CESAは9月2~4日、コンピュータエンターテインメントの開発者・研究者向けカンファレンス「CEDEC2020」(Computer Entertainment Developers Conference)を開催した。
今回は、VTuberやYouTuberとして活躍する人達にも参考になりそうなアカツキによるセッション「YouTube再生回数5週連続1位を記録した、3DCGを用いたキッズ向けYouTube『クマーバチャンネル』の運用大公開!〜企画選定から非エンジニアだけでも運用できるUnityを用いた動画制作ワークフローまでお話しします〜」をレポートしていこう。
令和の始まった2019年5月1日にチャンネルをスタートし、1年と少しで早くも総再生数が1億回を突破したクマーバチャンネル。熊のようなかわいい3Dキャラクターが童謡を歌う投稿などの活動で、ライバルの少ないキッズ向けVTuberとして確固たる地位を築いている。
CEDEC2020では運営チームの2名が登壇し、企画の作り方から分析方法、そしてUnityを用いた運用方法まで、その秘密を明かしてくれた。
データを元に伸びそうな分野を選定
●YouTubeで絶対に再生される企画の見つけ方
プロジェクトリーダーの樋渡昇一郎氏によると、企画の見つけ方として、
①YouTube内で検索される企画であること(キーワード)
②ライバルチャンネルが少ない
の2項目を挙げていた。
例えば、「メントスコーラやってみた」と「香水(という有名な曲)のカバー」という企画が上がってきたとする。どちらがより検索されているかを調べるには「Googleトレンド」が便利で、キーワードがどれだけ検索されているかを時系列のグラフで表してくれる。ここに「YouTube検索」という項目があり、YouTubeに絞って調査可能だ。
実際に調べてみると、黄色いグラフである「香水」というキーワードの方が青いグラフの「メントスコーラ」よりも検索されている。なので香水のカバーのほうが見つけてもらいやすそうで、企画としてはこちらを選定した方が良さそうだ、となる。
また、よく検索される動画は、関連動画に入りやすくなるとのこと。関連動画に入ることで、広告費をまったくかけずにYouTube内でおすすめされて再生数が上がるそうだ。
●ライバルの少ないブルーオーシャンとして、「3Dキャラクター」×「キッズソング」を発見
例えば、韓国発の子供向けYouTubeチャンネル「Pinkfong!」は、チャンネル登録者数3800万に達するほど人気を博している。代表的な動画である「Baby Shark」の再生回数は65億だ。日本ではまだ、この領域が空いているのではと考えたという。
プロデューサーの樋渡氏は、3Dキャラクター×キッズソングという動画が本当に再生されるのかを検証するために、フリー素材の3DモデルをKinectを使ったモーションキャプチャーで動かし、音楽に合わせて動物キャラがダンスする動画をYouTubeに投稿してみた。フリー素材と社内の設備で作ったので、コストはゼロだったとのこと。
結果としては、誰もシェアしてない、誰もSNSでつぶやいてもいない動画が、1ヵ月で5000回再生されたとのこと。少ないと見えるかもしれないが、なんの導線もなく動画を1つ出しただけで5000回も再生されるというのはかなりの成果だ。そこで可能性があると判断し、企画を進めることになった。
改善と愛着を持たせるための施策
●動画を分析し、次の動画を良くするためには
クマーバーチームでは、水・金・土の週3回動画を公開。毎週、水曜日のお昼に社内定例会議を実施し、前週の動画を分析しているという。
実際の改善の事例として紹介されたのが、会話劇パートをカットしたという議論だ。
左の「おもちゃのチャチャチャ」の動画では、冒頭に会話劇があり、その後に歌が始まるという構成だった。だが、会話劇の部分での離脱が大きいことがわかった。また、歌が始まる部分で視聴維持率が少し伸びている部分があった。
そのため、翌週に公開した「おにのパンツ」では、動画冒頭から歌に変更したという。すでに会話劇部分は収録していたものの、カットするという判断をこの会議で爆速決定した。
このような改善により、目標としていた視聴維持率40%を上回ることができた。YouTubeでは視聴維持率が40%を超えると関連動画に入りやすくなると言われているそうだ。
●ファンをつけ、IPとして成長させるためにしていること
質問コーナーを作って回答したり、コメントにも全返信したりと、相互コミュニケーションを図った。
ぬいぐるみを販売。これは利益よりも、YouTubeを見ていないときにもクマーバと触れてもらうことが目的だ。
長期間やり続けることも大事。
ストーリーアニメは関連動画に上がりにくいので、歌動画に比べると再生数が伸びにくいが、キャラクターに愛着を持たせるという目的を持って制作している。
関連動画に出ることを重視ししてコンテンツを作成し、視聴してもらうことで愛着を持ってもらうというサイクル。このサイクルを意識して運用している。
全体を通して、明確な目標を持って各種施策を打っていることがよく伝わるものだった。VTuber/YouTuberにも、参考になる部分があるかもしれない。
●PERCEPTION NEURON 2.0とUnityタイムラインを活用した動画制作
技術的な内容については、リードエンジニアの大嶋剛直氏が説明。
クマーバは技術的には、会話劇パートは声優にPERCEPTION NEURON 2.0を装着してもらって、声だけでなくモーションもキャプチャーしている。モーションデータをFBXで書き出したものをUnityに読み込み、表情などはUnityのタイムラインで調整。最終的には、Premiere ProやAfter Effectsで仕上げている。
歌動画の場合は、モーションキャプチャーではなく、手付けでアニメーションをつけている。タイムラインを利用している理由は、動画編集をするディレクターが見ても理解しやすい仕組みだから。
長期的に高頻度で更新していく運用のため、スタッフが無理なく作業できるように、注意深く各所のワークフローやツールの選定をしていることが印象的だった。
(Text by Yuichi Matsushita)
●関連リンク
・クマーバ(YouTube)
・クマーバ(Twitter)
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