PlayStation VRの「サマーレッスン」はなぜスゴい Oculus開発者に聞く

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バンダイナムコエンターテインメントのPlayStation VR向けデモ「サマーレッスン」といえば、数ある国産VRコンテンツの中で、代表例としてあげられることの多い作品だ。

 
教師となったプレイヤーが女性に勉強を教えるというシチュエーションが話題になりがちだが、VRの表現として見ても非常に学ぶべきところが多い。VR開発者はどんなところに注目するのか。書籍「Oculus Riftでオレの嫁と会える本 UnityとMMDモデルで作る初めてのバーチャルリアリティ」の共著者で、「HauntedRift」などのOculusコンテンツで知られるゆーじ氏にインタビューした。

 

 
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「ああ、これがVRなんだ」

 
——初めてサマーレッスンを体験したのはいつですか?

 
ゆーじ 実はつい最近なんです。サマーレッスンには、女子高生が出てくる2014年バージョンと、海外向けに金髪女性にアレンジされたE3 2015バージョンがあります。2014年版は9月の「東京ゲームショウ2015」にて、2015年バージョンは10月の「Unreal Fest 2015」で体験できました。

 

 
——いい笑顔だ(見えないけど)。しかし、両方体験できたのはうらやまましい! 違いはありました?

 
ゆーじ 1年でかなりクオリティーが上がっています。2015バージョンは、女の子(アリソン)の上着のシワや髪の毛、肌、瞳などが、全体的に一段階リアルになった印象を受けました。アニメーションも、非常に生っぽくなっている。

 
そもそも両方とも女の子に勉強を教える先生として、最初から好感度MAXで始まるVR体験で、プレイヤーは初対面なのに女の子が自分のパーソナルスペースにがんがん入ってくるのでドキドキしますね。

 
——あの「近い!!」という感覚は平面のディスプレーでは表現できないですよね。

 
ゆーじ 途中アリソンちゃんに「ここは?」と、めちゃくちゃ近く、まぁ文字通り肩を寄せて教科書の一文について指をさして聞いてきます。パーソナルスペース崩壊です。

 
——あれはやばい。

 
ゆーじ 2014でも同じような演出がありますが、あれは卑怯です。飛び道具です。どんどん使っていくべきです。私もVRのコンテンツをつくるものとして「プレゼンス」、つまり実在感を感じるコンテンツづくりを目指しているますが、彼女たちと対面すると「ああ、これがVRなんだ」と、そんな感動を覚えました。ぶっちゃけ2015年バージョンでは、英語は何一つわからなかったのですが、意味はフィーリングで理解できました。

 
——ここが一番スゴかったというところは?

 
ゆーじ やはりキャラの存在感を演出する要素ですね。2015年バージョンでは、アリソンちゃんモデルの人体の立体感、質感。それを動かすモーションと表情の機微。

 
——例えばモデルだと、適度な肉付きがリアルですよね。

 
ゆーじ そうそう、肉付き! 下手に人格を感じてしまうクオリティーなので、ちょっと色々なところを見ようと目線を向けるのをはばかられます。決して、体験をアテンドしてくれた美しいお姉さんが気になったわけではなく(編集註:PlayStation VRはテレビ画面にユーザーが見ているところが表示される)。

 
——(笑)。

 
ゆーじ 罪悪感を感じるというのは、相手を人、相手に人格を感じなければ起こりえない。「キャラクターはどうせ非存在、リセットボタン一発でぐへへ」とか感じていたら、なんでもできてしまうわけです。

 
——逆に「ここがもう少しほしい!」ってところはありました?

 
ゆーじ 手!

 
——Touchか!

 
ゆーじ 東京ゲームショウ2015で、Oculus Touchの「ToyBox」を体験する機会がありまして、「手を出してインタラクションがなきゃVRじゃない!」と思うくらいの衝撃を受けました。

 
サマーレッスンは頭を振ることで「YES」か「NO」を選ぶ形ですが、その際、空間に現れる選択肢アイコンの焦点距離がどうしても固定になってしまうんです。つまり、近くや遠くを見ていたのに、アイコンに焦点を合わせなければいけなかったりして、そのタイミングでVRの実在感が削がれてしまいます。

 

