天音かなたワンマン「Amane Kanata 1st Solo Live “LOCK ON”」ライブレポート 表現と記憶を弾丸にした一夜

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ホロライブに所属する天音かなたが、2025年8月13日に自身初のワンマンライブ「Amane Kanata 1st Solo Live “LOCK ON”」を有明アリーナで開催した。

暑い日差しが差す8月中旬、天音かなたによるハイトーンの絶唱を浴びるため集まった約1万人に及ぶ観客たち。この日の公演について振り返りつつ、その音楽性について触れてみようと思う。

天音かなたは2019年12月27日にデビューし、今年で活動6年目を迎える。

ホロライブ4期生の一員として活発に活動しており、日本語圏のメンバーのなかでいえばちょうど真ん中あたり、英語圏・東南アジア圏とそれぞれに活動するホロライブ全体でいえば、立派な中核メンバーとして存在感を発揮してきた。

親しきメンバーの前ではツッコミ役を担い、大人数になるとスンッと静かになる陰キャ寄りな性格。リンゴを握りつぶすほどの握力を持っていると知られてからもう何年も経過するが、やはりそのハイトーンな歌声と歌唱力も、彼女の魅力として多くのホロライブファンに知られている。

2021年8月19日に初のオリジナル曲「特者生存ワンダラダー!!」をリリースして以来、定期的にオリジナル曲をリリースしつづけ、2024年3月13日にはそれまでのオリジナル楽曲・先行リリース曲7曲を含めたオリジナルアルバム「Unknown DIVA」を発表。

今年7月23日にはセカンドアルバム「Trigger」をリリースし、念願であった今回のソロライブへとこぎつけたわけだ。

“こぎつけた”と思わず書いたが、彼女の言葉を借りていえば、”諦めずに進んできた”からこそのステージだといっていいだろう。

小柄な体躯からは想像つかないほどにハイトーンかつパワフルなボーカルで、聴くものの心にズブッと射し込むような歌唱を見せてくれるのが彼女の特徴だ。

そのため、これまで彼女のディスコグラフィでは彼女のボーカルや声質にピッタリなロックサウンド、またはシンセサイザーを大いに含んだアップテンポな楽曲が歌われてきた。この日の冒頭を飾った「Knock it out!」「おらくる」は、その毛色を思いっきり踏襲するものだ。

またデビュー以前からアイドル好き・アイドルオタクである彼女は、自らコール/合いの手を考案し、ファンへ普及。この日のライブでも、序盤に披露された「インキャララバイ」からうまくコールをする観客がいたのだった。

2025年3月の「hololive 6th fes. Color Rise Harmony」でお披露目されたカラーライズ衣装を冒頭から着て歌唱していたが、途中で宙空から銃を出現させ、トリガーを引いて銃弾を打ったと同時に、聖堂の雰囲気のステージに四角の星(天音かなたのブローチとそっくり)が落ちていくという展開に。

そしてロングヘアー&堕天使のようなドレッシーな黒衣装に着飾って「別世界」を歌っていった。

いくつかのインタビューや配信で彼女自身が語っているが、どちらかというと彼女は歌で自分以外の誰かの人生を表現するということを念頭に置いて歌を歌ってきた。

たとえば彼女が作詞・作曲を務めたこの「別世界」は、あくまで自分自身のことではなく、純粋な創作としてうまれた楽曲である。アップテンポながら妬ましさを綴った愛憎を歌った楽曲だが、じつは彼女のYouTubeチャンネルに投稿されたオリジナル楽曲のなかでも高い人気を誇る楽曲でもある。

つづけてセカンドアルバムから「DA・LI・LA」「十万億土」を歌っていく。この2曲も天音かなた好みなマイナーキーが多用されるダークな曲調で、印象的なギターサウンドや時おり混ぜられるダンサブルなビート、そして絶好調なハイトーン&ロングトーンを駆使したボーカルで、会場の空気を掴んで離さない。

