クラウドファンディング成功には「5つの設計」が重要 合計9億円を調達したbamboo氏による勉強会レポート

LINEで送る
Pocket

クラウドファンディング(クラファン)といえば、ネットを通じて何らかのプロジェクトを公表して不特定多数から出資を募る資金調達方法だ。VTuberのジャンルでも、3Dモデルや新衣装、ライブなどの制作で利用されることが多いのでご存じの方も多いはず。

そんなクラファンをテーマにしたエンタメ業界向けの勉強会が12月16、17日に都内で実施された(ニュース記事)。講師として登壇したのは、CAMPFIREのエグゼクティブアドバイザーで、ロックバンド「milktub」のボーカルであるbamboo氏。かつては成人向けPCゲームブランド「OVERDRIVE」も運営。自身のバンドやゲームなどに受託案件も加えて、過去10年で100件ほどのクラファンを起案し、9億円近い調達に関わってきたという。つまり「Mr.クラウドファンディング」な人物だ。

少しの休憩を挟んでみっちり2時間半という講演では、主にトラブルを避けるための綿密な計画と、支援してもらうためのコツがたっぷり語られた。VTuber業界向けとしては、「VTuberはクラファンに強い」(=コミュニティーが事前にできてるから)や、「個人で活動している人にクラファンで突然巨額の収入が入ると、場合によっては社会保険の扶養枠から外れて困る」(=そうした場合は法人が間に入って調整するといい)という話などが興味深かった。

講演資料自体はbamboo氏のnoteにて購入可能だが、ぜひこれからクラファンを始めたいというVTuber業界の方々にも知っておいて欲しいので内容をざっとまとめていこう。


お金を出す支援者たちの気持ちを第一に考えよう

bamboo氏によれば、クラファンは実施すると「必ず何かが起こる」(=トラブルが避けられない)ものだという。ただ、出くわすであろう100の苦労が、事前にきちんと設計しておくことで30や20に減らすことは可能だ。

そのために以下の5つのステップできちんと設計して、出資してくれた方々や利害関係者との信頼を損ねないようにすることが大切だ。

1)「資金調達をして何をするか? 何を作るか?」の設計
2)「支援してくれた人に何をいつどのように返礼するのか?」の設計
3)「達成してから返礼品を届けるまで」の設計
4)「それらをわかりやすく掲載するため」の設計
5)「支援者が『支援したいな!』と思ってもらえるため」の設計

 
ステップ1の「資金調達をして何をするか? 何を作るか?」では、何をして、いくらかかって、制作期間がどれくらいになるかを具体的に決めた上で、お金を出す人たちがどういう気持ちになって楽しくなるのかまできちんと設計しておくべきだという。

文章にすると当たり前の話なのだが、エンタメ業界では勢いでどんぶり勘定で予算を決めてしまったり、周囲に話を通さないで起案してしまったり、事前にギャラを決めないで企画を進めてしまったり……ということが起こりがちだ(本当にありがちな話で、筆者も耳が痛いです)。

予算でいうなら、「松竹梅」の3段階で見積もりをつくった上で、一番下の「梅」をプロジェクトページに掲載して、「竹」と「松」は100%達成後のストレッチゴールにするとちょうどいいとのこと。ギャラに関しては、権利の所在をはっきりさせた上で、「言った言わない」がないように覚書や契約書を交わしておくべし。

「お金を出す人たちがどういう気持ちなのか」というのは、この後ずっと付きまとう話になる。クラファン自体に慣れていないなら、まず過去の類似のプロジェクトを入念に調べた上で、SNSでの評判、各コースの金額や返礼品の点数、支援総額を支援者数で割った客単価などを確認しておくといい。類似案件が起案中なら一番安いコースに支援して、運営がどれくらいの頻度でどんな内容の活動報告を出すのかを見ておくと、支援してくれる人の気持ちがわかるだろう。

 
ステップ2の「支援してくれた人に何をいつどのように返礼するのか?」でも、支援者ファーストな視点が重要という話が強調された。

返礼品については、安易に他所のメニューを真似せずに、オリジナリティーにこだわるべし。グッズというと、Tシャツやトートバック、アクリルスタンドなど「いつもの」を選びがちだが、活動歴が長い場合ファンとしては「もう持ってるからなぁ」という感覚にもなりがちだ。

支援者は他にはないから特別な機会であるクラファンを支援したいわけで、だからメインのコースには普段はあまりつくらないものを入れた方がいい。具体的には、音楽アルバム、写真集、書籍などが挙げていた。一方で「いつもの」グッズをつくりたければ、メインとは別に単品販売として用意して、欲しい人にはどうぞと選択の幅を持たせる手段がある。

数万円払った商品が大きな箱で届き、わくわくして箱を開けて手に取ったときにきちんと満足してもらえるかどうか──。だからグッズは必ずサンプルをつくって実物を見るし、クラファンを始めるときに支援者が想像できない「NOW PRINTING」の状態で出すのは避ける……といったコツが語られた。

あとはこのきちんとつくって届ける過程が難しい。例えば、外部に発注する楽曲やイラストなどの納期について、遅れることを見越して言質を取ったり、スケジュールに保険をかけておく。

発送も、梱包代や発送代が忘れられがちだし、数が数百個になると自分たちで作業するのが困難になるので業者に頼んだ方がいい。あとは、クラファンが爆発的に注目を集めたときに詳細を読まないで支援する人が出てきたり、引越しして新住所を伝えないなどのトラブルも起こりがちなので、窓口を用意してどう対応するかを決めておいた方がいい。

