2人で遊ぶから、誰でもかわいくなれる──「はぴおしゃ」制作チームが語るVRの魔力
目の前にあるCGが本当にそこにあるように感じられる──。ここ2、3年で没入感の高い体験が安価に手に入るようになって注目を集めているVR/ARの世界だが、最近ではそのコンテンツが人間の感覚をハックしているという実例が出ている。
PANORAでも先日インタビューした「バーチャルのじゃロリ狐娘YouTuberおじさん」こと「ねこます」氏も、「かわいいとか女の子の概念みたいなのは、心のATフィールドを取り払う効果がある」と証言していた。VRという身体性を伴うツールを使い、見た目が可愛いアバターに変身することで、自分も周囲も振る舞いが変わってくるのだ。
その文脈でもうひとつ注目したいのが、12月22日より東京・渋谷にあるVRアミューズメント施設「VR PARK TOKYO」の渋谷店で運用が始まったハシラスの「ハッピーおしゃれタイム」(通称「はぴおしゃ」)だ。プレイヤー2人がVRゴーグルをかぶって、パステルカラーのカワイイ世界にログイン。女の子のアバターになりきってドレスを選び(!)、音楽ゲームのライブを楽しんだうえ(!!)、最後にポーズを決めて写真撮影(!!!)するという、「女の子×ゲームセンター」のいいところを濃縮したような内容になっている。
ドレスルームで衣装を選択。なおスクリーンショットは開発中のもので、実際の状態と異なる場合があります。
ライブで音楽ゲーム。
その後、フォトフレームを選んで。
2人で写真撮影! もちろんVR内でプレビューもできます。
あとはベストショットをチョイスして。
1枚100円でプリントできるという流れです(画像の300円は開発中のもの)。
実際にプリントしたものがこちら。
先のレビューを見ていただければ、そこまで興味がなかった人もドハマりして絶賛する超優良コンテンツということがわかるはず。一体、この「はぴおしゃ」はどんな背景で生み出されたのか。ハシラスのゼネラルマネージャー「chiepomme」(ちえ)さんを中心に、イラストなどのクリエイティブで協力した「れいな」さんと「きなりせ すや」(きな)さんの3人にインタビューした(以下、敬称略)。
男性同士でも「お前めっちゃ可愛いな」
──「はぴおしゃ」では誰が何を担当したのでしょうか?
ちえ 私が企画を考えて、みんなに声をかけた首謀者です。プログラミング全般、CGのモデリングと、メイン曲以外のBGM、一部の効果音もつくりました。
れいなちゃんがメインの作詞・作曲・編曲・歌、プロモーションビデオ、流れてくるボイスなどを担当してます。ほかにも部屋の壁や部屋にあるデスク、衣装のテクスチャーやフレーム、ユーザーインターフェースなど、見た目に関わるところはれいなちゃんがデザインしてくれた感じです。
きなさんもデザイン担当で、メインビジュアル、アバターのベースデザイン、衣装のデザイン、フレームなどをお願いしました。
──プロジェクトが始まった経緯は?
ちえ そもそも私個人でスマホ向けVRコンテンツとして、音ゲーや音声認識を使った脱出ゲームをつくって展示していたんです。今年2月に開催された「コミティア」という同人イベントでは、その脱出ゲームを展示していたんですが、そこで売り子をしてくれた友達に帰り道で「VRでアイドルになりたいんだよね」みたいな話をしたのが一番最初のきっかけになりました。ちょうどイベント出た後にテンションが高まってる状態だったので、帰ってから「こんなのやるんだけど一緒にやらない?」と二人を誘って、プロトタイプをガガッとつくりました。
──じゃあ今年の頭からつくってる感じなんですね。
ちえ そうなんです。そこから5月のコミティアで初展示しました。今のバージョンも基本的なものはそこから全然変わっていないので、実質的に2〜5月の間に開発しました。
れいな コミティアのときは、1人10分ぐらいの時間で区切って整理券を配布したけど、空き時間がほぼなくて、イベントの始まりから終わりまで人が絶えなかったよね。
ちえ そうなんですよ。その様子を見て「いけるな」って思いました。
れいな 結構ぶっとんでたよね。
──体験の流れとしては、着替えて、ファッションショーをやって、最後撮影みたいな感じですよね。当時、お客さんからはどんな反響がありましたか?