途中、会場の観客に向けてハンドクラップを求め、コールアンドレスポンスを求めた天音。「かなた!」「ソーラン!」「どっこいしょ!」とコールアンドレスポンスをもとめ、観客側が一瞬当惑しつつもノッかって大歓声で応えるというシーンもあった。

ロングヘアーでドレッシーな衣装を着飾って歌ったあとには、天音の背中に羽が生え、ふわっと宙へ浮いたかと思いきや、光を纏うようにして再度衣装をチェンジ!。

セカンドアルバムのジャケットで着ている薄着でスポーティな新衣装をここで初披露し、会場が大いに湧くなかで、「ぎゅーぴっど。」を歌っていた。こうしてステージや衣装がコロコロと変わっていく様は、彼女が幼少期に触れていたミュージカルの影響があるからだろうか。

そのまま「セルフサービス」を歌いはじめた。リリース当初から「超高速で超高音」「歌唱難易度激高」と評され、音ゲーやボカロ曲としてならまだしも、これを人のボーカルが歌うには高すぎるし速すぎる曲とファンに認知されていた曲だ。

ただこの日の天音かなた、どうやらこちらの想像をはるかに超えるほどに絶好調だったらしく、ハイノート連発の部分もあまりブレることなく歌い切ってみせたのだ。

「みなさん!!持ってるサイリュウム!ピンク!!ピンクにしてくださーい!!いくよー?!アズちゃーーん!!!」

ここで事前にアナウンスされたAZKiを呼び込み、「至上主義アドトラック」を歌っていった。両者ともスっと伸びていくようなハイトーンが持ち味のボーカリストであり、ハネるリズムのなかで2人が歌声を合わせていく。

2人の歌声は、キレイな抑揚のついた”波”となって青とピンクの照明に照らされた会場へと打ち寄せていった。

AZKi自身は天音のライブをかなり待ち遠しくしていたと話しつつ、天音の新衣装に触れると会場も大盛り上がり。「どっちのほうが清楚に見えますか?」「どっちのほうがゴリラですか?」という質問を投げかけて会場を笑わせると、かつて2人がコラボ歌唱した「三つ葉の結びめ」を披露。2人が歌い終えると、しっとりとしたムードに会場が包まれたのだった。

そこから乾いたギターリフと天音のボーカルから始まった「Last-resort」では、着ていた上着を脱いで、肩紐のついたチューブトップに白いショートパンツという開放感増し増しな衣装へ変わり、伸びやかな高音を活かして歌っていく。

元々アイドルオタクとして様々なライブを見ていたであろう経験と、デビューからホロライブのイベントで何度となくパフォーマンスをしてきたことも相まって、ステージの左右を行き来しながら観客を煽りながら歌っていく。特にアップテンポな楽曲においてその動きは顕著だ。

YOASOBI「アイドル」では、声色をうまく変えながら屈折した感情の巡りをうまくボーカルとして表現しつつ、カメラに向かってハートマークを描いてウィンクを投げかけるサービスショットも届けてくれた。

アイドル志望であった天音かなたが、アイドルらしく「アイドル」を高らかに歌っていく様は、この日集まった観客の心を大いに揺さぶったことだろう。

「この場にいる全員じゃないと思いますが知っている人もいるかと思いますが、デビューする前に耳の病気を患ってしまい、いまも片耳が聞こえません。(鍵盤が急にメロウな感じで奏で始める)あ、エモイにしてもらってね……」

「そういう時期は歌わなかった時期でした。どんどん歌も下手になって、『あ、もういいや』ってなったんです。音楽が嫌だとおもって1年くらい聞かなかったんですね。」

「でもホロライブでデビューして、歌の活動もさせてもらってましたが……皆さん知っての通り僕はとんでもなくネガティブで陰キャなので、すごく不安でした。自分の歌は聞きづらいんじゃないか?自分ですらうまく聞き取れない自分の歌を、みんなはどう思うのか?と思ってました」

「そんななかでも聞いてくれたファンの方や好きだと言ってくれるファンがいて、励ましてくれる仲間もいました。そういうこともあって『もうちょっと頑張ってみようかな』と、みんなのおかげで思いました。そんなこともあり、いまこうしてソロライブのステージに立っています。」

