「自分自身が作品になるのは案外スマート」 魔王マグロナちゃんがalive2018で明かす作家の生存戦略
Live2Dといえば、2Dイラストを立体に見えるように動かせる技術とソフトのこと。バーチャルYouTuber(VTuber)においても、3Dモデルをつくるより制作コストが安かったり、元絵のタッチを生かせるということで積極的に活用されており、「にじさんじ」プロジェクトをはじめLive2D製の人気VTuberが数多く出てきている。
そんなLive2Dの年次イベント「alive2018」が3日、東京秋葉原にあるベルサール秋葉原にて開催された。PANORA的に注目なのは、「バ美肉ナイトクラブ」にも出演していただいた魔王マグロナちゃんの「『セルフ受肉』 自分の描いたイラストに乗り移ってみて感じた、新しいファンサービスの形」という講演だ。
「セルフ受肉」というのは、作家自身が自分で描いたキャラを演じて動かす行為を指す。そして魔王マグロナちゃんは、今年6月よりLive2Dを使って自分のイラストでVTuber活動を始め、男性が見た目だけでなく声もボイスチェンジャーを使って女の子になりきる「バ美肉」(バーチャル美少女受肉)という概念をネットに広めて一躍名を挙げた人物になる。
講演を端的にまとめると、「イラストレーターがVTuberをやることで、作家自体も好きになってもらいやすいし、SNSでの交流も楽になる」という話だ。
いつもの「にんげんども〜、余〜だよ」の挨拶があったり、途中、「原稿どこまで読んだかわからなくなっちゃった……緊張しているので」と「よわよわ」なシーンもあったが、大半は真面目で「『作品単体のコンテンツ力があったり、いい作品でなら売れる』というのは甘えが出ていると思う」という発言が飛び出すほどためになる内容だった。早速、レポートしていこう。
来場者全員が静かにマグロナちゃんの話に耳を傾けていた。
Live2Dの #alive2018 を取材に来ております。スクリーンサイズ的にもキャパ的にも過去最大級の魔王マグロナちゃん降臨。今日は作家がキャラクターを持つメリットという、とてもまじめな内容 pic.twitter.com/91mOquQsTn
— PANORA (@panoravr) December 3, 2018
「セルフ受肉」したことで自分自身が作家であり作品になれた
まず話題に上がっていたのは、現代における作家の自己アピールの難しさだ。マグロナちゃんは「セルフ受肉」のメリットをこう語っていた。
魔王マグロナ 昨今、作家が作品を発表するのにSNSを活用しなければいけない状況があると思うんですけど、結局のところ自分の作品を自分で広報していかなければならない。その広告塔として、バーチャルキャラクターが動いているのが新しい形だと思います。
今までSNSでの広報をがんばるには、自分の作品をアップロードして見てもらうというのが一番大きく、結局(人気のキャラやジャンルをテーマにして)「自分の作品を見てもらうための作品をつくる」という無限ループに落ちているのに作り続けなければいけないこともあった。
それにSNSで難しいのは、Twitterで何万リツイートもされて多くの人に「見たことがある」と言われるイラストを描く作家でも、自分の仕事の告知をしてもあまり拡散されていないという、ちょっと寂しい事例もあったりする。
それはタイムラインに流れてきた作品を好きになってくれた人が、必ずしも作家まで好きになってくれるわけではないから。たまたまイラストのテーマが好きだったり、一定のクオリティーがあったから注目してくれたけど、本来、作家がやってることがあまり趣味に合わなかったり、そもそも作家までリンクをたどってもらえないことも多い。
ある種、最強の状態が、作家自体が好きなファンで、そうなるとその人の作品なら全部手に取ってくれるようになるのだけど、作品から作家まで知ってもらうのは、ハードルが高いのが惜しいところ。その辺りがあまりスマートじゃないなーと昔から思っていたけど、他にやり用がないのでアップロードし続けるしかないと思っていた。
でも今、VTuber活動を初めて思ったことは、そもそもバーチャルなキャラクターでありながら、余自身も作家。魔王マグロナというキャラクターも作家である。その状態で活動すると、余自身が作家であり作品という存在になれる。