ちえ そもそもVRをやったことがない人だらけだったんですよ。だから「かぶった瞬間に本当に別の場所にいる……」みたいにVR自体に驚いていた人も多かったんです。その中に女児ゲーが好きな人も多くて、「これどこかでプレイできるんですか?」とか、「ヤバイ」「すごい」みたいな語彙力を失ったような反応も多かったです。
れいな 体験中の2人にお互いを確認してもらうと、結構驚いていたよね。「隣にいるの見えますかー」って呼びかけると、「ウワー」ってなったり。
ちえ なってた、なってた(笑)。男性同士でも「お前めっちゃ可愛いな」とか言ってましたね。
──(笑)
れいな コミティアの客層的にも女性が目立っていて、普段はVRをやらなさそうな感じの人が多かった。
ちえ 多かった。すごく真面目そうな男性とかも、嬉しそうにポーズをとって笑顔になってたのが印象に残っていて、それを見て「つくってよかったな」って思いました。
──やっぱりみんな女の子のポーズになっちゃうんですか?
ちえ そうですね。VRゴーグルかぶってなかったら絶対やらないようなポーズをしてました。
──大人の女性でも、キャピキャピっとしたような動きになるっていう?
ちえ そうですね。
れいな なるよね?
ちえ なる。なってましたねみなさん。
──ちなみに開発者本人でもなっちゃうんですか?
ちえ なりますよ、そりゃ。でも実は私以外の2人はコミティア以降に体験できてなくて……。
──といわれると?
ちえ 実は私以外の2人はVR環境が自宅になくて……。
──なんと!
ちえ そもそも2人はゲーム開発者でも物作りの仕事をしている人でもないんです。れいなちゃんは教育関連、きなさんは産休中だったりします。
──っていうか、そんな環境でよく制作にのってきてくれましたね。
ちえ 結構チャレンジングでしたが、最悪、クオリティーを気にしなければ難しいところは私が全部やればなんとかなると思いました。音周りはれいなちゃんがぜんぶできますし。ただ、二人にあまり体験してもらってないのはちょっと心苦しいです。ちなみに開発者であっても、写真を撮る瞬間が一番楽しいんですよね。
れいな 本当何回もやりたくなるよね。
──その後、11月の「DCEXPO2017」でも展示して、非常に大きな注目を集めました。
ちえ DCEXPOの展示は、実はハシラスとしてはほかのデモを出す予定だったのですが、いろいろあって運良く「はぴおしゃ」を出すことになったんです。
──そうしたイベント展示から、今年12月より「VR PARK TOKYO」渋谷店での運用が始まった経緯は?
ちえ 私はハシラスで初期の段階から「GOLD RUSH VR」をつくっていたこともあって、ロケーションベースVRでマネタイズするとなると色々な問題があるなと感じていました。そこに対して「女児ゲー」がひとつの答えになるんじゃないかという気持ちがあって、それを確かめるためにできれば商業ベースで展開したいと思っていました。
そして、「はぴおしゃ」初展示となった5月のコミティアのあと、弊社の安藤(ハシラスの社長)にプレイしてもらったところ、「これだったらどこかで展開できるかもしれない」という評価をもらいました。これをきっかけに、個人制作物を商業展開する「ハシラス・インディーズ」という仕組みを社内で話し合ってつくり、この12月に稼働が始まった流れです。VR PARK TOKYOは憧れの場所だったので、入れていただけるという話が来たときに「じゃあぜひ!」という感じでお願いしました。
メンバー全員「プリパラ」好き
──開発で一番大変だったところは?
ちえ う~ん。れいなちゃん何かある?
れいな 単純な作業量で言えば、やっぱり服の種類。見た目にも一番関わってくるしね。デザインを考えてテクスチャを描いて、ちえさんに投げて実際に実装してもらったり。
──服はどんな世界観でデザインしていったのでしょうか?
れいな 5月のコミティアで出したときは「イースター」というテーマだったので、たまごモチーフの服とかが多いんです。
ちえ みんなのイメージを統一するために、例えばディズ二ーのイースターパレードの画像を共有したりとか、方向性は合わせるようにしてました。
れいな ディズニーのイースターの服大好きだからね。
ちえ 商業化にあたってはそういった枠組みがなくなって、元々の感性でデザインしてもらってます。きなさんはロリータファッション好きで、その影響が強いんじゃないかな。
れいな 自分の人生で培ってきたものが根底としてあるよね。私もきなさんも絵を描く人だから、もともと色々なところで、色々な情報を勝手にチェックしてるんだと思います。
──「女児ゲー」というキーワードが出てきましたが、それは影響している?
