VR市場でこの先生きのこるためには? 1.2億円調達の米Subdreamに聞く、未来のゲーム
以前の記事でも軽く触れたが、米国サンフランシスコにて2月27日〜3月3日に開催されていたゲーム開発者向けイベント「GDC 2017」のEXPO会場では、VRコンテンツを出展しているブースが増えた印象だった。
そんなVR業界において最大市場といわれている米国に本社を構えて、コンテンツプロバイダーとして勝負している企業はどんな世界が見えているのだろうか。コロプラの米国子会社であるColopl NIの元CEOで、1月にSubdream Studiosを立ち上げたJikhan Jung氏にインタビューした。
米国向けのゲームは「すぐに楽しい」が重要
──Jikhanさんは、今までどんなことをされてきた人物なのでしょうか?
Jung氏 2004年からずっとゲーム業界に携わってきて、今年で13年目になります。当初は面白いゲームを見つけてライセンスを取得し、それをマーケティングで広めていくという業務でした。それがColopl NIに入ってから、「Cyberpong」などのVRゲームを初めて自分で手がけることになったんです(関連記事)。1を100にしていたのから0を1にする仕事に変わって、それがとても楽しかった。
──その技術を学んだり、楽しさに気づいた経験が、Subdream Studiosを立ち上げるきっかけになったという。
Jung氏 そうですね、そういう感じです。それで11月にColopl NIを辞め、DeNAやGenesia Partners、Cognitive Investmentなどから100万ドル(約1.2億円)の資金を調達して、1月19日にSubdream Studiosをスタートさせました。
──おおっ、おめでとうございます! その流れで米国のVR事業についてお聞きしたいです。日本においてVRのハードウェアでPlayStation VRが大きく注目を集めていますが、米国ではいかがでしょうか?
Jung氏 今年1月に発表されたGDCの調査結果では、1番がHTC VIVEで、2番目がOculus Rift、3番目がPS VRでした。PlayStation VRについては多くの台数が出ているのはわかっているものの、やはりゲームを販売するまでのプロセスが多くて、小さな会社が素早く動くには難しいところがあります。ソニー・インタラクティブエンターテインメント(SIE)さんとずっと一緒に仕事をしてきた企業はやりやすいかもしれませんが、VRからスタートした企業にとってはちょっとハードルが高い。
また、PS VRは座っての体験が多いですが、米国では立って遊ぶ前提のコンテンツをつくっているところも少なくなく、相性が悪いというところもあります。
──なるほど、興味深いです。コンテンツでいうと、最近これが流行したという話はありますか?
Jung氏 去年はずっとHTC VIVE向けのVRアクション「Raw Data」が流行った印象でした。今年に入ってからはOculus Touchのボクシングゲーム「Knockout League」が流行っているとのことで、僕も体験してみてすごく面白かった。
──おおっ、面白そう! やっぱりコントローラーで殴ってる感じがあるという?
Jung氏 そうですね、殴っている感じもありますが、相手の攻撃がわかってタイミングよく避けていくというリズムゲーム的な要素も面白いです。
──なるほど! そうした米国市場でヒットを出すためのポイントってあるのでしょうか?
Jung氏 大前提として、ゲームは面白ければ世界的にはやると思うんです。
──それはその通りです!
Jung氏 ですけども、ちょっとした傾向があるとしたらまず見た目ですかね。日本のアニメ調のタイトルは、もちろん米国でもアニメファンはいますが、マスマーケットになるかというとそうではない。プレイヤーの傾向としては、VRはまだ日が浅いので国ごとの傾向は断定しにくいものの、例えばモバイルだと日本のゲームはコレクションが好きですよね。
──わかります(笑)。私も大好です。
Jung氏 それが米国ではプレー時のアクション性だったり、ゲームそのものが楽しいことを重視する違いがある。中国だったら「あなたがナンバーワンになれる」という仕掛けを用意しておくと、みんながそこを目指してみんな頑張る。
──課金してでもナンバーワンになりたい。
Jung氏 現実はどうあれ、ゲームの中ではナンバーワンになりたい。でも実際、VRだとどうなんでしょう?
──まだ色があまりついてないですよね。私の偏見ですと、米国のプレイヤーは銃でゾンビを倒すようなFPSがVRでやりたいのかなと思っていたのですが。
Jung氏 VRはこれからなので、今は特にコレがウケるという強い傾向はないと思います。ただ、先ほどのモバイルの話にもつながりますが、米国ではすぐに楽しい経験ができる、最初から何かを与えることが大事というのは同じでしょう。
──我慢して、我慢して、我慢して……ようやく何かをゲット! というのではなく、すぐに面白い体験があって、また面白いのが、さらに面白いのが、という?