そんな余という作品がいろいろなことをして魔王マグロナちゃんを好きになってもらえると、ファンの方々が作家として出すほかのコンテンツも気にしてくれるようになる。今までは作家と作品が分かれてしまっていて、作品は評価されても作家は気にされないこともあったが、一体となっていれば伝達ロスが非常に少なく、仕組みとしてスマートだと感じた。
キャラだから「ウザがらみ」も喜ばれる
もう1点、キャラになることでSNS運用も楽になるという話も興味深かった。
魔王マグロナ もうひとつメリットとして感じたのは、作家ってSNS上の付き合い方がちょっと難しい部分があると思っていて、日々フレンドリーにしてがんばって好きになってもらうという目標があると思うけど、そもそも作品を好きな人がただのおじさんがつぶやく晩御飯を知りたいかというとそうじゃない。ただのおじさんがつぶやくことで、そんなに面白いことはない。
中には日々のツイートが魅力的で、やることなすこと面白いという作家もいるけど、それは特別で、作家でありながら同時にキャラクターであるというのを成し遂げている。そういう方向性で成功できる人もいるけど、そうじゃない人はエンターテイメントとして日々の生活を面白おかしくツイートして好きになってもらうというのがハードルが高い。
そんなときに、たまたまセルフ受肉しまして、SNSで自分自身より自分のつくったキャラクターを前面に押し出してコミュニケーションを取るのをやり始めたのですが、そうしたらSNSが楽になった。例えば、今までファンの方から作品に対しては感想をもらえたけど、日々のツイートに反応をもらうのは難しかった。そこに余というキャラクターが立つことで、いろいろ反応がもらえるようになった。
ファンの方々はおじさんではなく、キャラクターが好きに過ぎないので、かなり気軽にコミュニケーションできるようになり、「おはよう」以外でもリアクションをくれる方が増えた。こちらからもある種の「ウザがらみ」みたいなのもしやすくなった。というのも、おじさんのときは「おじさんがウザがらみしていいのだろうか」と悩むところがあったけど、マグロナちゃんのファンなら話しかけられたら嬉しいはずなので積極的に行ける。
作家で特にあまりつぶやかない人は、ネット上でコミュニケーションが取りにくくファンの親近感を得にくいところがあるかもしれないけど、キャラクターを受肉したことでその壁を取っ払ってしまえたので、作家の活動として大きなメリットがあった。
気軽に声をかけてもらえるようになって、ユーザーと明らかに近づいたし、絵を発表するときに声をかけてくれる方のリアクションが何倍にもなったと明確に感じている。自分が作品になってしまうのが案外スマートなんじゃないか。
そうした話の末に、「作家としてはひとつ大皿を提供して、『これだけみてれば私の作品はどんどん流れてくる』というコアコンテンツがひとつ必要になるんじゃないか。それがTwitterだと思っていましたが、どうも違ってなんとかならないか長年悩んでいたけど、VTuberになることで解決できた」とまとめていた。
マグロナちゃん自身は「Live2Dは割と簡単に作れてしまう。自分の学習時間は巻羊ちゃんのYouTubeの動画(こちらとこちら)を見て、公式の資料を読んだ8時間」と語っていたので、イラストレーターの方はぜひLive2Dを使って「受肉」してみてはいかがだろう。
あ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~緊張してなにしゃべってるか途中でわからなくなったし頭まっしろになってあ~~~~~~~~~~~~~~~ってなっちゃってあ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~😇😇😇😇😇😇
— ukyo_rst/魔王マグロナ🐟🍆🦊♎🥕 (@ukyo_rst) December 3, 2018
(TEXT by Minoru Hirota)
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