ちえ そうですね。このメンバー全員、「プリパラ」が元々好きで仲良くなってるところもあるので……。
──なんと!
ちえ 三人でプリパラカラオケに行ったりとか。
れいな 「はぴおしゃ」の流れもプリパラからだよね?
ちえ そうですね。
──え~! これはプリパラとのコラボしかないじゃないですか。
ちえ いやそれできたら最高ですよね。幸せすぎて死にますよ!! 実は「はぴおしゃ」のTwitterでの反響もプリパラ好きな方から多くいただいてます。
れいな うん。プリパラアイコンの人いるね。
ちえ 「これVRプリパラじゃん」とか、「これでプリパラやりたい」とか、「これ実質プリパラじゃない!?」っていう声もありました。
──いいですね! ちなみに着替え、ライブ、写真撮影という3つのシーンで「力を入れたのでここを見てくれ」というのはありますか?
ちえ 力を入れてるというと、実は当初はライブが楽しいかなって思っていたんですが、実際にプレーして楽しいのは写真撮影だったんです。だから衣装とフレームの種類を増やすことを2人にお願いしました。ぶっちゃけ私、3Dモデリングをきちんとやるのがこのゲームが初めてで、ところどころすごくつたないんです。でも、衣装を選ぶ楽しさを重視して、つたなくてもいいから種類を増やすようにしました。
れいな 2人プレーというのもすごく重要だよね。ちえぽむが難しいネットワーク機能を入れて、2人で遊べるようになったんですが、プリパラは当時2人プレーできなかったんです。だから友達と遊べるのがすごく楽しくて、最初にお互いの姿を確認するときの驚きも大きくなる。
ちえ それはすごく大事だよね。GOLDRUSH VRをつくってるときにVR内で見えてる人が本当にそこにいて、そこから声が出ていてコミュニケーションが取れるっていうことが、この世界がほんとに存在するんだっていう実在感を増してくれるんです。
2人で遊ぶからこそ、本当に自分が可愛くなって、そこにいるかのような感覚になる。だからマルチプレーには最初からかなりこだわっていました。実は「はぴおしゃ」はコンシューマー向けにも出せる内容なんですが、その場に人がいるインパクトをぜひ体験してほしいという想いがあって、ロケーションでの展開にこだわっているんです。
──なるほど。2人でやらないと本来の楽しさがわかってもらえないという。
れいな ドレスルームも一緒に着替えできて、2人で迷いながらお揃いの服にしたり、「その服が可愛いね」とほめあったり、コミュニケーションをとりなががら遊べるのが面白いところなんです。それこそ写真も1人もいいですが、やっぱり友達とポーズをとって撮るものじゃないですか。
ちえ 友達と写真撮るのが一番楽しい。これってプリクラの体験に通じるもので、今までの女児ゲーにはあまりなかったんです。だから「はぴおしゃ」をやってみてVRで2人で何かをするのはすごく楽しいんだなって。
──確かに最後に写真ももらえるので、プリクラ好きのニーズも満たしてくれそうです。
ちえ 現実の姿が写るわけじゃないので実際のところはわからないんですけど、逆にプリクラがちょっと恥ずかしいという人も楽しめると思います。
──ねこますさんのインタビューにもありましたが、やっぱりVRの中でかわいいアバターになると、コミュニケーションしやすくなるのは本当なのでしょうか?
ちえ 私はあると思っています。実際、5月のコミティアで展示した際、回転率を上げるために初対面の人同士で一緒にプレーしてもらったのですが、女性と割とごっつめの男性のペアの回があったんです。多分、リアルで遊ぶと女性の方がびくびくしちゃう感じだと思いますが、そのときは2人ともノリノリでポーズをとってくれて。フレームを選ぶときも、「どうぞ選んでください」みたいな感じですごく楽しそうでした。共通の話題があるからなのかもしれませんが、はたから見ていて心理的な壁は低くなっているように感じました。
──意外とカップルも多かったり?
