THETA生みの親・生方氏に聞く「RICOH R」 プロの声に育まれたライブ配信向け360度カメラ

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RicohR

 
RICOH R Development Kit」といえば、1月のCESにてリコーが発表したライブストリーミング用の360度カメラだ(レポート記事)。ライブストリーミングにおいて課題となっていた連続稼働時間に着目し、放熱性能を大幅に改善して24時間の連続撮影を実現した。このプロダクトは、どんな意図で開発されて、リリースまでにはどんな苦労が隠されているのか。THETAシリーズの生みの親でもある、リコー 新規事業開発本部の生方秀直氏にインタビューした。

 
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RICOH R。

 
 

最初からあった「写場」というコンセプト

 
──RICOH Rはどういった経緯で制作に至ったのでしょうか? 生方さんはTHETAシリーズの生みの親でもありますよね?

 
生方 はい。THETAは2010年に提案して、2013年の9月5日に発表したのですが、その流れから生まれたのがRICOH Rです。THETAのコンセプトとして、当初から360度の静止画がありました。さらに「ライブの臨場感を共有する」というのもやりたかったことのひとつなんですよね。

 
──コンセプトのひとつに入ってたということですか?

 
生方 「写場」っていうコンセプトがありまして。

 
──シャバ?

 
生方 はい、静止画は「写真」っていうじゃないですか?

 
──はい。

 
生方 過去にも何度か言ってきましたが、写真というのは空間を四角く切り取る行為で、それが表現としてスゴく面白いわけです。けれど、僕が作りたかったのはコミュニケーションツールであって、カメラじゃなかったんです。それでネットのソーシャルメディアを通じて場の雰囲気を共有するためには、360度がいいんじゃないかという発想だったんです。

 
──なるほど。

 
生方 当時、もちろん技術的な検討をしたのですが、THETAのような小さい筐体で実現するのはやっぱり難しかった。だから静止画から入ろうってことになったんですけど、「写場」というオリジナルコンセプトの中にリアルタイムの世界っていうのは最初から入っていました。

 
──当時はハードル相当高いですよね。初代THETAは、360度動画にすら対応していませんでしたし。

 
生方 そうですね。だからそうしたハードルを1個ずつ解決しながら技術を蓄積してきて、まず2Kの解像度ですがRICOH Rをようやく出してみることができたんです。脈々とやっていたことがようやく形になったっていう感じです。

 
──RICOHの360度カメラとしては、第4世代くらいになりますよね?

 
生方 そうですね。正確に言うと、昨年10月にリリースした「THETA SC」もありますが。

 
──SCはどちらかというとTHETA Sの廉価版みたいなイメージですよね。

 
生方 はい。

 

 
 

「魔改造機」で吸い上げたライブ配信のプロのニーズ

 
──開発でいちばん難しかったところはどこですか?

 
生方 RICOH Rは金属筐体なんですけど、その理由はやっぱり熱対策なんです。僕らは当然、スティッチング(別々のレンズで取り込んだ画像や動画を統合する作業)のアルゴリズムをつくってきてるのでどれくらいの負荷がかかるかはわかりますが、2Kとはいえ1秒間に30回リアルタイムスティッチをするっていうのは発熱量が相当なものになる。それをどう対処していくのか。CESのほかのブースの展示品でも、ライブストリーミングができていても、連続稼働時間ってだいたい制約があるんです。

 
──熱源であるバッテリー抜いて外部電源にしたり、録る前に冷蔵庫に入れておくとか、360度カメラの熱対策の逸話はさまざまなカメラマンから聞きます。

 
生方 広田さん(インタビュアー)も360度映像を録っておられるので、どれぐらい熱くなるのかご存知だと思うんですけど、それを解決する、つまり性能と熱問題の両立っていうのがいちばんのポイントでした。

 
──リコーさんでは、RICOH R以前に開発機がありましたよね。ニコニコ超パーティーなどで使われたり。

 
生方 「魔改造」の全天球ライブカム実験機ですね。

 

 
──あの開発機でノウハウを蓄積していったのでしょうか?

 
生方 そうですね。大きく2つの側面があります。まずカメラそのものの熱問題をどう解決していくかっていうアプローチで、魔改造(全天球ライブカム実験機)の初号機とマーク2の2世代で色々と知見を貯めてきました。

 
もうひとつは、音楽系、ドキュメンタリー系など、実際に映像で商売をしている方々と組むことによる細かいスペックのチューニングです。プロに「こういうことできないんですか」という意見をいただけて、それを段々蓄積していって、ある程度使いものになるところまで持ってこられました。

 
──実証実験の繰り返しによって、ライブ配信の現場の意見はクリアできていると。

 
生方 そうですね。ネットで生放送している方々のニーズはなるべく入れてきてます。

 
──例えば、どういったニーズがあるのでしょうか?