 
その続きが、ステップ3の「達成してから返礼品を届けるまでになる。

どのプロジェクトも支援金額が100%を超えるまではがんばれるのだが、そこからが運営の真価が問われる。というのも、定期的な活動報告が途絶えたり、スケジュールが遅れても音沙汰がなかったりと、運営側が「スンッ」となって気を抜きがちになってしまうからだ。プロジェクトは調達して終了ではなく、「返礼品や公約した物を支援者が納得した形で届ける」ところがゴールで、それまで支援者に不安を抱かせないために最低でも1ヵ月に1回は進捗状況を伝えたほうがいい。

普段からまめに連絡しておくことで、何かあったときでも支援者は「まぁ大丈夫だろう」と放っておいてくれて、問い合わせ対応に忙殺されなくて済む。先のステップでも伝えたように、クラウドファンディングは製造から発送の段階でトラブルが起こりがち。そのタイミングで誠実に「遅れて申し訳ない、今、こんなふうに頑張ってます」とリカバリー方法を素直に伝えることで、後で「できてへんやんけーッ!基本的なことが〜〜〜!」と大炎上するのを防げる。同時に、前述したトラブルの窓口を用意するのも重要だ。

 
そしてステップ4の「それらをわかりやすく掲載するため」、つまりプロジェクトページの作り込みもポイントになる。bamboo氏曰く、プロジェクトページは契約書で、設計する際は性能や利用シーン、スペック、オプションなどが網羅された車のパンフレットを想像しているとのこと。今の購入型のクラファンは通販に近い状況で、材質やサイズなどを細かく記載するなど支援者が想像できるように記載しておくことで、届いてからの「思ってたんと違う」を減らして、後のサポートの手間も軽減できる。

同様のサポート軽減という意味で、Q&Aを数多く記載しておくのも重要だ。極端な話、リターンでやる予定のイベントが天災で実施できなくなったらどうするかなども考えておくべきで、このQ&Aで手を抜くと支援者からの質問が殺到してしまったり、場合によっては炎上してしまうこともあるそうだ。

一方で、見やすさとのバランスも考慮する必要がある。ほどんどの支援者はスマホからプロジェクトページを見ているため、あまりに長いとスクロールが大変になってしまう。長くなりそうなときは別途、公式サイトをつくって、逐一リンクで飛ばすのもアリだ。そうしてつくったページは、「自分だったら支援するか?」を念頭において、最後に必ず複数人の人間の目でチェックするそうだ。

 
最後のステップ5「支援者が『支援したいな!』と思ってもらえるため」は、コミュニティー形成の話になる。可能であれば、DiscordやYouTube、Xなどのコミュニティー機能を活用して支援者候補の人たちを集めて、一緒に作戦会議をするといい。一緒に「悪巧み」してもらうことで熱量が高まるわけだ。

コミュニティーがあることでプロジェクトに対する覚悟と熱量を伝えるだけでなく、例えば先行して支援者候補に公開してツッコミを入れてもらい、Q&Aをより細かく作り込むことができる。冒頭でも触れたが、ここでVTuberは普段の配信でコミュニティーが形成されているので、クラファンに強いという話が上がった。

逆に支援者候補に何も伝えないでいきなりクラファンをスタートするのは、いきなり「金くれ!」と言われるのと同等だ。大抵の人にとって多くのクラファンは「勝手にやれよ」「お前が自分で金出せば?」というものなので、始めた理由やそこに至るドラマをきちんと説明しておかないと事故ってしまうのだ。

 
まとめとして、クラファンのトラブルで経験上一番多いのが、

・プロジェクトページに記載されていることが守れていない
・配送に関するトラブル
・返礼品が思ってたんと違う

の3つになる。5つのステップできちんと支援者の不安をつぶしてクレームや炎上を避けよう、そしてコミュニティーを作ってこまめに連絡することで、何かあっても「運営頑張ってるな」と放置しておいてくれる状況を目指そうと語られた。また、設計や根回しで時間がかかるため、スケジュールも半年先にプロジェクトページを公開するぐらいに余裕を持って組むべしともアドバイスしていた。

 
クラファンでさらに島根の地元を巻き込めた音楽フェスの成功事例

休憩を挟んだ後半では、具体的な事例が語られた。個人的に興味深かったのが、ロックバンド「ギターウルフ」が2017年より毎年、ギター/ボーカル・セイジ氏の故郷である島根県松江市で実施している野外音楽フェス「シマネジェットフェス」の話。

最初の2年は毎年150万円もの赤字を出していたイベントだったが、直近5年間でクラファンを続けてきたことで、今では900万円を超える支援を集めて赤字を避けられるようになった(今年のプロジェクトページ)。

なぜそこまで支援が集まるのか。ポイントのひとつは、bamboo氏が「ロックンロールふるさと納税」と名付ける地元を巻き込んだプロモーションにある。

支援した人々に島根県松江市の観光名所の良さをアピールする出来の良い冊子を送付したり、リターンとして島根県の特産品を手に入れられることで、地元によりお金が落ちるようになる。そういった商品が売れるとお店側にも認知が広がり、開催に対して協力しやすくなっていく。

プロジェクト自体を毎年アップデートすることで支援者側も来年の返礼品が楽しみになる。まさに「三方よし」になる。またフェスの打ち上げは町民会館で行い、地元の婦人部の方々がおにぎりや豚汁などを出演者やスタッフに振る舞ってくれる地元密着なフェスになっているそうだ。

 
2時間があっという間に感じるほど学が多かった勉強会。ぜひVTuberやメタバースのジャンルでクラファンを始めようという方は、bamboo氏のnoteも手に入れてぜひ参考にしてほしい。

bamboo氏は書籍「推される技術」も上梓している(Amazonアフィリエイトリンク)

(TEXT by Minoru Hirota

 
 
●関連リンク
bamboo氏(X)