです。

 
──バッテリー交換なしで1日行けるというのは、イベントや店舗での運用では大きいですね。

 
岩佐 リニアモーターなんで動かす瞬間しか電気くわないので。しかもその動かす時間がバイブレーターとかと違って、もの凄い短い。歩くのを想像してもらうとわかりやすいんですけど、一時間歩いたとしても、実際足に衝撃がきてるのは着地の瞬間だけですよね。

 
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バッテリー入り。

 
──最後に、今後、秋予定という発売までのロードマップを教えてもらってもよろしいでしょうか?

 
岩佐 まずはCESのデモでわかった問題が山のようにあるので、それを順番につぶしていきます。特に形状ですね。

 
──結構脱げますね。

 
岩佐 脱げるし、強度的にも厳しいし、土踏まずのところがあいてる設計は足が痛くなってしまう。その辺を変えつつ、アダプターを用意して女性でも履ける22cmから30cmぐらいまでのマルチサイズ対応を図っていきたいです。基本コンセプトはイケてるっていうのはわかったので。

 
──なるほど。発売はワールドワイド向けですよね?

 
岩佐 もちろんです。うちの商品基本全部ワールドワイド向けで、あのドミネーターすら海外で売ってますからね。

 
──ちなみに今回のCESでも色々持ってきていますが、ワールドワイドで売り上げがいいのと、話題になっているのはどれでしょうか?

 
岩佐 売り上げの数字で言うと、PCなしでライブストリーミングが可能な「LiveShell」シリーズ、話題になったのはスマートスノーボードの「XON SNOW-1」ですが、今回のショーも入れていいのであれば、もう一番話題になったのはTaclimですね。

 
──PR効果としてはものすごくあったという。

 
岩佐 非常に効果が高かったです。

 
──日本のCerevoというのを打ち出せた?

 
岩佐 かなり認知度はよくなったんじゃないかな。今回のCESでは、ジャンルもまったく統一されていない17製品を並べるっていう相当いかれたことをしたんですが、「お前らそんなにでっかいメーカーなのか?」みたいなこともよく聞かれたという。お前ら何なんだみたいな。

 
──しかも、大きな会場のひとつであるSands Expo2階の入り口からめちゃくちゃ近くのブースですからね。

 
岩佐 そうなんです。なので、何かよくわかんないものをいっぱいつくっているCerevoってのがいたなと、だいぶ今回覚えてもらったんじゃないかと思います。そうしたのはセールスにもつながってくるので、結果、すごくよかった。来年のCESもいっぱい持ってきたいですね。

 
 
(TEXT by Minoru Hirota

 
 
●関連リンク
Taclim
Cerevo

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