VRシネマの可能性がびんびん伝わる! OculusやFelix & Paulのデモを堪能【SXSW 2017】
10〜19日まで米国オースティンにて開催しているクリエイティブコンテンツの祭典「SXSW 2017」。メイン会場のオースティンコンベンションセンター近くにあるホテル「JW Marriott Austin」では、14〜16日にVR/AR関連のセッションやデモ展示が行われていた。
本記事では「VIRTUAL CINEMA」と題したデモの中から3つを紹介しよう。その名の通り映像作品をテーマにしたコーナーで、360度映像の可能性を実感できた。
ホテルの宴会場を使って、映像系の展示を10コーナー以上もうけていた。
同じフロアにはAMDのラウンジがあり、こちらでは「Robo Recall」などのVRコンテンツを体験できた。
さらに16日よりオースティンコンベンションセンターでは、ゲームをテーマにした「Gaming Expo」がスタート。こちらでも数点VRゲームが出展していた。
VRドキュメンタリーの強さを感じたVR for Good
入口近くの一番目立つ場所にブースを構えていたのが、Oculus VRだった。2016年に10の非営利団体と組んで作成し、今年1月にサンダンス映画祭に「VR for Good Creators Lab」として出展した10のドキュメンタリーのうち、8作品を体験できた。VRゴーグルはGalaxyシリーズ専用の「Gear VR」だ。
行列に加わってしばらく待ち、筆者もいくつか見たのだが、中でも印象に残ったのは差別をテーマにした「See Beyond Labels」という約7分の作品だった。
公式サイトによれば、アメリカ人10人のうち7人近くが何らかの差別を経験しているが、一方で85%が自分は偏見がない人間と思っているとのこと。人種、年齢、性別、宗教、性対象、障害の有無などについて、意図せずに潜在的な差別(Implict bias)をしている可能性がある。では、VRでその人と同じ空間を体験してみたら……という流れで6人の生活を振り返る。
ジェンダーフリーやバリアフリーなどを訴える当事者と同じ世界に自分が入って、目の前で真摯に語ってくれるというのはとても伝わってくるものがある。筆者の貧弱な英語力でも、頭を動かして360度見渡すことで「こんなことを言ってるのかな?」と非言語的に察せる点もVRならではのよさだ。
そうしたコンセプトもさることながら、検眼士が視力検査の器具を出してきて体験者の目に当てて、シーンを移動するという演出もVRの特性を生かしたうえで、作品の内容にも合っているという素晴らしいやり方だと感じた。
「やられた!」とちょっと嫉妬しました。
他にも電気のない家で暮らすグアテマラの家庭の様子を記録した作品「Amor de Abuela」(A Grandmother’s Love)も、どんな環境で暮らしているのか自分が当事者のように体験できるのが強いと感じた。
筆者も言葉や写真、動画でこぼれ落ちてしまう現地の空気感を伝えるために、VRジャーナリズムとして2014年からイベントなどの360度映像を撮ってきたわけだが、それが社会問題や人道支援などのジャンルで使われるとより強固に問題を伝えられると実感した。
一方で筆者の体質もあるのだが、15分ほど見ていたところ、頭の芯に残るほどひどくVR酔いしてしまったのが残念だった。筆者が推測するに原因は映像の立体視で、Gear VRがIPD(瞳孔間距離)を調整できないこともあって、頻繁にピントが合わないことがストレスになっていたものと思われる。
逆にVR酔いで困っている人を体験できるドキュメンタリーをつくれば、酔いにくいクリエイターもわかってくれるのでは……と感じたのは秘密だ。ともあれ日本でもドキュメンタリーに関わる人は、ぜひ360度映像+VRゴーグルでの表現に挑戦してほしいと実感したコーナーだった。ご依頼あればPANORAでも撮りますよ!(アツい営業)
360度映像表現の先端を行くFelix & Paul
カナダのFelix & Paul Studiosも行列が長かったブースだ。いくつかコンテンツを提供していたが、筆者が体験したのはCirque du Soleil(シルク・ド・ソレイユ)の「DREAMS OF “O”」だった。あとで知ったのだが、Oculus Storeにて無料で配布しているのでぜひ見てほしい。
原作は、ラスベガスのホテル「ベラージオ」にて実施しているシルク・ド・ソレイユのショー「O」。ステージに大きなプールを用意して出演者がシンクロナイズドスイミングを披露するなど、水という切り口で作品をまとめ上げているようだ。
そして今回の「DREAMS OF “O”」を手がけたFelix & Paulといえば、その映像の美しさや演出、3D音響の使い方で定評のあるスタジオだ。初代のGear VRからシルク・ド・ソレイユの360度作品を撮り続け、今年1月のCESでも「KÀ」のデモを披露していた。
