次世代型ボカロP・BIGHEAD氏ロングインタビュー 世界を見据えた活動の秘密を徹底解剖!
ニコニコ動画ウケを狙わずに勝負したい
――ところで、BIGHEADさんってニコニコ動画には作品をあまり上げていないんですよね。
BIGHEAD そうですね。
――そこはボカロPの活動として少し特殊かなって思うのですが、なにか理由があるのでしょうか?
BIGHEAD 「日本人ウケ」と「ニコニコ動画ウケ」から離れたいというのがあって。ボカロで「ウケるもの」のフォーマットってけっこうあると思うんですけど、そのフォーマットから外れても、気にしないで生きていきたいっていうのは思ってまして。
さっきの「嫌いになってしまう」って話につながるんですけど。ニコニコ動画はもちろん好きだけど、あんまり自分のメンタルに影響を及ぼさない程度の付き合いでいたいなというか。長く音楽制作したいと思ってまして。10年先もミクの曲作っていきたいなと思っているので。だから自由に、誰にも影響されないように長く作っていけるような感じで「ウケる」とかは求めないようにしています。
――ボカロPとして活動する上で、そのバランス感覚ってとても難しいですよね。
BIGHEAD でも、たぶん僕の根底では「動画」が良ければヒットするとか、「動画」が良くなければボカロとして認められないっていうのは、ちょっと「違和感」じゃないですけど、そこに行きたくないなぁと思っていて。
おそらく僕の中で、音楽が一番なんですよね。だからまあ、動画の出来具合とか、(ボカロシーンで)みんなが好きなものとかにそんなに興味はなくて、音楽で勝負したいというか。
ずっとやりたいと思っていることに、ミクさんと一緒に海外のチャート、特にビルボードチャートの(アニメなどにカテゴライズされない)普通のチャートに入りたいっていうのがあって。世界の音楽史の中に、初音ミクとか日本人のソングライターの名前を残したいんですよね。それを目標にしているから、動画(としての作品発表)にそれほど興味がないのかもしれないです。
友達のボカロPには「絶対重要だから、動画に1か月ぐらいたっぷり時間かけて、動画がないと絶対リリースしない」という方もいて、それがボカロ音楽の世界では正解だと思うんですけど、僕はたくさん曲を作って即リリースしていきたいんです。Spotifyが流行してから以前よりリリースタイミングや新曲のタームが早くなり、1曲にかける時間的なコストや制作費のコストも下がってきてるので、気軽に新曲だしていくというスタンスです。初音ミクやUGCのいいところって「多様性」だと感じてるので、自由に活動して常に異質な存在でありたいです(笑)。
――イラストレーターさんとか動画を作る方も含めて、いろいろなスタイルのクリエイターが集まっている中で、スピーディーに音楽を発信するスタイルの活動もしっかり評価されて、上がっていけたらいいな、と。
BIGHEAD そうです、その通りです。だから動画でThanksさんっていう有名な方が僕の曲でPVを作ってくれたときはめちゃくちゃ嬉しかったですもん。
※Thanksさん……ニコニコ動画で活躍するクリエイター。主にボカロ曲のPVを制作して発表している。
▲Thanks氏がニコニコ動画に公開している「Story Rider」PV
――そのあたりの考えが影響しているのか、BIGHEADさんはアルバムが「作品」というイメージも強く感じています。
BIGHEAD 確かに、アルバムが作品、楽曲が作品っていう意識は強いのかもしれないっすね。言われて気付きました(笑)。
CDプレス業者も困惑する「実験」
――先月発売になった3rdアルバム「World Is Wide」についてお伺いします。ひとつのアルバムに、2枚組ではなくて、同じCDが2枚入っていることに衝撃を受けたのですが……(笑)。
▲3rdアルバム「World Is Wide」は同じCD2枚入り
BIGHEAD あはははは!それもやってましたね!(笑)
――「SHARING THE MUSIC」と書いてあって、1枚を誰かにプレゼントしてくださいって、普通じゃないですよ!(笑)
BIGHEAD その……おかしいですよね、やってること(笑)。
――すごくおかしいです(笑)。だから、なぜ「シェアリングCD」という発想に至ったのか、今回のインタビューでは、どうしても聞きたくて。
▲「シェアリングCD」の説明書
BIGHEAD いまデジタルの時代になって、もうSpotifyとか定額制で(聴きたい音楽が)その日に聴けちゃったりするじゃないですか。感覚的にもほぼほぼタダっていうか。YouTubeのリンクを友達に「この曲すごくない?」って送っちゃえば、その友達はタダですぐに曲を聴けますし。なので自分の作品のCDだったとしても、なんかけっこう「ほぼ無価値だな」と思っていて。
