辞めるときにはお葬式が必要、マネタイズは難しい……キーマンたちが語るバーチャルYouTuberの今【Unite】
7〜9日に開催したUnity開発者向けイベント「Unite Tokyo 2018」。講演やデモ展示の裏側で、主要なテーマについてはメディア向けの囲み取材が行われていたが、PANORAといえば、やはり気になるのはバーチャルYouTuber(VTuber)のジャンルだろう。最先端のトレンドということもあってか、そのものズバリなVTuberの囲み取材があったので、気になった部分をレポートしていこう。
出演者は写真左より……
・ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン アセットストア担当 常名隆司氏:シロちゃんの講演担当
・ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン アーティスト 京野光平(ntny)氏:ユニティちゃんデザイナー
・ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン 日本担当ディレクター 大前広樹氏
・エクシヴィ 代表取締役社長 近藤義仁(GOROman)氏:東雲めぐちゃんの「AniCast」を開発した企業
・アップランド 窪木誠氏:シロちゃんら所属「.LIVE」を運営する企業
・ドワンゴ マルチメディア企画開発部 先端演出技術開発セクション 岩城進之介(MIRO)氏:「バーチャルキャスト」やVTuberが多数出演したニコニコ超会議を手がける企業
といった豪華なメンバーだ。
半年先、1年先のトレンドを開発者に見せるのがUnite
──Unite Tokyo 2018でVTuberを多く取り上げている理由は?
大前氏 VTuberが増えたからですね(笑)。多くのVTuberが、Unityをすごく活用してくれています。ユニティでは、今までもキャラクターのインタラクションについて注目してきたし、マスコットキャラの「ユニティちゃん」を通じてテクノロジーを提供してきた背景もある。それらがベースとなって、今回は意識的にVTuberを入れています。
Uniteには、みんなの半年先、1年先にやりたいことをお見せして、将来の開発・アイデアに繋げていきたいという狙いがあります。VTuberはまだ若い存在ですが、今より理解を深めてほしいという意図もあります。といっても、アセットストアの講演にシロちゃんが出ることは知りませんでしたが(笑)
──キズナアイちゃんが基調講演の冒頭に登場した経緯は?
大前氏 過去にはOculus共同創業者のパルマー・ラッキーさんに登壇してもらったように、基調講演では、少し先のビジョンが感じられるような今年注目の人に登壇をお願いしています。キズナアイさんの存在自体が未来を感じられるということでお願いしました。
──シロちゃんにアセット紹介をしてもらった経緯は?
常名氏 2017年のクリスマスに、アセットを使って何かをするというコンテストがあったのですが、シロちゃん自身が投稿してきてくれたんです。そのときにUnityユーザーのコミュニティが大盛り上がりをした背景と、僕自身がシロちゃんに一目惚れをしてしまったという経緯がありまして、アップランドさんにお願いをしました。
──講演自体、最初から最後までシロちゃんのオンステージだったのが斬新でした(笑)
常名氏 最初は少しだけでも出てもらえればと思っていたんです。シロちゃんはアセット紹介の動画をYouTubeに投稿していて、VTuberでアセットを紹介してくれるという方が初めてだったんです。Uniteの参加者さん達がどうやったら皆が満足してくれるかなと考えたときに、やりましょうという話になりました。
──アップランドさんが受けた経緯は?
窪木氏 元々Unityでシロちゃんの開発をして、そこでUnityの重要性というものを感じていました。開発者のみなさんはVTuberに対しての興味・関心が高く、そこに対して情報を発信したときにキャッチアップしてくれる人が多いのかなという思いもあります。そうした経緯でアセットの紹介を始めました。シロちゃん本人にも、楽しんで紹介してもらえたので、見ている人にもその楽しさが伝わったのかなと思いました。
──UnityならではのVTuberとの相性のよさはある?
