次世代型ボカロP・BIGHEAD氏ロングインタビュー 世界を見据えた活動の秘密を徹底解剖!
スパムメールじゃありません
――「Story Rider」やDaft Punkのカバー作品などを公開して、クリプトンさんから声をかけてもらって、突然、自分の作品がニューヨークに行ったわけですよね。
※クリプトンさん……クリプトン・フューチャー・メディア。札幌に本社を構える「初音ミク」の発売元。
BIGHEAD そうですそうです。
――札幌で足掻いていたBIGHEADさんなのに、突然クリプトンさんに手によって自身の作品がニューヨークに連れていかれたときって、どんなふうに思いました?
BIGHEAD うーん……。なんか「弊社伊藤がパネル展をやるので楽曲をちょっと使わせてください」って連絡が来たときに、ちょっと全然イメージが湧かなくて。「パネル展って何だ?」っていうところもあったりっていう(笑)。
※弊社伊藤……クリプトン・フューチャー・メディアの代表取締役である伊藤博之氏。
※パネル展……「New York Comic Con 2013」で行われたイベント。初音ミク公式ブログに当時のレポート記事がある。
――そうですよね(笑)。
BIGHEAD そういう知識も全然なかったので。だからニューヨークで自分の楽曲がちょいと流れるんだなぁみたいに、そのときは簡単に思ってたんですよね。でも「スパムメールではないので」っていうふうに書いてあったので……(笑)。
――(笑)
BIGHEAD 本当にクリプトンさんから来たんだーと思って(笑)。
――急に怪しいですよね!(笑)
BIGHEAD はい(笑)。話の規模が大きいので、たぶんあっちも心配だったと思うんです。(最初、連絡を取り合う手段が)Facebookのメッセンジャーだったんですよね。だから、お互いまったくコネクションがない状態で。同じ札幌にいるんだけど、メールアドレスも知らないというか。だからメッセンジャーで連絡来たときは、僕は軽い気持ちでした。あ、使われるんだぁ、良かったなぁ、ぐらいの。
――それがまさかの展開で、のちの「BIGHEAD」としての活動につながって行くんですよね。
BIGHEAD 僕からしたら、これ1回きりで終わるのかなあって思ってたから、気にしてなかったんですけど、Lady Gagaの北米ツアーの前座で演奏する楽曲「Story Rider」や、CBSの番組で全米に放映された「Sharing The World」に繋がる、重要なはじまりだったんだなあって、今は思ってます。
――クリプトンさんとのコラボが多いせいか、BIGHEADさんって、個人的にはすごく「公式な方」ってイメージが強いんですよ。
BIGHEAD うんうんうん。去年だったら「マジカルミライ」「PPPパーティ」、今年の「SNOW MIKU」ではたくさんの楽曲を使っていただきました!
▲「SNOW MIKU 2018」では公式ソング「四角い地球を丸くする」BIGHEAD REMIXを提供
――やっぱり、ご自身でもそういうふうに感じる面ってあるんですか?
BIGHEAD 誤解されてるだろうなーとは思ってて、可能なら払拭したいですね(笑)。
――イヤなんですか?「公式の人」感(笑)。
BIGHEAD 「自分のほうが良い曲作っているのに、なんでこの人を使っているんだろう」って思われるのがイヤで。なんだろうなあ……考えちゃうじゃないですか、その、「初音ミク」を使い始めたときって(公式に採用されたり活躍したりしている人に対して)「繋がり」とか「実力以外の部分」が必要なのかなとか。自分は良く有名Pさんとかに嫉妬をしていたので。
――あー……僕もそう誤解されていた時期、ありますよ(苦笑)。
BIGHEAD 「初音ミク」公式の依頼は本当にうれしくてありがたくて、毎回飛び上がってよろこんでいます。でも実際は「もうこの後依頼こなかったらどうしよう……」とか考えてビクビクしてるんで、誤解されるのはイヤですよね!
世界から得た広い視点
――さまざまなきっかけが重なって、札幌から世界に向けて音楽を発信することになったわけですが、そういった状況をどのように受け止めているのでしょう?
BIGHEAD そうっすねー……。クリプトンさんがいるから、地方にいても世界とつながれるっていうのがわかったんですけど、それは「初音ミク」がいなかったら難しかったと思います。
(日本の場合)東京に集まるレコード会社さんが上位になってしまうので、個人で結果を出せないとそこと同じステージには立てないなぁっていうのが、実感としてあるんですよね。まず、自分がレベルアップして、世界に名を残したほうが、早いし、風通しもいいなぁって。著作権のシステムも分配率も従うしかないので。
――音楽著作権の問題やシステムの不備は、プロ・インディー問わず根深い話ですよね。
BIGHEAD 2015年に「MIDEM」っていうフランスの音楽見本市に自分で、自費で行ったんですけど、(そういう実感が生まれたことは)世界の音楽出版社さんと商談したのがきっかけで。(海外では)作曲者さんが大切に扱われているし、条件とかもフラットだな、と。世界に出て、やっと気付きました。
日本にいると当たり前だと思っていたことも、外から見るとそんなことはないんだなっていう、広い視点で見れるようになりました。
なかなか無謀なことだったと思うんですよね。札幌に住んでいて、東京とかをぶっ飛ばしてフランスに行くとか。発想がけっこう飛躍しているので、こういう感じでどんどん、何にも縛られることなく、世界には出ていきたいですよね。
――去年は、国内に限らず世界でもさまざまな活動をされていました。
▲ドイツ最大規模の漫画・アニメコンベンション「DoKomi」の様子
BIGHEAD 去年はドイツとかアメリカとか行ってDJやって、ホントにビックリしました。マジでミクさんのおかげで広がりました。
ちょっとミクさんと関係なくなってしまうのですが、外国人のシンガーを起用した作品なんかは、ほとんど海外、アメリカ(のリスナーによる再生)なんですよね。iTunesとspotifyに1曲出したら、アメリカでは70万再生くらいになっていて、なんかその、日本で70万再生を達成するのは大変なんですけど、アメリカとか世界からちょっとずつ再生してもらえれば、全然簡単なことだなぁと思って。
別に、巨額な広告費を投入しなくても、世界に開くだけで、ちょっとずつ(あわせると)莫大な数になるという。なので、今はそこにも魅力を感じています。海外のシンガーをフィーチャーして、海外のフォーマットにあわせて、楽曲を世界中に配信するってことに。
――その「世界中」にはもちろん日本のリスナーも入っていることになるんですよね。
BIGHEAD もちろんです。僕は日本が一番好きで、日本の音楽の存在感を世界に示したいっていうのがメインの目標なので。