そんな長きにわたるパートナーが産んだ新作だが、360度をスクリーンとして立体視の映像をうまく配置して見せるという手法が興味深かった。
冒頭、体験者は暗闇のなかに放り出され、しばらく待っていると正面から髪が乱れた男性がやってくる。さらに周囲を見回すと自分の周囲に水面があって、そこからたいまつを持った女性が目だけを出してぐるりと取り囲んでいるのがわかる。なんだか不気味なオープニングだ。
その後、水中に切り替わって、シンクロナイズドスイミングを見ているようなシーンになる。青を基調として宝石をまぶしたような衣装と、これまた青いゴーグルをつけた女性たちがこちらにやってきて、体験者の周囲を取り囲んで泳ぎ回る。その動きは人魚のように優雅で、かつ衣装がピチピチでえっちな雰囲気のため、間近に来られるとドキドキしてしまう。
ただ、筆者的には「なんか配色が『ドラえもん』っぽいなー」とうっかり思ったがゆえ、それから全員が8頭身のドラえもんにしか見えないようになって笑ってしまった(ひどい)。
さらにシンクロのシーンは続いて、今度は体験者の左手側にシンクロの演技を水底からみたような映像が映し出される。団体でうごめく演者の足がまるで蜘蛛のようだ、と感じて右側面を向くと、今度は空中から水面を見た映像があった。上下から写した2つの映像を左右に配置して、重力を狂わせたような状態で見せてくれるという演出が面白い。
なんとなくダダっぽい衣装の人も。
360度カメラで撮った映像そのままではなく、合成したせいかかなり鮮明で、色もきっちり調整されていてビビッドだ。立体視も調整しているのか、先ほどのOculusとは異なって見辛いとは感じなかった。おそらく水の泡や煙はCGで合成していて、トータルでの映像表現が突き詰められている。
万人向けのエンターテインメントかといわれると、中には「ふーん」としか思わない人もいるかもしれない。しかし、360度のスクリーンを生かして、シルク・ド・ソレイユの不思議な世界観を合成でうまく表現しているという点は素晴らしいので、Gear VRをお持ちの方はぜひ体験してほしい。
モーションチェア連動の「Fistful of Stars」
ELIZA MCNITT監督の宇宙体験モノ「Fistful of Stars」も人気で人だかりを集めていたブースだった。ハッブル望遠鏡を通じて観測されたオリオン大星雲のCGに入り、星の誕生などをバーチャル体験できるという内容になっている。
ユーザーは先にレポートした「The Mummy」でも活用していたVRモーションチェア「VOYAGER」に座って、Oculus Riftとヘッドホンを装着して宇宙空間を漂うことになる。
このシステムが素晴らしいのは、体験者は首すら動かさずにただ座っていればOKという点だ。通常、VRコンテンツでは見てほしい方向に向けてCGを動かしたり音を鳴らして視線を誘導するが、意外と気づかずに正面をずっと向いている体験者もいたりする。そこをモーションチェアを使って回転させることで、自然と見てほしいところに向けられるのだ。
暗闇で見えにくいが、足元が回転する。
しかもVOYAGERは既存のモーションチェアとは異なり足がつかないようになっていて、その若干アンバランスな姿勢が無重力モノの再現に合っている。最初にハッブル望遠鏡を通って宇宙空間に飛び出していくという演出も素敵で、科学館に置いてあったら行列ができそうだと実感した。日本でも宇宙モノの映画プロモーションなどに活用してみませんかね?
Voyagerは、操作用のタッチパネルを用意して、キャリブレーションや再生を指示できるようになっていた。運営についてかなり考えられている。
ブース前ではペッパーズゴーストな装置で、ハッブル望遠鏡を見せていた。
ハンドコントローラーを使って、触覚付きでVR体験を深められるハイエンドVRシステムに比べると、単に見るだけの360度動画はVRでやる意義がシビアに問われるジャンルだ。一方で、何もせずに座ってるだけで楽しめる「面倒臭くない」エンターテインメントも多くの人に求められているわけであって、そこに360度動画+VRゴーグルの入り込む余地もある。
今回の取材を通じ、360度動画も単純に撮るだけの時代を過ぎて、コンセプトや演出、周辺機器をからめてより深い体験を創り出している現状を実感できた。映像クリエイターなら、ぜひ機会があったらどこかでVRゴーグルをかぶって体験してほしいところだ。
ちなみにNASAブースもあったのだが、時間が足らずに断念しました。
*SXSW 2017まとめページはこちら!
(TEXT by Minoru Hirota)
●関連リンク
・VR for Good Creators Lab
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