大前氏 1つはVTuberをやろうとすると、VR/ARのデバイスを扱う必要があって、そのデバイスとの相性がいいのがUnityです。2つ目はUnityなら、キャラクターを表現する上でのレンダリングやシェーダー、セットアップ、セカンダリアニメーション(揺れ物)などがキャラクターに付加した状態で扱えます。
コミュニティーの力を借りながらも、そうした技術を大きな資産として持っているのがUnityの強みになっています。そのコミュニティーに加えて、アセットストアを利用して表現の幅を広げていけるということもあります。
企業系VTuberがフリーランスになれない問題
──XVIの講演にて、VTuberの「魂」について、キャラクターをつくる責任を持つ必要があるという話があったが、どういう意図なのか?(参考記事)
GOROman氏 従来のゲームキャラクターでいえば、例えばドット絵のマリオは死んでも、ゲームだからという割り切りが背景にあるからあまりショックは受けなかったはず。でも、キャラクターが生きているとしか思えなくなったときにはどうなるか。バーチャルペットアプリを生み出して、ファンの人が愛でてくれているが、予算の関係上、どうしてもディスコン(サービス停止)となったときにファンがどう思うかを考えてほしい。
多分、立ち直れなくなってしまうんじゃないかな。限定的な非日常を楽しむ場ならいいが、VTuberは日常的に活動していて、ファンの脳にキャラクターが埋め込まれてしまっている。だから、軽い気持ちでキャラクターを生み出して、ディスコンという形は取ってほしくない。
大前氏 VTuberというのは数多くいるが、本当に盛り上がっているキャラは「中の人」が存在しない。ユニティちゃんは角元明日香さんが演じていて分離しているが、東雲めぐちゃんには中の人なんて居ないわけです。東雲めぐちゃんの中の人は東雲めぐちゃん。VTuberがあまり売れなくなったからと新しいキャラクターをつくって、中の人だけ換骨奪胎することはできない。
そうなると、基本的に現実に存在する芸能人と同じ扱いになる。ただ、芸能人は売れなくなったときにセルフプロデュースで地方巡業できるが、企業の支援ありきで成り立っているVTuberは、そういうことができない。
GOROman氏 システムと一体だから、企業を離れてフリーランスにはなれないんですよね。
大前氏 ただ、今後フリーランス活動としての場が、AniCastやバーチャルキャストになる可能性はある。
MIRO氏 VTuberは、中の人が表に出てこれない以上、中の人の実績として言えない。そうすると、中の人のキャリアはそこで固定されてしまう。その問題に対して、色々なアプローチがあって、VRMというフォーマットやバーチャルキャストというシステムをつくったりし、キャラクターのポータビリティを上げて行くのが狙いになっている(関連記事)。
ひとつの仕組みで上手く行かなくても他に移れるような、自分のキャラクターを色んなところに持って行けるようにしている。この問題は、これから半年・1年で表に出てくると思います。
──個人のVTuberは企業から見てどう思うか?
GOROman氏 個人は自由だと思います。バーチャルキャストにも個人の方がいますし。企業はBtoBでマネタイズをして、末永くファンの方が喜んでいくためのシステムをつくっていく。その上で海外にも行けると思っている。
──VTuberの企業と個人は、ゲームにおける企業かインディーズと同じ話ではないのか。
大前氏 ゲームと違って、VTuberは地道に活動していくコンテンツなので、ゲームほど企業と個人での差はないように思える。どちらかと言うと、アーティストのインディーズとビッグレーベルの戦いみたいな話になると思います。
GOROman氏 個人がインディーズからメジャーデビューみたいなのは、今後出てくると思う。
大前氏 そうなった時にVRMのようなソリューションで、データ・システムのポータビリティを高めていくと、大きなエンジニアチームが不要になる。VRMというフォーマットはみんなに使ってもらうというアバター的な要素だけではなくて、電子上のスタジオの行き来ができるために必要な仕掛けになっている。ぜひ標準になってほしい。
──例えばVTuberのアクターが亡くなってしまったときはどうするか?
ntny氏 VTuberのお葬式は今後ありえると思います。本当に亡くなってしまったら、みんなで悲しむ場を設けて魂を昇華させる必要がある。
GOROman氏 今後ディスコンするなら、何かの理由が必ずほしい。
ntny氏 そのためのイベントは必ずやるべき。東雲めぐちゃんが中学生から高校生になった瞬間に、これは3年後に本気で泣かせにくるんだなと思った。
GOROman氏 Cluster.で卒業式とかやれますね(笑)
VTuberはビジネスの発明が進んでいない
──VTuberの技術はまだまだこれから伸びていく?