ビジュアルとか紙の質感を手にしたら、それは価値の生まれる一歩なんですけど。そこまでして自分の作品を買ってくれた人には、全然もう1枚あげてもいいっていうか、ありがたいっていうか(笑)。
――それってすごく勇気のある発想ですね。
BIGHEAD で、僕の拡散力では限界があったので、皆さんの好きな人に紹介してもらえたら最高じゃないかなあって思って。でも(シェアリングCDの試みは)CDのプレス業者の人には「なんかエラーかな」って思われてしまって(笑)。「同じヤツ2枚になってるんですけど」って(笑)。
――そりゃプレス業者の人も困惑しますよね(笑)。
BIGHEAD 90年代とかって、友達にCD貸したり、カセットテープやMDに入れてプレゼントするとかしましたよね。逆に、いまデジタルな時代だと、たぶんそういう経験ってないと思うんです。
で、フィジカルで会って直接渡す……好きな人からもらう曲ってすごく良く聞こえたり、学生の皆さんとかだったらあると思うんですよね。もらう人によって音が変わって聞こえるとか。それをやってもらえたら、自分の曲も皆さんの思い出の中に入るし、データとは違う価値がもっともっと付いて。皆さんに付けてもらって広がっていくんじゃないかなっていうのはありますね。
――BIGHEADさんのCDや音楽を通して、コミュニケーションの輪が広がる。
BIGHEAD そうですね、コミュニケーションの一部になってもめちゃくちゃありがたいことですし。僕がCDを作って音楽を聴いてもらうことでリスナーの世界は広がると思うんですけど、それを聴いてもらうことによって僕の世界にも広がりが生まれて。リスナーの人が友達に渡すことでさらに世界が広がるので、どんどんどんどん「World Is Wide」になっていってほしいです。
――渡す瞬間を写真におさめてBIGHEADさんに送ると、さらに10曲プレゼントという「シェア企画」はどんな手応えでしょうか?
BIGHEAD メールで来るんですけど、「大事な人に渡しました」っていう一文と写真が来たときに、想像しちゃうんですよね。恋人なのか、家族なのか、好きな人なのか、なんかもういろいろ想像しちゃって……広がりがすごいですね。自分が予期しない方向へ広がっていっています。
あとは「会社の後輩にあげました」って写真を見たときに「ああ、会社の人に渡すような人間関係がこの人にはあるんだ」とか、いろいろ想像してしまって、本当にいろいろ刺激になります。
定額制(の音楽サービス)だったら、自分の聞かれた音楽が数字でしか見えないですよね。再生回数が1000とか、1万とか、10万とかになったら嬉しいとか。でも、誰が聞いているか全然わからなくて。写真で見たら「後輩がいる人なんだ」とか、もう生々しすぎるぐらいリアル。そういうところで本当に刺激を受けています。
――それって本当にすごい試みですよ。
BIGHEAD いや、そんなことないです(笑)。ただただノリでやっていることなので。実験をやっているだけなんです。
――実験結果は成功ですね。
BIGHEAD いやぁもう大成功でした。自分の思っていたよりも広がっていて。ビックリです。ただ今回「World Is Wide」というアルバムなので、絶対「シェアリングCD」を作りたいって思ったんですよ。
友達に「これやってみようと思うんだけど、めっちゃ面白くない?それとも分かりづらいかなあ?」みたいな相談をしたんですよ。そうしたら「やるのはいいけど、収入が普通に買ってもらう半分になっちゃうから損だよね」って(笑)。でも「世界を広げる」ってコンセプトだったので、絶対やらなきゃって感じで強く反論して。絶対やるわ、みたいになりました(笑)。
メジャーレーベルに所属しているわけじゃないので、そういうことも自分で決められるので。ボカロ自体そうですけど、けっこうやりたいことをやるっていうか、「実験」でどうなるかわからないけどやるっていうのは、今の活動の根幹になっているので、これがなくなったら厳しいかもしれないです。だから、こういうことはバンバンやっていきたいです。
失敗したらやめるし、成功したら続けるしっていうスピード感を持ってやっていきたいですね。メジャー(レーベル)だったら、できないじゃないですか、こういうのって。
――その通りだと思います。そのスピード感とチャレンジ精神は本当に見習いたいです。
BIGHEAD でも、そそそさんも、プロと自主制作のいいとこ取りみたいなところを目指されて、やられてるって思うんですけど。ここの部分は苦しかったりもするんですけど、なんか楽しくないですか?
――楽しいです(笑)。……というか逆にインタビューされてしまいました(笑)。
BIGHEAD (笑)
▲「World Is Wide」クロスフェード動画
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