日比谷のビルから出現するゴジラの大きさがめちゃヤバい! 「ゴジラ・ナイト」体験レポート
東宝と日本マイクロソフトは5月24日より、3月にリニューアルオープンしたビル「日比谷シャンテ」にて、マイクロソフトのクラウドプラットフォーム「Azure」(アジュール)や、Mixed Reality体験を実現してくれるARゴーグル「HoloLens」を活用するプロジェクト「HIBIYA 2018」を一般公開した(公式サイト)。
Azureでは、「アロバビューコーロ」を使ったユーザーが前に立つとおすすめの映画を教えてくれデジタルサイネージ、飲食店の空き状況をリアルタイムで教えてくれる「VACAN」、オンラインショッピング感覚でスマートフォンから注文・決済できる「Putmenu」という3点を展開。HoloLensでは、野外アトラクションとして日比谷シャンテ前の広場「日比谷ゴジラスクエア」にて、118.5mのゴジラ(シン・ゴジラ)が出現する様子を体験できる「ゴジラ・ナイト」を実施する。
VRメディアのPANORAとしては、やはりHoloLensのゴジラ・ナイトが気になるところ。残念ながら事前に抽選で選ばれた140名が24〜29日に体験する形式で、今からでは申し込めないのだが、少しでもその面白さをゴジラファンを始めとするみなさんにお伝えできればということで、現地レポートをお届けする。
なお、ネタバレが含まれているので、幸運にも当選して初めては自分の目で確かめたいという方は体験後にチェックしてほしい。
ゴジラナイト。事前予約の一般参加者のみ参加。戦略会議に参加した後に実戦という二部構成! アツい pic.twitter.com/SUO4csAlVP
— Minoru Hirota (@kawauso3) May 23, 2018
CGが現実空間にあるという不思議
まずHoloLensのことを簡単に説明しておこう。マイクロソフトがいうMixed Reality(MR)とは、完全な物理世界から完全なデジタル世界までの広い範囲をカバーする用語だ。
そのうち現実をCGで拡張するARよりとしてHoloLens、完全にCGで覆ってしまうVRよりとしてWindows Mixed Realityヘッドセットを用意している。
HoloLensは、かぶると半透明なゴーグルの中央前方にCGが出現する。特筆すべきは、歩き回っても目の前にあるCGの位置がズレずに、回り込んだ際にもきちんと違う角度に自然と切り替わるということ。われわれが普段目の前のものを見るのと同じ感覚で、CGを見られるのだ。
仕組みとしては、HoloLensの前方にあるカメラで部屋をスキャンして、空間マップ(Spatial Mapping)を作成。そのマップをもとに今、ユーザーがどこにいてどんな角度でCGを見ているのかを計算して、リアルと同じ自然な見え方を実現してくれる。しかも事前にQRコードなどのマーカーを用意しなくていいというのが手軽だ。
ゴーグルの表示範囲(視野角)が若干狭いので、近寄りすぎると四辺からはみ出してしまうものの、いったん設置した現実の位置からCGがずれずに自然に見られるので、本当にそこにあるように錯覚してしまう。しかも、外部のPCなどを接続することなく、一体型で動作するという運用の楽さもスゴいところだ。
現状は開発者向け製品しか用意されておらず、33万円3800円からと高額なのだが、日本でも開発者コミュニティーが盛り上がっており、認定パートナーも続々と増えている状況だ。
イベントだからできる演出の力
そんな前提を踏まえてのゴジラ・ナイトだが、屋外で初となるHoloLensのエンタメ活用になる(屋内の活用例はこちら)。
流れとしては、まずステージ脇のバックヤードにてHoloLensをかけて作戦会議に参加し、テーブル上の地図に表示されたCGでゴジラの進行ルートと迎撃部隊をチェック。
こんな感じでCGに……
説明が現れる。もちろん前述のように回り込んでさまざまな方向からヘリや戦車、解説を見ることが可能だ。
その後、ステージに乗り込んで別のHoloLensに掛け直して、日比谷のビル街に出現するゴジラを目撃する。さらに所定のタイミングで「ミサイル発射!」と叫ぶと、血液凝固剤が含まれるミサイルがゴジラに向かって放たれて……という感じだ。
見所としては、日比谷のビルの合間からぬーっと出現するゴジラの迫力をプッシュしたい。
今回モチーフとなったシン・ゴジラは身長118.5mという巨大なサイズだが、HoloLensをかけていきなり目の前に現れて近づいてくるのでは、「あー、ゴジラだね」と興ざめしてしまうはず。それがズシーン、ズシーンと近づいてくる轟音ののち、35階/約192mという東京ミッドタウン日比谷のビル影から巨体を表すという演出だったので、十分に怖さを煽れていて秀逸だと感じた。