ちえ コミティアだとわからなかったので私の想像ですが、自分の彼氏が可愛い女の子になってたら、「かわいいー」っていじりたくなる気持ちは出てくると思います。
──すごい。可愛いアバターの効果については想定してなかったけど、やってみたら意外とハマったという?
ちえ そうですね。そこにいる感は大事にしていましたが、相手が可愛いことによるコミュニケーションへの影響って思ったよりも大きいんだなって思いましたね
ちえ 数日前、VRのコンテンツを探しにきた台湾の男性にもプレイしてもらったのですが、そもそもこうしたビジュアルのVRが世の中にないわけじゃないですか。体験後に、「Japanese Style!!」っていって興奮されてました。
──言葉なくても楽しさは伝わりますもんね。
ちえ はい、そうですね。すごいノリノリで写真を撮っていたのが印象的でした。最終的にプリントした物をお渡ししたんですけど、大事にポケットに入れて「ボスに見せるね」って。
──言葉を超えて価値が伝わったという。
れいな ファッションと音楽と写真だから言葉いらないよね。
ちえ 確かに。
VR普及のために「はぴおしゃ」アニメ化を!
──VR PARK TOKYOでの稼働後に「こうしていきたい」という野望はありますか?
ちえ めっちゃありますよ。細かいところですと、季節ごとに服とかの更新を入れたいという話があります。それから、今すぐにでもユーザー登録が絶対必要だと思っています。名前をつけてもらうと自分のアバターという認識がより強まって、愛着もわいて、もう一回プレイしようという気持ちも持ってもらえる。
そのユーザー登録によって、収集要素も追加できるんです。女児ゲーはプレイの度にアイテムを手に入れられるというのが、外せない要素になっています。あとは今1曲しかないライブの楽曲を増やしていきたい。これが第一段階かな。名前をつけてもらえると、ライブのシーンで観客から「◯◯ちゃんカワイイー!」って名前を呼んでもらうこともできますし。
──本当に自分がアイドルの気分になれるという。
ちえ そうです。第二段階目では、インターネットの通信機能を入れたいです。ネットに接続してマイページみたいなところで自分がデザインした服とかをそこから投稿してもらいたい。実際、ゲーム制作者ではないれいなさんやきなさんにも、型紙に似せたテクスチャーで描いてもらっているのですが、この方式なら3Dの知識がない人でも服をデザインできてしまう。
今、イラストを描かれるクリエイターの方は本当に多いのですが、そうした方にいきなり3Dモデルをつくってくれというのはとてもハードルが高い。だからそこをより手軽にして、ユーザーも投稿できる文化が育つといいなと妄想しています。
──公式が用意したやつだけじゃなくて、自分なりに足していけるのはいいですね。
ちえ はい! そういう楽しさは私も大好きなので入れたいんです。ちなみにロードマップみたいなのもあるんですけど。
──マジで! だいぶ気合入ってますね。
ちえ 最終的にはですね、アニメ化したいんですよ。
──アニメ化!?
れいな でかいよね。
──あ~、でもアリですね。
ちえ アニメからこうしたゲームがあると知ってもらえれば、いろいろな施設から置きたいという要望が出るはずで、そうするとVR人口が確実に増えるわけです。
──確かに。
ちえ だから業界のみんなにとって幸せなはずなんです。もうひとつ、ハシラスが得意とする筐体を使って、サイリウムの海の上を飛びたいという野望もあります。
──いやぁ、本当に好きでつくってるのが伝わって来ます。
ちえ 「きゃりーぱみゅぱみゅ」さんの美術デザインを担当されていて、原宿のKAWAIIカルチャーをつくったともいえる増田セバスチャンさんや、カワイイ大使にも選ばれたモデルでクリエイターの木村優さんが「カワイイにはすごい力がある」ということを言っています。私はその考え方がすごく好きで、だからかわいいものをつくっていたいし、身につけていたい。
──良い話だ。
れいな 結論を言うと3人ともかわいいものが好きだよね。
ちえ 間違いない。
きな 結局はね。
──可愛い物好きの3人が丁寧につくった、最高のオシャンティー環境っていう。
ちえ いやぁ最高じゃないですよ。まだ納得してないですから。今、まだ3割ぐらいなんで。もし売れたら3Dモデリングもプロの方につくっていただいて、もっともっとブラッシュアップしていきたいです。みなさん、ぜひ遊んでみてくださいね。
(TEXT by Minoru Hirota)
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