
体育館にこだました「私はバイクを持っている。君たちはバイクを持っていない」と言う言葉。
7月25日(金)21時、GMOペパボが立てたVRChatのグループインスタンスに入ると、そこは二学期を迎えたばかりの、とある学校の体育館。壇上にはバイクを携えた校長先生が二学期をむかえる生徒への挨拶と共に語り掛けはじめた。
「──皆さんの顔を見て、ある種の安心と、少しの距離を感じています。それは多分、私がこの夏バイクを買ったからでしょう。そう、私はバイクを買った──」


そこから校長が語るのはバイクを買った高揚感や、何かを成し遂げることの尊さ。


繰り出されるフレーズは全て何かの格言のような重厚感があり、時折なぜか煽られる。

10分足らずの校長の話が終わりに差し掛かると、壇上の校長がゆっくりとステージの下に沈んでいき、校長のバイク自慢が終わる。

そしてまたすぐにチャイムが鳴ると、やはり校長がバイクとともに現れ、同じ内容を喋っていく。30秒間隔でループ再生される校長先生に、集まったユーザーたちは「二周目だ」「まじで終わり?」「やってくれたな」と軽妙な“ヤジ”を飛ばしていた。
意味を探し始めた瞬間に置き去りにされるこの奇妙な数分間が、今回の内容のすべてだ。
インターネットの悪ふざけから、メタバースの悪ふざけへ
一件すると珍妙なこの企画は、オモコロやバーグハンバーグバーグで知られるシモダテツヤ氏によるもの。約1年前、生成AIで作った動画「全校集会でバイクを買ったことを自慢する校長」を、「VR空間でやったら面白いかも」と思いついたという。そのアイディアをもとに、今年新設された GMOペパボ「メタバース推進室」がVRChatのワールドとして企画化。そうして、今回のバイク自慢校長が誕生した。

なお、制作の過程で、生成AIで作成した先代の校長の肖像を基にGMOペパボのサービスSUZURIでTシャツを販売するという。シモダテツヤ氏は「きっと誰も買わないと思うので、見込み数は0個としています」と語った。


体育館の両サイドの壁には校長がバイクを買うまでの軌跡が映ったシュールな写真パネルが並ぶ。原案になっている動画同様に、生成AIによるもの。
新しいもので「ちょっと面白いことができるんじゃないか?」と手探りで遊ぶのはまさにインターネット黎明期から続く悪ふざけだ。オモコロなどのウェブメディアで育ったようなアラサー世代には懐かしさを感じる手触りではないだろうか?

今回の企画で初めてVRChatカルチャーに触れたというシモダテツヤ氏。つまり、インターネットで悪ふざけをしてきた彼が、生成AIでも同様に「生成AIで作った架空の校長先生が全校集会でなぜかバイクの自慢をする」という悪ふざけをして遊び、その次なるフィールドとしてVRChatを選んだという事だ。
ハーマン氏は、「ペパボはVRChat内では全く名前が知られていない中、ペパボらしさを出しながら、VRChatのコミュニティの中に入っていく一手」と語る。実際に、VRChat内のイベントカレンダーとXの告知ツイート以外では告知していない中でも30人程度のユーザーが集まる場となった。
偶然訪れた彼らにとって、シモダテツヤ×GMOペパボによって生まれた「メタバース悪ふざけ」の目撃者となった事が伝説の始まりとして自慢になるのか、一度きりの幻となってしまうのか。
個人的には、初めてのVRChatでこの世界観を作ってしまったシモダテツヤとGMOペパボのタッグで、メタバース悪ふざけを続けていって、伝説を作って欲しいと思ってしまった。
(TEXT by ササニシキ)
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・メタバース推進室|GMOペパボ Xアカウント