大前氏 やっぱり今は(キズナアイちゃんが)白い部屋に一人でいるように、固定の部屋から脱却できていないと思います。普通の芸能人が出ている番組を考えると、クイズ番組やひな壇系の番組ができていない。
GOROman氏 VRMが使えるようになって、その幅は広がったと思う。ちょっと前までは、VRChatでしかできなかった。クイズとか、ドミノとかそういう番組はVRChatで個人がやっている。
MIRO氏 ドワンゴがやりたいのは、そういう個人のVTuberの気軽な発信と、プラットフォームのポータビリティを上げつつ、ハイエンドな番組や実験を出来る環境を用意するという形です。
──今でも個人のVTuberが番組を作ったりしているが、企業はどう言う対応を取っていくのか?
GOROman氏 一緒に何かをやるっていうのは今後ありえるとは思う。予算の積み方がどうなるのかと言うのは課題。
大前氏 その辺りもテレビと同じだと思っていて、注目されている素人の方がセルフプロデュースで目立って行き、いつの間にか企業側に出ていたりして。それこそ、素人からプロダクションに所属していたりとかは、ありえると思う。
GOROman氏 そういうブームが来るかも(笑)。マネージャー居ないと回らないことが多い。
──VTuber自体はお金が回っている実感はあるか?
GOROman氏 ないんじゃないですか。プロモーションで使っている所は割り切れるが、広告収入は厳しい。投げ銭でもプラットフォームに3割中抜きされている。3割抜かれない方法を考えています。
──トップ5に入っているシロちゃんなら、企画の幅が広がったのでは?
窪木氏 マネタイズでいうと儲かっておらず、まだまだビジネス的な観点では厳しい。
大前氏 まだ作業自体が労働集約的ですよね。その観点で言うと、ローコストかつリターンが大きいのがAniCastです。
GOROman氏 ワンオペですからね。
窪木氏 色々とお金の作り方があるとは思うが、企業側の広告収入、また見ているファンの方からの収入があります。ファンの人から、シロちゃんにお金を使いたい要望をいただきますが、まだそれを叶えられる場所が少ない。ソーシャルゲームとかだと使いみちが沢山あるが、VTuberはそこがまだ少ないように思えます。
大前氏 ビジネスの発明がまだまだ進んでいないように思えます。モバイルゲームも最初はマーケットが小さかったが、ソーシャルゲームは「怪盗ロワイヤル」の発明がそれまでの市場では考えられない収入を生み出した。そこの転換期は今後必ずできると思う。そこは労働集約的になってはいけないので、そうじゃないものができるんじゃないかな。
──VTuberが一般化する兆しはあるか?
GOROman氏 東雲めぐちゃんは、キッズ向けに動いていたりします。
大前氏 めぐちゃんとか、普通に教育番組に出そうですね。
GOROman氏 そのうち、「おかあさんといっしょ」とかVTuberがやっていてもおかしくないですね。
──一般人が普通にアバターを発信していく時代において、Unity、ツール、プラットフォームが考える中長期的なビジョンは?
大前氏 もう既にVRChatなりで民主化をしているし、iPhoneの「パペ文字」や「HoloLive」で実現できている。このようなアプリケーションを出来る限り作りやすくするビジョンはある。今回の講演でUnity Labsの理念や「Carte Blanche」を紹介しましたが、それ以外にもVR/ARのためのオーサリングツールの研究は進んでいる。そういったものは今後のUniteでも出てくると思う。
その中でも特に1つの問題としては、ARの環境に対して何かつくりときに、Unityのエディタの中にARの環境をシミュレートするものがない。理想的にはシミュレーション環境があって、確認しながら開発していくスタイルにしたいというのは考えている。まだお見せする段階ではないのですが、きっとほしかったのはこれだと思うものができあがると思います。
(TEXT by 水菜)
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