実際のステージからの視点。
こんな感じで出現。
#ゴジラナイト 出現シーンはこんな感じで見えています pic.twitter.com/GuePRWvlMh
— PANORA (@panoravr) May 25, 2018
技術的にいえば、きちんと手前にあるビルでゴジラが隠れていた(オクルージョン)のが細かい。当たり前の話だが、現実において何かの手前に別のものがあると一部や全部が隠れたりするが、例えば一般的なARではCGの手前に何かがあるにも関わらず、コンピューターが空間とリアルのものの位置を把握できていないため、かぶった部分のCGが隠れない。
その点、HoloLensならSpatial Mappingを利用し、屋内の部屋ぐらいのサイズならオクルージョンを実現してくれるものの、屋外かつかなり離れた位置にある高いビルとなると認識できないのでは?という疑問が生じていた。
その辺、どうやって実現しているのか現地で聞いてみたところ、ステージ位置から見えるビルの形に合わせて、ゴジラの左半身を隠すように映像を加工したとのこと。となると、筆者の回は5人が横に並んで体験したので、ユーザーの位置によって微妙に表示位置がずれないか気になるところだが、ステージからゴジラの出現位置がかなり遠いため、多少ずれても気にならないという話だった。ある意味、力技なものの、現実解として優れた運用だ。
開催時間帯が夜というのも、周囲を暗くした方がHoloLensでCGが見やすくなることを考慮した結果なのだろう。そのおかげで例の全方位レーザーを見せてくれたり、たまたま地上の道にいたタクシーに向けてレーザーを吐いたりと、光の演出も映えており、いろいろ考えて設計しているんだなぁと素直に感心した。
同じ演出面では、気持ちをすっとコンテンツに入らせてくれるナビゲーターとBGMも素晴らしい。
人間、誰しもいきなりゴーグルをかぶって別世界を見せられて、そこの住人になりきれるかというと、意外と気持ちが追いつかないことが多い。特に店舗で遊ぶ「ロケーションVR」では体験時間が限られているため、遊んでいる最中に「あっ、こういう感じなのね」と世界観を理解したらもう終了……ということもありがちだ。
そこで体験前にスタッフが操作方法や安全面を教えるだけでなく、体験者の心を強制的にVRやARの世界に導く仕掛けが重要になってくる。この辺、VR ZONE SHINJUKUがうまいのだが、今回のゴジラ・ナイトも上官として作戦会議に現れた2人の危機感迫る演技がとても素晴らしく、さらにシンゴジラのBGMも合間ってワクワク感をガンガンに煽られた。
実際の様子を動画で見ていただいた方がわかりやすいだろう。
#ゴジラナイト を取材して来ました。ゴジラ出現前に作戦会議タイムがあるのですが、その役者さんの演技が素晴らしくMRの世界にすんなり入り込めます pic.twitter.com/yKCvpHpSBb
— PANORA (@panoravr) May 25, 2018
#ゴジラナイト ステージに乗り込むシチュエーションもとてもいいです pic.twitter.com/FZxFA2QMjX
— PANORA (@panoravr) May 25, 2018
テンション高めなので、動画だけで見るとなんとなく気恥ずかしく感じてしまう人もいるかもしれないが、そもそもが140名限定の選ばれしゴジラファン向けイベントな訳であって、すんなり入れる方のほうが多いのではないだろうか。ちなみに筆者が取材した日は雨が降っていたのだが、夜+雨という悪環境の中で大怪獣出現……というシナリオだけでそれっぽくて燃えませんかね?
ぜひアニメやマンガでのAR活用を
ゴジラナイトは、テクノロジーを良い意味で無駄遣いして壮大なゴジラ迎撃ごっこを日比谷という街中で体感させてくれた点が素晴らしかった。
「ごっこ」というと聞こえが悪いかもしれないものの、先のVR ZONEにあるガンダムやエヴァ、マリオカート、ドラクエといった素晴らしいコンテンツも、すべてが「あの世界に入ってみたい」という願いを忠実に叶えてくれたごっこ遊びだ。それをゴジラというよく知られたIP(知的財産)で実現してくれた価値はとても大きい。
かつてニンテンドーDSゲーム「ラブプラス+」が熱海とコラボした際、カレシが大挙して彼の地に訪れたように、HoloLensは屋外でも活用事例がどんどん増えてくるはず。日本にはアニメやマンガ、ゲームで世界に誇るIPが数多く存在しているわけで、ぜひHoloLensのような機器を活用して、このゴジラナイトのようにどんどん現実空間に展開していってほしいと感じた取材だった。
(TEXT by Minoru Hirota)
© TOHO CO., LTD.
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