天音かなたは、現在片耳が聞こえない状態で活動をつづけている。それが歌手としてどれだけのハンディキャップを背負った上での活動となるかは、想像以上の困難が伴う。

現在の音楽シーンでも堂本剛、スガシカオ、浜崎あゆみ、サカナクションの山口一郎、SKY-HI、tofubeatsといった面々が耳にまつわる病気を患っており、現在も治療に努めながら活動している。

天音の場合、自身の武器であるハイトーンボイスを活かすには音程・ピッチの安定は絶対に必要なところ。耳の病気によってそれがうまくコントロールできなくなったとなれば、多大な喪失感をもってホロライブのVTuberとして活動をスタートさせたのがわかるだろう。

「諦めないで良かった!」と涙ながらに彼女は会場へ感謝を告げるとともに、「でもあと2曲なんですよぉ……」と付け加えると、会場から残念がる声が一気に湧き上がる。

「いま耳の話とかありましたけど、そうすると思い浮かぶ曲があるじゃないですか?僕もすこし作詞に関わった、翼が片方になって心が折れかけても、それでも飛べるんじゃないかと希望をもっていこうという曲があります。『片羽』」

この原稿のなかで、天音かなたは歌のなかで自分以外の誰かの人生を表現することを念頭に置いていると書いたが、彼女のディスコグラフィのなかで「天音かなた自身」にもっとも近い楽曲はこの曲だろう。

パワフルなバンドアンサンブルとともに歌われる天音のボーカルは、苦難の連続によって研ぎ澄まされたかのよう、鋭さをもって会場に響く。

本編ラストはセカンドアルバムに収録された「わたしのせいだ」。タイトル通りこの曲も「天音かなた自身」にかなり近い楽曲だといえ、彼女のバックグラウンドから紡がれたような1曲。そんな2曲でドラマティックに本編は締められた。

アンコールに歌ったのは、自身のデビュー曲「特者生存ワンダラダー!!」、ホロライブ全員参加曲「Shiny Smily Story」、そしてセカンドアルバムに収録された「世界で一番のアイドル」だ。

自身のデビュー曲、ホロライブにとって欠かせない1曲、そして彼女自身がファンにむけて綴った感謝の1曲。そのどれもがハイエナジー&ハイボルテージな楽曲とパフォーマンスで、集まった観客らを楽しませ、みごとクロージングを見せてくれたのだった。

彼女はテンポの早いアッパーな楽曲や厚みのあるサウンドで気持ちを高ぶらせる楽曲が多くリリースしてきた。そういった楽曲たちに自身の表現力、あるいは自身のバックグラウンドを弾丸に見立て、トリガーを引いてぶっ放していく。アンコールが始まる直前に流れた映像からみても、そういったイメージがこのライブの背骨となっていたようだ。

筆者は彼女はこのライブまでようやく”こぎつけた”という風に書かせてもらったが、それは彼女の背景から察した言葉でもある。だがここ1~2年で大いに盛り上がっているホロライブ所属メンバーの音楽活動をみていれば、次なるブレイクスルーはだれか?と期待されても不思議ではない。不運と苦節を味わってきた天音かなたに転機が訪れるのか?筆者はひっそりと待っていようと思う。

●セットリスト
1.Knock it out!
2.おらくる
3.インキャララバイ
4.テレキャスタービーボーイ
5.睡キャン界隈
6.別世界
7.十万億土
8.DA・LI・LA
9.ぎゅーぴっと。
10.セルフサービス
11.至上主義アドトラック
12.三つ葉の結びめ
13.Last-resort
14.アイドル
15.片羽
16.わたしのせいだ

アンコール
17.特者生存ワンダラダー!!
18.Shiny Smily Story
19.世界で一番のアイドル

(TEXT by 草野虹


●関連リンク
Amane Kanata 1st Solo Live”LOCK ON”(公式ページ)
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ホロライブ