1
 
——個人的にはうまいやり方だと思ってましたが、そういう見方もあるんですね。

 
ゆーじ Oculus Touchなら、手で実際の3次元空間上の物体を指し示したり、触ったりして、現実と同じアクションで話を進められる。あとはOculusの「Audio SDK」でガチ実装したことがある開発者だと、まだまだ空間での音の表現は踏み込める要素があるなと感じました。

 
——結構すごかった記憶もありますが。

 
ゆーじ 今、目を閉じて、自分のいる空間の音がどう出ているかを感じてみてください。Audio SDKでもまだまだ嘘なので現実の解像度の高さに絶望するしかない。

 
——確かに。

 
ゆーじ OculusのCV1(製品版)を体験したわけじゃないですが、視野角や絵の解像度もまだほしい。仮に完全に現実と同じ解像度を実現したVRHMDがあって、コンテンツも同じ解像度だと、何の工夫もなくそれに没入できるわけです。が、そんなのはあり得ないので、プレイヤーに錯覚させるために、表現を大げさにしたり工夫したりして人の知覚をごまかすことが必要になってきます。

 
あとはサマーレッスンに限った話ではないですが、現在のVRは映像と音、つまり視覚と聴覚だけなので、触覚と嗅覚と味覚を早く実現してほしい。

 
——近づいたときにいい香水の香りがしてくるとか。

 
ゆーじ それを感じられたらホントヤバそうですね。ちなみに人は足りない感覚は脳が補完するもので、アリソンちゃんが近づいてきたときに第6感的な、現実で誰かが横にいるという存在感、この年齢くらいの子がつけているような香水の匂いを感じました。

 
最後にこちらに近づいてきたときは、近づきすぎて一瞬ブラックアウトしてしまったのですが、そのときにはオデコがぶつかった感じを覚えたり。途中本のページを開いて寄ってきたときに、ひざまくらをしたのですが、膝の暖かさを覚えたり。人は似たシチュエーションで過去の体験や記憶から補完されるという話を思い出しました。

 
——そういうみんなの記憶の引き出しをつつくのがうまいんですかね?

 
ゆーじ ただ、これは全部体験者の思い込みの強さがなせる業ですよね。その人の資質、例えば、本や物語を読んですごい涙を流して感動する人がいたりそうじゃなかったり。

 
——それは納得。没入しやすい方と、そうじゃないタイプでVRを楽しめる幅が変わってきそう。

 
ゆーじ その資質と、あとはコンテンツとしての演出のうまさが重要になります。私の場合は、VRHMDをかぶなくてもサマーレッスンできるレベルの資質があるわけで、ここまで没入する人はそうはいないと思いますけどね。

 
——VRエリートだ!(過去にどんな経験があったんだろう)

 
 

モデルの精緻さAIの連続性などが鍵

 
——しかし、サマーレッスンのようにキャラに実在感を出すには何が重要なのでしょうか?

 
ゆーじ 体験して考えたのですが、やっぱりリアルな人を感じることと、アニメや漫画のキャラクターを感じることは、まったく別物なんだなと。

 
——といわれると?

 
ゆーじ そもそもアニメや漫画のキャラクターは最初は2Dで、それから3Dモデルに起こされます。なので、もともとのファンは2Dのイメージが「正」として認識していて、3Dのキャラクターは派生なわけです。「そのキャラを正しく認識できるか?」は、もともとのその人の認識やコンテキストによるところがほとんどで、下手すると受け入れられないこともある。

 
余談ですが、元ネタが3Dのキャラクターは、人気がいまいちで終わってしまうこともよくあるということを業界の方に聞いたことがあります。アニメキャラ=2Dというイメージ、コンテキストが日本人に根付いてしまっている証拠かもしれません。その一方、VRが登場したことで、その考え方が一変する可能性もあると考えています。

 
——2Dの見え方を残しつつ、3D化するのって難しいですよね。

 
ゆーじ そう。特にアニメキャラについては、原作の2Dから体験者が思い思いに3Dの姿を想像して、「これは違う……」と思ったらダメなわけです。それが万人に受け入れられるクオリティーかどうか、というのが重要。実は私も以前、リアルなキャラクターを使ったVRコンテンツを作ったことがあります。

 
——おおお!