Jung氏 そうですね、そんな感じです。
ゲームはみんなと一緒に遊ぶのが原体験
──Jikhanさんの会社であるSubdream Studiosでは、どんなVRコンテンツをつくろうとしていますか?
Jung氏 最初に出そうとしているのは、宇宙を舞台にしたVRシューティングです。日本でも80年代に流行した「ギャラガ」をモチーフにしていて、変則的に動く敵を狙って撃ち落としていくという、昔プレーしたことがある人にとっては懐かしく感じるものになっています。そして2人で一緒に遊べるのがポイントです。
──といわれると?
Jung氏 僕にとってゲームは、そもそもリアルの生活が面白くないから逃げ込むというようなものではなく、みんなと一緒に楽める第2の場所ととらえているんです。だからゲームをつくるなら、みんなで遊べるものにしたい。
──それは家庭用ですか? 出先で遊ぶ「ロケーションVR」向けですか?
Jung氏 家庭でも遊べるし、アーケードゲームとして友達とどこかに行ったときに、手軽に一緒に遊べるものにしたい。僕の意見では、今までリリースされたVRハードではHTC VIVEが一番面白い体験を提供してくれると思っていますが、一方でまだ値段も高いし、セッティングも凄い難しいし、広めの場所も必要なんです。なので一般に普及するのは、まだちょっと早い。
ただロケーションVRなら、前もってセッティングできて、行けばすぐ遊べますよね。そこですごく面白い体験ができれば、VRに対していいイメージを持ってもらえて、いざハードの価格が安くなったところで普及するんじゃないかという考えです。
──他紙のインタビューを読んだところ、ソーシャルVRについても開発したいと話されていました。
Jung氏 それもみんなでプレーできるというのにつながっています。今回のシューティングゲームは2人ですが、その次は4人かもしれないし100人に増えるかもしれない。そうした風にマルチプレーを前提にしたゲームを多く出していく中で、ひとつのポータルもリリースして、そこで色々なゲームが選択できるようにしたい。どのゲームが今一番人気で、誰が集まっていてというのがわかって、一緒にプレーできる。そのVRゲームポータルが自分が目指しているところです。
──ネット対戦なんですね。
Jung氏 家庭でのインターネット対戦でもできるし、ロケーションVRもそこに含まれている感じです。
──家庭でも出先でもネット対戦できるポータルという構想が面白いです。
Jung氏 今、米国でもロケーションVR向けにコンテンツを出している企業があって、そうしたところとポータルをつくろうという話も出ています。われわれのゲームもあるし、他の会社のゲームもあって、そこからゲームセンターにして入っていくようにしようという。ただ、そこにおいても僕が重視しているのは、やっぱり誰かと一緒にプレイするというソーシャル性ですね。
──なぜそこまでソーシャル性にこだわっているのでしょうか。自分の子供の頃にそういった体験をしたという?
Jung氏 そうですね。僕も昔から本当にゲームにはまっていて、さっきも言ったギャラガが好きだったし、その後に出ていた対戦ゲームにもハマって、母親から「二度とゲームセンターに行くな」と怒られるぐらいでした。
──(笑)。ゲームセンターだったんですね!!
Jung氏 子供時代は韓国で過ごしたんですが、その頃はゲームセンターが中心でした。というのも、1970〜80年代の韓国はまだ日本のように経済成長していなくて、普通の家庭ではゲーム機はまだ高価で買えなかった。その後、インターネットカフェが出てきて、さらに家庭にPCを置くようになってオンラインゲームが流行したというのが韓国におけるゲームの歴史です。
僕もゲームセンターのアーケードゲームで対戦を楽しんで、その後のネットカフェ時代にはRTSの「スタークラフト」にハマった上で、自宅でもMMORPGでみんなで遊んできた。
──ずっとみんなと一緒に楽しむゲームをやってきたから、それをVRでも同じようにつくりたいという。
Jung氏 そうですね。
──超いい話ですね! ちなみに過去、一番ハマったゲームというのは何でしょう?