 
生方 RICOH Rはプロフェッショナルユースだけを目指してるわけじゃないんですけど、仮にプロフェッショナルユースを想定したときに、映像系のワークフローに対応する必要があります。映像製作の現場では、PCを介さず、直接ほかの機器に映像信号を出力できないといけません。PCを使うのは最後に動画を少しいじってからアップロードする程度なんです。

 
例えば、映像信号をHDMIで直接出力できるようにしたり、そのHDMIの信号を映像製作の現場でスタンダードな「59.94i」にしたのも外部のプロからの意見でした。

 
──スゴいところに着眼してますね。

 
生方 僕らも色々な現場のニーズを反映することで、59.94i出力という結論を得たんです。HDMIならプログレッシブ出力もできるのに、なぜインターレスなのか。しかも59.94iという中途半端な数値なのは、映像制作のしきたりから来ています。

 
──つまりライブ配信の今のワークフローにそのまま組み込めるという。

 
生方 そう。HDMIでつないでいたければ、今のビデオ機材がすべて使えるというのはすごく大きなポイントです。

 
 

モバイルバッテリーでの電源供給も可能

 
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──USBの端子を2つに分けた理由はありますか?

 
生方 ひとつはUSBビデオクラス(UVC)で映像出力するためのもので、もうひとつは電源供給用です。RICOH Rを外部電源で動かすというのは最初から決めていたのですけど、じゃあ何の電源で動かすのかという議論があった。そのときにやっぱりスマートフォン用のモバイルバッテリーがいちばん使えるだろうと。USB端子も最新のType-Cではなく、汎用的なType-BのマイクロUSBにしています。

 
──となるとモバイルバッテリーをホットスワップすることはできないのですか?

 
生方 それはできないですね。

 
──電源供給が2口あれば、バッテリーを付け変えて連続稼働もできるかもしれませんね。とにかく大容量バッテリーを用意しておけば、コンセントのないところでもライブストリーミングもできちゃうという。

 
生方 ACでも、バッテリーでも電源供給できるというのが大きな特徴になっています。必要な電流をiPadなどと同じ2.1Aにしたのは、そこら中あるモバイルバッテリーを活用してもらえるという意図です。

 
──汎用性を高めたと。あとは端子を挿す場所ですよね。THETAでは底面にあったのが、側面に移動しました。

 
生方 ケーブルの取り回しにも配慮しています。映り込みの問題はあるんですけど、プロフェッショナルユースでは三脚の台座が絶対使われる。そのときにエクステンションアダプターが必須になると、現場の取り回しがすごく悪くなってしまう。

 
──他にもTHETAと異なる点で、マイクロSDへの記録が可能ですが、この理由はなんでしょうか?

 
生方 これは正直特に理由がないです。できるから、まぁつけときましょうかという感じです(笑)

 
──THETAシリーズでは、外部のSDカードが欲しいという意見も多かったです。

 
生方 確かにそうですね。技術的には可能ですし、せっかくのDevelopment Kitで、色々な形で試してもらいたいので付けておこうかという思いです。

 
 

何かのシステムの一部として使いやすい全天球カメラ

 
──SDKも配布するんですよね?

 
生方 そうですね。具体的にはカメラコントロールのAPIを公開するということと、カメラコントロール用のソフトウェアツールをつくっています。USB経由でカメラコントロールもできるソフトウエアツールで、Windows/Mac用とあって、無償で提供しつつそのソースコードを公開します。例えば、出先から人がカメラをコントロールするアプリを簡単につくれます。

 
──遠隔操作もできちゃいます?

 
生方 そうですね。遠くにRICOH Rが置いてあって、明るさを遠隔地でコントロールするシステムを組めるようになります。

 
──THETAでも同じことはできたけど、よりストリーミングに適して、耐久性が高くなって、信頼性が上がったのがRICOH Rという。

 
生方 そうですね。連続稼働を前提に作ってきているので、防水性とかは付けてないんですけれども。

 
──24時間連続稼働とのことですが、実際に最長何時間稼働したというデータはありますか?

 
生方 最終的な量産機の試験をしてみるまでちょっとわかりませんが、基本的にはずっと動くとしか言いようがないんです(笑)。例えばじゃあ1年動くかとか聞かれると何とも言えないのですが、数日程度は普通に動きます。

 
──となると監視カメラなどの用途にも使えるのですか?

 
生方 そうですね。とはいえDevelopment Kitなので、監視カメラで使っていただいたときににどうなるかというのは、ぜひ実験してみて欲しいなと思います。

 
──監視カメラには、PCと組み合わせて色々な操作ができる製品はあるのですか?