 
ゆーじ 3DCGのモデルデータは「Turbosquid」という3Dモデルデータ販売サイトで購入。シチュエーションとしては夏の補習授業で、女教師にOculusについて教えてもらうものです。

 
——どこかで聞いたような(笑)

 
ゆーじ 途中から先生が説明に力が入りすぎてプレイヤーの机に手をついて顔を近づけてくるとか、話している時にプレイヤーがあらぬところを向いたり移動したりするとたしなめられたりとか、そんなシナリオがあって、最後はプレイヤーの頬に手を添えて……といった流れです。これを10日くらいでチームを組んで作りました。

 
——10日!

 
ゆーじ その中で、リアルな人のキャラクターとVRで対面すること、現実の人だと信じられる可能性を強烈に感じました。実はもともとのモデルデータがゲーム用でないことや、肌や髪の毛など、全体的なクオリティがUnityでそのまま利用できなかったのですが、協力していただいた「匠」たちの調整によって素晴らしい仕上がりになりました。プルプルな唇や、きれいな指先、柔らかそうな肌の触感。そんな精緻なモデルを視覚で感じてしまうと、実在感のヤバさを演出できる。

 
——モデルの見た目だけでなく、仕草やシナリオも重要ですよね。

 
ゆーじ それだけじゃないんです。以前、漫画やアニメのキャラに対して、テクスチャやモデリング、アニメーション以外のところでプレゼンスを感じるにはどうすればいいか、どうやったら人格を感じることができるのかと考えたことがありました。結論としては、記憶に連続性を持たせれば人格を感じるのではないかと。

 
——記憶に連続性?

 
ゆーじ コミュニケーションって、こうしたテキストだけでも実際に相手に人格を感じることができるじゃないですか。実際、今話している広田さんはAIじゃないということがわかる。

 
——おおお!

 
ゆーじ そのテキストのコミュニケーションで重要なことは、ちゃんと会話が続くこと。AIでそれを実現するには「マルコフ連鎖」というものになります。

 
——(ググりながら)うーん、ある会話が出てきたら、次にどんな言葉を返せば正しい会話になるかってことですかね。LINEのAI女子高生で有名な「りんな」とか。

 
ゆーじ ざっくりそんな感じです。あとは些細なことですが、プレゼンスを感じさせる準備として、HMDをかぶる前のリアルと完全に切り離すことが重要になります。つまりヘッドフォンで外の音を遮断することと、HMDの隙間から外が見えないことの2つ。

 
——超重要ですね。

 
ゆーじ 自分の作品の中でホラーの「HauntedRift」がありますが、ホラーではこの2つが死活問題になります。OculusShareで公開した際も、遊び方に「部屋を暗くして〜」の文章をわざわざ付けました。

 
——その点でいうと、Oculus RiftのCV1プロトタイプを体験したことがありましたが、日本人の鼻に合ってなくて若干リアルが見えてしまう印象でした。

 
ゆーじ そう。賑やかなイベント会場とかでも、HMDをかぶれば暗い廃墟の館に一人きりになってしまう。そこで音や光が見えたら興ざめです。きっとCV1にあう鼻パッドをWizapplyさんあたりがつくってくれるはず。隙間についてのハード面は何とか対応いただくとして、音はコンテンツでも努力できます。例えば、HauntedRiftでは雨音で外界の音を遮断しています。

 
——そろそろ長くなってきたので、じゃあまとめを……。

 
ゆーじ じゃあ「PERCEPTION NEURON最高!!」ってことでまとめる方針で。

 
——サマーレッスン関係ないじゃないか!

 
ゆーじ いやキャラクターの人っぽい動き、人間味を持たせる微妙な揺らぎは完全に手付では非常に難しくて、モーションキャプチャーでしかつくれないんですよ。

 
——なるほど。

 
ゆーじ モーションキャプチャーで安価なソリューションだと「Kinect」がありますが、やっぱりほしいクオリティーのモーションが取れない。PERCEPTION NEURONならKinectを超える十分な高精度なモーションを収録できて、しかもインディーや個人でも導入が可能な999ドルからという金額なんです。

 

 
——2.5次元のブルーオーシャンが見える!

 
ゆーじ そうです!実は超大手以外のインディーや個人でも戦えます! だから俺たちのサマーレッスンはこれからだ!

 
——ちょ(笑)

 
ゆーじ 完! 次回ゆーじ先生の作品にご期待ください。

 
 
(聞き手/広田稔

 
 
●関連リンク
ゆーじ氏(Twitter)

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