Jung氏 うーん、ギャラガも大好きですが、やっぱり一番はスタークラフトかな。
e-Sportsの観戦もVRで変わっていく
──先ほどの他誌のインタビューにもありましたが、VRにおけるe-Sportsも構想しているとか。
Jung氏 そうですね。そもそもゲームとして大流行するための要素は色々ありますが、e-Sportsとして盛り上がって有名プレイヤーがお金をもらえるぐらいになれると、爆発的に成長できますよね。その傾向はVRでもありうる話だと思っています。
というのも、Colopl NI時代に手掛けたCyberpongも対戦が可能で、VRカフェでトーナメント戦をやったらすごく盛り上がって、最後に1位になった人はめちゃくちゃ喜んでくれた。VRは没入感が半端ないから、実際にスポーツをやっているような感覚もあって、その表現にあうゲームが出てきたら普及もすごく加速すると思います。
──先ほど言っていたVRポータルにもつながっている話でしょうか?
Jung氏 どちらかというとe-Sportsに向いたゲームを何かひとつつくって、それがはやるというイメージです。
──VR e-Sportsに参加しなくても、ポータルからアクセスして観戦できるような構想はありますか?
Jung氏 それも考えています。恐らくe-Sportsまでできる規模のVRゲームになると、プレイモードで選手として参加するだけでなく、VRゴーグルをかぶって観客として座って見るニーズも出てくると思います。もちろんパソコンやスマートフォンの画面でも見るのでしょうが、そうなっていくと本当に面白いですよね。
──今のまさにTwitchなどで画面越しにみているゲーム実況が、そのままVRの世界でできる。
Jung氏 一応、Cyberpongでも観戦モードをつくっていたのですが、色々なイベントまでは展開していなかった。これからつくるゲームでも、対戦ものなら観戦モードを入れていきたいです。
──確かにVRお絵かきツールの「Tilt Brush」で誰かが描いた絵を見るのが楽しかったりしますが、観戦という市場も大きそうです。ソーシャルメディアで「あれが面白い」と話題になって、みんなで見られるみたいな。
Jung氏 多く「いいね」を集めたコンテンツがランキングなどで目立って注目を集めるみたいな流れが出てきたらいいですよね。
当方VRスタートアップ、求むエンジニア!
──すごく広がりのあるお話、興味深かったです。最後にJikhanさんにとって、2017年はどんな年にしていきたいですか?
Jung氏 コロプラという大きな傘の下で手厚い支援を得られてちやほやされていたのが去年だとしたら、今年はもう自力でやっていくしかない。だから、すごく大きな夢に向かって、目の前のことを着実にやっていくしかないというのが2017年です。昨年以上にVRハードも色々出てきてよくなっていくと思うので、とても楽しみです。
──ちなみに御社で技術者とか募集してたりとかしません? PANORAの読者の中にも、米国に向けてVRコンテンツをつくってみたいと興味を持っている人がいると思います。
Jung氏 実は創業メンバーの一人が日本にいてアートディレクターを担当してます。エンジニアもすごく探しているので、興味がある方はぜひFacebookまでご一報ください。
──ゲームエンジンとしては、UnityとUnreal Engineのどっちになりますか?
Jung氏 絶対にどちらかと決めているわけではないですが、今はUnityで開発しています。Unityでプログラムをできる人がいたら、今すぐにでもお話ししたい。
──日本にいても自分のつくったコンテンツを世界に向けて発信できるという。
Jung氏 そうですね。僕はColopl NIの前に自分の会社をやっていて、そのときも本社は米国で、支社が欧州とブラジル、韓国にあったんです。米国は出資を受けたりマーケティングをするにはいい地域ですが、やっぱり何をやろうとしても人件費が高い。一方でアジアは生活費がそれほどかからないので、いい人材でも人件費がまだ抑えられる。
──欧州に支社があった理由はなぜですか?
Jung氏 世界にコンテンツを広めていくにあたって、重要になるのって実は英語圏に加えてドイツとフランスだったりするんです。英語のコンテンツはみんな重要さに気づいていますが、フランスとドイツは知らない人も多い。にもかかわらずフランスやドイツの市場規模は米国の40%ほどとかなり大きい。一番美味しいのは英語ではなく、フランスとドイツなんです。
──競合の多い英語圏ではなく、それ以外も視野を入れているという。
Jung氏 そうなんです。市場規模の割に競合が少ない。なので、米国でうまく回り始めたら、欧州にも支社をつくって攻めていきたい。
──ちなみにブラジルは?
Jung氏 南米はこれからくるだろうと思って会社をつくりましたが、まだ難しかったです。毎回出張に行くたびにブラジリアンバーベキューを食べて「美味しい!」と思って帰ってきてました(笑)
──(笑)。いやぁ、面白い! 世界を席巻するVRコンテンツのリリースを期待してます。
Jung氏 はい、ぜひ期待していてください。
(TEXT by Minoru Hirota)
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