VTuberのアイデンティティはどこにある? GOROman × みゅみゅ教授「VTuberハッカソン展」トークレポ
「ポリゴンの女の子が可愛く出せなかったのが心残りだった」
広田 それでは最初のトークは、「そもそもなんでつくろうと思った」という話から聞いていければと思いますが……。
GOROman あれ、もう喋っちゃった(笑)
広田 GOROmanでバーチャルキャラクターというと、FaceRigのアバターの話もそうですし、その前に「Mikulus」も作っていました。
ゲーム実況用 FaceRig x Live2D x パッド連動システム 完成!! https://t.co/R06Sw1uD37
— GOROman Go (@GOROman) January 3, 2016
FaceRigはバーチャルなWebCamドライバがインストールされるので
Unity内でWebCamTextureとして表示してゲームパッド連動システム動いてます。グリーンバックにすればクロマキーで合成して実況放送出来ます。 pic.twitter.com/JtHcL8ueZB— GOROman Go (@GOROman) January 4, 2016
GOROman それでいうと、もっと昔の90年代とかからやってます。CG雑誌がまだいっぱい出ていて、バーチャルアイドルのブームがありまして、伊達杏子とかいた時代ですね。
ソネハチさんという方が、Y子というキャラクターをLightwaveで作る本(「3D CGで美少女キャラを作ろう! : Lightwave3Dで作る美少女Y子」)を出してたんですが、その本にLightwaveのファイル一式が付属していたんです。その女の子をどうしてもパソコンで表示したかったので、ファイルフォーマットを変換して、Direct3Dでがんばって出したんです。そういうことがあってゲーム業界に入って、「スーパーギャルデリックアワー」というPS2ゲームの開発をやっていたんですけど……。あっ、このへんの話は最近出した新書に書いてあります。
広田 ステマだ!(ダイマです)
GOROman PS2の処理能力の限界もあって、ポリゴンで女の子を出すということについてかわいくできなかった心残りがメチャクチャあって、トラウマみたいになってたんですよ。その当時できなかったことが、今ならUnityとかで簡単にできますからね。そういう心残りがMikulusとかAniCastとかにつながってます。
全自動サインシステムつくった
#vtuberhack pic.twitter.com/p5Xroe9Mn0
— GOROman Go (@GOROman) April 22, 2018
ちなみに会場では発売前の新書について、ロボットアームがサインをしてくれるバーチャルサイン会も敢行していた。
広田 みゅみゅさんはなぜ美少女キャラクターで生放送しようと思ったんですか? Unityは趣味だと先ほどおっしゃってましたが……。
みゅみゅ 生放送自体はずっとやっていたんです。で、これを3Dモデルでやったら面白そうかなって、センサーデバイスの「Kinect」でMMD(フリーの3DCGソフト「Miku Miku Dance」)を動かしたのが2012年頃になります。それから全身モーキャプの「Perception Neuron」や、手の動きを取れる「Leap Motionなどを試して、最後にHTC VIVEにたどり着きました。
こういう言い方をするのもアレですが、生放送は女の子なら何も喋らなくても300、400人とか視聴者が来てくれるんですよね。その辺から「じゃあかわいい女の子だったら人が集まるのかな」って思うようになりました。
GOROman かわいくなればいいじゃん!
みゅみゅ かわいくなれば。そのあとも「コラボ楽しそうじゃん!」って思ったからネットワーク覚えましたからね。Unityスゴいですねー。
GOROman 昔はゲームを作る前に、その下準備で3ヵ月とかかけてましたからね。ポリゴン1個出すのにDMA転送して……とかで1ヵ月半かかりました。そう考えると、Unityはスゴいです。
「実在しているんだから実在感を落とすものを全部なくす」
広田 続けて「何にこだわった?苦労した?」という話を聞ければと思いますが、みゅみゅさんはどうですか。
みゅみゅ バーチャルキャストは配布前提というのが苦労した点です。自分は性善説でやっていますが、それは通じないところもある。モデルのインポート機能は最初から実装済みだったけど、法務からNGが出て、ユーザーに規約に同意してもらうフローが必須だということになって対応する必要があった。
広田 GOROmanさんは?
GOROman 僕は苦労はしてないですね。面白い機能あったら社内のSlackに書くだけだから。
広田 (笑)
GOROman 反対にこだわった部分は多くて、腕は絶対胸に貫通させないように、コライダーをめっちゃ入れた。アニメなどの絵だと起こりえない話が、3Dでは起きやすいんです。ほかにもセーラー服の動きでおかしく感じたところがあって、スキニング(ウェイト)の設定値を指摘してすぐに直してもらったりした。めぐちゃんは実在するんだから、実在感を落とすものは全部なくす必要がある。
リップシンクも400ms遅れてたのを、吉高さん(@TyounanMOTI)が250msまで縮めて、最後はOBS Studio側で音声を250msを遅延させることで合わせました。実際にAniCastで起きているギフティングみたいなイベントやフレームレートなどは全部クラウドにあげて、リアルタイムにスマホから確認できるようにしています。
最近はニューラルネットワークでさらになめらかにしようとしている。IKも、2点ぐらいであればヒューリスティックからの計算式でいけるけど、フルボディになると無理がある。Perception Neuronで取れた値を学習させるなどで、もっと自然にしていけるはず。
みゅみゅ バーチャルキャストは、あくまでも配信を手助けするツールで「面白くない自分をどうやって面白くするか」がキーワードなんです。だから「ひとつのワールドにみんなが集まって楽しい」みたいなのは、知り合いが固まったらそれで世界が完結してしまうのであえて除外してます。まったく知らない人のところに乱入して、うまくいったら面白い。
広田 それは「生主魂」ですねー。
「人類がみんなバーチャルになっていく」
広田 最後は「VTuberは社会にどんなインパクトをもあたらす?」というテーマですが、めぐちゃんとかもう影響を与えてるんじゃないですかね?