 
生方 グローバルで一番有名なのところでは、セキュリティ用カメラやスマート火災報知器を手がけるNestでしょうか。Googleが2014年に買収しているのですが、Nestのカメラはスマホで見ながら色々コントロールできますね。

 
──防犯・防災用途もスマホのアプリケーションを含めてつくり込めばできると。

 
生方 そうですね。それの360度版っていう感じですよね。

 
──天候が問題になるかもしれないですけど、農業用の監視とか、何にでも使えそうですよね。

 
生方 ありがちですけど、ドローンにくっつけてそれをライブビューするとか。あとはロボットの目ですね。今まで安定的に360度をリアルタイムで見られるカメラってなかったじゃないですか。なので、RICOH Rをロボットの目として、いわゆるテレイグジスタンス(遠隔臨場感)で使っていただく。テレイグでリモート操作をするみたいなアプリは実際求められているので、そういう開発をしている方にはピッタリかと。

 
──今まで連続稼働で信頼性の高い360度カメラがなくて、業務向けとしてはそこにうまいことハマっていそうですね。

 
生方 あとは、カメラヘッドって呼んだりするんですけど、「素カメラ」というか、何かのシステムの一部として使いやすい全天球カメラってなかったんですよね。そういった意味では、色々華やかなうたい文句はあると思うんですけど、われわれとしては結構地味に進めてきていて、今回Development Kitとしてお披露目しました。

 
──ちなみに本体はメタリックで光沢もありますが、映り込み対策はいかがですか?

 
生方 これはプロタイプなので色々評価をしてるところです。当然ピカピカしている方がベストというわけでなく、ほかのカラーも試しています。ただ量産性の兼ね合いもあって、このプロトタイプを元にそのバランスをとっていきたいです。

 
 

多くの人が試せる価格帯で提供予定

 
──Development Kitを抜けて、将来的に製品として出すのはいつぐらいといったロードマップはありますか?

 
生方 これは正直未定です。Development Kitの要望も色々上がってくると思うので、それこそそういう物を反映しながら、どういう仕立てがいいかをもっと考えなきゃいけない。

 
──もしかしたら、Development KitⅡもあるかもしれない?

 
生方 そうですね。現場で使ってみてこうだったっていうフィードバックをいただいて、もしかしたらB to B向けの方がニーズが強いかもしれませんし、あるいはエンタメだということかもしれません。そうした状況を確かめて、一般的なお店で売るような商品に仕立てていきたいと思います。

 
──よりユーザーが求めてる物に対して最適化した上で商品として出したいっていうことですね。

 
生方 はい。今回のCESでは、色々な企業が同じようなこと言ってるのですが、まだ実際に色んな環境・条件って整ってないと思うんですよ。通信インフラしかり、ヘッドセットの性能しかり、色んな物がまだ整ってない。

 
その中でいちばん整っていないものは何だっていったら、やっぱ何に使うのかという目的だと思うんです。個人で記録を残しておくとかは確実にあると思うんですけど、じゃあライブストリーミングを見るといっても、VRゴーグル自体まだ持ってる人少ないです。

 
僕らは色んな物を提案していくスタンスですけど、世の中のニーズを吸収して何かを開発していくチームではなく、先に出していくチームなんです。その出したことによって得たフィードバックで使用用途が固まっていくんじゃないかと思います。

 
──いろいろな物を提案して、フィードバックを受けて……。その繰り返しでTHETAが生まれて、RICOH Rが生まれたということですよね。

 
生方 僕の印象として、360度カメラやVRは派手に紹介されがちですが、マーケットとして「これは」という形がつくられるまではもう少し時間がかかるであろうと思っています。

 
──いちばん気になるのは価格ですが……。

 
生方 それはもう本当にノープランで。どれぐらいでいこうかなって……。まだ決めてないんですよ、本当に。

 
──20、30万円ぐらいでしょうか?

 
生方 それは高すぎないですか(笑)。

 
──業務用ならそれぐらいかなという。

 
生方 それこそOculus Riftじゃないですけど、Development Kitとして多くの方に試してもらうのが僕らがこれをつくった目的です。THETAとのバランスもあって難しいのですが、できるだけ色んな方に、色んな用途で試してほしい。このCESでも、YouTubeにも直結してデモしてますし。

 
──YouTubeに直結!

 
生方 Cerevoさんの「LiveShell」というPCレスの配信機器を使っていますが、製品版のときはRICOH RとPCを直接USBでつないで、それだけで普通のウェブカメラと同様にYouTubeに上げられるようにしようっていうのが今僕らがやってることです。

 
そうなると360度映像のYouTuberって別に何にも用意しなくてもできちゃうんです。用途開発って結局システムだけではなくてコンテンツも含むので、そういうことができるだけやりやすいようなプライシングは考えたいなっていう方針は持っています。

 
──素晴らしい! 正直、50万円くらいの価格だと思ってました。

 
生方 これ50万円したら誰も買わないと思いますよ(笑)

 
──選ばれし者じゃないですけど、その金銭的ハードルを越えられる者が買うアイテムなのかなと。

 
生方 そうなると金メッキにしないとですね。

 
──あの幻の、70台限定で直販サイトで買えた金色の2代目「THETA m15」ですか。

 
生方 まだ売ってるみたいですよ。

 
──えっ(笑)。話がそれてしまいましたが、RICOH Rの発売を心待ちにしております!

 
生方 われわれも今回本当に色々な反響を頂いたので楽しみです。Development Kitなので色々いじれる要素を残していて、さっきのYouTube直結のように、少しいじるだけでいろいろなことができます。ぜひ色々な方に使っていただいて、一緒に360度ライブ配信を盛り上げていきましょう!

 
 
(TEXT by Minoru Hirota

 
 
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