GOROman みんな健康になったんじゃないんですかね。めぐちゃんは平日毎日、朝7時半に生放送をやってるので、ファンの「めぐるーまー」たちが起きて「おはめぐー」ってやってますからね。
広田 偏見ですが、普通エンジニアは午前中に起きないですよね。
GOROman 今までは10時に起きてたのが、それがめぐちゃんの放送を見るために朝7時に起きるようになりましたね。「歯を磨きましょう」とか「遅刻はダメです」といったイヤな習慣ではなくて、楽しい習慣なので。
人類がみんなバーチャルになっていくと思います。坪倉さん(@kohack_v)とかは、まさに未来人ですよね。生身の方がリスクあるし、女性なら化粧しなくちゃいけないみたいな話がありますけど、将来的には生身の人間を見せるなんてはしたない、なんでアバター着てこないんですか、みたいになる。
そもそも今はデジタル側で行動する人が多いじゃないですか。FacebookやTwitter、Instagramなど、多くの人はソーシャル側での発信がメインですよね。そうなるとリアル側の本名とか写真とかどうでもよくなる。自分の変えるのが、服とかと同様になりますよ。カジュアル高須クリニックで、undoだってできちゃう。
この前、ゆーじ(@yuujii)さんとTwitterアイコンを交換したんですけど、「こんなやつフォローした覚えがない」って、フォロワーが30人ぐらい減りました。
(会場笑)
GOROman それってTwitterアイコンをアイデンティティとして、IDとして認識しているってことですよね。それの延長線上が、MIRO(@MobileHackerz)さんがつくってるアバターフォーマットのVRMで、これがグローバルスタンダードになったら面白いと思いますし、むしろ世界をとりにいくべきでしょう。
広田 そうですよね、日本はこれだけキャラクターを抱えてて、どんどん輸出できるチャンスなのに。みゅみゅさんは、VTuberは社会にどんなインパクトをもたらすと思いますか。
みゅみゅ そもそも自分は全然VTuberとは名乗っていなくて、界隈に詳しくなかったりしますが……。
広田 いやいや始祖みたいなもんじゃないですか(笑)
みゅみゅ 逆にみなさんにVTuberのアイデンティティってどこにあるのかという話を聞きたいです。VTuberは外見と魂、両方揃ってVTuberだと思うんですけど、ある日突然、魂が変わったらファンはどっちに行くんだろうかとか。
広田 でもそれは「ドラえもん」の声優が変わるみたいな話と一緒なんじゃないですかね。
GOROman ミライアカリちゃんとキズナアイちゃんが入れ替わったらどうなるんですかね。エイプリルフールでアイちゃんと輝夜月ちゃんがやってましたけど、あれはモノマネですからね。そうじゃなくて、完全に入れ替わったら、ファンは何を信じるのか。ガワファンなのか、中身ファンなのか、声なのか。
広田 10年、20年後ぐらいには「2代目キズナアイちゃん」にならざるをえないことがあるかもしれませんね。アイデンティティといえば、声だけじゃなくて、動きの癖もそうだと思います。
みゅみゅ バーチャルキャストをやってる人で「動きでこの人だとわかった」みたいな話があるんですけど、それもアイデンティティのひとつってことですよね。
GOROman 今日、みゅみゅ教授が(リアルの)ガワを見せないというのも、アイディンティティの崩壊を防ぐひとつかもしれません。声も(ボイチェンを通してないので)違うわけだけど、考え方とかは、魂の部分は、変わってないわけじゃないですか。そこが重要なんじゃないですかね。
面白いのは、外見が変わると(魂も)エンハンスされるという話です。西田宗千佳さん(@mnishi41)が言っていたことで、PlayStation VRなどで出されいる「バットマン:アーカム VR」というゲームで、プレイヤーがバットマンになって目の前に鏡を出されるとみんな姿勢がよくなってこう(肩を開いて肩幅を強調するポーズ)なるんです。つまり勝手に強くなったと思い込む。
広田 それは魂側にポジティブな要素をもたらしてますよね。VRChatでkawaii女の子になると会話しやすくなるという話もありますが、スゴくいいことだと思います。
GOROman すごくいいいことだし、もっとやるべき。今まで外見にコンプレックスがあった人ほどやったらエンハンスされるし、違うレイヤーの自分に会える。
広田 今までは、環境のバーチャル化、外界のバーチャル化が多かったわけですけど、今のVTuberの流れは、人物の、人のバーチャル化ですよね。
GOROman 人のバーチャル化でいうと、二つ紹介したい作品があって、ひとつは映画の「レディ・プレイヤー1」。もうひとつは今季アニメの「ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン」(GGO)。GGOは主人公の女の子が背が高すぎるから、ちっちゃくてかわいいアバターになれて喜ぶみたいな話です。そのふたつは絶対見ておいた方がいいです。
*3ページ目は、参加者からの質問コーナー!